拡大と引越し
廃坑の中枢、そこにメアリはいた。
当初、追手を警戒していたメアリだが最近ではそういった心配はしなくなっていた。
盗賊業も順調に進み、メアリの考えとしては周辺の魔物を自分たちの安全の為に狩った事が追手が来ない理由ではと思っている。
金さえ払えば魔物に襲われないのだ、治安維持の役割もしている盗賊団を排除しようとは思わないだろう。
潤沢な資金により装備はその辺の騎士と同程度にはなった。
盗賊団の強さは偶にやってくる冒険者などは太刀打ち出来ない規模になっている。
生活の改善は、それなりの忠誠を捧げるレベルにはなっていた。
上手く行きすぎて、盗賊の才能があるのではと思うくらいだ。
まぁ、ネタを明かせば学の無い農民崩れが盗賊の定石通りの行動をした結果だが勝手に慕ってくるなら利用しない手はない。
使い魔である、ヤンヤンにも変化はあった。
山を住処とするモンスターが主食になっていたことから体の形が変わっていた。
山を動き回る為にすごく小さくなっていた。牛や馬と同じくらいの小ささで、狼のようなモンスターの影響なのか四足歩行の移動が速くなり、姿も鱗に覆われた狼のようであった。
また、使わなくなったせいか翼は無くなっており本人は不満そうである。
今では、私の周囲に侍らしており移動に利用している。
「姉御、領主の野郎が上納金を寄越せと言ってきました」
「だからその呼び方、やめなさい!」
「しかし、ドラゴンの旦那が……」
またお前か!と私と使い魔が喧嘩する様を見て、酒盛りしていた奴らから笑い声が聞こえた。
今では定期的な収入から生活は豊かな物となっており、不満の解消の為に酒ぐらいは許している為だ。
だから廃坑内には何人かの盗賊が、護衛兼飲み会を行っていた。
「はぁ……遂に来たか。トラブルを起こしたくない私の足元見てるんだろうな」
「額が額な物で、その場では判断できませんでして……」
「問題ない、それでいいわ。しかし、持ち帰るってことは相当な額か。あの爺、殺してやりたいわね」
憎々しげに、昔の嫌がらせの数々を思い出しながらこの付近の領主だろう爺を思い出す。
金を払わない商人や旅人を処分する代わりに拷問した結果、この場所が隣の領地の街道付近である事が分かっていた。
私の領地は国に没収されて、隣の爺の管轄になった。
当然の結果と言うか、ルイスは私のせいで処刑されたそうだ。
しかし、私が国を転覆させようとしたと言うのだからナオキの奴はどんだけ思い込みが激しいのか。
国の方も裏取りしたんだろうか、クソッタレな世の中である。
で、指名手配犯である私は近くにいるであろうナオキを警戒していたのだがアイツは早々と帰ったらしい。大方、魔王の元に的な浅い考えなんだと思う。
しかし、そう思わない奴もいるのだ。それが、今回の上納金を納めろと言う爺だ。
「やっぱり何か言ってた?」
「姉御の正体を知っていると、もしかして姉御ってどっかの国のお姫様とかですか?」
その顔でお姫様って、と不愉快な酔っ払いの笑い声が聞こえて来たのでヤンヤンを向かわせる。
噛まれたら、毒で即死なので大慌てで外に向かって行った。いい気味である。
「ウザいなー、もう殺すか……」
「えっ、流石に無理ですよ」
「屋敷で毒の息を使えば、全員お陀仏よ」
「姉御は効きませんけど、俺達が死にますって」
必死に止めようとする部下だが、私としてはすごく殺したかった。
違法な身分として戸籍を買うために金が必要だったからだ。
通行するだけならば戸籍はいらないのだが、住みつくためには戸籍が必要であり教会が管理していたりするので偽装するのには費用が掛かる。結果、購入する額も高額なのだ。
何故、教会が管理しているのかと言うと出生と死亡の際に関わるからだ。
聞いた話では、村人全員が表には出れない者達の村があり教会や領主を騙している所まであるそうだ。
当然、子供戸籍は珍しいので高い。普通は大人ぐらいしか利用しないからだ。
「殺して、逃亡するとか。でも、アンタ達が付いて来られないか」
「馬があれば、乗れる者は限られますが荷物ぐらいは運べます」
「逃亡だけなら、ただ次はどこを根城にするか」
恐らく、この周辺の貴族。つまり私が借金していた奴らは借金を踏み倒されて盗賊を討伐なんかするほど金が余っていないだろう。
私になってから金を渋ってきて焦っている爺が良い証拠である。
ならば、他の盗賊とぶつかるが場所を変えるのが良いだろう。
「ねぇ、この辺りに盗賊はいる?」
「他の盗賊団ですか?しかし、縄張りがありますし」
「知らないわ。武器も経験もこっちが上。どうせ農民崩れでしょ?」
「傭兵だったり、盗賊騎士の可能性もあります。無理ですよ!」
「大丈夫よ、でも上手く事を運びたいわね。ちょっと、宝石でも積んで合併の話を持ちこむか」
内容的には、魔物が繁殖してきたから場所を移したい。でも争いたくないから傘下になる、金は払うから部下にしてくれ。
と言った所が妥当か、戦力と金が手に入るし馬鹿なら乗ってくれるはず。
警戒されたら、覚えておくか。そう言う輩は骨が折れそうだ。
「領主の方は金の用意をすると言っておきなさい」
「領主の方ですか?本気で合併を?」
「盗賊団の方にも話を通しておいて、あと酒も買ってきてね。高い瓶の奴」
「へい、分かりました……」
「そんな顔しないでいいわ、悪いようにはしないから」
そして、盗賊団の方へと話が持ち込まれるのだった。
交渉に乗った幾つかの盗賊団の方に話を持ちこみ、比較的の弱く近い者を選んだ。
数日の移動ながら、盗賊団の移動はスムーズに行えた。
道中は、ヤンヤンが狩りをしていたからだ。
武装としてはバラバラではあるが、質はそれなりの物で冒険者の集団に見えなくもない。
防具のスキルがどうの、ヤンヤンがブツブツ言っていたが戦うのに問題はない。
移動先にいる盗賊団は初期の彼らのようで、粗末で農民が武装しているようであった。
懐かしい物を見るような目を向ける私の盗賊団は、彼らには聞いてたのと違う強そうな盗賊団に見えたようで驚愕する者が多くいた。
「この度は話を受けてくれて感謝する」
「お、おう。しかし、聞いていたのと話が違うんじゃ」
「話していた通り、規模は五十には満たない、そこそこの武装だぞ?」
「そこそこにしては良い物ばかりだ、乗っ取る気じゃないだろうな?」
「そう警戒されても仕方ない、そうだ一緒に飲もうと思って酒を買ってきたんだ。そちらのまとめ役との顔合わせもかねて飲もうではないか」
そう言ってメアリは酒の入った瓶を持ち出す。陶器製の瓶ビールは、それなりの値段であり彼らにとっては高級品だろうと言う魂胆からだ。
「毒を警戒されるだろうから、私が最初に飲もう。どうか受けて欲しい」
「まぁ、そこまで言うなら。アンタらがいれば、稼ぎも上がるだろうし問題ない。おい、誰かアイツらを呼んで来い!」
そう言って、部下が人を集めその場には私とこれから傘下になる盗賊団の頭領とまとめ役が集まった。
そう、これから傘下になる盗賊団のトップの奴らだ。
「この度は話を受けてくれて感謝する、酒は行き届いてはいるが毒が入っているかもしれないので安心して飲めないだろう。一人一人乾杯する事も出来ないので私が飲んだ後に皆が飲めばいいだろう」
そう言って、私は一口飲んで杯を掲げる。
嬉しそうな顔で、彼らも掲げ私が乾杯と言った所で我先にと飲み干していくのだった。
私以外に効く毒の入った酒をである。
「うぅ!?がぁぁ、毒入り!」
「飲んでない者はこっちで処分する、手筈通り身柄を押さえろ!」
「クソ、テメェ騙したな!ガハッ!?」
「チッ、含んだだけか。飲めばよかった物を、騙されたお前が悪いのよ」
苦しむ元頭領の喉を蹴り潰し、私は外に出て捕まった下っ端を見渡し満足げに部下を褒めた。
こうして、私は新たな根城と部下を手に入れたのだった。




