俺の知ってるダンジョンと違う……
そのままダンジョンを進んでいくと隠し部屋を見つけた。
壁に石の取っ手が付いただけの気付かない仕様だ。
「場所によっては分かりやすい環境になる。しかし、共通して罠か宝箱のみという場合が多い。すべて扉が閉まると作動する罠なので開けっ放しにするのが鉄則だ。押さえてないと勝手に締まるからな」
「モンスターがいっぱい出たり、水責めや毒ガス、ずっと開かなかったりするからね。そうなったら全力で壁を壊さないといけないんだ」
アリアとカシスの説明に、うんうんと頷くルージュ。
俺はその話を聞いてモンスターボックスかなと思った。
「マイン見張りを、それとエリーは私と警戒、カシスは罠が無いか見てくれ。ルージュは中に入って見学だ」
「そう言う事だから、おいでおいで!」
素早く中に移動する、すると今までと違って人工的な部屋だった。
洞窟と言うより、四角く掘ったと言った形の部屋にポツンと宝箱がある。
「偶に宝箱に似たモンスターがいるけどアレは呼吸してるのが分かるから今回は違うね。でも、一度攻撃するのが約束ね。それが一番安全だったから」
足がセクシーなミミックとか強いもんな。一度攻撃するのは常識ですな。
カシスは今回は違うと言ってポーチから色々な棒を取り出した。
宝箱に刺すのかな?盗賊っぽいな!
「宝箱はガスとか爆弾もあるけど、ここら辺は浅いから開かないだけ。壊すように開けてると深い所に行ったときに死んじゃうし中身が傷むからね」
カチッ、と何かが開く音がした。中身に宝はあるのだが期待しない方がいいらしい。
浅い所にいるのは弱い獲物だから、ダンジョンはすぐに補給できる宝しか配置しないそうだ。
潜れば潜る程、モンスターは強くなりレアなアイテムがあると言う事だ。
因みに今回の中身は、魔力の多い所に生える薬草だ。
「薬じゃないんですね」
「なんで加工品が入ってるのよ、鎧とか武器とかはあるけどね。冒険者の身包みをダンジョンが吐き出してるらしいよ。だから、空き瓶とか服はハズレだね。今までで一番のハズレは鍋だったね」
「誰が持ち込んだのよ、不思議だな」
倒したモンスターをその場で調理するつもりだったのだろうか。
ソイツは星の戦士ではないだろうか……違うか。
「よし、早く二人とも出てこい」
「出る時は気を付けて、前のメンバーは転んでそのまま閉じ込められて多分死んだから。閉まる時は早いからね」
「恐い事言わないで下さいよ!」
笑顔で言う事じゃないだろ!
ダンジョンに階層と言う物はない。ただ、下り坂が続いて行く感じだ。
因みにマップは売っているらしいが、拡張していたり道が変わったり当てにならないらしい。
「やっぱり、ダンジョンマスターがいるんじゃないか?管理者説だっけ」
「やっくんはそっち派か。いるなら奥かな、最下層まで行った人はいないから分からないんだよね」
「やっくん、ってお前……」
「るーちゃんとやっくん。にゃはは、いいセンスでしょ」
それには同意出来ない。あれ、何で嬉しそうにブツブツ言ってるの!ちょっと、ルージュさん!
「お前ら、雑談はやめろ。そろそろ、モンスターの種類が変わるぞ」
「大丈夫だよ、匂い的には平気だから」
「アリアの言うとおりだ。私には見える、大地の精霊が教えてくれる!あの辺に敵が隠れている」
ちょっと危ない人に見えなくもないが、匂いの無いモンスター。
つまり、実態を有さないタイプが物陰に隠れているらしい。死にゲーかよ。
「よし、神聖武器か魔法だ。ルージュ、初実戦だがいけるな」
「大丈夫です」
「では、詠唱が完了したら言ってくれ。石を使って誘き寄せる」
普段詠唱しないので、若干困惑しながら呪文を言う。
仕草で準備完了を告げるとアリアが石を投げた。石が地面に落ちた瞬間、白い影が凄い速さで飛びだす。
それはゴーストだ。ローブを纏った人の白い影に黒い目と口がある様なモンスターである。
なんて、物理の利かなそうなモンスター。アレでは食べられない。
「燃え尽きろ、それ!」
「ヌゥゥゥゥン!?」
放たれた炎がゴーストに当たる。包まれるゴーストはそのまま消えて行き、カランとガラスの様な石が落ちた。
「ゴーストの魔石だ、あれは属性がないから利用しやすくてそこそこの価値だぞ。小さいけど」
「始めてみましたゴースト、何か驚いてましたけど」
「確かに、襲わずに此方の様子を窺ってたが偶にはそういうこともあるだろう」
そう納得して先へ進むメンバー。しかし俺がだけは、あのゴーストが何で攻撃するのって顔をしていたような気がしていた。気のせいだよな、多分。
「行くよー」
「あっ、待って」
暫く戦いながら進むと、不思議な場所に辿り付いた。
トンネルの先に似た光景だ。まるで、外に繋がっているかのようで、草原が見える。
「あの先を抜けると、地形が変わる。私達は植生エリアと呼んでいる」
「植生エリア?」
「天井に光る苔があって、そのせいで植物が大量にあるんだ。今までは下り坂だったが、ここからは平地ですごく広い。周囲の警戒を怠ると、モンスターに囲まれる」
地形が変わる事をダンジョンではエリア移動と言うらしい。
何はともあれ進んでいくと、境界線のように芝生と土で分かれるようになっていた。
これが入り口付近か。良く見ると芝生が常に動いており、本当にモンスターの体内じゃないかと思えてきた。風もないのに動くとか不思議である。
「ここの植物は燃えないから、植物に見える壁だと学者達は言っている。生き物は体内に毛のような物がたくさん生えてるらしいから、それなんじゃないかという見解だ」
「私達は魂じゃなくて、頭の中の内臓が体を動かしてるって眉唾の説もあるんだよ」
「まったくだ、身体を動かしているのは心臓とその中の魔石だと、エルフでも知っている常識だ」
アリアに便乗するようにカシスとエリーが豆知識を披露してくれたんだが、少なくともエルフの知識は当てにならない。だって、確かルージュの心臓止まってるからな。
「……食べちゃダメだよ」
「いや、俺その辺の雑草とか食べないからね」
変な心配されましたが、不思議な草を食べたりしません。
さて、ここからは獣っぽい魔物が多くなってきた。この場所は罠や宝箱が無いから対人とモンスターにだけ気を付ければいいらしい。
「うん?入り口の方から動いてない人の匂い」
「出待ち組か」
「出待ち組?」
「弱いパーティーなどの持ち帰った物を強奪したりする奴らだ。入り口で帰ってくるのを待つ奴らだな。広いエリアだと弱いのが帰る時までブラブラしてれば他のに迷惑を掛けないからな」
つまり、冒険者を狩る対人専用のパーティーのようだ。
まぁ、お宝だけ持ち帰れば楽だもんな。しかし、俺達じゃ臭いとは思っても判断は出来ないから獣人はすごいな。
「私達の目的は、この下の門番エリアだから気に留めるだけでいい」
「門番エリア?」
「一本道で部屋があり、強いモンスターが宝箱を守っている。通路に罠があるがそれ以外は楽なエリアだ。ソロだと厳しいがパーティーだからな」
つまり、ようやく俺の知るダンジョンっぽい場所になると言う事だ。
これは数でダメだったから質で勝負するダンジョンの策略らしい。絶対ダンジョンマスターいると思うんだけどな。なんかすごく、遊んでる感がハンパないから。
「ここのは数が多いが弱って無ければ自分から襲って来ない。見つからなければ、素通りできる」
「キシャァァァー!」
ダメだった。同じ場所で話していた為に、弱っていると思ったのかモンスターが近づいていたようだった。
なんか、カシスがしまったと言っていたので入口の方を気にして索敵を怠ったのかもしれない。
俺達の前に現れたのは、小さい蛇の集団だ。束になった蛇が群れで動いてる。機械のケーブルみたいだ。
「……じゅる」
「シャ、シャァァァ!」
「畜生の分際で勘付いたか」
中々、勘のいい奴らである。ちょっと小腹が空いていたので食べようと思ってたからな。
「小さいわね、飲み込めそうだから食べて良いわよヤンヤン」
「ヒャッハー!生きたまま丸呑みだぜ!」
「シャァァァァ!?」
四方八方に散っていく蛇を片っ端から食べて行く。口の中で暴れるがウナギみたいな味で美味しい。
ただ、味わってると逃げられるので急がなくては……
その後、小さいウサギやサルのモンスター、御馴染みのコボルトやオークなどを見つけては追いかけ回した。
俺、このエリア自分より弱いのしかいないから無双出来て好きだわ!
「何て言うか、モンスターが可愛そうだな」
「オークって喋るから精神的に来るにゃ」
何かドン引きされてたけど、喰う物に困らないのはいい。俺、ダンジョンの子になる!
「行くよー」
「あっ、置いてかないで!」
門番エリア、そこは俺の知ってるイメージ通りレンガで出来た通路だった。もう、直角で人工的に作られたかのような迷路、落とし穴に飛びだす槍の罠。実にダンジョンである。そして、ボス部屋前の雰囲気がある重厚な扉。すごい、強そうです。
「最初はトロールだ。マインが引き付け、私とカシスが遊撃。遠距離からエリーとルージュが攻撃だ。ヤンヤンは好きにしてくれ。一度開けて入れば中からしか開けれない。だからモンスターだけに集中しよう」
台無しである。俺の中の何が出るかなと言うワクワク感がネタバレで消えた。
攻略サイトをやる前に見た気分だ。固定配置かよ、ゲームみたいだ。
中に入れば、引きずるように重い扉が一人でに閉まる。
すると、オートロックの部屋に住んでるトロールさんが挨拶してくれる。
胸を叩きながら咆哮して、足元にあった棍棒を両手に二本ずつ持って待ち構えた。
「フゴァァァァァァ!」
「散開して、作戦通りに行くぞ、うおぉぉぉ!」
俺達の迷宮攻略はこれからだ。




