三竦みの強国
続いての話は、簡単そうな話だった。魔物に対しての実験的な誘導計画。
それは要するに、やるなと言われている種族ごとの話を調べて経験則から導き出した災いとやらを再現しようと言う物だ。
「木を伐採しすぎるな、ある場所で火を使うな、鳥を殺し過ぎるな、そう言った逸話がある。これは生態系を弄るなと言う事だ。俺が行おうとしているのはそう言った生態系を乱して、他国に魔物をぶつけると言う事だ。簡単な話、森を荒らしたりすれば魔物が勝手に移動するのを誘導できるかって計画だ」
「それ、私達に被害が出るんじゃないの?」
「遠い場所でやるなら平気だろ、魔物に疲弊した国を俺達が救い出す。武器のデータも取れるし支配地域も増える、更に戦えて一石三鳥だ」
戦えるという単語に先程の話で寝ていたりしてた者達が騒ぎ出す。
どうやら、戦える話なら歓迎らしい。っていうか会議で寝るなよ。
「じゃあみんな賛成みたいだし、さっきの方もアンタが言うんだからやってみましょう。で、この威力偵察ってなんなの?」
「これか、俺達アンデットの弱点である教会勢力がどの程度の規模を倒せるか、負けること確定で攻めるって戦法だ」
「アレ、調べてるけど魔法とは別の何かを抽出してるから予想できないのよね。それの効果を確かめるならいい案かもね」
「しかも浄化とやらも出来るから、ヤンヤンで上空から毒攻撃しても問題ない。支配する頃には綺麗にしてもらえるからな」
ソレイユは俺の方を見てそう言った。
俺一人で国を相手にしろとそう言っているのだ。
実際、小国程度なら大丈夫だと思う。それなりの強さは得て来たからだ。
ソレイユは最近、怠けてないかと言うが俺は既にそこそこ強い。
これ以上頑張らないでもいいかなと、最初の最強を目指すと言う意識も薄れてきている。
何もしなくても生活できるようになって来たしな。
「まぁ、大陸全土に拠点を持ってるからいつかはぶつかる相手だし調べておいて損はないわよね」
「他国と戦争する時、聖職者に無双されるからな。まぁ、無尽蔵でもないだろうからヤンヤンを逃がすことくらいは出来るだろうさ」
「じゃあ、手筈は整えておいて。最近寝てばかりだし、いい運動でしょう」
俺の知らない所で、トントン拍子に決まってしまった。
まぁ、俺に掛かれば余裕だから別にいいんだけどな。
そんな話があり、それから一ヶ月が経った。
俺は地下に造られた研究室にいた。
周囲はコンクリートで出来ており、魔法で照明もあるのでイメージとしては駐車場だろうか。
そこに研究職達に囲まれて、食料制限されながら手羽先を主体で食べて翼を生やそうとしている俺がいた。
今は翼が徐々に生えて、完全に飛べるまで少しと言った所か。
「実験結果はどう?」
「割合的に、魔力保有量の多い物から順に特徴を出しています。やはり、強いモンスターの素材は影響力が高いのでしょう」
「予想通りの結果ね」
ルージュと研究員たちの会話を盗み聞くに、どうやら強い奴ほど魔力が大きく、そう言う奴の特徴は出やすいと言う物だ。
現在はガルーダとかいう鳥の羽が生えてきているらしい。
もうしばらく、完全に飛べるようになるまで俺は実験とやらに付き合うのだった。
飛べるようになった俺は、ソレイユを連れて空を飛んでいた。
目的地は山に囲まれた聖地エルジアと呼ばれる聖職者達の国家だ。
「き、気持ち悪い」
「大丈夫か、ちょっと降りるな」
急に具合が悪くなったソレイユを心配して地上に降りて行く、降りた場所はエルジアの国境付近の山だ。
降りたソレイユは、キョロキョロして慌てだした。
どうやらスケルトンを召喚できないらしい。
「どういうことだ?」
「もしかしたら結界的な物があるのかもしれない、国境から離れよう。そっちの方が心地良い」
「心地良いって……」
直感に従い移動すると、ソレイユはここなら召喚できると言い出した。
どうやら、召喚を封じる方法があるようだった。
スケルトンを周辺の山から進ませても国境と思われるところまで行くと消滅することも判明した。
やはり、結界的な物がある。
ここはアンデットに対して要塞である事が判明した。
続いては俺が偵察に行く番だ。
「大丈夫か、計画と違うからヤバそうなら逃げろよ」
「取り敢えず、軽く上から毒吐いてくる」
久しぶりの空を飛ぶ感覚、翼を動かし浮いて行く。
しばらく滑空して、マチュピチュみたいな神秘的で石造りの街が見えた。
「何人か俺を見ているな」
俺は早速、毒を散布しだす。
上空から注がれる、毒々しい色の雨。
それは降り注ぎ、そして消滅した。
消滅する瞬間、街を覆う光のドームが見えた。
俺の毒が当たる度に出来るドーム、それはハッキリと見えた。
これが、結界の正体か。
「オート防御って奴か?」
「ヤンヤン、危ない!」
ソレイユの声が聞こえた、瞬間。
俺の腹に熱が発生する。
熱?違う、痛みだ!
「っぐぁ!?ぎゃぁぁぁぁ!」
それは白い不定形の槍だ、無理やり光を押し固めたような光だった。
数秒で霧散し、俺の腹に風穴を開ける。
俺は無意識にソレイユの元に逃走した。
「傷は塞がっている、逃げるぞ」
「畜生、痛てぇ!経験したことはあるけど、やっぱり痛てぇ!」
俺は泣きながら帝国へと敗走していく。
最近、俺って強いしと怠けていたから神様に天罰を喰らわされたのかもしれない。
あぁ、そういえばアイツら聖職者か。
槍も貫けない身体を作ろうと決心して俺は逃げ帰るのだった。
それから数か月。
建国から三年、世界情勢は変わっていく。
四大王国と呼ばれていた大国も様々な問題から、複数の小国に分かれてしまい王国と言えばテラ王国だけを指していた。
テラ王国は弱っている国を吸収して規模を大きくしていく、魔王と戦う大義名分上緩やかな物だが支配地域は多くなっている。
対して俺達の国も変わっていた。
遂に待ちに望んだ戦争をトルキアが起こしたのだ。
この戦争は数日でトルキアの首都を陥落される結果となった。
アヘンでダメになった兵隊達はスケルトンに倒され、聖職者達は俺達の強力な魔法でやられていく。
同じ魔力量でも数倍のダメージを与えられる新しい魔法体系はとても強力だった。
トルキアは自国の兵を生贄に巨大な嵐を発生させて対抗してきたので被害は多少出たが、主力はスケルトンなので微々たるものだ。
恐らく禁術と呼ばれる物だろうが、耐えきった俺達はあっけない程に支配に成功する。
その後、アルアナ協同共和国と周辺の小国は同盟を求めた。
恐らく、驚異的な武力を恐れていると言うのが俺達の見解だ。
結果、紙幣による経済支配によりゆっくりとだが数年で同盟国が属国へと成り代わっていく。
領土が広がり新しく攻めるべき小国は、内戦を誘発したり裏で操って戦争したり、魔物の群れで疲弊させたりとゆっくりと侵略していき、今では世界でも名前が知れ渡るルージュ帝国となった。
ルージュ帝国の国民は増え続け、従来よりも高効率、高威力、高速な魔法を発明したルージュはその地位を確固としたものへとしていく。ルージュを神とした国教のせいもあって信者が増えて行く。
特殊な製法だが植物由来のギアスロールの大量生産が出来るようになっていたので、他国への技術流出はなく属国の優秀な物が代わりに国を回している。
構造的に危ういが謀反をギアスロールで起こせない。
彼らはルージュが死ねば自由だが、不死であることを伏せて契約しているのでずっと忠誠を誓うハメになったのだ。
そして帝国が出来て約十年、帝国歴が採用された年。
俺達の帝国は強国の仲間入りを果たした。
十年、長いようで短い。前まで赤ん坊だったものが兵士になっている頃か。
カオス平野からの者達は貴族になり、属国の者達の中からも少なくない貴族が生まれていた。
俺達の国の貴族制度は功績に応じて爵位をやるが子供に世襲させる際は一段階下がるようになっている。
つまり、ずっと先祖の功績に頼って何もしない名ばかりの貴族は消えるのだ。
反感もあるが、それ以上に出世次第では貴族になれるので平民は支持している。
幼少期に魔力を扱う器官を育てれば平民から魔法が使える理論も浸透しており、徐々にだが我が帝国では魔法を使えない者達が減っていっている。
皇帝が死んだ際は公爵の者達が戦い、強い奴が次期皇帝にという問題だらけのルールになっている。
正直、あってないような物なので問題ない。
あるとしたら偶に暗殺に来る聖職者だろう。
奇跡を使えるアサシンが増えてきていた。
皇帝に対する支持率も、国民向けの政策で維持していた。
何より義務教育や魔法が扱える者が主導になって国を栄えさせていくので支配された方が良かったと言う声も上がっている。
魔法を農業に使うなんて他の宗教に喧嘩売っているが国民にとっては楽が出来るのでいいのだ。
さて、そんな俺達の敵は小国を除けば二つある。
それはエルジア聖教国連邦とテラ大王国である。
俺達のアンデット軍団に敗れて恨みを持っている者や恐怖に屈して軍門に下る小国達によって出来た宗教国だ。
国民の全てが聖教の奇跡という奴を学んで着々と聖職者を増やしている恐ろしい国である。
マイナー宗教で平民がお布施次第で聖職者になれるという物だったが、今ではアンデット軍団に対抗できる唯一の物だとして奇跡の大盤振る舞い。今なら連邦に所属すると聖職者になれるようになっている。
研究の為に何名か密偵が習得してきたが、分かったのは魔力じゃない何かを使っている事だけだった。
そしてもう一つ、今までと違う魔法を道具のように扱う俺達を嫌った小国や敗戦した国の反乱分子が集まってテラ王国を中心に集まった、テラ大王国。
ナオキの技術と俺達の真似をするように各国の技術を集めて研究しだした国である。
未だに小国は沢山あるが、少しずつ三つの国のどれかに所属していく。
大陸の中で三つの国が争う形になることが予想されていた。




