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採取だ、モンスターだ、成長だ!

俺達の初依頼は毒キノコの採取だった。この依頼は需要はあるのだが安く重労働で、人気が無い依頼らしい。採取場所は密林だ。都市から少し離れた場所にある密林で、岩場の裏辺りが穴場スポットであると教えて貰えた。

因みにこの二つの情報は都市の通行を検問している兵士が教えてくれた。


メアリと俺は人の流れに沿って歩いて行く。密林は素材の入手場所としても使われており、木こりが歩いていたり、狩人が歩いていたりと人の行き来が絶えないので迷う事は無い。

暫くして、それは見えてきた。眼前には、森らしき物があった。それは木としての形はあるが木とは呼べるものだろうか、真っ黒であった。根も幹も葉も黒である。黒い森が広がっていた。


「ここが黒い密林ね」

「そのまんまだな」

「日の光が入りきらないからランタンがいるらしい。つまり、森の中は真っ暗なようね。岩場は確か奥って話だわ。入り口付近はみんな取ってるらしい」

「まずは散策だな。地形が分かればモンスターに襲われても逃げれるし」

「戦おうとしない所に、使い魔としてダメな気がする」


グダグダ言いながらも散策である。森の手前には木こりたちがチームを組んで木を取っていた。

ファンタジーの木こりは斧一本で取ると思っていたが、何だか前世と差異が無い。夢が無いのだ。

危ないですよと声をかける人達、オーラ的な物を纏った斧で木を切ろうとする人達、木を倒して運ぶ人達、まさに工事現場のような様子だ。こういうのを現場と言うのかもしれない。


「入り口は運びやすいから木こりが多いのね」

「黒い木とか需要あるのか?」

「ちょっとランタンに火を灯すから待ってて」

「良いだろう、舞っててやる」

「誰も踊れなんて言って無いわよ」


暇なので自分の尻尾を追いかけていたら、生暖かい目で迎えられた。あ、アレだから可愛いアピールだから!途中からちょっと楽しかった訳じゃないから!


まぁ、それは置いといて森の中に突入である。

森に入った瞬間、ヒヤッとした空気に包まれていた。どこか、青臭い匂いが漂い、森に来た実感が湧く。

もう、随分と久しぶりに森に来た気分だ。いや、まぁ山とかぐらいしか前世は草木がこんなに生い茂ってなかったからね。改めて此方は自然が豊かだと実感した。


「ちょっと、寒いわね。ここら辺の浅い場所は虫とか鳥のモンスターが生息していて危険は少ないらしいけどベアー系の魔物が出るらしい」

「熊のモンスターか、死んだフリでもするかな……」

「甘い匂いがするらしいわ、後死肉も食べるからやめなさい。とにかくアンタは私より鼻が良いんだから甘い匂いがしたら言いなさいよ」

「了解だ。こんな酷いジャングルは初めてだ……」


言われた通り周囲を警戒する。しかし、飼育されてる俺には野生の感なんてないので分からない。

だが、中々面白い場所だ。巨大なバッタや芋虫がウネウネしていたり洞窟でもないのに蝙蝠が飛んでいる。そのうち帯電したネズミでも出てくるんじゃないか?


そうこうしている間に一つ目の毒キノコをゲットした。木の根元にあったそれをランタン片手にニヤニヤした女が持っていて何だかホラーだ。寒さ対策なのか頭からローブを着ていて魔女スタイルで赤いキノコを持っているメアリには、何だか悪いが悪人にしか見えない。

あれ、っていうかランタンないのに俺ってばすごく見えるぞ。


「おい、メアリ。お前ランタンなしで周りが見えるか?」

「薄暗くて何も見えないわよ。どうしたのよ急に」

「いや、なんか俺は周りが見えるんだ」

「あぁ……夜目って奴ね。近くにモンスターがいないか見といてよ」


そうか、これが夜目って奴なのか。だから虫とか見てもメアリは叫ばないのか。

そう思っていると、メアリの背後から忍び寄る影。というか先程見かけた巨大芋虫が忍び寄ってくる。

どうやら横にいる俺に気付いてないようだ、それ以前に目なんてないのかもしれない。


「メアリ、モンスターだ」

「え!?ひぃ……キ、キモい!」

「あぁ、うん」


確かにキモい。表面はブヨブヨっとしており大きさは大型犬と俺より一回り大きい。先ほどから左右に開いては閉じる口からして肉食かもしれない。


「ア、アレはキラーキャタピラーよ。主食が毒キノコだから毒耐性と毒を持ってるわ。キモいからよく覚えてる、ちゃんとギルドで聞いたから間違いない。は、早く何とかしなさい!」

「ダメだ、俺はまだ火の魔法しかすぐには出来ない!」

「さ、最悪!最悪よ!クソ、風よ吹けウインド!」


ヤケクソ気味にメアリは杖を抜いて呪文を唱えた。まさに突風、小さな竜巻が存在しているようだった。

攻撃では決定打にならないが意表は突けるだろう。だがな……


「何で俺に当てるのぉぉぉぉ!」

「いっけぇぇぇぇ!」

「熱血アニメじゃねぇ――」


俺の言葉は言い切る間も無く、芋虫の身体で遮られた。

叫ぶ俺が勢いに乗って芋虫と激突したのだ。結果、口の中に納まる芋虫のブヨブヨボディ。


「ピギィィィィ!?」

「キ、キモい!?ほんと、あり得ない!」


もがく芋虫。大型犬サイズの芋虫がメアリの前で暴れ転げているのだろう。俺はそれどころではない。

クリーミーでシチューに似た味が口に広がり手足の感覚がなくなっていた。

意外と虫っておいしいのな、なんて思ったら毒喰らってますよね。

さっきから地面にたたきつけられてるはずなのに痛みが感じないとかヤバいですよね。


「ピ……ピィ……」

「クソ死ぬ前に腹いっぱい食ってやる」


いやでも、ほんと美味しいな。ネズミの次においしいぞこれ。


「拾い食いなんかしないの、早く解毒薬を……」

「それだ!あぁ、でも手足が動かない」

「え?」

「早くくれ、今度は腕が上がらない。このままだと心臓が止まるかもしれない」

「うぅ、うぅぅぅ!」


泣きながらぐちゃぐちゃの芋虫に近づいて、俺に解毒薬を呑ましてくれたメアリによって俺は一命を取り留めた。

すごいのな、解毒薬!苦いけどすぐ体が軽くなったぜ!

……悪かったって、だから泣くなよ。俺も悪いけど、飛ばしたお前も悪いだろ?え、俺が全部悪いだって。それは……そうですね俺が悪いっす。


結局、しばらく泣き止むまで待つのに時間が掛かった。やれやれだぜ。


「最悪よ、ローブから体液の匂いがするわ」

「早く帰ろう、正直臭い。味は悪くないんだけど臭い」

「もう!誰のせいだと思ってるのよ!」


その後も順調にメアリは毒キノコを採取する。その度に、ヘイ姉ちゃん俺の毒キノコに何かようかい?的な感じで芋虫が出てくる。どうやら、毒キノコのある所に命名シチュー芋虫がいるらしい。そりゃ主食なら分布してる場所も近いか。


「行け、ヤンヤン!」

「野生の芋虫が現れた!そして安定の俺が飛ばされるんですねー!」

「ピギャァァァァ!」


もはやパターンである。出る、飛ぶ、倒す、解毒のローテーションだ。しかも嬉しい事に、徐々にだが毒が効かなくなっている。それに芋虫が弱まりやすくなっているのでもしかしたら、毒攻撃と毒耐性が付いてきているかもしれない。成長しているようだ。


「よし!五本目!やった、これで帰れる!」

「メアリ、もしかしたら俺、強くなってるかも!」

「はいはい、強い強い。さぁ帰ろう、今すぐ帰ろう!」


スルーですか、どんだけ帰りたいのよ。

内心呆れながら、俺も帰ろうとした時の事だ。ふと、どこかで嗅いだことのある匂いがした。

……何だっけこの匂い、えっと。

そこで気付いた、これは――


「メアリ、伏せろ!」

「え、何!?」


ヒュゥゥゥと何かの高い音がした。すごく嫌な気がした俺はメアリの背中から噛み付きローブを引っ張る。


「痛ッ、何するのよ!」


転んでしまい、急なことに怒るメアリ。だが、すぐに自分の腕を触り驚く。何故なら、自分の腕が少し切れていたからだ。ストンと背後で音がした、矢だ。矢が背後の木に刺さっている。


「血……なんで、なんでよ!敵なの、モンスター!?ゴブリン!?」

「落ち着け!」

「ッ!う、うん……ごめん。でも」


焦るメアリに俺は自分の嗅いだ匂いを告げる。先程の攻撃、襲ってくる者の正体。それは――


「血の匂いがしたんだ……それとアルコール」

「え?」

「多分、狙われてる」


――きっと人間だ。


「嘘よ……だって人が」


先程の矢は人型のモンスターだと思ったのだろう。というより思いたかった。

少なくともゴブリンがこの森にはいないのを知らなければ、人間だと確信はしなかったはずだ。

どうやら俺達はまだ帰れないようだ。

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