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悪い女には気を付けろ

作戦を開始する。

そう、宣言したのは俺の主人であるルージュだ。

粗野な恰好の冒険者や小奇麗な服を来た無法者、華美な装飾の貴族やメイド服と執事服を来たアンデット達。

カジノには様々な人間がいた。

カジノでは入場料と手数料が掛かる。掛け金は自身の手持ちで、入る時とゲームの審判代で利益を出してる感じだ。

因みに、酔っ払いは禁止してないが入っては来ない。


ルージュの恰好は野暮ったいローブから、白いドレスに変わっていた。

長い靴下とグローブを着けている。肌の露出が顔以外ないのは肌を見せるのが恥ずかしいと言う文化だからだ。

裸足なんて貧乏人か冒険者くらいで、貴族的にはアウトである。

さて元貴族と言う事で気品もあり、財力を現すように白い物に身を包み、何人かの御付の者を連れた彼女をまわりはどう見るか。

答えは、三丁目のルージュちゃんだ。いや、近所の人からしたらね。


知らない奴が見れば、ひっそりと構えている店の店長だとは思わない。

まぁ、胸に付いた赤い月のアクセサリーを見ただけで絡む奴はいないけどな。

恐らくどっかの貴族令嬢に見えるだろう、肌とかインドアではないと出せない驚きの白さだからな。

それに、手先も畑仕事したことないような形をしているし。

因みに俺はその横を歩いてる、椅子に座ったら膝に乗って撫でられる仕事です。


さて、今日はナオキが来るまで宣伝の如く、接待プレイする日である。

麻雀卓のある席は店側の奴が三人座っている、自信のある奴だけ来いという高レート卓だ。


そうして始まると、仕草などで種類を周りに伝えて負けない様にルージュが打つ。

勝てる訳がないと思っている客やルージュがいつも勝つのを知っている客などが野次馬の如く集まってくる。

そして、連続和了。つまり、連勝である。


一枚の金貨から始まったそれは、山のように帰って来た。

うまく行けば一攫千金と思わせる演出だ。そう、絶対攻略できない沼みたいなギャンブルに傾倒させる罠だ。

その他にもバレないように荒稼ぎしていく。流石に偶には負けるが、対人戦のあるゲームは運が絡まなければ大体勝ちだ。


「ねぇ、こんなんでいいの?」


小声で、御付の者にルージュが聞いた。

メイド服を着た者が口元を隠しながら答える、人によっては口の動きで内容を知れる奴がいるからだ。


「現在、過剰供給によって街に冒険者の仕事はあまりないです。殆ど、常時募集依頼の仕事か土木工事のみ。しかし、ナオキが安い金で働く訳ないのでヒモとして女から巻き上げてる、というヤンヤン様の予想です」

「いくらなんでも、そこまで屑じゃないわよ」

「いえ、冒険者の女から巻き上げてるの確認しました。まぁ、泣きついてきたので風俗の仕事を斡旋しましたけど」

「屑だった……そして、身体売ってまで貢ぐ馬鹿な奴がいた……」


闇金真っ青の話である。

まるでホストにハマった奴の末路みたいである。

因みにその後、ポロッと零れた会話からホストとキャバクラを知ったルージュが新しく街で水商売を始めたのは余談である。




さて、連日カジノで稼いで昼は店の中で仕事しているとお目当ての奴がやってきた。

奴は、胡散臭そうに中の物を物色して奥を進んでいく。そう、勘違い野郎のナオキである。


「すいません、ここって何の店ですか?」

「ここは手紙の代筆から魔術関連の本まで取り扱う雑貨店です」

「あ、その声ってさ。もしかして、ギャンブラーのお姉さん?俺ってば会いに来たんだぜ」


声で判断したのかいきなり態度が変わったと思ったら、気安くルージュのローブを取った。

まさかの行動にルージュは硬直である。あっ、泣きそうだ。


「な、ななな……」

「可愛い顔なのに勿体無いな、ねぇ今から遊ばない?」

「きさ、おま、この、クソ!」


言葉も出ないのか、プルプルしている。

時間帯が時間帯なら首から上が灰になってる所だったし、男に触られるのはあんまり好きじゃないからだ。

自分からいくときは平気だけど、されると恥ずかしいもんなお前。


「照れてんの?可愛いな」

「ちょ、触るなし!」


そしてまさかの怒っている相手に、頭を撫でるという所業。

それでポッとなるのは、ただしイケメンに限るんだからな。お前の顔でやっても落ちないんだよ。

あぁ……影の中から視線を感じる。耐えるんだお前ら。


「また来るよ、お姉さん。カジノで夜にでも会おうぜ」

「誰が――」


俺は慌てて念話を掛ける。


『おい、そこは乗っておけ!上手くいくから!』

『クソ、殺してやる。クソ、屈辱……』


「カ、カジノで会いましょう。オホホホ」


良く頑張りました。脱力するルージュの背中をポンポンしながら慰めるのだった。




夜、カジノの御付の者がルージュを褒め称える。

因みに街の人が御付の者を不審に思わないのは、度々領主の館に行くルージュを領主の愛人だと思ってるからだ。


「良くやりましたルージュ様、ちょっと影の中で怪我人が出ましたが問題ありません」

「頭触られた、もうお嫁にいけない」

「そんな事はありません、行けなければ私が貰いますから!」

「えっ?」

「えっ?」

「か、考えとく」


色々とツッコミたいが、まぁそっとしておこう。

さて、今日はカジノの中では遊ばない。接触を待っているからである。何人か話し掛けようとして、御付の者と紅の帝国の象徴を見てはガッカリしながら去っていく。

暇である、思わず遠くの場所から来た貴族の女の子に可愛いって撫でられてサービスしてやるくらい暇である。


「失せろ、発情犬」

「ちょ、デレデレしてないよ!」

「お前、自分の尻尾見てから言えよ」


ぐへへ、身体は正直なんだな。

そんな体験を自分がするとは思わなかった。

ええい、静まれ我が尻尾。


俺が冷たい視線に晒されると、やっとナオキが来た。

ペトロを連れて、何人か冒険者の女を侍らせている。

なんで、モテるんだ。俺なんか犬になるまでモテ期なかったのに。


「よぉ、待った」

「…………」

「な、なんだよ」


あぁん、舐めてんのかワレ!御付の眷族達がガン飛ばしながらナオキを囲む。

チート持ってるのにビクッってしちゃうのは、元が一般人だからだろう。

っていうか君達、敵意持ちすぎだろ。


「お待ちしておりましたわ」


少し上擦った声でルージュが言った。

あっ、これは勝てないとでも思ったのかペトロ以外去っていく。


「お、おう。おい、待ち合わせしてたんだよ」

「……チッ、おいボディチェックしろ」

「おい、触んなよ。何も持ってねぇよ」

「武器の類をカジノの方に保管するだけです。それとも、ルージュ様に危害を加える気ですか?」


えぇ、どうなんだお前と再び睨みつけられる。ナオキは渋々だがナイフや剣などを手渡した。

実際、セキュリティー的に入場時に預けるのに隠し持ってるとは予想通りの行動である。

この時点で本来なら事情聴取だが、今回はお咎めなしだ。


「なぁ、いつも思うんだがこの人達って何なんだ?」


ルージュは困った様に優しく微笑む、女性が嫌う顔だ。あっ、コイツ計算してると見る人が見れば分かる顔である。この時の為に鏡の前で練習したのは秘密だ。


「今日は二人で遊びたいの、外してくださる?」

「しかし、ルージュ様!」

「そうね。お詫びとしてお連れの方に食事でも案内して、それでえっと……」


ここで名前を聞いていないことにルージュは気付いた。

しかし、貴族は知らない事が恥な社会。ちっぽけなプライドがルージュを困らせる。

目で、察しろとナオキを見るくらいだ。


「あ、あぁ……俺はナオキ。俺の事知らないの?」

「存じ上げてませんでしたわ」

「ペトロは一人で大丈夫だよな?案内してやってくれ」


分かったと即答するペトロ。これで、ペトロの隔離に成功である。彼女には睡眠薬入りの食事を食べる貰うことだろう。

さて、二人きりになるナオキ。すっごく俺を見て来るが首を傾げて馬鹿なフリをする。

コイツ、勘づいたのか?


「ナ、ナオキ様!ここは騒がしいし場所を変えましょ!」

「なぁ、この犬って……」

「ただの雑種犬ですわ!えぇ、使い魔ですの!」


ルージュのフォロー虚しく、突っ掛ってくるナオキ。俺達のピンチである。

しかし、ナオキは首を傾げながら。


「ここって、ペット可なんだ」


なんか見当違いな納得をしてくれた。ふぅ……ヒヤヒヤさせやがって。


「さぁ、こっちですわよ」

「おい、こっちはトイレじゃんか。そんな所で――」


トイレ前の入り口、そこに立っている男にルージュがよろしくと一言だけ言う。

すると、その男は横にずれてどうぞと言った。

ナオキはチップを貰う従業員だと思っているので不思議そうである。


「これから行く場所は大物だけしかいません。顔に泥を塗る様な騒ぎは起こさないで下さい。私のメンツもありますので信じてますよ」

「あの、どういう事なんですか?しかも、そこ壁ですし」


流石に何かおかしいと思ったのだろう、態度が変わるナオキにルージュは論より証拠と壁まで引っ張る。

すると、壁の中にルージュが消えた。


「えっ!?」

「さぁ、行きますわよ」


引っ張られて自分が幻の壁を見ていた事に気付く。

何を隠そう、そこはカジノの地下に行く秘密の隠し部屋なのだ。


「なんだよここ、スゲー」

「喜んで貰えました?」


地下へ行く階段を下りて最初に見えたのはストリップショーである。

その周りにはソファーがあり、男達が座っている。

右を見ればそちらはバーになっており、酒瓶の横に薬品関係の物が置いてあった。

左の方には扉があるが、そこは奴隷の売買と高級娼婦のいる場所だ。


「なぁ、これってヤバいんじゃないのか?」

「この国では合法ですよ。もっとも違法な物が見たいなら、下の部屋まで行かないといけませんけど」

「アンタ、極道か何かの人かよ……」


今更、何言ってるのとルージュは笑った。

思いの外、面白い顔をしていたのでストレス発散にでもなったんだろ。

目的の部屋まで、もう少しだった。



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