働けなかったルージュは渋々冒険者になりました
翌朝である。二日酔いになった状態で迎えた朝、起きた頃は既に午後くらいだろうか。
時計は無いから微妙であるが太陽が天頂だ。これから色々な店に、ここで働きたいんです的な事を言わなくてはならない。
そして始まった就職活動であるが――
「客じゃないなら帰れ!」
「仕事?もう間に合ってるんだけど」
「弟子になるにはデカすぎるからな、悪いな」
「女が出来るこったぁ、ねぇよぉ!」
「ウチ来るかい。えっ、娼婦はやだ?」
――全戦全敗である。
いやね、普通仕事なんか選べる時代じゃないしね。職人が多いから子供の頃から修行しないとダメだしな。自分の意志で職業を選ぶ余地もなく、大体はいつのまにか就いていた職を一生の仕事にするのが普通だし。
「仕事が、見つからない……」
「無職だな」
「違うわ、そうね……求職者って所かしら?来たるべき戦いに備えて英気を養ってるのよ」
「マジで戦争が起こりそうだからシャレにならないぞ」
「うわわわ、今のなし!ノーカン、ノーカン!」
貯金を食い潰す、職を持たざる者であった。
もうこうなったらハローワーク、冒険者のギルドに行くしかない。
再び盗賊になるなんてしたくないので、それしかなかった。
「ギルドね、懐かしいわ」
「前と来る立場が違うな」
まず、俺達はギルドの依頼者用の方へと向かった。
依頼を受ける方ではなく申請する方だ。ここで、雇ってくれる人を募集する依頼を出すのだ。
主にパーティーの募集や副業がしたい魔術師などが利用する。
まず入り口で整理板を貰い、呼ばれるのを待つ。
暫くして、呼ばれたので受付のお姉さんの前にルージュは座った。
「はじめまして、募集依頼担当のアンナでございます」
「は、はい!」
「今回のご利用は初めてのようですので、まずは登録申請をしていただきます。初回手数料と依頼費用として、金貨一枚です」
「えっ?お金取るんですか……」
「羊皮紙などに費用が掛かりますので、次回からは銀貨五十枚にて継続利用が出来ます。依頼の方は一週間ほどの掲示になりますので定期的に足を運び継続利用するか依頼取り下げを申請してください」
凄まじい金額である。物価も固定ではないし、国家間で貨幣が違うので価値は説明できないが、リンゴが銅貨十枚なので百円として扱うと、大体十万円くらいの金額だ。
まぁ冒険者なら稼げる奴はすぐに稼げるから、この値段だろう。
金に困ってない強い奴が集まるという魂胆か。
「では、手数料をいただきましたので登録しましょう。此方は更新に銀貨五十枚必要となります、また虚偽の報告は法律で禁止されており発覚した場合は罰金か制裁措置がありますのでご了承ください」
「何をするんですか?」
「質問していくので、答えるだけで良いですよ。では、お名前から」
簡単に言えばプロフィールである。パーティーでも副業でも出来る事が分からないといけないからだ。
「開拓村より前の経歴が分かりませんね。見た所魔法使いのようですが、在学経験はありますか?卒業しているなら証明できる物を提示してください」
「ちゅ、中退なんで無いです」
「中退っと、では何が出来ますか?」
「魔法関連なら全般を、でもどれも中途半端なので完璧とは言えないです。属性魔法は全部使えます、中級までですが。あと、属性魔法以外も少々。計算や読み書きも出来ます」
「学歴の方は資格がないので無理ですね。一応、予備知識ありとしましょう。全属性で中級までは優秀ですね。異国の魔法知識もあり計算と読み書きが可能っと」
優秀と言われてルージュがニヤニヤする。そうか、嬉しいのか。
でも、学歴の方が評価されないなら薬師とか錬金術師にはなれないぞ。
「これでしたら、商人との専属契約や冒険者パーティーに重宝されますね。計算と読み書きが出来るのは唯一の長所ですね」
「えっ、唯一ですか?」
「魔法関連は学歴や資格のある方を呼ばれるので、まぁ全属性の方も他の魔法使いで教育出来るので家庭教師は無いでしょう。異国の魔法は宗教的に嫌う方が多くてマイナスですね。でも、読み書きと計算でバランスは取れてます。異国の知識と雑用で、商人か冒険者がきっと雇ってくれます」
つまり、貴族としての常識以外は使えないと言う宣言だった。
ルージュさん涙目である。仕方ないよ、文字を書けるくらいしか長所が無いんだから。
「では、募集しときますので定期的に来てください。最悪、一週間後に顔を出して貰えれば連絡は出来ますので」
意気消沈した様子でギルドを出て、また酒場で夜を過ごした翌日。
ギルドの方で早速雇ってくれる奴が現れた。
「おめでとうございます。引く手数多ですよ」
「本当ですか!」
「まず、商人の方は定期収入が見込めます。複数雇われるので途中解雇もありますが、その場合は再びギルドをご利用ください」
「えっ、途中解雇ですか?」
「大体、三割の方が続きますよ」
「七割は解雇じゃないですか!」
商人の方は沢山雇って優秀な奴を残すのが殆どだと言う。
ダメな奴はどんどんやめさせて、良い奴だけ残していく。
残った期間が長い奴ほど優秀で、それだけ一緒にいれば雇われた方も簡単にやめるような事はしなくなる。
「では、冒険者ですか。冒険者は収入が安定しない分配形式ですね。強いパーティーは収入が見込めますが、個性的です」
「それって性格に難があるってことですか?」
「嫌だなぁ、違いますよ。ちょっと、殺人とか強姦する人もいるってだけで普通ですから安心してください」
「安心出来るかぁー!」
「ダンジョン内で検証とか出来ないのでトラブルとかギルドでは関与してませんから。まぁ、そういう噂がある人が多いだけですから。クリーンな冒険者で強い方なんて滅多にいません、大体性格は悪いです」
「断言したな!正直すぎるわよ!」
何言ってんだよ、やれやれって顔で受付嬢が笑う。強い奴が好き勝手するのは常識なのかもしれない。
前来た時、ルージュがヤバい所だって言ってたしな。
「では、無理そうですが家庭教師などで募集は続けると言う事で、比較的に黒い噂の少ない所にしましょう。これなんて女性だけのパーティーですよ」
「そうなるのかな。因みにこの人達はどんな噂が……」
「男性が嫌いでして、男関連でトラブルが多いですね。ダンジョン内で出会いを求めるなら、最悪制裁があります」
「ちょっと怖いけど、恋愛しなければ……」
「他のパーティーですと、男性が多いので強姦されると思いますからおススメです」
「選択肢、全然ないじゃないですか!」
ダンジョン内ですし噂ですから、とお姉さんは笑う。真っ黒な笑みである。
しかし、何もない所から噂は生まれない。イケメンだったら嫉妬とかありそうだけどな。
取り敢えず、商人と冒険者以外の仕事を募集しながらパーティーを組む事になった。
「ルージュさん、待ってください」
「何ですか?」
出て行こうとしたルージュにお姉さんが手を差し出しながら呼び止めた。
何だろう、握手でも求めてるのかな?
「これから大変だと思いますけど頑張ってください」
「アンナさん……私頑張ります!」
嬉しそうに、差し出された手を握るルージュ。
しかし、お姉さんは困惑している。あれ、何で?
「あの、何故握っているのでしょうか?それよりも更新の費用、銀貨五十枚を……」
「畜生!私の感動返せよ!」
恥かしそうにお金を払うルージュの姿がそこにあった。
紛らわしい奴め……
ギルドの仲介を元に、俺とルージュはすぐにパーティーの元へと向かった。
今の時間なら、ダンジョンから出て休んでる時間だと言っていたからだ。
貰ったメモを片手に、宿屋に向かう。守秘義務とかないので、ここに〇〇さんはいますかって聞いたら店の人が教えてくれるのですぐに出会えた。
宿屋で食事中の冒険者達、みんな若い姉ちゃんだった。
手前で談笑しながら食べる二人。
一人は、シーフだろうか。所謂、斥候と罠解除の盗賊だ。武器が短剣なのとポーチに半袖半ズボンと言う恰好から判断した。前線で戦わない装備に罠解除の道具が入ってそうなポーチから正しいはず。茶色いショートヘアーにネコミミの女の子だ。間違いない、獣人だ。スゲー、珍しいからテンション上がる!
尻尾が揺れてて、獣人っぽいなー。
次に、エルフである。これまた珍しい、恐らく遠距離担当だろう。弓矢に杖を持っている。
良くゲームとかであるエンチャントとかするためだと思われる。エルフ特有の魔法でもあるのだろう、精霊とか使うかもしれない。金髪碧眼で指輪物語に出てきそうだ、まな板にしようぜ!これ絶対まな板だよ!ストーンとスレンダーである。エルフだなぁ……
その向かい側で難しい顔をした人と無表情の女の子。
明らかに幼女の女の子が無表情で酒を飲む。
重厚な鎧とハンマー、デカイ!小さいのに重そうな装備、間違いなくドワーフだろう。
黒い肌に黒髪ポニテールの幼女だ。うわ、幼女強い。
最後に額を押えて、金の入ってそうな袋をチラチラ見るお姉さん。
青い髪にロングヘアー、水属性の魔法使いか槍使いだろう。
細い槍と盾装備で前衛だな。腰にショートソードもあるから、遊撃担当かもしれない。
なんだ人間か、インパクトがないな。
「ヤンヤン、ヤンヤン」
「何だ小声で」
「女の人しかいないし、アレかな?何かメッチャ小っちゃい子にガン見されてんだけど」
確かに、ドワーフらしき子が見ている。あっ、横のお姉さんに告げ口した。
うわ、みんなこっち見た。
「どうしよう、先制攻撃ブチかますべきかな!」
「テンパり過ぎだろ、落ち着くんだ!」
「気付いたら、私ってば対等な立場の人とか初めてなんだけど!目上か下僕か敵しか対応したことないよ!」
「こういう時は、低姿勢が大事だぞ!第一印象大事だ!」
ひそひそ話し合う俺達。
その時、ルージュの背後に影が見えた。なんだお!?
「取ったどー!」
「ぎゃー!?何か捕まったぁぁぁ!拘束されたぁぁぁ!」
後ろから抱きつく獣人の人が見えた、スゴイ速さだ。
って、アレ?何か酒臭いし目線が高くなってる!?
「取ったど……」
「俺も掴まったー!ゴツゴツして痛い!」
机に頭を叩き付ける青い髪のお姉さんが見えたのだった。




