精霊に会いました
再び俺は学園へとやってきた。前回は属性を調べるときだけだったので、余り見る時間が無かったが実は見たいものがあった。そう、本である。勉強嫌いのメアリの横で文字を覚える勉強を一年もした俺は文字が読めるのだ。英語に近い体系だったのも習得できた理由かもしれない、少なくとも日本語よりは簡単だ。
この世界の生物には魔力がある、ということは俺にもある。つまり、魔法を使えるかもしれないのだ。浪漫である。
前世でステルス系のゲームをしていた俺は難なく潜入出来るはずだ。コードネームは蜥蜴とでも言おうか。
まぁ、授業中なのか誰もいないしな。
「HQ、HQ!こちら蜥蜴、応答せよ。どうした?侵入者だ、応援を頼む。それは出来ない現状の戦力で対処しろ……暇だ」
そのせいで独り言が盛り上がってしまうのも仕方ない。そして入り口が見えてきた。
「衛兵が二人か、他愛なし」
こういう状況では物音で相手の気を逸らすのが常識だ。まず、口で手ごろな石を集めてだな。
「ひふふぉ!ふぉあ!」
口に含み一気に飛ばす。するとどうだろうか、小石は放物線を描きながら壁にぶつかって行く。
「ん?何か物音が……ちょっと見てくる」
「おう、一応仕事だし見てこい」
な、なんだと!?一人しか行かないだとぉぉぉ!このままでは華麗に侵入できないではないか。
ならば、馬車か何かに紛れ込んで……
結局夕方まで、俺は草陰で待機しているのだった。
その後、迎えに来たと言ってメアリに抱っこされて帰った。一日で機嫌が直るとは子供はちょろいぜ。
次の日、俺はメアリに連れられて学園に潜入した。フッ、最初から保護者同伴ならばどうという事は無いのだ。
「じゃあ、知能はそこそこあるね」
「そうだよ、会話してんだろ」
「では、この首輪をするから無くさないようにな。これは関係者みたいな証明だから」
「おう」
見事衛兵から使い魔用の関係者証明を貰い、学園へと放される。
本来人型や知能のある魔物用の装備らしく、馬鹿っぽい見た目の俺に疑いの視線を衛兵が込めていたが俺が論破したらすぐに渡してきた。伊達にネットの海で戦っていた俺ではないのだ。衛兵ごとき口から出任せでなんとかなる。
「アンタ、最後ウザかったわ。最悪よ、とても恥ずかしいわ」
「まぁいいだろ、俺は図書室にいるからな」
「迎えに行くまで変なことしないでよ」
まったく、年端もいかない少女を心配させるとは俺も罪な男だぜ。
「安心しな、ハニー」
「……蜥蜴風情が気持ち悪い」
その目は何でか冷たかった。な、泣いてなんかいねぇよ!ちょっと、目にゴミが入っただけだい。
俺が辿り付いた場所は巨大な図書館のような物だった。タダの図書館ではない、魔法図書館だ。
周囲をグルリと本が囲む、その高さが天井まであると思われる本棚が壁に沿って配置されているのだ。
地震が来たら雪崩が出来そうな量である。それを勝手に移動する本達、本自身が宙に浮き整理整頓されているのだ。
アニメや漫画でしか見たことない光景だ。魔法があるから重力や耐久性を気にしなくても良いのかもしれない。だとしても異常な光景で、圧巻だ。なのに、
「誰もいねぇぇぇぇ!モンスターと戦う司書とかいろいろな本持ってる女の子もいない!」
無人なのである。そう忘れていたのだ、この国の貴族共は勉強嫌いであると……
「まぁいいか、静かなことはいいことだ」
「私もそう思う」
「だよな、ん?」
あれ?声が聞こえて……
誰かいるのかと振り向くと誰もいない。何故だ……怖いと言うより不思議だぞ。
「ここ、ここだよ。見えんだろ」
「いや何処だよ?ゴーストか、幽霊なのか?ファンタジーだな、おい」
「ふぁんたじー?私は精霊だ、この場の本を管理するために契約した精霊だ」
精霊、実にファンタジーな響きである。もし精霊がいるなら、前世で俺は見てみたいと思っていた。だって、精霊ってとびきり可愛い女の子と相場が決まっているから!
「な、なぁ……じゃあ、見えるように出来ないのか?」
「何だ、貴様は精霊を見る事が出来ぬのか。なら竜魔法も使えぬか、ガキか」
「竜魔法!?なんかカッコいいなそれ!てか俺は生まれてまだ2、3年だ」
俺が会話した相手はそれを聞いて大層驚いたような声を漏らした。聞けば、ここまで知能が高いのに生後数年なのは珍しいとのことだ。
「本来、目当ての本などを教えるのが私の役目だ。一応、貴様も用があって来たのだろう」
「魔法だ、魔法関係の本を読みたいのだ。つか、姿見せてよ」
「えー、無理だろ。魔力少ないから絶対無理。私が見えんとか話にならん」
「おま、最強のドラゴンだぞ。何時か見えるようになるし、食べてれば魔力増えるだろ」
そうなのである。足りない部分があれば、補えるものを見つけて食べればいいのだ。何故なら俺は能力チートのキメラドラゴン、本来ないほどの知能を持っているのだからうまく立ち回って最強のドラゴンになるのだ。そして、可愛い女の子とイチャイチャするのだ。
「最強のドラゴンか、色つきか?それとも宝石竜か?貴様、種族はなんだ」
「キメラドラゴンだ!」
「これはこれは可笑しなことを言う。キメラドラゴンとは、で本当は?」
「だから、キメラドラゴンだっての!」
俺が怒鳴ると大爆笑しだす、自称本の精霊。まったく失礼な奴だ。
「キメラドラゴンなど、最弱竜ではないか。奴らは契約で言語を刷り込んでも、飯と眠いと交尾しか言わぬわ」
「おぉ……予想以上に俺の同族のダメさ」
「まぁ、先祖帰りか突然変異という奴じゃろ。どっかの人間がそんな研究をしていた」
曰く、この世界には原種というものがおり派生しているのではないかという理論があるそうだ。
何故なら全ての生物には、少なからず似たような形質や特徴があるからだ。
キメラドラゴンは環境によって姿形を変えるので、ドラゴンの原種である可能性が高いそうだ。
昔からいる竜。つまり生きた化石シーラカンスみたいなものか。
なお、人間も自然から生まれたとする理論なので教会から禁書指定されてるらしい。
教会の権威とかだろう、さすが宗教だ進化論は認めないのな。
「ドラゴンには色々な種類がいるが、そのどれにでもなれるのがキメラドラゴンだ。一昔前に宝石を食わせて人工的に宝石竜を作った奴もいた」
「おお、身体が宝石とかヤバい」
「結局食わせた量のほうが多くて採算合わなくなったがな。殺しても大した量にはならんかったそうだ」
「おぉ……ブラックすぎてヤバい。しかしお前は何でも知ってるな」
「本に載っているなら私に知らんことは無いからな。そんな事より迎えの様だぞ」
いつの間にか井戸端会議していた俺は、もうそんな時間なのかとため息を吐いた。
もう少し話していたいのだが、飼い主が来てしまうのだ。
しかし、ゲームの設定とかアニメの話みたいで面白くて昼になったとは気付かなかった。
「おーい、いたいた。お昼に行くよヤンヤン」
「おーメアリ、昼は宝石か?」
「はぁ?何言ってんの、あ……でも王族が金を薄くして食べたりするらしいわね。まぁ、家みたいな貧乏貴族は無理よ」
そう言ってメアリは何故か俺の後ろを見てから、恭しく一礼した。
お前、見えるのか精霊が!
「気付くのに遅れてすいません精霊様、ご迷惑をお掛けしました」
「よい、テスト前しか誰も来ないので暇なのだ」
「そうですか、では失礼します」
そう言って俺を抱えるメアリ。さらば精霊、また今度遊びに来るぜ。
こうして、精霊との初めての邂逅は終わったのだった。
「そういえば精霊見えるのな、やっぱり可愛いか?」
「え?ヨボヨボの爺さんって可愛いかしら……」
「爺なのかよ!騙された、畜生!」