立ち上がれ、領主代行様
ナオキ達が来てから数週間が経った。雪が降ったり、寒くなってきた。俺としては野菜が腐らないか心配だ。品種改良とか考えておこうかな。
もうすぐ一ヶ月は経ちそうだが、ペトロは学校とかいいのだろうか?それとなく聞いてみるか……
「なぁ、ペトロ?」
「何ですか?」
「学校とかどうなったんだ?」
「あぁ、辞めました。情報規制されていますが、調べたら外国には異なる魔法があるらしいので。私の魔法は属性自体違うそうなので習う事が無いんですって」
「お前、俺達があんだけ頑張ったのに……しかもナオキ情報だろ?信じすぎだろ」
「ナオキは嘘を吐いたりしないんです、学園を辞めてから色々な大人と会いましたが公爵家という肩書が目当てで……あの頃に戻りたいものです」
そう言えば、話し方も何だか余所余所しいな。俺の知らない所で何かあったんだろうか。
考えても分からない事なので話はそこで終わるのだった。ただ、ちょっと妄信的な物を感じたので心配である。
数週間で気になった事と言えば、ペトロ以外にもあった。それはナオキの情報を元にした指名手配だ。
例の四天王とやらは黒い影のようなローブを纏った奴らしく、目撃談は多数あったのだった。
というか、俺も何だか見た気がする。そこで、ある程度信憑性が出たからか巡回や領民の噂を聞いての大捜索が定期的に行われるようになった。
しかし、ナオキの言う村の中でのゴーレムの事件なんて、まったく起こっていなかった。
いや、これがフラグみたいなもんになるのかな?まぁ、なるとしたら数日前から起きてるだろ。
だって、今日も平和だなって毎日フラグ建ててるからな。
そんなフラグ乱立を回収されるのが今日の夜とは知らず、俺は昼寝をしながら一日を潰すのだった。
「先生、仕事してよ」
「そう言うのは外注なんで」
「良く分かんないけど、ずりーよ」
「うるさい、孤児どもが大人とはこういうものなんだよ」
「大人ずるーい!寝るなー!」
あぁ、それにしても今日も平和だな。
夜、夕闇と共にそれはやってきた。緊急事態を告げる警報がカンカンと村へと響く。
魔法による爆撃で村の中心は燃え盛り、その中から巨大なゴーレムが現れていた。
すぐに巡回の兵士たちが対応するが、予想された状況とは違った展開が起きていた。
「緊急事態だ、狼煙を上げろ!聞いてないぞ、ゴーレムだけじゃなかったのか!」
「避難は諦めろ、距離を開けて遠距離からの攻撃で対応、時間を稼げ!」
「クソ、聖水は無いか!アレは、アイツらは……」
ナオキの予想と違うイレギュラー……
「助けてくれ、あぁぁぁぁ!」
「何でこんな所に吸血鬼が!?うわぁぁぁぁ!」
「あぁぁぁ!やめろ、嫌だ、来るな来るな来るな!」
それは、ゴーレムと共に現れた不死軍団、アンデット系モンスターの群れだった。
同時刻、屋敷の中にある広間では戦闘配備についた兵士達が集まっていた。其処にはメアリと代々使える老兵達、忠義の熱い兵士達、そして実験部隊である孤児たちが揃っていた。普段、室内でのパーティー用に使うため数十人が入れるが、所狭しと言ったような状態での緊急作戦会議が行われていた。
「状況の説明を!」
「ダメです、通信魔道具が反応しません!」
「そう、通信に出れないか、イレギュラーなことがあったのか……」
一人の兵士が何度も電話の様な魔道具を使用し、回線を繋ごうとする。しかし、複数ある回線のどれもが応答が無かった。この状況は訓練通りの行動が出来ない要因があったのではと、メアリは推測していた。
そんな風に推測し、対策を練ろうと考えているメアリの元に扉をブチ開けて一人の兵が息を切らしてやってきた。
「で、ハァハァ!でん……」
「大丈夫か!コイツ、巡回に行ってた!?怪我をしているのか?」
「だ、大丈夫であります隊長……これは返り血で、それより伝令を……」
「何があったか話して頂戴」
「ハッ、敵は複数アンデットの群れです。それも信じられないことに吸血鬼やゴースト、グールやゾンビ、それにこの近辺の魔物と思わしきアンデットモンスターがゴーレムと共に!」
伝令兵が告げた言葉によって、何が起こったのかは決定的になってしまった。
それはアンデットの群れがゴーレムと共に出現したと言う情報、そんな未曾有の事態に驚きの声が上がる。
「不味い事になったわ……どこかで鵜呑みにしてた。クソ、ゴーレムだけな訳ないじゃない」
「メアリ、いまこ――」
「メアリ様!敵は甚大、籠城戦にて救援を待ちましょう」
「ちょっと、領主であ――」
「幾ら公爵家がいるとはいえ、望みは薄い。ここは打って出るべきです!」
「話聞いてよ!お前た――」
「えぇい、何を言うか若造が!」
広間の中では不安からか、それとも家族を奪ったかもしれない敵に対する怒りからか、とうとう仲間割れを始めそうなほどに混乱していた。
「静かにしなさい!」
「貴様、若造が!」
「邪魔だ孤児共、この老害め!」
とうとう流血沙汰にでも発生しそうになった瞬間、俺の脳内にメアリの声が響く。
『アンタ、今どこ!』
『上空だ、いつでも行けるぜ』
『丁度良いわ、ちょっと屋敷まで来て思いっきり叫んで!早く』
『耳塞いどけよ!』
メアリの指示に従い、俺は屋敷に向かって叫び声を上げる。
「――――――――――――――――――――!」
「な、何だ!?」
「伏せろ、ガラスが割れるぞ!?」
それは超高音のボイス攻撃だった。窓のガラスが共振でもしたのか吹き飛び、屋敷全体を揺らす。
ブレスを毒なしでやってみたのだが、自分でもびっくりの音量だ。
『ちょっとやり過ぎた』
『ちょっと?』
『ごめん、すごくやり過ぎた』
すまん、ちょっと本気出してみたかったんだよ。しかし、場の空気を変えるメアリの指示通りとしてなら百点だっただろう。皆、何が起きたのか呆然としているし孤児たちぐらいしか騒いでいない。
お前ら、慣れてるからか?良く対応出来るな、将来大物だよ。
「ビックリした……あっ、みんな――」
「邪魔よルイス!」
「もうなんだよみんなして!」
「ふぅ……今は同士討ちしている暇はありません。恐らく、巡回に行っていた先輩やナオキ達や巡回部隊が前線に出ています。私達も救援に向かいます!」
「しかし、敵の物量は多く、籠城戦から救援を――」
「聞こえなかったのか!私は野戦に出ると言ったんだ!」
メアリの一喝に、意義を申し立てた老兵が一気に顔を青くした。
それも当然、彼らは再就職できないから残っただけの者で見限られたらもう終わりなのだ。
故に、ただの老害と斬り捨てられる立場だ。
「私は誰だ、答えろ!」
「「「…………」」」
「聞こえないのか!」
「りょ、領主代行です!」
「ならば、私に付いて来い!逆らうものは謀反と見做す、我が竜の咢によって罰すると思え!逃げる者は死ね、戦わぬ者も死ね!もう後は無い、死ぬか生きるかだ!私に続けぇぇぇぇ!」
そういって、一人声を上げながら俺に飛び乗るメアリ。兵達はポカーンとしてる。
いや、まぁ餓鬼の啖呵ですしね。頑張ったと思うけど、キャラが違うと思うな……
『速く飛んで、早く、早く!』
『おいおい、恥ずかしがるならやるなよ……』
『うるさい、劇だったらみんな雄叫びあげるはずだったもん。小説だって――』
『はいはい頑張ったよ、ほら下を見てみろ孤児たちは大喜びだ』
『孤児だけしか……最悪だー、やるんじゃなかった!背水の陣とかそれとなく使うんじゃなかった!』
『まぁ頑張ろうぜ大将、締まらないけど嫌いじゃないぜそういうの』
『一番功績を上げて、うやむやにしなさい!命令だ、敵を焼き払え!私の嫌な思い出と共に!』
『応とも、共に参ろうかマイマスター!それにしても俺、ノリノリである、あ痛っ!?』
『うっさい、馬鹿ドラゴン!』




