店を借りよう
次の日、俺達の朝は留置所から始まった。
「いや、本当すみません」
「もう戻って来るなよ」
罰金を払って騎士団に捕まったルージュを出す所から朝を迎えたのだ。
「ったく、運が良くなかったら死ぬ所だぞ」
「代わりに馬がいなくなってしまいました」
本来なら投獄の後に裁判、そして暴行罪で斬首の所。
俺達の馬と金を差し出す事で無かった事にして貰った。
所謂、司法取引みたいなものだ。アチラが求めた物を渡して減刑した形だからな。
ルージュを留置所から出してみんな揃うと、アリアは宿屋の食堂で話し合いをすることにした。
アリアが調べてきたことを元に、今後の活動について考えるのだ。
「さて、何から話したもんか。そうだな、まず騎士団から集めた勇者の予言についてだ」
「良く聞きだせたな。そう言うのは機密なんじゃないか?」
「いや、どうも騎士団の何人かが酔った勢いで喋った事から機密ではないんだろ」
アリアの話を元に考えると、ナオキ曰く。
まず、アクア王国でアンデットが大量発生するらしい。
次にウェントス王国とテラ王国に魔物の群れが来る。
最後に、イグニス王国で反乱軍がテラ王国を侵攻するとの事だ。
「アクア王国が戦地になる可能性は高く、聖職者が派遣されているらしい。復興作業中らしく仕事はあっても安い物だろう。ウェントスとテラでは大規模な軍事演習が行われている。恐らく、行けば徴兵の名目で魔物の群れと戦わされるか最悪奴隷として酷使される。近づく事は愚策だな」
「ではアクア王国とイグニス王国か」
「アクア王国は山越えが必要だし、行くだけ戦地になるならやめておこう。ただ、気になることがあってだな……」
口元に手を置き、考えるアリア。
その原因はイグニス王国と勇者の発言にあるらしい。
「イグニス王国で反乱が起こると言う名目で今回の軍事侵攻があったみたいなのだが、現状と勇者の発言が異なっている。予言では国力の低下から強制的に徴兵した農民達が一斉蜂起して内乱が発生し、そして扇動された結果テラ王国侵攻と言う事になるそうだ」
「確かに無理矢理そんなことしたら農民達が反乱を起こしても無理はないか。エルフの歴史でも何度か起きている記録はあるからな」
「その強制徴兵も扇動も同一人物が行うらしいのだが、それが魔法が使えないことで有名な馬鹿王子なんだ……」
「誰ですかそれ?」
ルージュと俺以外、何か察したような表情になる皆がいた。
どうやら、知っていて当然との事らしい。質問しなければそのまま続けられるところだった。
「まったく世間知らずだな。いや、イグニスでの事だから日が浅ければ知らんのかもな。イグニス王国の第三王子というのがいて、うつけと呼ばれる馬鹿王子だ。やることなすこと無駄に税金を使って、魔法も使えず、そして訳の分からないことを言うそうだ。昔は神童ではないかと言われていたんだがな」
「アリアの初恋の相手らしいぞ、会った事もない餓鬼相手にな」
「おい!……まぁ、同じ境遇なのにすごい人だと憧れていたんだ。最近の行動は目に余る物が多いらしいがな。勇者の発言に過剰に反応して予言を伝えた使者をその場で斬り殺すよう命令したらしい」
うつけで過激な行動、なんだか第三王子って織田信長みたいな人物だな。
第三王子がどういう人物か説明が終わり、話の本筋が元に戻る。
その王子に関係する予言についてだ。
「その王子は何者かに唆されてリッチになる指輪を渡されるらしい。渡された王子は豹変したように国を混乱させ、最終的に反乱を起こして、そのままカリスマの元に集まった民衆を連れてテラ王国へと攻めて行く……そうなんだが」
「あの、その王子様って馬鹿王子って人なんですよね。豹変したも何も既に何度か混乱させて迷惑かけてるから国民に馬鹿にされてるんですよね?」
「そうなんだ、ルージュの言うとおり予言ほど優れた人物ではないしカリスマなんてある訳がないんだ。もはや、妄言としか言えない事をテラ王国は信じている。恐らく、そういう無理矢理な理由でもって軍事侵攻する腹積りなのだろう」
その意見に俺以外が納得する。
俺としては、国はそうでもナオキの方は本気なんだと思う。
つまり、原作知識が狂い始めたという奴だ。
だが、それでも戦争が起きると言うの大筋は変わらないと言う事だ。
つまり、修正力と言ったような力が働いているのだ。
形はどうあれ、ナオキの言い分通りルージュがモンスターになってるし戦争も起きそうだ。
こういう差異があっても、一種のイベントというのは変更しないと言う事なんだろ。
だとするなら、王子はリッチになるのは確定。そしてそのまま戦争は回避できなくなる。
「私としてはイグニス王国よりも国力のあるテラ王国にいたい。つまり、ここを拠点にしようと思う。国力的に戦争は暫く起きないと思うんだ。此方には竜が群れでいるんだからな。だとしたら、要塞の方が安全だからいるべきだろう」
「でもどうやって生活するの?厳しいよ?」
「カシスの不安ももっともだが、今は空き家が多くて辺境で最前線となるこの場所は人気がないそうだ。つまり格安で家が借りれる。そこで宿代を節約し、貯金して情勢を見て行動しよう」
どっちもどっちだが、店として活動できる点から借りる方が良いとの判断だ。
アリアの見解とは違うが、結果的に戦争はやはり起きると思うのでここに残るのは反対である。
しかし、俺の意見は多数決で封殺された。説得力が無かったからだ。
それから色々な役割を決めて家を借りる事になった。
人は多くないが、備蓄はあると良いだけあって店で作ったものは良く売れた。
カシスが食べ物を集め、マインが武器を作り、ルージュが薬品を調合する。
エリーが精霊術を使ってマジックアイテムを作り、アリアが店番である。
結構な頻度でアリアが無能と呼ばれているが俺と同じニートだ。仲良くしようぜ。
「くっ、何か私に出来る事があれば……」
「アリア、マインが鉱石取ってきて欲しいらしい。あと、ルージュが薬草で私の獲物の処理もお願いね」
「あ、あぁ。分かった……ハァ」
自分で言いだした事だから愚痴る事も出来ず、冒険者としてダンジョンを攻略していた輝いてるアリアさんはいなかった。今は、哀愁漂う雑用係である。
俺はと言うと一日中、店を守っている。
俺の仕事は店舗の警備員。朝起きては店先で眠り、食事をしては愛嬌を振りまいて客寄せ、仕事の出来を横でチェックし、暇になれば店の中をパトロール。すごく働いてるな、うん。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
「自分、巡回中ですんで」
「そういうのいいからカシスの手伝いでもしてきなさいよ。アリアさんより働いてないじゃない」
ルージュが俺に向かって文句を言ってくる。
背後で、私が基準という声が聞こえてきたがスルーだ。
しかし、俺はやる事ないというか森の方に行っても食べるものがないからな。
もう全部食べたし、味に飽きた。偶に薬草の調達や狩りを手伝っているのだから週の半分ほどゴロゴロしてても良いじゃないか。
「最近、人も増えて来たし忙しいんだから」
「分かった、明日からな」
そう、明日から頑張るから今日はゴロゴロしよう。
そして数日、俺は未だにゴロゴロしていた。
うん、なんかやる気って言うのが起きなかったんだ。
ゴロゴロする事に飽きてきた俺はマインの所に行く。
俺もこう見えて男の子、武器作りを見るのはすごく好きだ。
高い金払って借りた設備で、ガンガン武器を叩いて作るのが好きだし溶かして武器を作る所も好きだ。
完成品が出来るまでの工程はなんだかワクワクする。浪漫である。
「……また来た」
「ふむ、いい出来だ。中々の一品じゃな」
「……それ芯が弱い粗悪品」
「が、贋作として本物以上なんだぜ」
「……言い訳するなし」
まぁ、適当に足を運んでは品質を調査するのが仕事だ。
偶にミスするけどな!
でも、エリーの不思議な儀式は見てて怪しい宗教にしか見えないしルージュの調合も磨り潰したり煮たりでつまらない。面白くないのだから遊びに来るのは仕方ないと思う。
「もっと、こうロマンのある武器とか見たいよな。ドリルとかパイルバンカーとか」
「……はぁ、そうですか」
「そうだよ、銃とかナイフはロマンが一番だ。アハトアハトとかデカイ武器も良いな」
「……銃?」
マインがこてんと首を傾げた。
あぁ、そうか銃がこの世界には無かったのだ。
魔法があるから火薬とか発展しないし、そういう武器開発より魔法を研究する方が現実的だしな。
でも、火薬代わりに魔法を使えば無限に発射できるファンタジー御馴染みの魔法銃とやらも出来るかもしれないな。
「……とりあえず、ドリルっての作るわ。土木工事で使えそう、売れる」
「売れるものしか作らない、世知辛い世の中だ」
「……夢じゃ食べれないからね」
「お前、その見た目で言う!あっ、ごめ、ハンマー振り上げないで!?」
そんな感じで平和に過ごしていた。
そして数か月の時間が経ち、生活が安定してきた頃。
要塞都市に活気が満ちて来て、都市に恥じないくらい元の機能を戻していた頃だった。
「た、大変だ!イグニス王国が宣戦布告した!」
「馬鹿、戦力的にあり得ないだろ!自殺行為じゃないか!」
そんな情報が街に飛び交っていた。
国家の威信でも掛けたのか、起きる訳がないと言われていた戦争が始まりを告げようとしている。
「どうやら、新しく買った弓が試される時が来たみたいだな……」
「エリーさん、店先でドヤ顔しないで下さい!子供たちに馬鹿にされてますよ!」
「私のダガーが血を求めている……」
「カシスさんも遊んでないで狩りに行って!」
「傭兵か、名誉挽回に……」
「アリアさん、さっさと荷物は込んでください」
「……パイルバンカー!」
「うわ、何作ってんですか!?槍ですかそれ!」
俺達の店は平常運転だった。
なんか、ツッコミで疲れてんなルージュ。
「みんな、働いてよ……」




