完全決着
上空、そこでは二匹のドラゴンが対峙していた。
一匹は空を覆う程に大きな竜だ。翼を広げ、手足の無い胴体を揺蕩わせ、ただそこに在りつづけるドラゴンだ。
もう片方は、その巨大で不遜なドラゴンに果敢に攻撃している黒い竜だ。
時には剣である尻尾で、時には両腕の打撃で、鋭いブレスすら用いて責め立てる。
巨大なドラゴンの周りを紫電となって暴れ、時には炎となって焼き尽くす。
姿が見えなくなるほどの高速で動いたかと思えば、しがみ付いて毒を注ぐ姿すらあった。
それでも、巨大なドラゴンは虚空を見つめたまま飛んでいた。
畜生……全然効かない!
俺は悔しさに顔を歪めながら、ジャイアントドラゴンを攻撃していた。
奴に攻撃しているが全く効いてないのには理由があった。
どうやら、巨大な身体だけでなく強力な肉体でもあるようだ。
雷撃も静電気を味わったようにピクリとするだけである。
毒はアルコールが分解される様に、恐らく分解されていた。
炎は皮膚を焦がすが火傷と言う程のダメージすら与えていない。
切り裂いた皮膚は、すぐさま再生していた。
ドラゴンフェロモンによる誘惑すら量が足りないのか反応なし。
あらゆる魔法は普通のドラゴンより耐性があるのか発動しなかったり効いていない。
生物としての機能が数倍あるのだ。
だが一番恐ろしいのは、モンスター固有の能力を一度も使っていないと言う事である。
攻め続けていると、遥か後方で爆音がした。
敵の目の前ではあるが、俺は無意識に地上へと目をやる。
そして、俺が見たのはドーム状のマグマ。
アレは何だろうか、そう思った瞬間マグマは周囲へと爆散した。
「爆発ッ!?」
それは巨大なエネルギーの塊だ。
マグマの内側から強烈な光と熱風が溢れ出る。
熱風は俺の体勢を崩すほどの強風で、俺はフラついてしまう。
そして気付く、地上にはルージュ達がいたはずだと。
「ルージュ!」
俺はジャイアントドラゴンに背を向けて地上へと急降下した。
近付くごとに熱量は増加するかのように俺の肌を焦がしていくが、この身は分厚く硬い火成岩のような肉体。熱には耐性があったのか、爆熱が夏の日差し程度の感覚でしかない。
そして、強烈な光の中へ俺は目を瞑って突入した。
突入後、俺は索敵能力を発動する。
熱感知から超音波、魔力感知や五感強化など無駄でありそうな能力までフルで使う。
そして、いた。
一つは地面に倒れている存在。
そして、もう一つは空中に浮いた首だけの存在。
選択肢は二つ、だが恐らく倒れている方がルージュだ。
見つけ出した能力は魔力感知。内包する魔力を見分ける力だ。
ならば、あの首だけの存在はオリハルコンの鎧に包まれたナオキ。
オリハルコンだけ感知できなかったと言う事だろう。
俺は倒れている方へと突っ込んだ、それを直前で口に咥えて急上昇する。
そして、超音波により判明した障害物が無い空を目指した。
更に、俺の熱感知が白いイメージからオレンジや緑、そして青へと変わる。
サーモグラフィのような視界イメージから爆発地点から逃れた事を感じた俺は、目を開いた。
迫る脅威から遠ざかりながら俺は口に咥えた物を確認した。
それは黒い人型の何かだ。炭化した、人である。
だが、再生が追い付かない程の連続的なダメージがなくなった為か再生していくのが見える程に分かった。
まずは黒い表皮が剥がれ落ちて、白い肌がチラホラと見えてきた。
完全に白い裸体が出来上がると、今度は髪の毛が生えてくる。
同時進行で、皮膚から服が浮かび上がりそれは完全な肉体へと再生していく。
背中まで伸びた金髪、生まれた赤ん坊のような白い肌。
薄ら寒さもある程に整い過ぎた顔立ち、赤い瞳がパッチリと俺を見ていた。
「ここは……」
『ルージュか、どうやら何かあったみたいだな』
上空に軽くルージュを投げて背中に乗せる。
背中でふぎゃ、と痛そうな声がしたが許して欲しい。
しかし、あの爆発は魔法なんだろうか?再生するからと言って、あんな核攻撃みたいな物を使わなくてもいいのに。
「ソレイユはどうした?」
「ソレイユ……あぁ、アイツ」
「どうした、アイツはどこにいるんだ?」
「死んだわ、自爆したから復活するかもだけどね」
淡々と、声のトーンを落としながらルージュはそう言った。
その声に違和感を覚えながらも、俺はソレイユが自爆魔法でナオキを倒したと言う事に歓喜した。
アイツの事だ、復活する自身の特性を利用してこんな無茶を思いついたのだろう。
まぁ、何にせよスゴイ功績だ。
だが、問題は倒す事の出来ないジャイアントドラゴンとテレポートしてどこかで戦う魔王だ。
ナオキはどうせ死んだはずだから、問題ないとしてどうするか悩ましい問題だ。
そんな俺の安心を、嘲笑うかのようにソイツは俺の横に現れた。
「フハハハハハ!」
「ッ!?」
黒い泥を纏った眼球のある髑髏に、オリハルコンの黄金とも橙色とも見える鎧。
それを付けたソイツは笑いながらジャイアントドラゴンの元へと飛んで行ったのだ。
驚愕する俺達、だが驚愕して理由は互いに違っていた。
「どういうことだルージュ!」
「ナオキよ、でも……そんな……」
「何で、何でアイツの頭がソレイユのになってるんだ!」
それは見間違う事のない、仲間の顔であった事とナオキが生きていた事だった。
豆粒のように小さくなるほど離れたナオキを追って、俺達は進む。
ルージュと俺は、怒りに顔を歪めていた。
話を聞けば、何らかの魔法でソレイユの身体を奪ったのだ。
それは自分を犠牲にしたソレイユへの侮辱である。
これでは、まるで何も意味がないではないか。
「どういう原理か知らないけど、アレをジャイアントドラゴンに近付ける前に殺すのよ!行って!」
ルージュが背中から黒い翼を出して、俺の背を蹴った。
同時に俺は肉体を雷へと変えて、加速する。
背後で聞こえていた音はゆっくりと小さくなる。
視界の端に写るルージュの翼の一部、その羽がゆっくりと落ちて制止する。
時間が止まったかのような、そんな高速の世界。
そして、俺が目指す敵は空で固まったソレイユの頭部を持ったナオキだ。
眼前で固まるナオキ、伸ばせば攻撃が当たるだろう距離まで近づいた。
そして、俺はナオキに向かってタックルする。
しかし、その瞬間。
「フハハハハ、無駄だ!」
「馬鹿な!?」
動けない筈のナオキが俺の攻撃を躱し、そして背中に衝撃が走った。
俺はそのまま地上へと落下していく。
時間も全てが速さを取り戻し、通常の世界へと戻って行った。
どういうことだ、クソ!
俺は落ちる身体を制御して、ナオキに相対するように体勢を整えた。
其処には、自分の殴った腕を興味深げに見るナオキの姿。
鎧に包まれた手を開いたり握ったり、まるで自分の身体の調子を確認するかのようだった。
いや、寧ろ確認しているのだろう。アレは、きっとソレイユの肉体なのだ。
「素晴らしい、実にこの身体は俺の魂に馴染む。最高な気分だ!」
「ナオキ、貴様!」
「気付いたか、そうだよ!あのリッチの肉体だ!今の俺の魔力量は前の身体の数倍、本当に良い拾い物をした」
俺の目の前が紅く染まる。
殺せ殺せと殺意が溢れる。
俺の中で、魔力が爆発する様に膨れ上がるのを感じた。
肉体は勝手に脈打ち、そしてナオキへと無意識に動いた。
それは黒い液体状になった俺の身体だ。
まるで具現化した影のようなそれは捻じれ、ドリルのようになってナオキへと迫る。
その数は時間に比例してドンドン増える。背中から腹から、身体のいたる部分が変化していくのだ。
「グルァァァァァ!」
「チッ、鬱陶しい!」
目の前でナオキが五人ほど増えた。
だが、分身しようが俺の攻撃は変わらない。
寧ろ、苛烈になっていく。
自然と身体が動いて行くのだ。
俺はどこか冷静に状況を思考しながら、抑えられない感情の発露のように暴れる。
今度はナオキに向かって熱光線を口から放った。
それだけではない、俺の身体から一回り小さい俺が分裂してナオキへと特攻して自爆していく。
「な、何だよこれ!クソ、何で吸収できないんだ!」
「ガァァァァァァァ!」
大気が震えた、俺の咆哮が振動を伴って放たれたのだ。
それは音を越えて攻撃となる。
固有震動数を割り出すように徐々に振動数を変えて行き、強制的に振動を加えた。
それは一種の音を用いた魔法でもある。
対象の固有振動数を固定し、割り出した数値の振動を浴びせ続けて破壊するのである。
ピシリ、と五体のナオキの頭部に罅が入った。
小さな罅が連鎖的に発生する。
もう、一目で崩壊寸前だと分かった。
それが壊れないのは、謎の黒い液体が崩壊を抑えているからだろう。
「馬鹿な、もうダメになりやがった!?」
慌てたような声で、ナオキが背を向けてジャイアントドラゴンの元へと向かった。
だが、俺はナオキがしようとしている事をさせてやるほど優しくない。
足りないのだ、奴を苦しめ足りないと感じるのだ。
だから、絶望をプレゼントしてやった。
ナオキがジャイアントドラゴンに向かおうと背を向けた瞬間、変化が起きた。
俺の分身が、ジャイアントドラゴンを侵食して喰らい始めたのだ。
「そんな!」
「ギャギャギャギャ!」
俺の口からゴブリンのような下卑た笑い声が零れた。
アレだけ倒せなかった奴もルージュのように常に攻撃されたら再生は出来ず、自分の身体の重要部分を切り外す以外逃れる方法は無い。何故、こんな簡単な方法を思いつかなかったのか。
目の前で苦しみ、墜落しながら黒い液体の侵食され包まれていくジャイアントドラゴン。
それに動きを止めたナオキを俺は襲った。
回避されるなら回避できない攻撃をするまでだと。
それは身体を中心に広がった俺の口でナオキを包むと言う事だ。
「やめろ!俺に近付くな!近付くんじゃねぇぇぇ!」
俺の巨大な口が、一口でナオキを飲み込んだ。




