俺が守ってやんよ!
パーティーは問題なく行われた。客人への対応にうんざりしたりメアリが苦労する場面が目立ったが概ね順調と言えるだろう。
パーティーが終わると、メアリは召使い達に片付けを命じて応客室へと二人を案内した。
因みにその過程は、俺に関わる内容だった場合に説明を省くため、とのことで使い魔の契約を通じて俺に筒抜けだった。
『なぁ、何か食べてくれよ。視覚や聴覚だけじゃなくて味覚もリンクしてるんだからさぁ!』
『本当、食べる事しか考えてないわね……クソドラゴン』
『おま、口悪いなー!』
呆れた声音で罵倒したメアリはもう着くからと会話を中断した。
どうやら、これからペトロの話が始まるようだからだ。
十中八九、原作知識をどうのこうのナオキが言いに来たのではないかと俺は予想していた。
何故なら、それぐらい領地間の距離が離れているからである。気軽に移動できるような前世と違い、この世界で領地から離れると言うのは相当な事なのだ。
「いきなりの来訪、ごめんなさいね」
「そんな、先輩の方が爵位が上なんですから!」
応客室の様子がメアリの視点から見える。向かい合う様にソファーに座るペトロとナオキ、ペトロの方が頭を下げた瞬間が写っていた。
普通、爵位が上の人間はそんな風に軽々しく頭を下げたりしない。それどころか、言葉使いや態度すら面子に関わるから気にしないといけないと言う話を俺はメアリの動揺から思い出し、だから慌てているのかと俺は納得した。
しかし、見れば部屋の中には三人しかいないのである。
召使いや護衛騎士の姿すらないと言う事は、良く言う人払いの済ませた状態と言う事なのだろう。
多分、ペトロも楽に……それこそ爵位の関係ない学生時代のように話したかったんだろうな。
「今は許してほしいの」
「ですが……」
「お願い」
「分かり……ました」
不承不承というか、諦めの混じったような態度でメアリは応じた。
良くある、偉い人からのどうでもいい命令だ。今回の場合なら態度を改めるなと言ったところだろう。
公の場ではないから納得したと言う形だった。
「それで、どうして急に……領地改革ぐらいなら人を送れば済みます。何か用件があるんですよね?」
「えぇ、それはナオキから聞いた方が分かりやすいと思うの」
「えっ、俺が説明するの?」
視線がナオキへと向く、当の本人は話を聞いていなかったのか驚いたように聞き返していた。
紅茶飲んで転寝する暇があったら、真面目にやれよ。
「アンタが何を説明するのよ?」
「まぁ、簡単に言えば俺がお前を救ってやるよってことだな」
「はぁ?」
自信満々にナオキはそう言った、それに対してメアリが怪訝そうにしているのに気付いてはいない。
いや、気付いているのに話し続けてるのかもしれない。
『ねぇ、コイツ何様なの?一応、身分的には私が上だよね?』
『王様にもこの態度とかじゃないか?話だけでも聞いとけよ』
『仮にそうだとしたら、相当な馬鹿よ。ウチと同じで先輩も苦労してそうね』
『なんだと!俺は問題なんか起こしそうにないだろうが!』
『そうね、モンスターなアンタに配慮とか礼儀とかある訳ないもんね』
なんだか納得されたが、大変遺憾の意である。ドラゴンと言えば、高貴で誇り高い礼儀のある生物だ。
俺にドラゴンらしさが無いとはいえ言い過ぎだ。まぁ、ネズミとか食べて貧乏っぽいけどさ。気持ち的には気品に溢れているのだよ、うん。
「おい、聞いてるのか?」
「えっ、何?」
「お前、サブの癖に生意気だろ!話聞けよ!」
サブヒロインの癖に、ハーレムに入れてやろうと思ったのに、などと意味不明な罵倒を浴びせてくるナオキにメアリは困惑する。何言ってんの、お前と言った感じだ。
『あー、メアリ。一応、荒唐無稽だと思うけど聞いとけよ』
『あら、肩持つのかしら?』
『違うから、えっと……公爵家の情報網でも使って何か掴んだんだよ!』
『何、その取って付けた理由?アンタ、誤魔化そうとしてるのバレバレよ』
これだ!と思った理由は、メアリによって看破されてしまった。しかし、原作知識がとか言っても信じて貰えないだろうし、俺は知らないから聞きたいのだがメアリが素直に従ってくれるとは思えない。
どうしたものか?
「ごめんなさい、でも聞いて欲しいの」
「先輩、まぁ……聞くだけなら」
しかし、そこでペトロのナイスアシストが入った。実にナイスである。
そこでメアリが渋々聞いたナオキの稚拙な、というか物語みたいに語られた内容を纏めるとだ。
四天王の一人を倒したナオキを倒すために、領地に襲いかかる敵がいるそうだ。
そいつも四天王の一人で、混沌のヒューゼンとかいう奴らしい。ソイツの身体には色々なモンスターが収納されていて物量作戦で戦う敵なのだが、うっかりしている奴で違う領地に攻撃してしまったらしい。
コカトリス事件、巨大ゴーレム事件、アンデット事件、大きなイベントは三つ。
何とか退けるも奥の手である憑依によってメアリは身体を奪われてしまう、泣く泣く主人公はメアリを殺して、主人公に憑依しようとした奴をご都合主義なのか魂が別世界のだからという理由で撃破する。
というのがあらすじ。
そして先日のコカトリス騒動が最初の事件であり、しょうがないから来てやったそうだ。
「で、私はそれを信じればいいの?証拠もないのに、対策しろと?」
「まだまだ時間はあるしな、憑依も異世界人である俺には効かないから任せろよ。まぁ、先に狙われたらアウトだから守ってやんよ」
「えっ、先輩本気でこんな話を信じてるんですか?」
「信じるわ!」
力強い宣言に、メアリは引き気味だった。実際、ナオキの言ってことが実際に起きて助けられた故の発言だったのだが、悪い宗教にはまった人間にしか見えなかった。
「お前、信じてないのかよ!」
「いや、怒鳴られても……普通に財政難だし、どこでいつ起きるか分からない物に対策なんて出来ないし」
「村の中で夕方に起きるんだ」
「村のどこであるのよ、何日の夕方よ?」
「それは……それは何とかしろよ!」
まさかの逆ギレである。しかし、ナオキの説明は本当に下手な為に説得力が無いのも事実だった。
せめて、俺は未来を知ってるとかじゃなくて、公爵家の情報網で何か企ててる奴を見つけた的な発言にすれば良かったんだ。
『一応、村の中に騎士でも置くか?』
『アンタ、信じたの?』
『あぁ、いやな。怪しい奴がいたって聞いたからな』
『本当でしょうね?はぁ……みんなやめて少ないのに、また人手不足か』
『俺と餓鬼どもがいるだろ?』
『アンタらが原因で辞めたんですけどね!ね!』
『す、すいません』
財政不足というか、給料を払えないので昔からいる騎士以外はみんなやめてしまったのである。
ルイスの政策が悪いんだ、何もかも政治が悪い。騎士道は金次第とかマジ世知辛いな。
「分かりました、対策は一応しますので協力は遠慮します。此方には謝礼金の準備もありませんし、対外的にも立場が悪くなってしまいます。他の有象無象に庇護を求められる可能性がある以上、私がその最初の一人になるような前例は作るべきではありません」
「何でだよ、頑固な奴だな……」
「今、説明したでしょ?陰でコソコソ気持ち悪いのよ」
「けっ、可愛くねーな……」
ハーレムに入れてやるよ、とか言っていた奴が言うセリフとは思えないな。
まぁ、可愛くないけどな。
『今、内心笑ったでしょ』
『笑ってねーよ!被害妄想だろ!』
『後で覚悟しなさい!』
『性格までブスだな、クソ!バーカバーカ!』
『何ですって!』
こうして、ナオキたちとの会談は終わるのだった。




