王都脱出、負のループ
月の光に照らされたバルコニー、そこから飛び立つ影があった。
それは跳躍し、追い求める。欲する物へ、自由を求めて、そして掴んだ。
「俺も連れてって!」
「きゃぁぁぁ!?ちょ、何!?」
第三王子が空を飛んだ、その先にはルージュと呼ばれる少女。
っていうか俺の主人の姿があった。
叫ぶルージュに、下の騎士達が上だと叫びながら気付く。
その間、第三王子ソレイユはルージュの腰にぶら下がっていた。
「ちょ、おお、おま、お前!」
「離しはせん、離しはせんぞ!」
ルージュの蹴りを器用に避けながらよじ登る。スゴイぞこの男、何て腕力だ。
「あれは、王子!?賊め、王子を誘拐する気か!?」
「アーホーかー!捕まってんの私だから!」
「クソ、王子を盾にされて攻撃出来ない!」
「攻撃してください!ちょ、どこさわ、痛たたた!?もげる、もげるから掴むな!」
「た、誑かしおって!」
「胸掴まれてんだよ!誘ってねぇよ!」
涙目の訴えは無視された。正確には、理解されてない。
その間ソレイユは背中へとガッシリ掴まる。
「ちょ、待って!落ちる、落ちるって」
「行ける行ける!」
「行けないから、高度が下がってる!」
このままでは捕まる、そう理解しルージュは逃げ出した。
ゆっくりだが確実に塀の外へと向かって行く。
「逃がすな、追えー!」
城に鐘を鳴らす音がした。ルージュの方へと兵隊が集まってくる。
下を見る、そこには魔法を手に灯す魔法使いの群れ、矢を向ける兵士達。
前を見る、ゆっくり下がっているが塀がある。しかし、その先で待ち構える兵士達。
左右は何らかの魔法で光に照らされており、身体に影響はないが昼のようにルージュの姿が写っていた。
背後、嬉しそうに胸を揉む変態がいた。
「王子誘拐だな、さぁ逃げろ!」
「アンタのせいでしょ!」
後ろで叫ぶ馬鹿にセクハラされながらルージュは逃走する。
逃げるにはサポートが必要だ、その意を汲み取り俺は動く。
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「敵襲、下からだ!」
影からの奇襲、それは兵士達を襲った。
攻撃を受けた者達が苦しみながら倒れて行く。
しかし、本命は別にある。
俺は影の中にある小さな窓、服同士の影から出来る窓から塀の周囲で待っている兵達を見る。
「石化せよ!」
視線に魔力は集い、そして放たれる魔眼。
敵は不可視の攻撃に徐々に石化していく。
「石化!?だ、誰か――」
逃げようとした兵の一人は完全に石となった。
それを見て、散り散りに逃げて行く。
更に支援する為に、俺は念力でルージュの負担を軽くした。
速度は上がる、それも数倍だ。
「フッ、雑魚共め!ざまぁ!」
「さ、最悪!自分の兵士に対して、最悪よ!」
「おいおい、褒めるなよ」
罵倒を心地よさそうに受けるソレイユ、ヤバいぞコイツ変態だ!
王都に飛びだす俺達、しかし後ろから騎馬隊が追ってくる。
「ヤンヤン、毒!」
「でも、ソレイユが!」
「コイツごと殺れ!」
我が主人ながら、恐ろしい女である。しかし、俺はソレイユを殺したくなかった。
どうするか、悩む俺をソレイユは笑って言った。
「俺に良い名案がある、こうしよう」
「おま、ちょ、その指輪ってまさか!」
「大丈夫だ、もう嵌めた」
禍々しい黒い霧を纏った指輪、それは大臣から奪ったというリッチの指輪である。
何で持ってる、とかそういう疑問以前に呼吸をするように躊躇いなくそれを嵌めた。
次の瞬間、ソレイユの顔が溶けて、襟の間からルージュの背中に入りだした。
「ぬわー!何か気持ち悪い!見えてないけど、何!?」
「俺が服に入っていく、背徳的でいいなこれ!」
「何!軽くなったけど何した!?」
皮膚が溶け出し泥のようになってルージュの服の中へ入っていく。
頭部には霧が集まり王冠が、骨の顔には眼球だけが残っていた。
身体は溶けていき、服は腐敗する。
中から現れたのは人間の身体だ。全裸で、黒いマントを羽織ったリッチの姿。
それは魔道具で殆ど補っていた結果、眼球のある骸骨の顔に全裸の男がいた。
それが、女性の背中にしがみ付いていた。へ、変態だ!
「内臓系が消えてるけど、問題ないな!溢れるパワー!俺は人間を超越したぞ!」
「おま、何してんの!てか全裸かよ!」
「表面は全て魔道具だからね。顔の対策さえすれば外を歩けるリッチさ。リッチを超越したアルティメットリッチだな、うん」
「ちょ、ちょっと待って!全裸って言った?リッチって言った?おい、答えろ全裸が私に抱きついてるのか!」
時に現実は残酷である。俺は答える事が出来ない理由として毒のブレスを吐いた。
すいません、ブレス出してる間は喋れません。
「おい、答えろ!おい、貴様!」
「動かないでくれ、感覚はあるみたいなんだ……あぁん」
「何か硬いの当たってる!気持ち悪い声が聞こえる!」
敢えて言おう、変態であると。
その日、王都は未曾有の大災害に襲われた。
謎の毒ガス、毒の沼地、毒の雨、あらゆる形の毒が降り注いだのだ。
気体であったり固体であったり液体であったり、形は違う毒が王城から街道を一本まるごと汚染する。
その被害は街道近くの市民と騎士団を壊滅へと追い込む未知の毒だった。
そして、その原因は一匹のドラゴンのブレスであった。
「エグイ、ガスや圧縮水流に出来る応用性もさることながら毒の強さがエグイ」
「ねぇ、真面目な事言ってるけど全裸が私の後ろにいるのよね!」
「簡単なことも理解できないのか……私はリッチに生まれた、生まれると言う事は全裸だ。誕生とは全裸から始まる、真理だよ」
「何言ってるか分からないけど、馬鹿にされた?今、私馬鹿にされた?」
俺は何も聞こえない。泣き叫ぶルージュを無視して俺は毒を出し続けた。
巨大な壁は、巨大な魔力の元にあらゆる魔法を使えるようになった顔だけ骨の全裸リッチによって見事に粉砕される。
女性の背中にしがみ付いた全裸リッチの指から圧縮された水が出る。
それは竜の形になって壁に突っ込み、壁を溶かし出して大きな穴を開けた。
「なんか、出た!すっごいの出た!全裸なのに!」
「出たとか言うなよ、恥かしいだろ!」
「おま、お前!違うからな、そういう意味じゃないからな!っていうか初対面からキャラ違うな、おい!」
「ハッ」
「鼻で笑われた!?屈辱!」
何だかんだで慣れて来たのか、ルージュのツッコミが冴えわたる。
アンデット同士通じる物があるのかもしれない。
知ってるか、コイツ最初はイケメンだったんだぜ。
「もう俺は自分を曝け出す!俺は自由だ!」
「出しすぎなんだよ、骨まで出てんだろうが!」
「おいおい、女の口からそんなこと言うなよな」
「待て、何が悪かった!てか、離せよ!」
見事脱出した俺達は、野に降り立つ。
涙目で体を洗う様に擦るルージュと黒いマントを羽織りその中は魔道具の肉体を持つ全裸、それと犬のようでトカゲみたいなちょっとメタボな俺がいた。
「思い切ったな、マジで」
「デメリットよりメリットがあるからな。合理的だろ」
「っていうか、露出狂ですね」
「今、俺生きてるって感じしますよ」
「いや、死んでるからね。骨だからね」
そっか、っと軽い調子で笑う全裸リッチ。横でジト目のルージュがいたことに気付いていない。
まぁ、顔以外太陽に触れても平気とか並みのリッチよりはスゴイだろ。色々問題だけどな。
「あの、ルージュさん?」
「殺す、絶対殺す、祝福してやる、浄化してやる、成仏させる」
「あっ、自分匂いで探してきます」
なんか、そっとしておこう。
俺は離れてアリア達の匂いを探した。
後ろの爆音とか笑い声とか聞こえません、聞こえませんよ。
あぁ、忙しいな。
匂いは留まっており、見つけるのは容易かった。
後ろの煤けたソレイユと後ろからソレイユの脛を執拗に蹴るルージュを連れて俺達は向かっていた。
暫くして、焚火が見えた。どうやら野宿しているらしい、とにかく会う事が出来た瞬間である。
「おい、誰か来るぞ」
「あっ、この匂いは!」
「もしかしてルージュか?」
最初に気付いたのはエリーだった、しかし姿は朧にしか見えない。
しかし、カシスが匂いで断定したので俺達であると分かったようだった。
出迎えるアリア、そして近づく俺達。
途中まで笑顔だったアリアだったが、口を開けてオロオロしだした。
「ルージュ、後ろ後ろ!」
「えっ、後ろ?」
ルージュが振り向き、背後で脛を摩る黒いマントを纏ったリッチが後ろを見る。
何かあった?さぁ、何もないよ、そんな会話が二人の間であり、前を向く。
アリアは尚も後ろ後ろと言う。何かいるのだろうか?
「まさか、見えてないのか!?」
「もしかしたら支配されているのかも」
「そんなアンデットだからそういうこともあるの!?」
慌てて武器を構え出すアリア達、おいちょっと待て。
何か分かって来たぞ。
「今、リッチから解放してやるからな。突撃ー!」
「や、やっぱりかー!」
アリア達が走り寄る、訳が分からずオロオロするルージュ。
その背後では自信満々な全裸のリッチ。彼は構えるように組んでいた腕をマントに掛けた。
おい、やめろ!
「そ、総員退避!?敵は全裸だ、骸骨のマスクを付けた全裸だった!」
「そんな、ルージュは露出プレイなんてしてるのか!」
「じゃあ、あの変態は誰なのにゃ!」
バーンと開かれたマントに戦慄が走る。
アリア達は急停止の後に顔を真っ赤にして逃走する。
直前まで近づいていたのにみんなが自分から去って行く様を見て、ルージュはみんなを追いかけた。
その後ろをマントを広げた全裸が追いかける。
負の連鎖が生まれた瞬間だった。
「もう、あの頃の出来る王子だったソレイユはいないのね……」
本当はすごい奴っぽいんだけどな、やっぱりうつけだったわ。
悪乗り好きな馬鹿の変態だったわ。
その後、ルージュが後ろに気付くまで皆は走り続けていた。
「……なにあれ?」
「新しい仲間……なのか?っていうかいたのな」
「……寝てた」
何が起きてもブレない、幼女ってすごいと思った。




