イグニス王国、王都到着
イグニス王国、火の魔法使いが多く輩出される国。国教として属性を崇拝する宗教があり、火の属性を崇拝している。
ダンジョンを保有する珍しい国で、教わるより慣れろ、座学なんていらない実技だ、そんな感じで教育よりも戦いに力を入れている。そのため、武官の量と質は良いのだが文官は逆にダメな国である。
そう、脳筋の国だ。
国の特徴として挙げるならば、鍛冶や酒だろう。
武器の質や量は世界で一番だと思われる。ドワーフのロリっ娘や髭面が多くいるのも特色だ。
ドワーフは男はモジャモジャのドワーフらしい感じで、女は幼女だ。合法ロリである。
酒は色々な種類があり、まぁ治安は悪い。ダンジョンに潜るか、武器か女を買うか、酒を飲むかの国だからだ。
「本当、教育機関ないとかどうやって国が回ってんのよ」
「見えて来たぞ」
荷車の上で、イグニス王国に関する本を読みながらルージュは言った。
と言っても、国ごとに自画自賛するので客観的な意見は乏しく、複数の本を見ながらこれが正しい歴史だ、と作ったルージュの本だがな。
やはり、王都ともなれば防壁が築かれている。恐らく、巨人対策という奴だろう。
そんなデカイ壁と門の近くに人が並ばされており、入国審査のような物をしていた。
「お金払うから素通りさせて貰えないかしら」
「多分、賄賂で捕まるな。で、荷物没収」
誰だってそうする、俺だってそうする。
まぁ、汚職が日常的に行われてるから出来なくはないかもしれないけどな。
俺達はアクア王国から逃げてきた、という設定にした。
今、あの国は戦争で出稼ぎに行く奴や一時的に避難するように他国に行く奴がいるからだ。
まぁ、そう言う事が出来るのはフットワークの良い商人ぐらいだがな。
「次、身分を証明できる物は?」
「これ……」
若干、怯えながら昔よりは人見知りせずに身文証明書を差し出す。
「開拓村のルージュさんね、開拓村?あっ、要塞都市か!?」
「わっ、びっくりした」
「お、おう。すまんな……あの場所でモンスターの大量発生があったのは知ってるよな?」
「いや、アクア王国から来たもので知らないです。何かあったんですか?」
「そうなのか、知っていたら事情を聞きたかったんだがな。まぁ、近づかないことだ。今は国の方から調査隊が行ってるからな」
多分、その調査隊は死んでると思いながら俺達は関税を払って入国する事が出来た。
イグニス王国は騒々しい国だった。罵声や怒号、道端で殴り合いの喧嘩をする奴らもいる。
スゴイ国だ、武器を持ってるから殺し合いにまでなりそうである。
「熱い……」
「スゴイ熱気だな、鍛冶とかやってるからかな?」
道端に露店が犇めき、規則的な武器を叩く音が響き、人々の言葉が常に飛び交う。
発展途上国という言葉がぴったり合いそうだった。
「取り敢えず、宿だけど」
宿屋がまったく見当たらない。無い訳ではないが、満室である事を表す看板みたいな物がドアに吊るされているのだ。
「どうしよう、進めないし野宿は嫌」
「お前、物とか盗まれんなよ」
「大丈夫よ、ちゃんと……アレ?武器が無い!薬品もない!素材と本しか残ってない」
「何!?財布は無事か!」
「あぁ、それは私が持ってるから」
言わんこっちゃない事件が発生である。
見事に戦闘に関する類が盗まれているのはお国柄か。
馬車じゃなくて、荷車だから仕切りもないし仕方ないか。
「取り敢えず、休める場所に行きましょう。今後の事も考えて」
「うーい」
ノロノロ進んで、俺が広場のような場所に出るのは入国してから体感で数時間の頃だった。
「ハァ……どうしよう。まずは調合する施設とか必要だし、でも店とか出すほどはお金はない」
「就職活動か」
まさか夢と希望のファンタジー世界で就職活動するとは思わなかった。
まぁ、世界は違えど同じ事で悩むのだろう。
「もう荷車とか素材とか全部売ってしまおう。動くに動けないし」
「本はダメだぞ、太陽の周りを回ってるって言った人が死ぬくらい言論の自由が無いんだからな。お前の本なんか批判しかしないからな」
「馬鹿でも分かるように各国の問題点書いただけじゃない、脳筋の国ですって教えてあげてるのよ」
でもそれもそうね、とその場で自身の本だけ燃やす。
行き交う人がギョッとしてるのは高級品である本を燃やしているからだろう。
そりゃ、目の前で宝石とか砕いてるみたいなもんだから見るか。
「よし、叩き売りよ!」
そうして適正価格も分からない俺達は元手はゼロの為に何となくで売りさばいた。
全部無くなる頃には夜となっていた。
「流石、脳筋の国。本が一番売れないってどういうことよ」
「貴族らしい人が本のコレクターで良かったな」
「他国の本は珍しいから、すぐ売れると思ったんだけどな」
身軽になった俺達はそのまま王都を歩いて行く。
夜になると昨日の喧騒が嘘のように酒場以外静かだ。
「今夜は朝まで酒場で飲むしかない」
「まぁ、泊まる場所が無いからな」
「朝になったら片っ端から住み込みで働けるか聞きまわりましょう」
酒場に行くと、そこには野郎と娼婦が多かった。
娼婦はもう半裸だから一目で分かる。野郎の方は、恰好は違えど共通して武器を携帯している事から冒険者だろう。
「マスター、これで強い酒とご飯を買えるだけ」
「ほぉ、金貨かい。喰いきれるのか?」
「大丈夫、食べきれなかったらこの子が食べるから」
チラっと歴戦の兵士の様な厳ついマスターが俺を見る。
よく話し掛けたな。あっ、こいつカウンターしか見てないな。
「使い魔ってことは流れの貴族か。金貨を使うのはいいが絡まれるなよ」
「ありがとう、でも……」
「ん?」
「なな、にゃんでもにゃいです!」
顔を見た瞬間、震えながらカウンターに顔を隠した。
今更、気付いたのかよ。プルプルしててちょっと面白い。
料理はすぐに出来上がった。野菜なんて少しの肉料理。味付けはすごく濃い。
「何か喉が渇くわね」
「酒、飲まずにはいられない!」
「冒険者向けの味付けなのかしらね」
ルージュは少し食べただけで、全て俺に回ってきた。
どっちかというと種類の豊富な酒の方がお好みらしい。
飲まして貰ったが、ウォッカみたいな強い酒だった。お前、良く飲めるね。
それより肉である、俺は火力発電所!うおぉぉぉぉ!
「おいしいの?」
「ジャンクフードみたいで最高」
「薄味の方が好きかな?お国柄かしらね」
ふーんと言いながら、また新しい酒を開けている。というか、横に山積みの酒はルージュさんが飲んだのでしょうか?
もしかして、再生能力があるとアルコールの分解も早いのかな?なんか、前世でそんなのをドラマで見たことあるぞ。
「アンタ、それ以上は」
「だ、大丈夫ですので気にしないで下さい」
「いや、その量はヤバいだろ」
酒場の人にストップ掛けられるレベルってどんだけだよ、蟒蛇かよ。
今度は店の酒、全種類飲んでみるとか言い出して視線が集まってくる。
まぁ、スゴイ飲んでるからね。金払いもいいしね。
「おい、あの量」
「間違いない凄腕の冒険者だ」
「そっちかよ、よく酔わないなって話だよ!」
「あぁん!?よく払えるなって話だろうが、この野郎!」
後ろで聞こえた会話がいきなり喧嘩に発展してしまった。
しかも、慣れてるのか皆さんテーブルを動かして避難しつつ金とか賭けだす始末。
日常茶飯事なんですね。
「剣闘士がいるの、良いサービスね」
「お前、実は酔ってるだろ!」
「ぽかぽかするけど、意識はあるから大丈夫」
「強い酒、何十本も開けてほろ酔い!?」
結構余裕のルージュさんである。
ただ、最悪なのは警戒心が酔ってるからか無くなってローブを脱いでしまったことだ。
やめて、熱いからってそれ以上は脱がないで!脱いだら下着しか残らないよ!
「アンタ、すっごいな」
「何がかしら?」
「エルフか何かか?いや、耳は普通だな。俺が会った美人の中でも上の方だぞ」
「そう、ありがとう!じゃあ、記念にかんぱーい」
おい、お前人見知りはどうした!スゲーな酒の力って!
さっきまでビクビクしてた相手にコンパみたいなノリで絡めるのな!
まぁ、脱いでしまったら捕食するために異性を魅了する吸血鬼だ。
酔ったノリでスケベなオッサンが絡んでくるのも当然だった。
「おい、姉ちゃん可愛いな。なぁ、幾らだ?」
「娼婦じゃないわ、失せなさい」
棍棒装備の太った冒険者のオッサン。
ルージュは喧嘩を見るのが忙しくて、一瞥もせずに断る。
まぁ、そのナンパはどうなんだろ。
「あぁ、テメェ女の癖に舐めてんのか!黙ってりゃいい気に――」
オッサンがルージュの腕を取って引っ張った、しかし吸血鬼の筋力でビクともしない。
鬱陶しかったのか、ルージュがグラスの横にある飲み掛けの酒瓶を取った。
一杯奢って、丸く収めんのかな?あれ、何で振り上げてんのぉぉぉ!
「――なるんじゃ!?」
「失せろって言ってんだよ、ブッ殺すぞ!」
思いっきり酒瓶でぶん殴ってオッサンがぶっ倒れた。砕けたガラスが刺さって血が額から溢れだしてる。そんなヤバい状況なのに笑顔である。
「オサァァァァン!?」
「うわ、弱すぎ!そんなんであの態度?舐めてるのそっちでしょ、ださーい」
「やめて!煽らないで!そんな子じゃなかったでしょ!」
「あぁ、何見てんだよ!早く続けろよ、文句でもあんのかよ?」
完全にヤンキーだった。うん、まぁ今までゴロツキと関わってたしね。
流石に喧嘩してた奴が引くほどのはヤバいと思うけど仕方ないね。
うん、だからもう飲むのはやめよう。飲んだらもっとヤバくなるからぁぁぁ!
翌朝、俺が飲み過ぎ禁止と言うのは必然だった。
「うっ……頭が痛い、もしかしたら死ぬかもしれない。吐き気もする」
「多分、二日酔いですね」




