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森の中、盗賊を目指そうと思う

雪が積もる、森の中。その一角には、木々が薙ぎ倒され毒素を撒き散らす物体があった。

傍から見ればそれはドラゴンの死骸があるように見えるだろう、あるいはドラゴンゾンビが眠っているようにも。

ただ、その側にいる少女が声を掛けた瞬間だけ何かしらの反応をする事から瀕死ではあるが生きていると言う事が分かる。


「ヤンヤン……」


それは少女の声だった。紫にも見える血の付いた金髪の少女、メアリが声を掛けるとソレは傷だらけの身体を身震いするように少しだけ動かす。死んではいないが、動けない状態のヤンヤンだ。

メアリは、その傷だらけの身体に頭を軽く乗せる。

ヤンヤンなんてダサい名前で呼ぶなよ、なんて文句は返ってこない。それが酷く辛かった。


こうなった原因をメアリは考える。何があったのか知らないがナオキは自分を襲ってきた。

冷静に考えれば、ナオキは勘違いしていたのだろう。

それに気付かず、いや気付いて動揺した事で自分の代わりに使い魔が怪我を負ったのだ。


あの時、使い魔の様子は変だった。アレは、まるで野生のようであった。

もしかしたら敵意のような物に気付いていたのかもしれない。だから、ナオキへ向かって行った。

ナオキに殴り飛ばされ、そしてトドメとばかりに魔法を打ち込まれた時はダメだと思ったが、それでも自分を連れて逃げてくれた。


「死んだフリとかする癖に、馬鹿だよ……本当、馬鹿」


少なくとも、怪我なんかしないでもいられた筈なのだから見殺しにすればよかったのだ。


「絶対、助けるから」


それは誰かに向けるような確かな決意だった。




身体の激痛によって意識が覚醒する。俺は重い目蓋を開き辺りを見た。

そこは森の中だった。無我夢中で飛んだ為に場所が分からないが少なくともそう遠くないのだろう。

体中が激痛であるのだが、それが修復されているのが分かる。

意識すると血流が熱を持って蠢いているのが分かるのだ。吸血鬼を食べたからか、今なら血を操る事が出来そうだ。


体内の血が内側から欠損部位を埋め合わせるように肉へと変わる様な感覚とでも言えば良いだろうか。

傷付いた部分を意識すればそこに熱が集まり、肉体が再生する音までする。

腕を見れば、ひき肉のような立体的な血が穴の開いた腕に集まり内側から修復していた。


「起きたの?」

「メアリか……何だ、目が赤いな。泣いてたのか?」

「そんな訳ないでしょ、寒いからよ」


袖で目元を拭きながら、メアリは不貞腐れた。説得力の欠片もないが、一人で森の中なら怖いのも仕方ないだろう。何だかんだ子供だ。

見れば服は泥と俺の血で汚れており、森の中を散策したのが予想できる。

しかし……


「血の匂いで動物なんか寄ってこないだろうが、それより毒にならないのか?」

「良く分かんないけど、平気。試しに木に触ったら枯れたから免疫がある……と思う」

「吸血鬼みたいに眷族化でもしたか、使い魔だからかだろう」


俺の血に含まれる毒の影響が無かったのは僥倖と言えた。しかし、血が毒とか邪竜みたいで俺の中のドラゴンらしさがアップしてる気がする。

さて、現在の問題としてはナオキだろう。どのくらい眠っていたのか知らないが追ってこないとは言えない。それに情報がないのも問題だ。メアリと俺の扱いはどうなっているのか。

最後に、俺の暴走。意識なくなるとかシャレにならない。鎮まれ我が肉体よ、とか笑えない。

条件とか良く分からないが注意はしとくべきだろ。


「これからどうしよう……」

「ここから動こう、その前に吸血鬼は血を与えると眷族化することが出来たはずだ。ちょっと、メアリ俺の血を飲め」

「えっ、嫌だけど」

「…………」


いや、今の流れはこう……新たな力を覚悟して挑戦するとかそう言う流れじゃん。

強敵の前に新フォームがみたいな流れじゃん。音も聞こえない洞窟に入ったり、火の中の栗を取ろうとしたりやってること簡単そうな切っ掛け的なアレだよ。血を飲むだけの簡単な事じゃん。


「だって、臭いし」

「臭いっ!言われたくない、中年になって一番言われたくないよ!その言葉!」

「飲むメリットとか意味不明だし」

「いや、絶対強くなれるって。ちょっとだけ、ちょっとだけで良いから」


えー、と言いたそうな顔である。絶対舐めない、と言った感じだ。

しかし、吸血鬼だ。魔法との親和性的なアレが高いはず。前世の漫画では吸血鬼は魔法が得意だった。

いや、完全にレベルを上げて物理の奴とかいたけどさ。


「じゃあ、ほんの数滴よ」

「おう……」

「いくわよ……」


そう言って、傷口から滴る血をメアリは少しだけ手に取り舐めた。

結果、変化はなし。


「あるぇ?」

「うぇ……薬みたいな味」

「でも、竜の血は不死身にするという伝説があってだな」

「いい、物語はフィクション!嘘なの!現実と混同しないの……」


な、なんだよその子供を見るような目わ!なんか出来るって気がしたんだよ!血を操れたり、影には入れたり、眷族作れる気がしたんだよ!いや、これだ!


「俺が吸血鬼の能力が使える気がする証明をしてやる」

「あぁ、そんな気がしてたんだ」

「まだ試していない、影に入る力だ!」

「もし使えたら、日光とか流水とか聖水も効くようになってそうよね」

「そこは、あの、ほらね……」


ハーフみたいなもんだし、ハーフヴァンパイアドラゴン的な……ちょっとカッコいいな俺。

実際、デメリットも取り込んでそうなんだよな。種族的に不利になる特性を進化の過程で取り込むのか俺の身体はどうなんだろ。


「何、ボーっとしてるのよ。やるならやってみなさいよ。多分出来ないけど」

「出来るに決まって――」


俺は半ば意地になって、地面にあるメアリの影に向かって前足を押し付ける。

すると、その腕は湖面のように揺れる影の中へと入っていく。


「――出来た?」

「で、出来てる……」

「おおう!どうよ、出来た!」

「嘘、質量とか、えっ?どうなってるの?」

「細かい事考えんなよ、すげー中でも息出来るみたいだ」

「ちょ!?消えた……」

「呼んだ?おう、すげー生首じゃん今の俺ってば!」


動揺するメアリを傍らに潜るように影へと突っ込んだ。

自分の身体の影とメアリの影が重なると、入り口が広くなるかのように全身を沈められた。

ただ、呼ばれて出ようとしたところ出られる大きさである首だけしか通れなかった。

どうやら、影が大きくないと外に出る事が出来ないらしい。


「えっ、それってヤバくない?」

「何が?っていうか私の影に付随して生首が移動してる……」

「あの、遊ばないで貰えます。めっちゃ左右に目線揺れて気持ち悪いんですが」

「座ろうと思ったけど、私が動くとアンタも動くのね……」

「人の頭に乗ろうとしない!って言うか遊ぶな!」


取り敢えず、どういう状態か説明して俺は影の中で体を修復するのだった。

影の中は快適であった、熱くも寒くもない水の中のようだ。ぬるま湯の中で息が出来ていると言った感じで視界は一部を除き真っ黒。

ただし、メアリの影の形の窓がある。窓、と言うのもそこから空が見えるからだ。下から、影から見た外の世界だろうか。


視覚共有すれば、勝手に動く映像の世界が広がる。オート操作な一人称視点のゲームを見ている気分だ。

窓は、メアリの影が振れた瞬間だけ他の影と繋がるかのように大きくなる。

眷族を影内に潜ませ、一気に軍団を出す。夜になったら吸血鬼は最強だなと思う。もし夜が来れば、メアリの周囲から俺がもれなく出て来て攻撃する事が可能だ。


「格ゲーにいそうだな、移動する竜の生首とか」


益もない事を考えながら、夢を見るようにメアリの視界を見るのだった。




影の中でヤンヤンが眠っている間、メアリは話し合った通りに行動していた。

それは身を隠す事と情報を得るためにどこかの町に行くことだ。

一見矛盾しているが、そうでもない。そのヤンヤンの意見にメアリ自身は反論できる知識があったのだ。


それは山賊や盗賊と言った輩である。彼らの多くは農民崩れだが、それが慣れてきて本格的な物となってくるとどうなるだろうか。

答えは組織的な集団になると言う物だ。

結果、そういう輩が増えると吸収合併などが起きて大きな組織が出来上がる。

そうなれば偶に通る商人から食料を得るなんて、確実性の無い手段は取れない。

食い扶持が安定しないのだ。

更に、襲う相手も自分たちが勝てそうな相手に限る。理由が無ければ人間、危険な橋は渡らないのだ。


そうなった場合、自然消滅するがそうでない領主を悩ませるパターンがある。

それは闇商人と言うか、真っ当でない商人と協力する場合だ。

通行料、奪った武器の売買、奴隷、違法取引なら大金が動く。結果、食べ物を買って生活する。

そう言う組織も、どんどん吸収されて合併して大きくなっていく。


今度は権力を持つパターンだ、こうなったらどっかの領主とか貴族が絡んでくる。

そうなると当然、違法なら何でもござれ。違法に身分を作る手段だってあるだろ。


「つまり、その道にプロに聞けばいいのよ」


という事で、自分は道なりに進んでいる。

いきなり、デカい組織に会える訳がない。会っても末端である。

だからそこで、出世して会うとか自分で組織を大きくするとかそういう必要があるのだ。

もう、ナオキの奴に手を回されてそうでどうせ犯罪者だ。人だって、犯罪者ならたくさん殺してきた。

領民が公開処刑とか楽しみにするから、拷問したこともあるし。


「今考えると、合法か違法かなだけで大した違いないのよね」

『何が?』

「立場。それより、どうかしたの?念話なんかして」

『やっぱり気付いてないか、お前見られてるぞ』


視覚共有した状態で、使い魔が気付いたからには遅かれ早かれ襲われると言う事だろ。

私は少しだけ笑って、森を進んだ。


「計画通りね」

『計画通りだな』

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