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エルジアの真相

魔王は少し考えてから、どこから話すかと口を開いた。


「そうだな、まず世界は一つで無いと知っているか?」

「一つじゃない……」

「その様子だとやはりか、本来は保険として奴が記録媒体を残していた筈なんだがな」


確認の後に魔王は語る。


「かつて、この世界は一つだった。しかし、知らん間に分裂して気付いたら六つになっていた」

「ど、どういうことですか!?」

「まぁ、最後まで聞け。六つの世界にはな、王がいたのだ。余の様な存在が六体だ。で、その一人が戦争を嫌って自分の力を四つに分けた。それは人類に埋め込まれて結界の要となった。守護者と呼ばれる存在だ」


それから魔王は、その後の大まかな流れを説明する。

お互いに争っていた王達は世界を隔離されてしまった。

結界と呼ばれる謎の現象であり、それを生み出した王は最後に他の王たちに術を施した。

それぞれが守護者になるようにだ。そして、結界を作った王が死んだ世界と隣接していた魔王の世界が融合して、今の世界が生まれた。結果、現在は五つの世界に分かれている。


「それで、どうやら数珠繋ぎのような世界がバラバラになってな。弄ったら一時的にしか空間が繋がらなくてな。それで我々は決めたのだ、お互いに守護者を殺して世界を一つにして最後に生き残った奴を世界の王にしようとな」

「ちょっと待ってください!つまり、異世界があるんですか?」

「そうだ。余が人類を襲うのも異世界融合を行うためだ。人類の守護者は余達と違って復活するので、その前に四名全てを殺さないとダメだ。一人でも生き残ると、数十年で復活するからな。最終的に皆殺しにして神王をぶっ殺すのだ」


魔王の目的は天界と呼ばれる世界への道を開く事。

天界と融合させ、天界の王を殺して新たに融合を起こすのが目的だ。

その為に四名の守護者を殺害する。その守護者と言うのはルージュの身近な人物であった。


「今回は勝手に死んでくれたのでな、お主の病死した仲間とそこの餓鬼だ」

「お、俺?」

「貴様の膨大な魔力は守護者のせいだ。まぁ、リッチになったので魂が変質して守護者としては死亡認定されておるな」


それは、病死したアリアとソレイユが守護者だったと言う話だった。

守護者は特徴として、他とは違う為に魔法が覚醒しないと使えないとの事だ。

本来は四体だが、四体目が復活していないので三体しかいない守護者は今では一体のみ。

であるならば、現在残っている守護者と言うのは……


「どうやら心当たりがあるようだな。そうじゃ、勇者の横にいる女だ」

「先輩が……」


魔王の目的、それはペトロの殺害だ。

ルージュはそれを聞いて、ペトロが強力な力を持っている事に納得した。


「奴が死ねば、天界とここが融合して新しい世界になる。余が死んだら、堕天使共の世界の結界が消えて融合するはずだ。この世界だけしか守護者に干渉できんので直接戦えないのだ。余が死んでもあと隣界は三つくらいあるから、余は世界三つ分の守護者みたいなものだな」

「それが、世界の真実という奴ですか……」

「本来なら、エルフの所にあった記録媒体があったはずだ。記されたことを閲覧する世界の英知を集める本がな。大方、お主らの戦っているテラ大王国にあるのだろう。だから技術が筒抜けなのだ、我々のように口伝で伝えられないのは短命の辛さだのぉ……」


その言葉に、まさかとルージュは思った。

内通者は確かにいたが、最新兵器の機密情報がバレていた理由が今まで無かったのだ。

しかし、そう言う事ならば合点がいく。つまり、テラは道具を使って簡単に情報を得ていたのだ。


「あと、エルジアだっけか?忌々しい事に天界の技術を使っている奴らだ。アレはちと不味いので余が術を施してやる」


その言葉にルージュはどういうことだと詰め寄った。

それに対して魔王は、そもそもあれはと続ける。


「この世界は魔力、つまり死んだ者の魂の欠片を使う法則で成り立っている。だが、エルジアの教えているアレは異界の法則であるので厄介なのだ。故に抵抗力を付けてやる、日の光や浄化に耐え得る肉体に変質させる。そもそも、貴様らのそれは人が魂を弄った外道の法だ。人如きでは構成が脆いのだ」


そう言って、徐に魔王はルージュの胸に触れた。

すると、魔王の手が胸の中へと沈んでいく。

ルージュ本人は余りの光景に硬直し、そして何かの力の流れを感じていた。


「これは一体……」

「直接魂を弄っているのだ、そこの餓鬼もあとでやってやる」

「えっ、この腕どうなってるんですか!?」

「魂に干渉してるんだろうが、貴様らだって使い魔契約の時に弄るだろう……何だその顔は、それも知らんのか?」


呆れたと馬鹿にする幼女に、何が起きてるのか分からずルージュは涙目だった。

なにせ腕が自分の胸に突き刺さっているのである、恐ろしい光景だ。

その後、処置が終わるとぐったりしたルージュとソレイユの姿があったのだった。




同盟締結後、魔王の傘下になる事を条件にテラ大王国への襲撃が始まった。

国民には知らせていない魔王との裏取引である。

偶然起きた自然災害とも言うべき魔王襲来に、テラ大王国は大慌てであった。

それを好機と見た帝国民によって、決戦の幕は切って落された。


戦況を有利に進める帝国、その皇室でルージュは新たな問題に直面した。

それは、ソレイユの放っていた斥候部隊の失踪である。


「クソ、またダメだった!」

「いい流れなのに、エルジアが邪魔なのよね」


今では太陽を克服したルージュとソレイユだが、エルジアの正体不明の事件に頭を悩ませる。

何が起きているか分からないので迂闊に近づく事が出来ないのだ。

そんな悩む二人の様子を暇そうに見ている魔王がいた。


「何だ、エルジアの様子が分かれば良いのか?」

「うわ、いつからいたんですか!?勝手に転移しないで下さいよ!」

「クソの辺り、最初からだな」


クッキーが豪く気に入ったらしく、度々現れる魔王。

その姿も給仕の者などに確認されており、いつバレるか溜まったものではなかった。

魔王との関係は一部の者達しか知らない秘密なのに、魔王によって秘密をバラされるなんて冗談にしては笑えなかった。


「菓子は良い、人間の生み出した素晴らしい文化だ」

「頼むから部屋から出ないで下さいよ!いいですね!」

「分かった分かった、それでエルジアの様子が見たいようだったな。ほれ、貸してやろう」


ヒョイっと大きな水晶玉がソレイユに投げられた。

ソレイユはそれをキャッチして、そして水晶玉と魔王を交互に見る。

何かに気付いた様子だった。


「魔王様、もしかしてこれってエルフの至宝だったりします?」

「あぁ、数百年ほど借りてるのだ」

「持ってやがったのお前かよ!エリーが聞いたらビックリだよ!」


エルフ達が血眼になって探していた物、まさか魔王が持っているとは思わなかっただろう。

それはどんな場所でも映し出す、エルフの至宝である全てを見通す水晶だった。


「念じれば写るのでやってみろ、礼はケーキとやらでいいぞ。魔族は菓子なんて作れんからな、ケーキが食べたいのだ」

「分かりましたから、勝手に厨房に行かないで下さいよ」

「おいおい、子供じゃないんだから偶にしか行かんわ」


偶に行くんかい!とツッコミを入れたくなったが、我慢してルージュは水晶を見守る。

ソレイユの腕の中で水晶は曇る。

まるで、水晶の中に霧が存在しているようだった。

いつしかそれは晴れていき、ちゃんとした景色を映し出した。


それは白いドームだった。

山に囲まれた白いドームと黒いスライムのような塊があったのだ。

白いドームは恐らく防御結界の発動しているエルジアの本国だろう。

そして、絶えず攻撃しているのは巨大なスライムだ。


「なにこれ……」

「何だ、何が写ってるのか余に見せてみよ」


ジャンプする魔王に見やすい様にソレイユがしゃがむと、魔王は水晶をじっくり見る。


「これは……」

「知ってるんですか、魔王様」

「なるほど、分からん。魔物ではない、分からんことが分かったわい」


分からないのかよ、と頭を叩きたくなった。しかし、チンチクリンでも魔王である。

ルージュは上げた手を、ゆっくり降ろした。


「何だろうなこれは、魔物ではないぞ。スライムと言う感じじゃない。アレは周囲の物を触手のように体を伸ばして食べてるからな。スライムが山を食べるはずがないし、分からんのぉ……」

「山を食べてる!?」

「視力が悪いの、よーく見るのだ。念じれば拡大できるはずだからやってみよ」


ソレイユが一点を見つめた。すると、それは焦点の合っている場所目掛けて大きく写すようになった。

拡大された景色には、スライム付近の地上が見える。

そこには逃げ惑う動物のようなモンスターの姿、それと捕まえようとするスライムの触手があった。

全体から見れば黒いスライムだが、表面を拡大してみると鞭毛のような触手が大量に存在していた。

それは、地面を抉り、木々を抉り、岩だろうがモンスターだろうが手当たり次第に掴んでは吸収していく。


「もしや、コイツに斥候部隊が喰われたのか?」

「どうやら周囲の魔力も取り込んでようだ。精霊も喰われたかものぉ……」

「ちょっと待って、じゃあもしかしてドラゴンの群れも、それを連れたヤンヤンも食べられたかもしれないの!?」


ルージュの顔からサッと血の気が失せた。

真っ青になった顔でルージュは水晶を奪い取る。

念じた場所を写す水晶ならば、ヤンヤンの居場所を写せるのではと思ったからだ。


「おい、何して――」

「うるさい!ちょっと、黙って……」


水晶玉は再び霧を写す、そして念じた物を写そうと蠢く。

いつしか水晶玉には暗闇が生じた。

水晶玉が、真っ黒に染まったのだ。


「どういう事よ、どこよここ……」

「うん?何かオッサンが倒れておるな」

「えっ、オッサン?」


その水晶玉に存在する、ミクロ程の肌色に唯一気付いた魔王の言葉だった。

黒しか映らない世界。

もしかしたら手掛かりになるかもしれないとルージュはその言葉を信じて、魔王の指差す場所を見る。


「ここら辺を拡大するのだ」

「こうですか」


そして、人間の知覚できない世界が拡大されてルージュ達にも見える大きさになった。

そこには……


「誰なの、コイツ……」


全裸のオッサンが横たわっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者がなんで突然ルージュ達を殺りに行ったのか、ただ憑依されたと勘違いしたと思いきやまさか伏線だったとは!
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