ベッドから始まる攻防戦
地下に行くと、何名かがルージュの姿を見て挨拶をしに来る。
ここでは紅の帝国の幹部である領主の女という立場だからだ。顔繋ぎの意味合いも大きい。
因みに、この店では呪術を刻んで能力を強化できる為に入れ墨を様な物を入れている者がたくさんいる。
一番すごい奴は、どこのエジプトの神官だよと言わんばかりに顔までぎっしり呪術を刻んでいる。
「色んな奴に挨拶されるんだな、まさか愛人だったなんて……」
「お食事するだけの仲ですのよ」
嘘は言って無い、定期的な犯罪者の吸血であるからだ。
バーで酒を飲みながら雑談する、途中さり気無く肩に手を乗せようとしたが叩かれて阻止されていた。
そんなナオキはきまりが悪そうに話題を変える。
「そういえば、あっちの部屋って?」
「あちらは奴隷や娼婦のエリアです。ご興味がありまして?」
「あぁ!やっぱ奴隷ってのを使ってみたいからな!」
「まぁ、意外ですわ」
まったくである。農奴で猛反発していた頃と大違いで、思わずと言った形で驚きを隠せない。
「それで物は相談なんだけど、もう一個下の部屋にも奴隷っている?」
「えっ、違法奴隷の事ですか?」
「そうそう、犯罪者とかしか自由に出来ないじゃん。権利の保障とかしてない自由に出来るのが欲しいんだよね」
まさかの発言に、ルージュの顔が引き吊る。
本当は、このまま疲れちゃったーからのベットインのつもりだったんだが寄り道したいと言ってきたからだ。
しかしウチはクリーンな奴隷売買しかしないので、一般人を無理矢理など違法な奴隷は扱ってない。
いたとしても、騒ぎを起こしたりしたルール違反者ぐらいだ。
「仕方ないのかしら、では行きますか」
そう言って、メアリは立ち上がる。
なぜ隠し部屋の中で違法な物を扱っていないのかと言うと、この部屋を囮にした構造だからだ。
隠していた部屋に国が踏み込んでも他国では禁止されている合法な物しかないエリアで誤魔化すのである。
そして、マジでヤバい物は地下で扱うのだ。
その行き方はバーテンダーの立っている場所に魔力を流す事。
呪術が反応してロックが外れる扉を開け、地下に行く事が出来る。
呪術の応用性が凄すぎて、作った小国は本当にヤバいと思う。本来は、金庫に複数組み込む奴らしいからね。
地下に降りると、扉が二つある。
左と右にドアがある部屋でどちらに行くか選択する。
因みに右は薬品や素材系の部屋で管理が難しい場所だ。
そこでダメになった奴は、俺達でも喰わないので森の魔物達の餌となる。
さて、お目当ての左の部屋へと入って行く。
すると、そこには大量の檻と奴隷商人がいた。
因みに、檻の中を見てナオキはギョッとした。何故なら、檻の中には色々な種類の魔物がいたからだ。
「これはこれはルージュ様。此方に来るとは想定外でした」
「ちょっと予定とは違うけど、人間の方を見して欲しいの」
「畏まりました」
お互いにしか分からない会話であるが、ナオキはそんな事より魔物の方を見ていた。
なんで、魔物がいるのか気になるのだろう。
「なぁ、これって」
「ごめんなさい、私の口からは言えませんわ」
「では、ルージュ様に変わって説明させていただきましょう。此方におります魔物は特殊な性癖のお客様用に調教された物でございまして、コボルトやハーピーが売れ筋ですね。ご興味がおありで?」
「すごいんだな、いや本当に」
異世界人の業の深さを垣間見た瞬間である。でも、人魚とかラミアとか売れるんだから仕方ない。
ケモナーのリピーターもいるしな。流石に、ゴブリンとオークが売れるのは理解できないけど。
「人間は此方ですね、全て犯罪者なので使い潰しは出来ますが手違いなどがあります場合もございますのでご内密にお願いします。ご購入の際にはギアスを用いさせていただきますので双方のどちらからも情報は洩れません。あと、他のお客様もおりますが知り合いであってもお声は掛けない様にお願いします」
「あの、私疲れましたし休みたいのでナオキ様の目当ての物でも早く見つけましょう」
さり気無く催促しているのだが、ナオキは奴隷をガン見である。
まぁ、みんな全裸だしな。因みに、檻の方にはどんな犯罪をしたか書いてある。
「此方の物は安い方ですね。店先で何人か斬り裂いただけですから、まぁうまく行けば無罪に出来るので値段は危険度を踏まえて低く設定されてます」
「ねぇ!私を買って!私は、王都の貴族なの!絶対後悔させないから、お願い!」
「あと、元貴族ですので処女ですね。此方にはコネクションがありますから、他の貴族とのトラブルは極力は抑えられておりますので安心してお買い上げを」
ナオキの前にいる奴隷は、クリーム色の金髪をした女の子だ。
気に入らないと言う理由で街の人を部下を使って殺傷しようとしたので逮捕である。
王都では平気でも、この街ではコネも賄賂も使えず敢え無く奴隷行きとなった。
怪我人にも見舞金を渡す都合上、見逃すなんてありえなかった。
まぁ、賄賂を貰いまくった挙句に檻へぶち込むのだからルージュさんマジ厳しいっす。
因みに部下の方は戦闘力を買われてすぐに売れた。冒険者が多いのでソロプレイヤーの方が喜んで買っていた。
「すっごい高いのに、低めなんすか?」
「死刑確定クラスではないので、それにあまり器量も良くなく性格も悪いですから。ですが、三食の食事付きに毎日お風呂にも入れております。健康診断もしており、ウチ以外でこの品質は中々お目に掛かれません!」
「いや、初めてだから分からないです」
「一般市場では野ざらしで糞尿まみれですかね、犯罪者は使い潰せても危険で買い手が付きませんから。健康状態も気にしないで見た目だけ綺麗にした権利保障のある奴隷よりも高待遇ですので、普通じゃありえませんね」
売り物を綺麗にするのは当たり前だが、売れない物まで綺麗にしているのがウチの奴隷である。
奴隷を目の辺りにして、急に沈んで最後くらい幸せにしてあげようと思ったルージュの気まぐれの賜物である。
「今の俺じゃ、買えないな」
「どうしました、私の方を何度も見て?」
「いや、何でもないです」
物欲しそうにナオキが檻とルージュを交互に見ていたが、ウチの守銭奴は奢ったりしません。
必要でないと、俺の食事までケチるんだからな。やべ、顔に出てたのか睨んできた。
「もう気が済みまして?私、ナオキ様の為に部屋を取っておりますの」
「えっ?」
「お恥ずかしい話、特殊な部屋でして……その、感覚を鋭敏にする魔法関連の物が書いてある部屋です。あの、挨拶に来た方にいた能力を高めるような奴です」
「何だ、お姉さん結構肉食系なんだね。俺の事、特別扱いしてると思ってたけど俺に惚れちゃった?深追いすると火傷するよ」
「……いっ、言わせないで、くっ、くださいまし……」
ルージュが恥ずかしそうに顔を背ける。少しだけ方が震えていて、笑うのを堪えているのが分かる。
特にドヤ顔が本当にヤバい、言葉の端々で笑いそうになっていたのでよく耐えたと思う。
そして、地下一階へと戻り高級娼婦のグーラー達がいる部屋を通り過ぎて目的の部屋までやってきた。
因みに、廊下を通る際にソワソワして赤面しながらモジモジ助けを求めるように俺を見てきたが、喘ぎ声くらい慣れろよとしか思わなかった。
石造りの部屋に、ぎっしりと何かが染み込んでいて不気味な部屋。
そこには簡素なベットとお湯の入った桶がある。
一応、魔力で付く点灯もある部屋だ。
「ハァハァ、緊張でちょっと過呼吸になってきましたわ!って、何!?……うぇ?」
「なぁ、良いだろ?あれ、もしかして本当に領主とは食事だけなのかな?」
「ちょ、待って!待て待て待てーい!?マジで近いから、服着たままなの!?」
まさかの緊急事態、ワーキングである。
入った瞬間、後ろからベットに押し倒されてしまったのだ。
既に顔はすぐ近くの距離であり、ベットに仰向けなルージュと上から乗っかるナオキの構図である。
「ちょっと、予定と違う!ヤンヤン、ヘルプヘルプ!ぼさっとしてないで、助けてよ!」
いや、お前の力なら押し返せるだろう。しかし、プロレスのタッチみたいに手を伸ばしてベットをバンバン叩いて催促するので相当テンパっているのだ。任せなさいよ、とう!
「う、うわ!ちょ、引っ張んなクソ犬が!」
「やっちゃえ、ヤンヤン!」
ナオキの服に噛み付き、一生懸命引っ張る。
まぁ、この部屋に入った時点で肌がどこかに触れれば俺達の勝ちだ。
っていうか、いい加減にしろよって言いながら力が強くなってきたんだけど!あっ、やばい!?
「うおッ!?」
「ハァハァ、梃子摺らせやがって!」
俺の身体が壁まで吹っ飛ぶ。クソ、靴なんか室内で履いてんじゃねぇよ!
っていうか、ルージュさんガクガクしてないで戦って!
「行ける行ける行ける!よし、うりゃぁぁぁ!」
ベットの上で、深呼吸してからルージュが跳んだ。
飛び膝蹴りをナオキの後頭部に喰らわせ、床に向かって叩き付ける。
「待っていた、待っていたぞ!この時をなぁぁぁ!」
「ぐッ、痛いだろうが!」
「うッ!?」
そのまま殴り掛かるルージュの拳が、反転するように動いたナオキによって避けられる。
クルリと動いた顔の横に突き刺さるルージュの拳。瞬間、反撃したナオキの蹴りを腹に喰らってルージュが後ろの壁まで吹き飛んだ。
「クソが、人間の力かよ!」
「蹴りやがったな!子供が産めなくなったらどうするんだ、クソ野郎!」
「それが本性がクソアマが!」
殴り掛かるナオキ、それに構えるルージュ。
しかし、本命は飛び掛かった俺だった。
ナオキの背後から俺の牙が首に触れる。鋼鉄の様な強化された肉体には牙が突き刺さらない。
しかし、怯んだナオキをタックルでルージュが倒した事により剥き出しの腕が数秒だけ壁に触れた。
勝った、俺達の勝利だナオキ!
呆気なく、首が粉砕されて血を撒き散らしながら倒れて行くナオキ。
首は床に落ち、自身の身体を見つめている。俺達はどうにかナオキを殺害した。
「やったの?」
「これで生き返ったら、化け物だ」
俺達は自分達は安堵のまま崩れ落ちる。
目の前には無傷で倒れるナオキの死体、勝ったのである。
……無傷?
「えっ?」
「どうなってる……」
言い知れない、戦慄。
理解不能の事態である。馬鹿な、何が起きて……
「ダメじゃない、殺しちゃ」
「誰ッ!?」
その声は、ドアの方から聞こえた。
其処には人がいた。ニッコリと昔のままの笑顔を向ける――
「な、なんで……どうして……」
「久しぶりねメアリ、今はルージュかな?」
「セン……パイ……」
――ペトロがいた。
固まる俺達の前を悠然と、当たり前の事をするように歩きナオキの元へと行く。
俺達は意外な人物に、何が起きてるのか何を言えばいいのか分からなかった。
結果、先に口を開いたのはペトロだった。
「あらあら、分からないって顔ね。そうよね、私にとって昔の事でも貴方にとっては最近の事ですもんね」
「何を……言って……」
「貴方の知る私と、今の私は違うのよ。私は無属性魔法で何度も世界をやり直してるから」
「どういうことだ、いやまさかタイムリープ!?」
「ヤンヤン、貴方の言う通りよ……私は世界で唯一の否定する者。世界の記録も運命も概念だって無に還す。私はナオキが召喚された瞬間から記憶を受け継いだ」
ペトロは楽しそうに笑いながら言う、その目は開きっぱなしで瞳孔が開いていた。
これは、明らかに異常である。その目に見られているだけで俺達は動く事が出来ない。
「ナオキが死んだらアイツらが来てしまう、だからこの部屋のナオキに関する過程だけ消したの。それに死んだらナオキがやりたいこと、支えてあげれないじゃない。例え魔王を倒す事が間違いでも、ナオキが絶望しても、それは仕方ない事よ。それでね、ナオキが諦めるまで戦うの。いつも最後は勝てないけど、一緒に消えてしまえば召喚の時からやり直せる。何度も何度も過程は違えど一緒に死ぬの。いつも一緒にいようって言ったのはナオキだからね。私達は永遠に一緒なの、私はナオキの為に生きてナオキは私の為に生きてるんだから。何度もナオキを殺してあげたし、何度も蘇生させてあげた。今回のナオキは乱暴だけど、私は幸せよ。だって、ナオキが私に何かするって事は私を求めてくれるからでしょ?」
もう、何を言っているのか分からなかった。
「でも、睡眠薬なんて仕込んでどうして?ねぇ、ねぇねぇねぇ!どうしてって聞いてるの!警備まで使って!薬漬けにした時もあったよね!奴隷にも!食べたり、眷族にしたり!どうして私からナオキを奪うの!ナオキが望むなら寝るのだって構わない、でもねダメよ!ダメダメダメ!私からナオキを取るのはダメ!私の物よ!勝手に殺さないで!どうして私から引き離すの!ねぇ、聞いてるの?」
「……先輩、私は――」
「もういいよ、お前ら死ね」
俺達の目の前に白い球体が浮かんでいた。
その魔法が俺達にぶつか――
「さぁ、帰ろうナオキ……ずっと一緒よ」




