この先、アイテムあり
森、そこはイグニスとウェントス王国の間にあるモンスター達の住処。
虫系のモンスターが多く、未開の地だけあって様々な薬草が生い茂る。
もう何度目になるのか、俺はその場所へ仕事に来ていた。
「ふむふむ、こっちの方から匂いがするな」
大体、強い薬効のある薬草は匂いが強くすぐに見つけられる。
俺は匂いを頼りに森を闊歩していた。人間であったなら見つけにくい薬草も俺なら朝飯前である。
森の中を進んでいくと、間引きを担当しているアンデット達に会う。
と言っても、グールに噛まれた原産のモンスター達で見た目が黒くて目が紅いぐらいしか違いはない。
色違いの強いモンスターという認識だ。
この森にはたくさんのモンスターがいる。その幾つかはアンデットモンスターとなっているのだが、知っている者はいない。神官なんぞ、この森にはやってこないからな。
一つ目の薬草を見つけて、俺は首に掛けてある袋に入れる。すると、その時俺は気配的な物を感じた。
忍び寄る音に甘い匂い、奴らの存在を感じた。
「キシャァァァ!」
そいつらは、巨木のような体を持っておりファンタジーな小説で良く見る存在だった。
巨大昆虫、絶望の群れ、巨大蟻の大群だ。
前世でやってたゲームで出て来そうなモンスターだ。
名前をジャイアントアント、そのまんまな名前だが蟻だと思ってはいけない。
本来、デカイ動物は外骨格が発達しないと存在できない。自分が自重で潰れるからだ。
しかし、魔法の力だか何だか知らんがこの世界の昆虫はデカイ。
物理的にあり得ない構造でも、魔法で補強出来ちゃうから存在出来てしまう。
結果、巨大昆虫が存在してしまうのだ。
まずは恐ろしい顎、これは木製の盾なんかじゃ防げない強さだ。
鎧でも凹ませる程度には強い。
次に、フェロモン。死んだ瞬間に甘い強烈な匂いを発する、逃げて水で洗わないとどこまでも追ってくる。
最後にボディー、鉄の様な硬さを誇る。
そんな奴らが、数百匹群れで行動している。何で餓死しないのか不思議な奴らだ。
目の前に黒い川のように向かってくる蟻の大群を見つけた。
戦うか?冗談ではない、前世では人間を食べる蟻もいたんだ。この世界の蟻はジャイアント、つまり巨人すら食べる恐ろしい奴らだ。駆逐されちゃう。
「うわー!」
声が聞こえた。男だ、男の声がした。
見れば、黒い川の先に人がいた。大方、冒険者か何かだろう。
「アレか、アレが原因か」
不用意に手を出してしまったのが運の尽き、奴らの群れに襲われたら逃げるのは厳しい。
しかし、運がいいのか悪いのか。蟻たちの進軍が急に止まった。
「何だ!?ハハハ、どういうことだか分かんないけど助かった!うわっ!?」
男が逃げるように進んだ先、そこは地面であった。
しかし、その地面に見えていたのは幻だ。
魔法の力か何かで限りなく見えなくなっているが、茶色い霧が蠢いているのが観察すると分かる。
それは、あるモンスターの巣である。
ジャイアントアントジゴク。
ジャイアントアントの天敵、要はでっかいアリジゴクだ。
体液でツルツルの窪地を作り上げ、そこに霧を吐きだす。
霧は魔法の力か何かで地面と違和感無い様に変色する。
入ったら最後、滑り落ちて捕食される。因みに、体液が補強材として高値で取引されている。
「嫌だ、助けてくれ!」
蟻たちが察して立ち止まったのに、進んだ冒険者の悲鳴が聞こえた。
しかし、この森で音を出す事は危険である。その証拠に、地面を揺らしながらアイツがやってきた。
それはこの世界では珍しい竜、翼も手足も無い盲目の竜。
俺の同類である彼らを人はこう呼ぶ、ワーム。
蟻たちが四方八方に逃げ出した。しかし、ソイツは既にいた。黒い川の中央から垂直に伸びた緑の塔。
塔に見えたそれは曲がりながら再び黒い川に沈んでいく。
地面に出ては沈み、その過程で蟻達を飲み込んでいく。
そして――
「うわぁぁぁぁぁ!」
叫ぶ冒険者とアリジゴクを、ソイツはそのまま飲み込んで地面の中へと戻って行った。
ふぅ……まったく危険な森だ。奴らは音を頼りに攻撃するのでこれから五分ほど動いてはいけない。
思わぬタイムロスだった。
森に来ていつも思う事は、昆虫系のモンスターは食べれないということだ。
流石に倒せそうだが、骨が折れるだろう。だから、俺が森に来て食べる生物は大抵決まっている。
次の薬草を手に入れた時に俺はソイツらを見つけて攻撃した。
「喰らえ、ファイアー!」
火の玉が虚空から現れて飛んで行く、その先には俺が食べれるモンスター。
ソイツらの名前はフングス、人の身体に寄生するキノコのモンスターだ。
見た目は様々だが、頭部はキノコであるのが特徴だ。キノコから噴射されるガス状の麻痺毒で麻痺させて胞子を寄生させる。寄生体が腐れば根を足のようにして移動し、得物を探す。
視線の先にいたのは数体の歩くキノコと蟻の身体を持つキノコであった。
因みに冬虫夏草という漢方のように、貴重な薬草でもある。
攻撃される前に放たれた炎は奴らを包んだ。燃えてしまったキノコは既に危険ではない。
ジューシーなキノコとコリコリした蟻の身体は実に美味だった。装甲は固くても内側は柔らかいのだ。
腹を満たした俺は再び森を行く。
危険ではあるが貴重な素材、それを手に入れる冒険者はハイリスクハイリターンながら高給取りだ。
また一人、森の中で冒険者の死体を見つけた。それは口から尻まで一直線に木へと突き刺さっていた。
これはハーピーの奴らが生きている間に串刺しにしているのだ。奴らのテリトリーが近いようだ。迂回して行こう。
薬草の一つを手に入れるために、二足歩行のネコを問答無用で噛み殺す。
ケットシーと呼ばれる、妖精の一種らしい。妖精とか、俺の周囲で挑発してくるフェアリーと同じでウザいから嫌いだ。多分、ルージュに言ったら怒られるか捕獲しに来そうなので秘密である。
目的地は、他の木と違って花を常に咲かせている巨木だ。
「おーい、木の実をくれよ。養分あげるから」
「また来たのかよ……」
巨木から嫌そうな声が聞こえるが、上から金に輝くリンゴのような木の実が落ちる。
諸説はあれど、含まれる魔力が輝いている原因が有力だ。
その名も、ドライアドの実である。
俺は見たことないが、ドライアドは確かにいる。イケメンなら見れるらしい。
養分になる餌をあげると木の実をくれる、姉ちゃんだ。
ただ、イケメンに弱くてイケメンにはタダであげるらしい。所詮は顔か。
一度、グールを連れてきたが贋作と罵って来たので、良し悪しが分かる面食いだ。
因みに、冒険者が偶に警告を無視して交渉もせずに木の実を取ったり寄生木に攻撃すると、寄生木で共生関係にある巨大な蜂を嗾けて来るので注意である。
最後は湖にある苔を取りに行った。
生態系を支える湖は、色々なモンスターと遭遇しやすい。
奥地と違って、コボルトとか小さくて弱いモンスターが住処にしている。
中でもコボルトの亜種なのか、ハリネズミの様な奴らは手強い。
触れる事すら叶わず、遠距離から硬化した毛を飛ばしてくる地味にウザいモンスターだ。
俺は、針コボルトと呼んでいる。
「痛ッ!?」
「チュチュウ!チュウ!」
自然界では先に攻撃すると怯えて逃げて行くために、獰猛な物も多い。
奴らは非情に好戦的で、小さな体で素早く死角に回り込み近距離ではタックル。遠距離では針攻撃をしてくる。しかも、大体いつも三体で行動する冒険者顔負けのチームプレイをするモンスターだ。
そんなゲームの廃人プレイヤーみたいな奴らが戦いを挑んできた。
一匹が木を盾にして遠距離からチマチマ攻撃し、一匹は近距離で俺を引き止める、そして最後の一匹は
遊撃として俺の動きに合わせて背後から確実に逃げれるときだけ攻撃してくる。
非情にやりづらい。魔法は木を使って避けられるし、近接攻撃すればステップの後に隙を衝かれる。
遊撃の奴は安全地帯から攻撃してくるし、倒しにくい。
一度ガチでやったが一日半も戦闘になった奴らだ、今は逃げる事にしよう。
近接担当の針コボルトを毒で殺した所で、丸呑みして撤退する。
奴らは賢い、拮抗した相手が逃げる時は追撃しないのだ。プロである。
きっと彼らに知性が宿り、人間社会に進出したら凄腕の狩人になるだろう。
森を抜けようとして一番やっかいなパターンに遭遇した。
それは人間の冒険者達だ。所詮、俺もモンスターだ。飼い主不在だと襲われたりする。
今回のが一番厄介だ、それは魔法使いのいるパーティーだからだ。
跡継ぎになれなかった貴族だろう、遠距離から攻撃出来る奴のいるパーティーは毒で全滅しにくいから厄介だ。
「新種か?ギルドに研究用として売れるかもしれない」
「グルルルルル!」
「コボルト系か、よし先制攻撃してみよう」
俺の威嚇で帰ればいいのに、戦闘を選んできた。
敵は三人、全身ローブにメイス装備、タワーシールドと槍、ナイフと剣の編成だ。
作戦的には魔法使いが詠唱してから、残りの戦士二人で防御と攻撃を行うのだろう。
詠唱時間が長い分、強いのが来る。俺は真っ先に魔法使いの方へと走り出した。
「コイツ、頭が良いぞ!」
「グルァァァ!」
重装備兵が守るように立ちはだかる。タワーシールドで守りつつ槍で突く気だ。
一度走るのを止めて、威嚇しながら回り込む。重装備兵は動きが遅いからだ。
「しまった!?」
「背中は任せろ!」
側面が見えた時、軽装備の剣士が俺の前に現れる。その間、重装備兵が盾を此方に向けたので回り込みは失敗である。
だが、目的は確固撃破である。素早さが売りの軽戦士など、噛み付けない針コボルトに比べたら防御力は無いに等しい。
「ガウッ!」
「グッ、がぁぁぁ……」
俺の牙が肩を掠る。その瞬間、毒が体を駆け巡り軽戦士は倒れた。
動揺する重装備兵の横を通り抜け、腰を抜かした魔法使いに魔法を喰らわせた。
水の魔法が魔法使いの顔を覆ったのだ。俺がコントロールしている間に奴は溺死する。
トドメと言わんばかりに、俺を狙った槍が魔法使いを貫いた。
俺はその槍を飛び乗って、鎧の頭部に噛み付いた。
流石に噛み砕く事は出来ない、だが凹ませる事と毒の息を喰らわせる事には成功しパーティーを全滅させることに成功した。
「悲しいけどこれ、戦闘なのよね」
開拓村ではなくウェントス王国から来た自分たちの運を呪ってくれ。
俺は今度こそ村へと帰っていくのだった。
この森に来るようになって、俺は自身が一応は進化している事を感じていた。
昆虫系が多いせいか、身体能力が上がっているのだ。
蟻は自身よりも数倍の物を持ち上げると言う、アレは体重比のトリックで人間サイズなら力も同じと聞いたことはあるのだが、この世界の蟻は力持ちだ。故に、怪力になっている。今では尻尾を巻き付ければ木を粉砕できるし、腕で引き裂くことだって容易く出来る。
ワームのおかげで目を瞑っても行動できる、超音波的な物でも出ているのか何か周囲を気配察知で把握できるのだ。
ハーピーのような鋭い鉤爪も獲得し、ケットシーを食べたからか収納が可能な猫のような手になっている。
身体を覆う毛は飛ばす事は出来ないが、魔力を循環させるだけで硬化してハリセンボンのように刺々しくなる。
それなりに強くはなっているのだった。
「ただいま、あとコレ」
「あら、お金が入ってる。冒険者にあったのね、でかしたわ!」
「一応遺品なんですが」
「汚い金も綺麗な金も、大事な収入よ!」
我が主人は冒険者達の死を悼むことなく喜んだ。
哀れだから俺ぐらいは祈ってやろう。
「南~無~」
「臨時収入だから外食にするわよ!」
「よっしゃ、外食だ!」
数秒後には忘れちまったが仕方ないよね。
今日も人の不幸で飯が美味い。




