表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/182

開拓民で新しい自分

ガタゴトと、馬車が街道を進む。その中には多くの人々が押し詰められるように乗っていた。

明日食う物も困る人間や、小作人の次男など住んでいる場所を出て行かざるをえない人間達だ。

彼等は都市部に来たはいいが冒険者になることもなく、仕事の無い者達だった。

その馬車の中に、綺麗な女がいる。女はフード着きのローブを着ており、周囲に比べると良質な生地を使っていた。偶に覗かせる顔は美しく、何名か声を掛ける者もいるようだった。また、男に声を掛けられて慣れてないのか戸惑う様など初々しく、それも彼女に興味を持たせる要因だった。


「お嬢さん、どこ出身なんだい」

「今は亡き小国です、今までは流民でしたの」

「そうか、俺は貴族の三男でさ。良い生地を使ってるから、仲間かと思ったんだ」


そうですか、とクスクス笑う女に何名かが見蕩れた。

その後、男達は我先にと話し掛けるのだった。

そんな様子が、ある開拓民の馬車では行われていた。


開拓民の馬車は森の前で停車する。その数は四台、一台にだいたい五十名ほど乗れる大きさなので凡そ二百人の開拓民が其処にいた。先行していた護衛の騎士、彼らは暫く留まり指示を出す者達だ。

彼等の役目として、モンスターつまり魔物の退治があげられる。


「全員降りろ、速くするんだ」


森の前で集まる開拓民、殆どの者がローブを着ていた。最初の内は野宿が当たり前な為にローブ姿の者は多い。もしローブ姿でない者は金が無い奴だけだ。


「降りたな、説明するぞ。これから貴様らにはイグニス王国の領地の開拓をしてもらう。まずは森の開墾からだ、ある程度軌道に乗ってからは領主が来るので税はそれまで免除するとのお達しだ。しかし、居住食は自分達で調達してくれ」


税のない事に驚く開拓民達、しかし彼らからは不満の声が上がる。

何故ならば、税がない事を理由に食事の保証がされないからである。

恐らくそれは、国の実験だろう。頭の良い者ならば、食料の補給なしで開拓できるか試していると気付く。

実際、掛かるのは輸送費だけであり国から浮浪者を一掃できるのだ。

うまく行けば労働力、失敗すれば処分。掛かる費用は輸送費だけだ。


「なお、不満を持つ者や逃亡者は斬首する許可が下りている。それでは、文句のある奴はいるか?」


開拓民の何名かが思った、ハメられたと。

こうして、開拓民たちの生活が始まりを告げた。




開拓民としての生活が始まりメアリは名前を捨てた、赤い瞳からルージュと名乗る事にした。

ルージュという名前にしたのもメアリと言う人物を抹消するためだ、メアリのままでは見つかる可能性があったからだ。まぁ、見た目は完全に違うが、ヤンヤンでバレるかもしれないので変えた。

しかし、見た目が変わるのはヤンヤンも同じなので幾らナオキでも追っては来ないだろう。


開拓民の仕事は多く、森の開墾、畑の作成、家の作成、土地の整地、柵の設置などがある。

しかし、殆どが力仕事であり女性は主に水汲みや食べ物の準備だ。中には身体を売って、騎士から食料を貰う女もいる。実の所、食料が支給されないと言う事なので殆どが男達の食料となるのだ。


開拓村での私の立ち位置は、小国の流民で魔法使いと言う事になっている。

小国は生まれては戦争で滅び、そこら辺にあるので別に流民も珍しくはない。

力ある集団が集まれば無法者が国を作るなんて良くある話だからだ。

魔法が使えると言う事で、火を着けたり、整地を手伝ったり、伐採の協力をしたり、水を作り出したり、自分が器用貧乏で良かったと思えるぐらい重宝されていた。


最初は見た目が怪しく、敬遠されていたが今ではルージュさんと慕われている。

平和である、素晴らしい平民ライフ。

ヤンヤンは野良犬を飼いならしたと言う事で、魔物狩りに興じている。

テイマーだと言ったらスゴイで済んでしまうのだから、馬鹿な平民は扱いやすい。

騎士は警戒していたが、言う事を聞くので信じていた。


「ルージュさん、これ」

「こっちは薬草、これは食べれる、そのキノコは毒よ」


私は今、食料探しの手伝いをしていた。

私の知識で判断する事で食料の幅が広がっているのは確かであった。

これは長いサバイバル生活と貴族の知識に感謝である。

森の方では、最近魔物が見られなくなったのも理由の一つだろう。

実は、夜に部下たちを出しているのが原因だ。


私の新たな目標、それは太陽を克服する事。

ヤンヤンの話では特殊な仮面と宝石がひつようだったりするが、他にも吸血鬼としての力を強めて光に対する耐性と再生能力を強化したり、人狼に噛まれて半分吸血鬼じゃなくしたりする方法を考えた。

一番現実的な考えとして自身の強化、そのために部下たちを森に放った。


しかし、最近困っている事もある。騎士たちの横暴だ。

騎士と言うのは貴族の末席の様な地位だ。

つまり、一時的に住み着く権利を放棄した開拓民は平民以下であり、けっこうなんでも許される。

結果、騎士どもが私のローブを取りに来たりする。顔が見たいと言う理由らしいが、朝と昼はやめていただきたい。焼け爛れてしまう。

所詮男は顔か、と開拓民になってから何度も感じた。

しかし、女性の嫉妬とか男同士の争いのタネとか口説かれたりと美人にも苦労する事があったのだ。

夜になって酌を強制してくるときなど軽く殺意が湧く、身体に触られるという屈辱である。

貴族であった時には考えられないが、平穏の為に我慢しないといけないのだ。


「眉間に皺が寄ってるぞ」

「……もふもふ」

「俺の名前はもふもふではない、そして抱きしめるんじゃない」

「寒いから仕方ない」


夜になると、私達は交代で火の番をしてその周囲で寝る。

美人故に色々優遇されるが、だからと言って寝てる間に体に障られるのは不快だ。

そんな時は使い魔を抱きしめる事で、暖を取り、男達を威嚇し、そして癒されるのだ。

まさに、一石三鳥の方法だ。


「やれやれ、俺が犬の姿じゃなくなったらどうするんだ」

「進化するなんてとんでもない」

「お前、本当に犬が好きなんだな……」


ずっとこのままならいいのにと、思いながら私は眠りに落ちるのだった。




メアリに抱かれた俺は暑苦しさに腕から逃れる、今はメアリでなくルージュと名乗っていて姿形は変わってはいるが中身は子供のままである。

見た目は綺麗な金髪に病的な白さ、赤い瞳と透き通った顔立ち結構な美人さんだ。ハリウッドに居そうである。

しかし、やはり中身は寂しがり屋の子供だ。今は女子高生程度だろうか、そのぐらいの年なのに感覚としては中学生を見ている気分だ。

昔はブスだから嫁の貰い手がなんて言っていたが、娘の成長を見るみたいで感慨深いものだ。


「くぁ~」


ルージュの横で丸まり周囲を警戒する、夜這いの習慣でもあるのか偶に下半身丸出しで野外プレイなんぞしようとする酔っ払いがいるからだ。娘はやらんぞ、と威嚇するのが俺の仕事だ。

しかし、女性の場合はスルーだ。偶にルージュの胸を触って、自分の胸を触って落胆して帰っていくのが面白いからだ。やはりそういうの気にする物なんだろう。優しい目でそっとしておくことも大事だ。

吸血鬼化するとバストのサイズは自在なのだから、オススメの豊胸方法だ。


さて、最近俺には楽しみがある。

それは夜になると俺の所にやってくる貴族の三男坊だ。

最初にルージュに話し掛けた男である。


「おっす、今日もご苦労様です」

「わん」


本当は喋れるが、雑種犬の振りをするのも俺の仕事だ。

コイツはいつも、賄賂を持ってくる。ビールとかワインとか、干し肉からハムまで要領が良いのか色々な物だ。

餌付けされているわけではないが、せっかくなので貰うのが礼儀と言う物なので食べている。

その間、寝顔を見るだけなら許してやるのだ。


「今日は、ハムっすよ。騎士の野郎共が町で買ったばっかりの奴っす」

「わふぅ~」


肉球で地面を叩く、速く置き給え君のサインである。

再度言うが別に楽しみだったから待ちきれない訳ではない。


「更に、ビールも手に入れたっすよ。お皿に入れてきたので飲めます」

「く~く~」


芳しい香りが俺の鼻をくすぐる。

思わず鳴いてしまうほどだ。


「食べてる間は静かにするっすよ」

「く~く~」


しかし、この男念を押すように皿を置いたりあげたりとフェイントしてくる。

寝顔を見せてやるんだ、さっさと寄越せ。


「約束っすよ、絶対ですよ」

「…………」

「お座り、待てっすよ」

「良いから早くしろよ、ブチ殺すぞ?」

「えっ?」

「わおん?」

「気のせいっすか、じゃあ食べていいすよ」


思わず本音が漏れてしまったが、まぁ大丈夫だよね。

俺はビールとボンレスハムのようなデカイ肉塊を味合うのだった。

たまには野性味が無い物もおいしいな。


夜が少しずつ朝に浸食され、明るくなってくると俺の仕事がやってくる。

昔から寝相の悪い主人を起こす仕事だ。

起き上がり、テクテクと近付いて前足で顔を叩く。


「う~ん」

「早く起きないと、顔ベタベタにするぞ」

「や~」


嫌じゃありません、起きないと顔が爛れるんだからな。

しかしこの主人中々起きない。開拓民生活になってから、ほのぼのしすぎだろ。

盗賊時代の気配で飛び起きた、殺し屋みたいなお前はどこ行った。

何度も叩くが、肉球に叩かれる度に口元が緩んでいてやる気が損なわれる。


「本当は起きてるんじゃないのかお前?これがいいんか、肉球が良いんか?」

「もう、構って欲しいの……」

「抱きつくんじゃない、いつもツンツンしてるのに寝起きだけデレるんじゃないよ!そう言うのダメ、俺的にポイント高いんだから!」

「嬉しい癖に……うりうり~」


俺に頬ずりしながら、ルージュは起き上がる。

まぁ、抱っこされてるけど形はどうあれミッションコンプリートである。


「はよ……ヤンヤン」

「いいから顔洗って来い」

「うん……」


でも、こういう平凡で平和な日常も嫌いじゃない。

いつまでも続けばいいなとは思うくらいにな。


「なんか、お酒臭い?」

「し、知らん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ