動き出す帝国
国を作る、言うのは簡単であったが行うのは難しい事だった。
というのも、様々な問題が解決しては発生していくからだ。
小国を作るのは簡単と聞いたが、それが本当に簡単な事なのか疑いたくなるくらいだった。
「次の案件は……」
「次は研究報告です。錬金術師たちがスケルトンから石灰石の生成に成功しました」
執務室、と書かれた木造建築の小屋でルージュは色々な種族に囲まれながら政務に励んでいた。
日中は外に出れないためにデスクワークが増えたのだ。
主に色々な報告を纏めては夜に行う会議の議題を提出するのが仕事である。
俺達の国は、規模的には町程度である。
そこで、各種族の代表と仕事を仕切っているリーダー的な存在の者と俺達のパーティーで会議をして国家を作っている最中だ。
独裁国家も下地が無いと出来ないのである。
「それはやったわね」
「あの、失礼ながら何の為にこのような研究をしているんですか?」
ルージュに質問したのは執務室で仕事を手伝うコボルトのメイドさんだ。
因みに獣度はマックスで正直、二足歩行の服を着た犬である。
「石灰石があると簡単に言えばセメントの元って言うのが出来るの。色々焼いたり砕いたり必要だけどね、そしてそれがあると硬い岩を作れるのよ」
「岩を作れるのですか、魔法ですね!」
「コンクリートというらしいわ、スゴイのは魔法を使っていないから魔法で強化すればそこらの国よりも丈夫で頑丈な壁が出来るのよ!」
偉そうに、胸を張ってルージュは答えた。
すべて俺が説明してやった知識なので知ったかである。
コボルトはスゴイと尻尾を振りまくっていた。
そんな様子をニヤニヤと口元を緩めながら見ているルージュに呆れるしかない。
だって秘書として選んだ理由が可愛いから、だもんな。
「さて、もう何にも報告はない?」
「えっと、まだたくさんあります。重要な物だと調査隊の方から平野で人を見たそうです。冒険者のようでした」
「もう二か月は経過してるしね、遅いと思うけどアクションがあったのね」
「あと、有翼族の方達が周辺なら地図が完成してきたと言う報告があります」
コボルトは執務室で紙束を捲りながらそう言った。
因みに周囲ではブラウニーなどが忙しなく動いている、働いていないのは座りっぱなしのルージュと報告書を読んで雑談するコボルトと寝ている俺だけだ。
この二か月で変わった事は何も町がテントから木造住宅になったことだけではない。
様々な技術が研究され、発展していた。
その代表例と言えばコボルトが報告書として持っている紙束だ。
それは植物紙であり、俺達の国で作ったものだ。
ソレイユの知識と植物に詳しい種族によって研究された結果の産物である。
これにより空を飛べる種族が地図を作成するのに使ったり、他国では勿体無い程度の事にも紙を使っている。
ルージュは午前中、全ての報告を纏めて議題を作った。
そして夜、一際大きな木造の屋敷に各種族の者や仕事のリーダーである班長的な者が集まっていた。
室内は俺とソレイユのこだわりによって製作された円卓にて行われる、その数は軽く百人を超えており騒がしい。
ルージュがその部屋に入ると、すぐさま声が消えた。
一応、マナーは人を率いているだけあってちょっとはあるのだ。
ルージュは席に座り、軽く手を上げて会議の開始を告げた。
「では始めましょう。最初の議題は小国に対しての対応についてよ。そこはソレイユの説明と手元の資料を見て頂戴」
「よし、では俺が説明してやろう。資料を見れば分かるが、やっと重い腰を上げたぞ。方向から察するにアルアナ協同共和国だろう。この国は商人達の協同組合つまりギルドから発展した国である」
説明を聞いていた者達で、何人かが手を上げる。
ルージュはその中から、下半身が蜘蛛であり上半身にドレスを着ているアルケニーの者に発言を許可した。
「私達の国家は軍事国家と認識しております。ここは侵略する方針ではないのですか?」
「良い質問だ、確かに俺達は武力に優れているな。しかし、人数が少ないから攻めるも守るも厳しい状態だ。戦争は数だから傭兵を雇って戦力は拮抗した状態にしたい、が金もない。で、侵略するか?」
「勿論ですわ、我々の中に臆する者などおりませんわ」
堂々と言う姿は族長として納得できるものだった、それに同意する様に戦闘が好きな交戦派とも呼ばれる種族達が声を出す。
ルージュはそれを面倒そうに静めながら、ソレイユを睨んだ。
彼は人工眼球の入った骸骨の顔で、カタカタと笑った。
「だろうな、だがそれは馬鹿な事だ。裸で突撃するような物だ、それは蛮勇だって気付いてるか?俺達はもっとデカイ戦争をするんだ、小物なんて相手するな」
「では、ソレイユ殿は戦わないと言うのですか!」
「あぁ、敵は商人だ。金を持っている相手で俺達の存在を知っていながら隠している。それは何故か、金になるからだ。侵略より商売した方が利益は大きい。これも戦争だ、経済戦争と言う物だ」
途中から眉間に皺を寄せて、ヒソヒソと経済って何だと話し出していた。
アカン、コイツら脳筋だ。
「つまり、経済を倒せばいいんですね!」
「お前は何を言ってるんだ?」
「え、違うんですの?」
「いらない技術を売るんだよ。テラ王国しか知らない植物紙の製法とかな。これを売れば金が入るし、テラ王国の貿易にダメージを与えられる。そうなれば、仮想敵国であるテラと矛を交える日は近くなるぞ」
良く分かっていないのに、何名かふーんと分かったような顔でいた。
大丈夫だろうか、まぁ最初の議題は貿易する事で決まった。方法としては、既に盗品関連の商人と繋がりがあるので簡単だ。
「よし、次は宗教の問題よ。宗教間での強引な布教活動が目立つようになって来たわ、これに対して我が帝国では布教活動は禁止することにしたい。意見を伺いましょうか」
「異議あり、それは横暴だ!話しが違うではないか!」
「猫系の獣人は沸点が低いわね、意見は許可が出てからよ。さて、宗教を認める話と強引な布教の禁止で何が気に食わないのかしら?」
その言葉に、先ほどいきなり立ち上がった虎の獣人が唸りながら言った。
「布教が禁止されたら、後世に伝える事などできないではないか!伝統を何だと思っておるのだ」
ルージュは天井に顔を向けて目を瞑ってどう答えるか、少しだけ考える。
こう見えて、馬鹿だけど族長である。それに、同調する意見も多いのだ。
下手な回答は、自分の立場が危うくなってしまう。
普通にスルーされると思っていただけに、困った物だ。
「信じる物は自由なんだよ、ほら国教の教義があるでしょ。みんな最終的には同じ物を信じていると考えてるから、否定はしない。でも、押し付けはやめろって言ってんのよ」
「あんな物は皇帝の権威に箔を付けるだけの狂言ではないか!」
「それ、それよ。否定して、拒絶する、そういうのやめろって言ってんの。この国は肯定する国なの、種族も宗教も価値観も受け入れる国なの。それを乱すって言うのはダメでしょ」
理路整然と答えるが、それに対して返ってきたのは聞き取れないほどの罵詈雑言だった。
やれやれと、その光景を目にしたソレイユは助け船を出す。
「静粛に、静かにしないと殺すぞ……おい、聞こえてんのかよ?」
少しだけソレイユはトーンを下げた声を出した。
次の瞬間、騒ぐ者達の背後に黒い靄が発生した。ソレイユの操る怨霊、使役するゴーストである。
これには、流石に彼らも黙らざるを得なかった。
「よしみんな聞いてくれて嬉しいぞ。じゃあ、俺が提案してやる。各宗教の活動は決まった場所で行うとしようじゃないか。町の広場に場所は載せて、後は興味がある奴が教義を聞いて信仰すればいい。場所の付近なら布教しても良い、強引なのはダメだがな」
それは教会のような物を作ってそこでと言う物だ。
正直、そんな物を作る事は嫌だと思っているのだが愛国心も育っていない状態では彼らの宗教を尊重しないといけない。
効率厨で合理主義者のソレイユが遠回りの提案をしたのだ、どう考えても我慢しないと厄介事になると言う事だろう。
渋々だが納得してくれたようで、その後は住居の住み分けや工事の日程を調整する事などの話で会議は進んでいく。
いつもやっている話なので此方はスムーズに進んでいった。
「では、これにて会議終了!」
こうして俺達の一日がまた終わった。
数日後、俺達を悩ませる案件が発生するとは知らずにである。
それは早朝の方だった。
調査隊の種族からテラ王国の情報が送られてきた。
こんなこともあろうかと緊急時に伝令役となるグリフォンがおり、そのグリフォンが帰ってきたのだ。
グリフォンは執務室の小屋の前で待っており、ルージュがそこに足を運ぶ。
威厳とかより効率を選ぶ皇帝である。
「報告します、勇者により最後の四天王が倒されました」
「そう、遂に倒されたのね」
「はい、その後テラ王国で勇者が貴族となる宣言がありまして魔王討伐は無くなる模様です」
「本当に、やらないのね。予想通りの展開だわ」
「確認はしましたが、ほぼ間違いないと思われます。調査隊は如何しましょうか」
「任務終了、帰還する様に伝えて頂戴」
それに返答し、グリフォンは再び空に飛び立った。
ソレイユの言うとおり、魔王討伐は途中で終わったのだ。
ルージュは執務室に戻ると、ソファーに座っているソレイユに今までの話をして問うた。
「この後の展開、予想できるかしら?」
「あぁ、恐らくは武力と大義名分の元に仮初の平和が訪れる。何故か、魔王は戦わず配下の者に任せているからな。新しい四天王が出て来るまで、何もないだろうな」
「そう、じゃあその間に私達は国を育てないといけないわね」
凛とした姿で、ルージュはそう呟くのだった。




