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ドラゴンは目の前が真っ暗になった

そこは海のような場所だった。光の射さない深海のような場所だ。

其処には半透明な、それこそクラゲのようなナニカが揺蕩っていた。それは一点へと向けて突き進む。

ヒューゼンの魂であるそれは、始めて見るこの光景に驚愕していた。

何故ならここは、決まった形の無い液体のような世界だからだ。しかし、確実に魂の塊のような物はあるはずなのだ、それは今まで喰らい奪ってきた経験からの判断だった。だから、ただひたすらに探していく。


いつしか深海の様なその場所で、ヒューゼンは光を見た。赤や青など様々な色の、雑多な光だ。

星のように煌めくそれは、ただ一つとて同じ物はない。魂だ、ヒューゼンはその光景に我を疑った。


「馬鹿な、何故一つの肉体にこれほどまでの魂がある!?」


竜とは、ドラゴンとは、魔物ではない。人と魔族のいる狭間の世界の外の存在だ。

人が勇者と呼ばれるような守護者を用いて天界への道を守るように、魔族は魔王様を起点に三つの世界を守っている。

龍神の住まう竜の世界、冥王の住まう精神生命体の世界、覇王の住まう堕天使の世界。

四天王はそれぞれの世界の王の使い魔で構成される。理由としては王さえ生きていれば代えが効くからだ。


自分は魔王様の守護者であり、そもそも体系が違っていた。だから、竜の魂への明確な見解を出す事は出来ない。だが、この場所が可笑しいのは分かった。他のドラゴンとは明らかに違うのだ。魂が見つからないのである。


「どうなっている、本体はどこだ!」


焦るように更に深くへと潜っていく、竜の魂を喰らいて掌握するために。

いつしか、ヒューゼンは目的の物らしき物を見つけた。

闇の中でもはっきり視認できる黒い人型の魂、真っ黒な人間の魂だ。しかしそれはあり得ない物だった。


「何故人の魂が、いやそもそも肉体と同じ形である筈がない」


それは人の魂ではない。人とて魔物と同じように形の無い光であるのだから。

種類が違う、派生したとかそういう次元ではなく最初から別の物。これが異世界の物であるならばどれも四天王の魂と似た形をする。しかし、明らかにどれとも該当しない魂だった。


「私が知らない世界の魂、天界の?いや、あれは堕天使と構成は同じはず……」


思考するヒューゼンの目の前で、それはゆっくりと動き出した。

まるで、手を伸ばすように腕を動かしたのだ。その先には赤い光である吸血鬼の魂があった。

それは、魂を掴むとそのまま口元へと運び咀嚼する。


「ッ!?」


ヒューゼンは思わず身構えた、それは魂を喰らったのだ。

自分と同じように掌握するために喰らうのではない、精神生命体のようにエネルギーに変換する訳ではない。検討の付かない行動だった。

喰われた魂は、人型の喉を赤い筋となって通っていく。しかし、腹の辺りでそれは塗りつぶされる様に黒く染まった。


「いや違う、アレは取り込んでいるのか?魂を取り込んでいる……」


不意に、顔の無いソレと目が合った。それが此方の方を向いた瞬間。

ヒューゼンは背筋が凍るような恐怖を感じた。

目の前にいるナニカから向けられるのは、飢えた獣のような殺気であったからだ。

喰われる、本能的に感じた瞬間ヒューゼンは逃げ出す。


「何だアレは、一体なんなのだ!あんな者――」

「ウヴァァァァァァ!」

「ッ!?」


それは奴の咆哮だった。

来る、不思議とそんな確信があった。

しかし、逃げるには遅すぎた。見つかった瞬間から既に終わっていたのだ。

何故なら――


「ど、どうして私の目の前に!」


気付いたらヒューゼンの目の前には不揃いな牙があったのだから。

それがヒューゼンの見た最後の光景だった。




焼ける村の上空、其処にはメアリを掴んだヤンヤンがいた。


「んぐっ!?な、何だ!」

「どうしたのよ、変な声出して」

「いや、何か当たった気がしたんだが……気のせいか……」


不思議そうな顔をする使い魔をメアリは掴まれながら変に思うのだった。

……あれ、私この状況慣れてる気がする。

いやいやそんな筈はないと首を振り、再び視線を使い魔に送る。

その時、何かが視界の端で光った。




俺はメアリを掴んで夜空を飛んでいた、眼下に見える地上は燃えており自身の知っていた村の面影はない。クソ、酷いことしやがるぜ。


「ん?」


それは突然の出来事だった。悪態を吐いていた俺は何となくと言うか、野生の感と言うか、何かを感じて下を見たのだ。

下には掴んだメアリしかいないと思っていた、だが――


「ッ!?攻撃だと!」


それは煌めく魔法だった。俺へと目掛けて飛んでくる魔法。

すぐに攻撃している相手は分かった。ナオキだ。


「クソ!何でアイツが!」


攻撃は俺の翼へと当たり片翼は黒く焦げ、円状の火傷を負った。それだけでコントロールを失った。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


身体は重力に従い落ちて行く。体勢を整えようとまだ動く片翼を動かす。

しかし、それは徒労に終わり身体は怪我を負った翼の方へと傾いていく。

あぁ、今日はよく墜落するな……


「きゃぁぁぁぁ!?」


半ば諦めた所で、メアリの悲鳴が響いた。


気付けば俺は地上にいた。正確には墜落していたのだろう。

前後の記憶を起き上がりながら俺は思い出そうとしていた。

最後に見た記憶は右から左へと動いて行く空、そして木々と地面だった。

あぁ、俺は横向きに落ちたんだった。


そう理解した時、俺の中で意識がはっきりしていく。

そう言えば、メアリは!?

良く落ちるな、そんな風に思っている場合ではなかった。俺が落ちると言う事はご主人様であるメアリが落ちるも同義であったからだ。だが、それも杞憂に終わる。

メアリは俺の腕の近くで右手が変な方向に曲がった状態で倒れていたのだ。


「なんだ、無事か」


今日で何回も落ちているが悪運が強いものだと俺は感心して起き上がる。

確認すれば、両手足は無事であった。半身の翼が折れており、片翼が動かない状態だったが飛べないだけだった。どうやら俺も翼が折れるだけで済んだらしい。


「おい、起きろ、起きろよ」

「う、うぅ……あぐっ……痛ッ、痛たぁぁぁー!?」

「意識が戻った瞬間、叫ぶなし」


爪で揺すり起こす。唸っていたメアリは意識が覚醒すると同時に顔を涙で濡らし、絶叫した。

自身の右腕を押え、抑えたことにより痛みを感じ、悶えながら更に腕を掴んでしまい痛がっていた。


「さ、最悪。私の腕、嘘よ、死んじゃうわ!」

「右腕が折れただけだろ」

「致命傷よ!」


泣き喚くメアリ、そうか中世の治療技術じゃ骨折は致命傷だったか。と、俺は聞き流しながら周囲を見渡した。

周囲はどうやら森の中だった、森の向こうの空は赤く照らされており村からそう遠くなかった。

という事は、とメアリの前に四足歩行で進み出る。それはまるで彼女を守るような形だ。


「メアリ、来るぞ!」

「えっ?」


俺の視線の先には森の木々があった。しかし、まっすぐ見据える先は木々ではない。その間から此方を射殺そうと光の矢を引き絞るナオキだ。


「ヴルァァァァァ!」


俺の、竜の咆哮とナオキの矢が放たれるのは同時だった。

咆哮に付随するように、紫の炎が口から出されて光の矢と拮抗する。

どうやら度重なる戦いによりブレス攻撃が強化されたようで、此方としては予想外だったが光の矢を退ける事が出来た。


「あ、アンタそれ……」

「どうやら、本能的に魔法を使ったようだ」


俺自身としてはブレス攻撃を出したつもりだった。しかし、結果としては毒のブレスは火炎放射へと変化していた。もしかしたら防衛本能でも働いたのか、この傷だらけの身体が反射的に液体ではなく炎を出していたのだ。


「チッ、ブレスか。しかも煙で木が枯れてる……毒の炎とでもいう奴か?」

「何言ってんだお前」

「ナ、ナオキ!?」


俺の背後から、メアリは身を乗り出すように此方に歩いてくるナオキを見た。

俺は、身体が勝手に唸り声を上げており。自分でも何で唸っているのか分かっていないが威嚇していた。


「グルルルルルル」

「アンタどうしたのよ、ナオキよ!ねぇ!」

「ヒューゼン、下手な芝居はよして貰おうか」


下げていた弓をメアリにナオキは向けた、その瞬間俺の身体は勝手に動き出す。

四股を地面に食い込ませ、メアリを守るように唸りながら前に出たのだ。

アレ、なんでなんで?俺の身体が俺の意志を無視してる!?

そうかこれが本能って奴か、なんて悟っている間に話は勝手に進んでいく。


「どうやら、操られているのか」

「あ、操られてねぇよ!って言うか攻撃してんじゃねぇよ!」

「無意識に刷り込みが?いや、寧ろ防衛本能か。理性が焼き切れたドラゴンが相手か……」


うんうん、と勝手に納得するナオキ。

何だかその様子を見ていたら、噛み殺したくなってきた。

本当に俺の本能とやらが理性を奪っているのかもしれない。

取り敢えず殺してから考えよう、そんな危ない発想が浮かんできては消えてを繰り返している。

何だろう、頭がボーっとする、まるで酔っているようだ。


「ちょっと、何で私達を攻撃しようとするのよ!」

「記憶を引き継いでるからか、いちいち本物っぽいな。まぁいい、死ねよ」


ナオキが弓を構え、右手に光る矢が創られた瞬間。

何だか俺はナオキを殺さないといけない気がして走り出した。


「ヴォォォォォォ!」

「ヤンヤン!やめて、止まりなさい!」

「射殺せ、ライトアロー!」


声と共に、右側が暗くなる。だが、進まなくてはいけない。

右目が熱くて激痛が走った。だが、進まなくてはいけない。

メアリが止まるように言う。だが、進まなくてはいけない。


「ッ!?再生しながら、クソがぁぁぁぁ!」

「ガァァァ!ギュァァァァ!」


ナオキに殴られて身体が簡単に吹き飛ぶ。だが、殺さないといけない。

全身に魔法で作られた武器が突き刺さる。だが、殺さなくてはならない。


「暴走してんのか!?この、死にぞこないが!」

「ヤンヤン!ヤンヤン!」


声が聞こえた。俺が守らないといけない。

守るんだ。立て、立ち上がれ、動け、動けよ!


「後はお前だけだ、メアリの身体に憑依しやがって……」

「何言ってんのよ!誤解よ!いや!」

「クソ、いちいち似すぎなん――」


掴んだ、逃げろ!飛べ、離れろ!


「なっ、生きていやがった!?」

「ヤンヤン!ちょっと、ヤンヤン!」


そこからどこまで逃げたのか俺は分からない。

ただ、今はとてつもなく眠かった。

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