ギルドに行きました、補習です
「ギルドに行くわよ!」
無い胸をドンと突き出すように誇張して、我が主人メアリは言った。そのせいで思わず食事中だった俺は食べていたネズミの丸焼きを落としてしまう。あぁ、俺のネズミがぁぁぁ!?
「床に落ちた物を食べるんじゃないわよ」
「あぁ、俺が獲った得物だぞ。別にいいだろうが!それより、何だよいきなり……」
「あぁ、実はね――」
それからメアリは何故こうなったか語ってきた。長い話を要約すると、筆記は目標点を取れたのに実技が残念なのでメアリは補習ですと言う事らしい。
どうやら、初級魔法をパーフェクトにして挑んだ実技試験は名目上では下位魔法の試験らしい。
下位魔法とは、人間のカテゴライズで弱いみたいな魔法。そこがメアリの勘違いだ。こんな経験はないだろうか、ステータスでは中々なのに意外と弱いとか使いにくいとか。そう、実はそれだった。下位魔法には使えない中級魔法も含まれていたのだ。その中級魔法は突風を出したり巨大な泡を飛ばしたり熱だけを出す魔法とかだ。実際、どれも戦闘では使えず消費する魔力だけは中級という魔法だ。
「ややこしいのよ!何で中級魔法が下位魔法に入ってるのよ!そこは中位魔法の区分でしょうが」
「諦めろよ、偉い人には分からんのですよ。いいじゃんギルド、楽しいぜ」
俺は目を輝かせながらそう言った。懐かしいぜ、俺はゲームでギルドにも行ってたからな。
だがしかし、そんな俺とは対照的にメアリは御通夜状態である。一体なぜだかわからん。
「楽しくないわよ……ギルドってのはね、働けない大人があれこれ言って職業斡旋して貰う所なのよ。しかもね、資格とか学歴とか重視で貴族の箔とか関係ないの。実力主義な社会だし実績や信用があれば裏で何してようがギルドは知らん顔、恐ろしい魔窟なのよ」
「知りたくなかったよ、その情報!海行く前に鮫の映画観たりした気分だよ!」
しかし、どうしてそんな所が補習なのか。そう聞いた俺に対してメアリは憤慨しだした。
あかん、これは地雷だった。
「そう、そうなのよ!アイツ、私に対してね!実力が無いならギルドでも行って付けたまえ、まぁ無理だろうがねって!あれが教師のやる事か!」
「おーどっかで聞いたセリフ。まぁ、実際に出来るかどうかの場所と評価方法が変わったってことなんだろうな」
「最悪よ。アンタが最近魔法覚えたらしいけど出来る気がしないわ」
そうは言うが既に決まってしまったのは仕方ない。ゲームの知識を持っている俺がサポートしてやろう。
という事で俺達はギルドへと向かった。
ギルド、そこは入り口と窓口が分かれた場所だ。レンガ作りのそれは、とにかく横に長い形だ。俺の目測ではコンビニを二つ連結したら同じくらいになると思われる。記憶に自信は無いのだが。
そして、左の方には窓口という場所がある。ここでは数人が受付をしており依頼専用の場所だそうだ。まさにお役所仕事である。
右の方にはギルドへの入り口があり、何人も行き来している。彼らや彼女らはそのギルド内へと入り仕事を見つける冒険者だ。簡単に言うとギルドはハロワで冒険者は無職かフリーターだ。
よく小説などではそこの所を明記してないが、窓口で審査を通った依頼などがギルド内に張られるようだ。
また、よく考えれば分かるが受付と別にしないとギルド内が依頼者と冒険者でいっぱいになる。
だからこそ分けたのだろう。効率的だ。
また、ギルド内には酒場や食事の出来る場所は無かった。テンプレの酔っ払いはいないのである。
悲しいかな現実、実は理由があるのだ。
ギルドでの採取依頼や討伐依頼では商品をギルド内で清算するのが常識だ。
その際、衛生面やトラブルを避けるためにギルドは神経を使っている。中には少しの汚れで枯れてしまう薬草もあるそうだし、アルコールと反応して爆発する魔物もいるそうなので気を付けているのだと、ギルド前に置かれている掲示板には書いてあった。ジェットコースターの注意書き並みに細かい。
因みに、食品関係はギルド近くにあった。大方、収入を得て気が緩んだ奴らから巻き上げるんだろう。
「よし、行くわよ」
「まぁ、待て注意書きを読むんだ」
「……分かった」
渋々、メアリも注意書きを見る。俺もギルドが安全に気を使ってますと言う説明の後を読んでいく。
『――以上の事からギルド内でのトラブルには気を付けましょう。次に依頼の受け方です。まず、入り口手前で整理板を貰います。呼ばれた番号の方は係りの指示に従い左の受付まで行きましょう。係りの者が提示する依頼は複数あり、自分の適性の物を選びましょう。中央にはギルドのお知らせがありますのでご利用ください。右は納品所となっています、他の方のご迷惑にならない様に値上げ交渉はお止め下さい』
「なんか、俺の知ってるギルドじゃない」
「アンタ今までギルド来たことないでしょうが」
何言ってんだ、とメアリは半目で見てくる。いや、なんか真面目だよ!荒くれ者とかいなさそうだよ!夢と希望がギルドにない!むしろ現実と絶望しかない。
「まぁ良いわ、課題は一定のギルド評価だからちゃっちゃと終わらせるわよ」
「取り敢えず、整理板だっけ?それ貰おう……紙じゃないんだな」
「紙なんか高いわよ。使う訳ないわ」
そして待つこと数分、係りの人に呼ばれてメアリが移動する。俺はメアリに抱えられて足をプランプランしていた。こいつなりに緊張してるのか地面に降ろしてくれないのだ。
「初めまして、本日はどのようなご用件で?」
「あの……学校の……これ……」
ニコニコ笑う受付嬢にメアリは目線を合わせないようにしながら封筒のような物を渡した。
おい、お前いつもの元気はどうした!人見知りするタイプだったけ!?
「拝見しました。本日は校外学習ですね、ではメアリ様に適した依頼はこちらになります。まずは野草やキノコの採取、商店の手伝い、それから魔物の狩りですね。採取依頼は何度か、狩りなどの討伐は一度で評価いたします。商店などは店主の評価次第になります」
「じゃあ討伐依頼で……」
「討伐依頼ですね。討伐依頼では指定された魔物を取っていただきます。ただし過剰な討伐や指定外の魔物への討伐は生態系を狂わせる為に罰則しております」
経験則なのだろうか、ギルドは環境にまで神経を使っていた。みんながスライムとか狩ったら他の魔物が餌が無いって暴れたりしたのかな?割とありそうである。
しかし、メアリは注意書きからしてそうだが、面倒な物は後回しで習うより慣れろな感じだな。ゲームも説明書を見ないでやるタイプっぽい。俺と違うタイプだ。だからこそ、危険だ。受付嬢は封筒の中身、恐らく紹介状に書いてある物を見て依頼を選んでいるが、メアリは初めてで魔法にも慣れていない。それなのにいきなり討伐は無理であるし危険だ。ここは使い魔として主人を助けてあげよう。
「メアリ、まずは採取をやるんだ。採取クエストは基本だ」
「討伐の方が評価はすぐアップよ」
「だが、地形も知らないでどんな魔物がいるのか分からないのはマズい。それに、メアリの魔法も慣らしてからでないと、実力は発揮できないはず」
「……むぅ、それもそうね」
納得してくれたようで、メアリはしどろもどろながら討伐から採取依頼へと変えてくれた。
さぁ、初のクエストにレッツゴー!