開拓村の決闘騒ぎ
半年が経った。村の場所となる土地は広く整地されて更地が広がる状態になっていた。
見渡す限りの、圧倒的平地。皆の努力の賜物である。
さて、そこで問題が発生した。そう、それはどんな村にしていくかという問題だ。
農作物として麦を育てて治めるのは当然として、副業と言うか特産による貨幣の収入が必要となる。
鉱山近くであれば武器などの加工品、森の近くであれば林業と言った感じか。
俺達の開拓村は、まず土地が豊かであり農作物の収穫が高そうである。
次に鉱物などだが、此方は取れなさそうなので特産には出来ない。
近くの森は広大で魔物が多くいる、このことから冒険者向けの街作りも良いかもしれない。
林業を行うと言うのも話に上がっていた。
まぁ、そう言った意見の交換が広場となる場所で繰り広げられていた。
これからの生活の基盤となるのだからみんな真剣だ、形式としては意見交換の後に多数決と言う所か。
俺の目の前で、元メアリことルージュはご意見番的な立ち位置で話し合いに参加していた。
「では、これからの町造りについてだが倉庫が必要だ。倉庫が無いと備蓄が出来ない、戦争があった時の徴収や増税の対策であったり、飢饉の為に準備が必要だ」
「どのくらい作るんじゃ」
「そこは、ルージュさんの魔法次第だ!」
男達の意見をまとめている男代表が女性代表のルージュに意見を聞いてくる。
ルージュの魔法の多様性は村でも周知の事実なので、なんとか出来るでしょと言った感じだ。
「保存に適した魔法はあります」
「おぉ、やっぱり。どのくらいの期間で保存できます?」
「石造りでしたら氷室に近い物を作れます、期間の方は分からないです」
「氷室かぁ~」
そんな物が作れるなんてスゴイ、と村の中の評価が少し上がる。
どことなく恥ずかしそうだなと、フードを深く被って顔を隠そうとしているルージュを見て俺は思った。
氷室を地下室のような形で作る方針で話が進んでいき、今度は宿泊施設などの話になった。
「冒険者達を客層とした宿泊施設を作ろうと思う。これで森からの魔物対策と貨幣収入が解決する」
「私は反対だ、治安が悪くなって食糧不足になったりする。女性としての意見を聞きたい、どう思います?」
「えっ、えっと……」
生きた知恵袋、開拓民の中で一番の年寄である爺さんから男達の意見は却下された。
爺さんの経験から冒険者は治安を悪くして食糧不足の原因になるということがあったようだった。
男性代表と爺さんの意見が分かれたので、関係ないと聞いていなかったルージュに話が回ってきたのだ。
「治安でしたっけ?」
「そうです」
「ギルドがあると向上するのですが、お金が掛かります。こういう場合は自警団を作ると良いんですが冒険者よりも多くて強くないといけないです。私としては働き手を魔物の駆除で失う危険性よりは話し合いで解決しやすい人間同士の揉め事の方がいいと思います」
「よし、では酒場と賭博施設に風俗だ。それと宿泊施設は決定だな」
「それが目的でしたか、賭博施設と風俗はダメです。賭博はいらない諍いの原因になりますし、風俗は知られてませんがあるだけで疫病の発生率を上げるのです」
冒険者向けの施設で自分達の欲望を叶えようとした男達が封殺された瞬間だった。
こういう時に領主だった経験が生かされる。
この世界の風俗は、娼婦と避妊しないでヤるので衛生が悪く孤児の原因にもなっている。
「じゃあ、酒場と宿泊施設だけということで」
「はい!」
「まだあるんですか?まさか、酒場もダメ!」
「いえ、そうでなくて。私は住居の区画整理と居住区の設定を提案します」
その言葉に、どういうことだと開拓民たちが首を傾げる。
まぁ、この知識は少し時代の先を行っているのだから理解できないだろう。
「今までは騒音や火災などの対策で民家は離れていました、区画整理では最初の段階で道に沿った形で民家を作ります」
「だが、騒音や火災をどうするんじゃ?それに、後からでもダメなのか?」
「そこも呪術でカバーできます。ある程度発展すると利権の問題が発生するので区画整理は最初の段階でしたいです。利点として商人の交通などが多くなります」
「居住区の設定と言うのは何です?」
「そちらは、役割ごとに場所を区別しようと言う事です。木こりの方は森の近く、森の近くですから宿泊施設も周辺に、農家の方や雑貨店の人は村の中央に、その他の方が入り口と言った形です。ある程度纏まっていると売り上げなどが増えます」
力仕事をしている者の近くで冒険者達を牽制し、魔物が来たとしても最前線で対応しやすい。
商人は買い付けの際に他の物も見つけやすくなり、買い付けに向かない店などは入り口近くに置く。
問題点は作ってみないと分からないが、今の段階では領主だった経験から良い所をたくさんあげている。
少しずつだが、全体像が出来上がってきた。
と言う事で、村造りを始める事となった。
最初の土台作りなどだがルージュが魔法でカバーする事で作業効率が上がった。
土木関係ならば俺の出番と言う事で、建物の形など口出しするようにした。
勿論、知らない造りなどで揉める事になるが窓口はルージュなので俺は文句を言われない。
ただし、その日の夕食が貧相になったりと地味にお仕置きされるけどな。
家や店が出来たらルージュの仕事だ。呪術を書き込み補強や騒音などの住居問題を対策していく。
ただ永続的に発動する事は出来ないので、魔物の核である魔石を使う仕様だ。
魔石を扱うビジネスの開拓が急遽必要になった。最悪、冒険者から買い取りではなく俺が獲りに行けば済む話だ。
ルージュとして、村での役割はどうするかという事で店を開く事になった。
一番の物知りで、魔法も達者で、病弱と思われているからだ。
手紙の代筆、魔法の伝授、知識の売買、薬品の製作、そう言った今までの経験を雑多に生かせる店を作ることにしたのだ。
これならば、すべて室内での作業なので村の外からの収入と日光対策となる。
自分で素材を集めて調合とか、ゲームみたいだなと思う今日この頃である。
ルージュの店は、少し張り切ってくれたのか結構大きめに作って貰えた。
俺の犬小屋まで作って貰ったが、夢のマイホームなのに何か釈然としない。
俺はドラゴンなのに犬扱いとか屈辱である。巣作りは自分でするのに。
取り敢えずルージュのアトリエという店名は絶対だ、しっくりくるからな。
そして、開拓がはじまり当初無理だと思われた俺達の村が完成した。
出来るまでに約一年も掛かったのだった。
開拓村が出来て数か月、この頃になると結婚ブームがやってきた。
冒険者がぼちぼち来るようになり、引退と同時に住み着く奴が多くなったからだ。
まぁ、一緒に作業しているうちにというような感じで結婚する輩もいるけどな。
そんな風になると……
「ルージュちゃん、お野菜持ってきたわよ」
「いつも、すみません」
「そういえば、ルージュちゃんはいつ結婚するんだい?」
「け、結婚はちょっと」
近所のおばちゃん達に結婚しないのか追及されたりする。
まぁ、娯楽が少ないと言う事なので噂話が大好きだからなおばちゃん達。
更に時間が経過して、冒険者たちがそれなりに来るようになると俺は懐かしい人物を目撃する。
それは、俺達の領地にいた孤児だ。思わず店からルージュが声を掛けるほどの衝撃だった。
聞けば領主が変わってから、皆が冒険者になったらしい。オリジナルの魔法などを使う者達が一気に出たからギルドの方では期待の新人とのことだ。
迷宮攻略など、貴族でない魔法使いと言う事で期待されておりギルドの方に平民でも魔法が使える方法をルイスの名前で教えたらしい。
今は無名でも、いつか世界的大発見をした人と言う事で処刑した国の奴らへの復讐とのことだ。
壮大な計画である。
しかし、ダンジョンがあるとは知らなかった。何時か行ってみたいものだ。
「お姉さんは、何だかどこかで会った気分です」
「あら、ナンパかしら?」
「あの飼い犬、名前が知り合いと同じ何でそんな気がしたんです」
そう、とルージュは少し悲しげに返事をした。
苦労などしたと思って悲しいのか、自分の事を言えなくて悲しいのか、それは俺には分からないが気にしている事だけは分かった。
ふん、冒険者何てハイリスクハイリターンな職業に着きやがって。
「わふ!」
「お~なんだお前、遊んで欲しいのか」
まぁがんばれよ、と俺は軽く足を叩いて激励してやるのだった。
そして更に数か月、今度は役人と領主がやってきた。
誰が管理するか揉めたのか遅い到着である。
急遽、領主の屋敷を建てる事になりルージュに大仕事が舞い込んできた。
それは呪術を用いた屋敷の設備などである。
設計の段階で何が出来るなどの意見を言う仕事だ。
その過程で、専門の魔法使いたちがちょっと魔法見せてみろよと喧嘩を吹っ掛けて来たこともあった。
田舎の異国民が生意気だと言う感じか。
ツンツンしてるが、実はナイーブなのを俺は知っている。
家に帰って泣きだした時は、あの野郎共と思ったほどだ。
だから、いけなかった。
「いっぱつ、ギャフンと言わせよう」
作戦は簡単だ、俺がションベンを掛けて逃亡すると言う物だ。
結果、やっぱりと言うか決闘になった。
「何て事を……」
もう戦うしかない状況に追い込まれて、顔面蒼白なルージュだが俺は知っている。
知らない魔法を買い取って習得し、新たに魔法を開発したり、違う体系の魔法を研究した努力を知っている。
神聖魔法とか言うのを使って火傷になったり、精霊魔法とか言うのを使って爆発騒ぎなどを起こしていたが、それでもそれなりに成長しているのだ。
「時に怒りの矛となり、時に慈しみの盾となる火よ!」
魔法使いが詠唱を開始する、イグニス帝国の宮廷なんたらだか知らんが見た感じ戦い慣れしてないんだよ!
「もう!やってやるわよ、ファイアーボム!」
ルージュの手から魔法陣の様な炎が放たれる。呪術と火魔法を合体させた、相手に触れた瞬間爆発する魔法である。
その速さは軍人に守られて詠唱する魔法使いと違って、速攻で沈める実戦的な魔法だ。
それなりの魔法使いだ、防ぐ事は出来てもダメージは負うだろう。
「チッ、ファイアーウォール!」
「あっ」
しかし、防御に使われた魔法にぶつかったそれは予想外の大きさになり急激に輝き出す。
「ヤバい、障壁を張るんだ!?」
「ちょ、私もヤバい!」
急激に輝きだして、周囲の魔法使いを慌てさせる。
明らかに爆発の兆しである。
呪術のエネルギー源である魔力が過剰供給されたのだろう、魔物は魔法使わないからな。
「なっ!?もっと防御を!」
「おい、やめろ馬鹿!」
更に供給されてしまい、輝きと大きさを増すルージュの魔法。
パネェ、防御不可能技とかマジパナいっす。
そして、障壁の内部が小規模の爆発で閃光と衝撃で包まれる。
「やってしまった」
クレーターの出来た障壁内部で煤だらけのルージュは呆然と爆発四散した魔法使いを見ながら呟いた。
何かウチの主人が予想以上に強くてゴメン、まさかションベンでこんな風になるとは思ってなかったんだよ。
俺は過去の自分を恨みながら、頭を抱えるのだった。




