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何とでも言え、これは戦略的撤退だ

戦慄している俺達の前に男が現れた。皮の鎧に帽子を被った狩人のような男だ。いや、実際に背中に弓矢があるので狩人なのだろう。へへへ、と余裕を持って現れたそいつは所謂ゲス顔という奴でメアリを凝視する。


「あぁ……うぅ、動……」

「メアリ?」


このシリアスな場面でメアリはモゾモゾと、言っては悪いが何だか妙にエロイ動きをしている。

何だ、疼くのか?いや、どことは言わないが媚薬でも盛られたのか?


「へへへ、無駄だよ」

「あ、あぅ……」


うわぁ、人様に見せられない顔になってるよぉ。具体的には白目を向いて涎を垂らしてる。明らかに異常である。恐らくはメアリを掠った矢に毒でも塗ってあったんだろう。


「い、いったい、メアリに何をした!」


この手の輩は慌てる相手に優越感を覚えるだろうと予想し、敢えて声を荒げる。正直、メアリを人質に取られたらどうしようもない状況なので手段を選べない。なので、情報収取だ。


「ほう、使い魔か?」

「答えろ!」

「うるせぇな、テメェの主人は薬でちょっと気持ちくなってんだよ。こうすりゃ、しばらく動けねぇからな」


案の定、自分が優位だからとペラペラとネタ晴らしする男。あちゃー、やっぱり盛られてたか、中毒性のある麻薬とか取り締まってなさそうだもんな異世界って。

しかし、こういう悪党は黙って仕事すればいいのに馬鹿だよな。殺し用の毒じゃないなら奴隷とか人質か、どちらにしろ生かす理由があるんだろうな。

だったら、メアリを気にする必要はない。


俺は伏せた状態で這うようにメアリから離れようと移動する。男は矢を構えて俺の方を見ているが、どうせ俺も売れないか考えているんだろう。邪魔なら殺して、大人しければ売ると言った感じか。


戦闘をする上で俺には懸念があったが、そのいくつかは解消された。

まずメアリの安全だ、しかしこれは下手に追い詰めなければ今の所大丈夫だ。

そして、メアリの毒。特定の解毒薬が必要という訳でもないのでこれも大丈夫。

次は、仲間がいるかどうか。組織的な行動か個人か。最後にランタンの在り処だ。

これらは会話の中から引きだすしかない、まぁ簡単そうだが。


「奴隷にするつもりか?何故、メアリなんだ……」

「良く分かったな。へへへ、そんな身綺麗な恰好ってことは貴族だ。しかも、採取依頼ときた!なら、平民でも容易く捕獲できる雑魚ってことだ。貴族は高く売れるからな」


あーなるほど、貴族様がチマチマした採取依頼しているってことは大して魔法は使えないと思ったわけだ。なんて浅い考えだ、潜入捜査とかで強い魔法使いだったらどうするのか。

しかし、聞いた感じ計画ってよりは思い付きみたいな感じだ。個人での犯行だな!


「馬鹿だよな、衛兵の話通りここにくるなんて。ここらは奥地だから人はあまり来ないってのによ」

「畜生、あの衛兵もグルかよ!俺の予想空回りだよ!」

「お前も中々売れそうだ。大人しくしな、悪いようにはしないぜ」


ちょっと心惹かれる提案だが、俺なんて二束三文で売られるに違いない最弱竜である。


「その提案には承諾しかねる、ってことでさらばだ!」

「チッ、じゃあ死にな!」


そう言って男が矢を放つと同時に、俺は魔法で土を盛り上げる。

馬鹿め、そうやって構えようとしてれば対処など容易いわ!しかも詠唱の時間もたっぷりあったからな!


「あぁ……あぁ……」

「悪いなメアリ、俺も命は惜しいんだ」


そう言って、此方を探すようにうめき声を上げるメアリを放置して、一目散に森の中へと俺は逃げて行った。



「薄情な獣だぜ」


男はそう言って、ふぅと緊張を解く。目的の物は手に入ったからだ。

この時期には校外学習として生徒である貴族様がギルドに来る、そんな奴らは大体落ち零れでありカモだ。

プライド高い生娘を欲したり、人体実験の為に、政治の為にと貴族の奴隷は色々と使えるので高い。

普通は自分のような貴族を狩る奴に気を付けるもんだが、今回は無警戒でそれこそ自分が貴族であると主張しているようなもんだった。

しかし魔法が使えて人並みの知能、それにドラゴンと子供ではあるがそれなりの価値ある種類の使い魔を逃がしたのは惜しかった。まぁ、この森の魔物に食われるのが落ちだろう。


「あとは運ぶだけだが、ここからだな」


ここから、それは俺が本当に警戒しなければいけないと言う事だった。まず正義感を振りかざす奴や表の職業の奴ら、アレにバレると最悪戦わないといけなくなる。また、同業の奴らに襲われるという物もある。


「だから、普通はやらないんだが」


その点、俺は貴族と契約しており衛兵もグルである為に仕事が楽だ。回収する衛兵が来るまで待てばいいのだからな。それに滅多に人が来ない場所だ戦闘も魔物だけ気を付ければ問題ない。

俺は完全にイッちゃってる貴族の嬢ちゃんの横にランタンを置いて、葉巻に一服する。

こうしておけば、魔物が近付いたらすぐに気づけるからだ。


「ん?」


引き摺るような物音。ここらの魔物だ。早速来たであろう魔物を警戒して俺は武器を取る。

出て来たのはキラーキャタピラー、遅いながらも毒を持っており魔法が使えない平民には脅威だ。

俺は落ち着いて討伐用の毒矢を射る。何度も繰り返した作業だ。蛇系の魔物の毒である為いくら耐性のある奴らでも数秒で死ぬ。そうして、また休もうとしたが物音は止まない。


「二連続か、まぁいい」


また現れたキラーキャタピラーに矢を射る。だが、まだ物音は止まない。

まだ来るのか、うんざりしながら俺は再度構える。次も難なく殺した。これで三体目だ、もう流石に来ないだろう。しかし音は止まない。


「おいおい、どういうことだ」


二連続で遭遇することですら珍しいのに、こうも立て続けだと違和感を覚える。現れた四体目を殺してから、俺は恐ろしくなった。止まないのである、物音が。


「くそ、誰か誘導してるのか!?」


こんなこと人為的でしかあり得ない、しかしそれはあり得ないと分かっていた。

まず、ランタンが無ければこの森は危険であり自分に気づかれない様に行動するにはランタンを使わないで行動するしかない。そうなれば矢で射られるのだから、普通はしないのだ。もしこれが人為的な行為なら、ソイツはランタン無しに森の魔物を誘導してやがる。無理である、そんなこと目隠しで戦うような物だ。だから、


「どういうことだよ、おい!」


目の前に現れた三体のキラーキャタピラーに俺は焦る。三体同時に現れるなんて異常すぎるからだ。


「クソ、死ね!来るな!」


慌てて毒矢を射るが、止まない物音。何度殺そうが物音が止まない。物音がどんどん増えてくる。

今度は四体も現れた、仲間の死体を踏み越えて魔物が群がってくる。


「このままじゃ、喰われちまう」


少しならまだいいが、このままでは矢が無くなり攻撃手段はナイフのみになる。それは、解毒薬が無ければ危険だ。そんな高価な物を俺は持っていない。だとすれば、貴族の嬢ちゃんから奪って逃走するしかないのだ。幸い、この手の仕事は失敗も良くある。今回くらい見逃して貰えるはずだ。

俺はそう思い、魔物の少ない場所へと走り出す。

だが、


「アガッ!?」


何かに躓いて俺は、転んだ。こんな時に、と慌てるが立ち上がれない。


「なっ、足が!?」


それもそのはず、泥で出来た手が足を掴んでいたのだ。一個程度なら振り払えるそれが十、二十とどんどん増えて掴んでくる。


「クソ、クソ!」

「ギシィィ!ギシィィ!」

「うわぁぁぁぁ!?」


気付けば、周囲にはキラーキャタピラーが俺を囲むように近づいていた。もはや死ぬしかない。

何でこんなことに……


「人を食い物にしてるんだ、喰われても仕方ないだろ」


何処かで聞いたような声を最後に俺は――




「うわぁ、何てグロいんだ」


俺は虫達に喰われる名も知らぬ狩人を見て言った。と言っても、前世のゲーム知識と魔法で誘導したんだがな。

目の見えない虫たちは嗅覚か音か熱で判断していると思った俺は、映画で見た熱探知防止策である泥を体に被り虫達を片っ端から攻撃した。後は攻撃された虫達を増やしては、狩人の所に近づき逃げるの繰り返し。狩人が逃げた時用に辺りは凸凹に魔法でして、虫の弾幕が少ないところに泥の手を配置。

簡単な作戦に奴は嵌って、不慮の事故。俺は虫たちの死体を捕食と万々歳である。

いやでも、しかし……


「メアリどうやって運ぼう」


俺は考えるのを止めた。取りあえず、飯だ。わーい、虫がいっぱい。

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