それぞれの理由と旅立ち
酷い目に遭った、そう思っていたがゴーレムとの遭遇は俺の成長を促したので無駄ではなかった。
身体の中で蠢く力、今ならわかる。俺はあのゴーレムのように念力のような物を使えるようになっているのだ。説明できないが何が出来るか知ってるのだ、感覚としては出来る事を思い出したような物だろう。
能力を得た瞬間に知識を得る、そういうことなのかもしれない。ここら辺は推測になるので断言できないが多分そんな感じだ。
更に、若干皮膚が固くなっている気がしていた。ゴーレムを食べたことで防御力が上がっているのかもしれない。
さて、ゴーレムを倒した俺達は来た道を戻っていく。これ以上進むより、今ある戦利品を金にした方が良いという判断だ。
暫く進んでいくと、軽く此方に手を上げながら近づいてくる集団があった。
「あの人達は……」
「攻略組だ。他の冒険者の後から引き継ぐ専門の冒険者で、奥の方へと行く事を優先している奴らだ。アイツらは、ダンジョンを攻略する事が目的の奴らだ。何があるのか気になるらしいぞ」
どうもどうも、と軽薄そうな笑みを浮かべる六人程のパーティー。
彼らはダンジョンの最下層には何があるんだろうとロマンを胸に攻略していく奴らだ。
「今まで攻略された場所では門番エリアの下にある地底湖エリア、そこから下がった溶岩エリアが確認されてる最下層だ。マグマで出来た巨人がいるそうだ。あっ、マグマって言うのは燃える土みたいな物らしい」
「土と火の合成魔法で出来るでしょうか?」
「熱いとは聞いたことはあるが見たことがないから、分からん」
何だその爛れてそうな敵は、勝てる気がしない。最近気づいたが、ゴーストやそういう食べれない敵に対して俺って圧倒的に弱いじゃないか。しかし、そのマグマの巨人を倒した先に何があるのか謎である。
「そういう冒険者の方もいるんですね。そう言えば、皆さんはどうして冒険者になったんですか?」
帰りの道中は暇だからか、雑談が交わされる。そんな中で、その質問は冒険者にも色々なタイプがいるんだと知ったルージュの物だった。答えたのはドヤ顔に定評のあるエルフのエリーだった。
「知ってるか、そういうのは冒険者に聞いちゃいけない奴だ。後ろ暗い奴もいるから気を付けないと殺し合いになる。まぁ、そんな場合は稀だが気を使う結果になりかねん」
「す、すいません……」
「しかし、気になるのも仕方ない事だろう。何たってエルフの私が何故に放浪しているのか気になるのが普通だ、珍しいからな。言いたくないが教えてやろう」
「あの、言いたくないなら別に……」
「遠慮するな、うん実は私は古代エルフの至宝を探してるんだ。絶対に壊れない双剣、全てを見通す水晶、世界を司る精霊が封印された本。この三つを三種の神器と言って、私はそれを見つけるために外にでた放浪エルフとは名ばかりのトレジャーハンターなのだよ」
「言っちゃった!?この人、本当は言いたかったんだ!」
叱られて凹みながら断ってたルージュを無視してペラペラ喋るエルフの姿がそこにはあった。
っていうか、本当は言いたかったんだろ!トレジャーハンターなんだ、ドヤァって顔がムカつく。
そして精霊が封印された本って、もしかして爺か?
……本の精霊なだけで、関係ないか。あの爺がスゴイ奴なわけないしな。
「まぁ、我々は気にしない奴らだからな」
「そうなんですか?」
「カシスは獣人の地位向上の為に冒険者になったんだ。彼らは人狼などの獣人に似たモンスターのせいで迫害されてるからな。マインは歴史に残る武器が作りたかったのだが女という理由で差別されたんだよ」
「アリアさんはどうして冒険者になったんですか?」
「アリアか?アリアは貴族のくせに魔法が使えなくて冒険者しか生きる道が無かっただけさ。大層な理由なんて持ってないよ」
人の事を勝手に喋るなとアリアは言いながらエリーを殴った。頭に拳骨を喰らって涙目になるエリー、それを横目に無言でアリアは先へと急いだ。もしかしたら触れられたくない事だったのかもしれない。少しだけ気まずい雰囲気で俺達は元来た道を戻って行った。
門番エリアを抜けると、再び草原のような植生エリアに戻ってきた。
俺が先頭に出ると、避けるようにモンスターが去って行く。
俺は魔除けでもなんでもないのに危機感でも持ったのか逃げて行く奴ら。
クソ、学習したのか畜生の癖に。
「臭いのかしら?」
「違うからな!加齢臭とかないからね、俺はピチピチだからな!」
ルージュの発言は全力で否定させて貰う。
植生エリアを出る頃になると、行く時に説明にあった出待ち組とやらがいた。
入り口であり出口でもある場所、そこにソイツらは何と言うかコンビニ前のヤンキーのように待機していた。
ヤクザみたいな奴らを顎で使ったり山賊にカチコミに行ってたルージュさんが、ビビって震えていた。
基準が分からない。
「やだ、怖い……魔法でもぶつければ大人しくなるかな……」
「お前の方が怖いわ!」
どうしてすぐに先制攻撃したいのか、ウチの主人が会話と戦闘を混同している気がして仕方ない。
まぁ、若干一名ビビりながらも遠巻きに通り過ぎようとした俺達だったが奴らの方から絡んできた。
「おい、そこのお前ら――」
「どけ、殺すぞ」
入り口を塞ぐように立った出待ち組の冒険者に向かって機嫌が悪いアリアが睨みつけながら言った。
手は槍に伸びており、一触即発の雰囲気に無言の圧力が暫く冒険者たちに注がれた。
「いや……気を付けて帰れよ」
「フン、気遣い感謝しよう」
目を泳がせながら逃げるように去って行く奴ら。スゴイ、カッコいいぞアリアの姉さん。
ルージュさんがキラキラした視線を送っている。これは惚れる、いや本当に惚れるなよ。
百合百合ったりするなよ。
そして、それから何事もなく洞窟のような道を越えてギルドへと帰ってきた俺達は戦利品を売却する。
アリア曰く、普段より高値で売れたらしい。それに対してルージュだけが嬉しそうにしていた。
何か不都合でもあったんだろうか。
「あ、あの……高く売れたんですよね?」
「うん……まぁな」
「どうして難しい顔してるんですか?」
「あぁそうか、ルージュは日が浅いんだったか。ちょっと高値で売れたことが問題なんだ」
それはだな、とアリアが説明する。
何だろう、声のトーンが下がって真剣な顔だ。
「武器や魔道具が高値で売れると言うのは、他の店や商人に売って欲しくないってことだ。つまり、大量に確保しておきたい。そして、ギルドってのは役所だから他国と連携はしてもやはり国家の所有物だ。ギルドの物は国家の物となるのは分かるな。恐らく、近々遠征か大規模な戦闘が想定される……」
「戦闘ってやっぱり、あの街のせいで……」
「原因は分からないが、ルージュは何か知ってるのか?」
ルージュの反応に察したアリアが問いかける。
ルージュは困った様に口を開く。
「カジノって街、知ってますよね」
「あ、あぁ。何人もの貴族が行方不明となって国でも大問題となっている」
「あそこにスゴイお宝があるんです。金貨や食料、魔道具や武器とか」
「しかし、噂では調査隊が帰ってこない為に町の状況は分かってない筈だが」
何故知ってるんだという鋭い眼光が向けられる。
流石にうっかり口を滑らした後に、はぐらかす事は出来ない。
「じ、実はグールの群れがいまして……今はいないんですけどね。そこに行く為なのかなって……」
「討伐と言う事か、それにしても何でルージュが知ってるんだ怪しすぎるぞ」
えっと、それはと言い淀む。何かうまい言い訳は無いか。いや、そうだ!
「実は俺達はしばらく前まで行商だったんだ。嘘だと思うなら調べてみると良い。それで、カジノの街に言った時に俺がグールの腐った匂いに気付いた。面倒事になるから国には言って無いがな」
「ヤンヤンの言うとおりです!そうなんですよ、あっ……あと、いないって言うのは確認したんです。その、この杖とかそこで見つけたので、後ろ暗くて……」
何とかフォローして、そうして言わなかったのかという理由まで付けたし誤魔化す。
何だか、アリアは腕を組んで考えている様子だが納得はしてくれただろ。じゃないと困る。
「疑わしいが、そういう理由なら挙動不審なのも仕方ないかもしれない。しかし、お宝があるというなら行かねばならないだろ。その話は他の者にはしてないな?」
「してないです、はい」
そうかそうか、とアリアはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。大体悪巧みしているときのルージュの顔に似てる。
「では、私達で回収しに行こうじゃないか」
まさかと思ったが、やっぱりと言う感想だった。まぁ、冒険者だから金になる物があるなら行くのは当然だろ。
「えっ、あそこに行くんですか?」
「ルージュの装備は中々の物だ。その杖なんて素人でも纏う魔力が見える時点で業物だと分かる。ローブだって、それなりのマジックアイテムだ」
ルージュの装備、それは身の丈ほどの金属の杖。先端に無色の魔石が付いていた使用者の属性に染まって魔法を強化する杖、それにルージュの魔力が込められて黒い魔石になっていた。つまり全部の属性を強化する魔石が嵌められている杖だ。
次に服装、これは日に当たらないように呪いの武器を調べてルージュが作ったマジックアイテム。
強い力を込めないと脱げない仕様のローブで、素材にはアルケニーの生糸を使っていて火に耐性が付いている。アルケニーの生糸は魔法の付加がしやすく、精霊術で火耐性を付加しているので燃える心配もないローブだ。ただ、これが出来るまでに爆発騒ぎを起こした苦労がある。
確かに、タダだったからとは言えこれは目立つ。それなりに見れば、豪華な装備だ。
「そんな装備があるなら取りに行くしかないだろ」
俺達がこれから、あのカジノへと行く事が決まった瞬間である。




