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理想じゃ生きられません

ナオキ達が来て、本格的な領地改革が始まった。

と言っても、出来る事など限られているし金もないので小さなことからだった。

簡単に言えば、石鹸などの支給による衛生管理の向上などだ。また、簡易的な公共風呂の建設なども始まった。

これに対して、新しい事好きのルイスですら苦々しい顔をしていた。というかメアリに至ってはガチギレである。


「あぁぁぁぁぁぁ!お金がどんどん減っていく!」

「んだよ、石鹸とか建物ひとつ作っただけでぎゃあぎゃあ言いすぎだろ。労働力が減らなくなるんだ、感謝して欲しいくらいだぜ」

「アンタね!他の領地には申請無しで援助出来ないのよ!ウチ持ちじゃないのよ!石鹸だって高いんだから、それを勅書で断れなくするなんて、馬鹿じゃないの!?」


部屋の中で、メアリが怒鳴っていた。その横では口論するナオキ、と嗜めるペトロ。

ペトロの方はこんなこともあろうかと金を持ってきているそうなんだが――


『なぁ、持ってきた金貰っちまえよ』

『馬鹿言ってんじゃないわよ、出所不明の収入なんて爆弾みたいな物よ!それに出所が割れたら、今度は公爵家に借りたとかそういう風に取られるのよ!悪意のない善意が一番タチが悪いわ!』

『分かった分かった……理解力不足なのは分かったから、怒鳴らないでくれ』

『怒鳴ってない!』


いや、お前怒鳴ってるじゃんと思うが言わない。だって、言ったら余計怒りそうだからな。

特に今は最悪である、国や貴族だけでなく今度は町の所謂サラ金のような金貸しに金を借りている始末だ。中世で言うならユダヤ人のやっている金融業のような物だ。

勅書と言うのは勅令、つまり王様からの命令だ。リアル王様ゲームである。どうせ実験的な理由を付けて、公爵が書いてもらったんじゃないか?

なので、泣きながら借金をして大量発注した……と言っても数十個だが、高級品である石鹸の値段を軽く見られてご立腹なのだ。


まぁ、公爵家だからたくさん買えるだろうし、現代育ちのナオキでは石鹸の値段は安い物と言う感覚なんだろう。中世では確か値段が同じ重さで金と同じくらいなはずだ。錬金術とかあるらしくて塩ほどの値段に下げられてるらしいが十分高い。塩一つまみで数倍の肉が買えるからな、まぁゴブリンの肉だけど。


しかし疫病対策と思えば悪くないはずだ、水浴びはしても風呂には入らないし、同じ食事を何日も食べたり手洗いしないで食べたりするからだ。特に冬などは寒さと不衛生さのせいで病気がハンパなく起きる。

誰も水浴びしないで、暖炉の前で作業するから汗だくで汚いからだろう。


『メアリ、今日は視察する日だろ』

『もうそんな時間?まだ終わらないのに……』

『宿題と同じで大変だな、あっ計算間違えてる』

『あっ、またやり直しだぁぁぁぁぁ!』

『ど、どんまい』


電卓のない計算作業だからな、今度筆算とか教えてやろうかな。いや、そろばんなら作れそうだな。

などと他愛もない事を考えていると、メアリは書類を纏めて外に出る準備をし始める。

移動を速やかにするために俺に乗るのだが、寒いから防寒具を着るのである。

もう冬だからな、風邪対策もしとかないといけないのだ。


「ん?どこ行くんだよ」

「視察よ、アンタは紅茶飲んでなさいよ」

「俺も行こうかな、生活がどう改善したか見たいしな」

「見せる訳ないでしょ、やってること密偵じゃない。あっ、書類も見たら密偵扱いで殺すから」

「な、なんで書類くらいで!なぁ、ペトロも言ってやってくれよ」

「う~ん、お願いできないかしら?」


苦笑いでペトロが頼んでくるのが見えた、お前自分の立場利用してズルいな。腐っても貴族、強かである。


「……チッ、付いてきなさい」

「何だよ、最初から素直に……いや、ツンデレか?」

「ツンデレじゃない!って言うかツンデレって何よ!」


防寒具を着たメアリの後をナオキが慌てて付いて行くのだった。


ナオキ達が外に出ると庭の前に待機していた俺が見えた。視線がリンクしてるため眠っているような自分の全体像が見える、ちょっと太った気がする。と、ここで視線のリンクだけ切った。因みに契約のパスは繋がっているので、思念での会話、念話のような物は出来る。


空の旅は実に快適だった、後ろでナオキが寒いとか怖いとか言ってくれるおかげでメアリの機嫌が上がったからだ。人の不幸で喜ぶなんて、良い性格してるな俺のご主人は……


『ねぇ、聞きたい事があるんだけど』

『何だ?暇過ぎて雑談でもしたいのか?』

『ツンデレってアンタ前に使ってたし何か知ってる?』

『好きだけど気恥ずかしいからツンツンして、うっかりデレデレしてしまい照れる高等技術だ。人はそれをあざといと言う』

『……振り落とそうかしら?』

『多分、一緒に落ちるぞ』

『チッ、命拾いしたか』


自分の安全が確保された時に殺しに掛かりそうだな。まったく、やれやれだぜ。

村に着いた。二人とも俺に乗ったまま視察を行っている。歩きたくないからなのだろうか。

暫くすると、またナオキが騒ぎ出した。


「なっ!どういうことだ!」

「うぅ……耳元で煩い、今度は何?」

「奴隷がいるじゃないか!」


それは村にいる農奴のことだった。平民よりは粗末な服を着ている子供の労働者だ。

普通に子供が多くて服なんて買えないからなのだが、ナオキには酷使しているからだと見えるらしい。


「奴隷ね」

「お前!奴隷は禁止されているんだぞ!」

「はぁ?奴隷って言っても、農奴とか犯罪奴隷とか種類あるんですけど。ウチのは農奴、少なくとも違法な人身売買のではないわ」

「奴隷には変わりないだろ」


ナオキはそう言うが、農奴はちゃんと結婚できるし財産保有も許されている、領主から貸与された土地を耕す百姓のような物だ。貴族とか平民とか身分違いの結婚は出来ないが、税を差し引いた分の給料は貰えるので奴隷とは少し違う。奴隷と言えばそうだが、土地から移動できなくて転業できないだけだ。市民権でも買えば平民になれるし、孤児が食事の代わりに労働力を領主に提供しているだけだ。


「そりゃ、アンタの所は良いけどこっちは豊作とか言えるほどじゃないわ。それに知らないだけで公爵家でもあるはずよ、寧ろ税は高くても小遣い稼ぎできるような教育を無料でしてる分、市民権が買いやすくて楽な方よ」

「お前は、あんなに痩せてる子を見て何も思わないのか」

「子供が多いと、食べるものが少なくて大変ね」

「とても不衛生だぞ!」

「周りも変わらないわよ、子供だからって贔屓しすぎ」

「じゃあ、俺が育てる。幾らだ、幾らで解放する!」


そもそも、市民権が買えるような政策はここ以外では労働力不足な領地ぐらいしかやっていないので、普通は市民権なんか買えないのである。それに対して悪徳領主だ、と言った反応は酷い。

案の定、メアリも呆れながら反論する。


「そう言うの普通に人身売買だから、アンタさ……物じゃないんだから買うみたいに言うのやめてくれない?」

「はぁ、解放しろって言ってるだけだろ!」

「市民権は買っても譲渡できないわよ。そもそも、解放してどうするの?」

「え?」

「解放して、はいさよなら?碌に就職なんて出来ないわよ、死ぬか盗賊ね。今、俺が育てるって言おうとした?馬鹿じゃないの、面倒見るのは先輩でしょ。それに一人助けたら、他はどうするの?ただの偽善じゃない、誰も解放してくれなんて言って無いわよ」


随分とドライだが、正論である。ナオキもぐぬぬとか言って悔しそうだ。ぐぬぬってネタでやってるんだよな、マジで言ってるなら初めて見たわ。

まぁ、書類で人が死ぬのに慣れてしまったのも理由だろう。生まれまくってるが死にまくっているのも事実だ。領主として、流行り病を防ぐためとかで殺すように命令したこともある立場だ。領地改革で無双しているナオキと、領地運営で苦しい決断ばかりのメアリでは見てる世界が違うのだろう。


「理想じゃ人は生きていけないのよ」

「……分かったよ」


うーむ、台詞は悪くないんですが、見下しながら言ってるからメアリが悪人に見えるわ。


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