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気苦労が絶えないメアリの憂鬱

空、其処には一匹の竜がいた。蝙蝠の様な皮の翼を広げ、滑空する竜だ。竜はその目で地上を見ていた。

というのも主人である者から狩りを頼まれていたからだ。


……なぁ、俺そんなに強そうなのは狩れないよ?


眼下に広がる樹海の様な場所を見ながら竜である、ヤンヤンこと俺は思った。

通常では返事の帰ってこないただの思考であるが――


『いいから下見なさい、あっユニコーンが良いわ!アレは角も血も肉も売れるから!』


――それは使い魔の契約により聞こえてくる主人の思念によって会話へとなっていた。


『取り敢えずクセのないでかい肉よ!肉は貴重だから、ハズレは無いわ!』


ガンガンと脳内に響くような声に俺はうんざりして少し眉間に皺を寄せる。

誰にも見られる事のない上空で、表情を無意識に変えていたのだ。


『アンタ、今うんざりした?』


「うおおい!?お前、どっかで見てんのかよ!」


そんな様子を思念から判断したのか、主人であるメアリに図星を当てられて俺は慌てて視線を地上に向ける。

何故かと言えば、生放送のように俺の視界がメアリとリンクしているのでキョロキョロすると慌てていることが伝わってしまうからだ。

いや、既に手遅れだったか。


眼下に広がる樹海には様々なモンスターがいる、歩くキノコであったり定番の様なリザードマンと言われるトカゲだったり巨大な昆虫など多種多様だ。

そして、そんなモンスターを狩る基準として自分の身体の半分くらいの大きさと言うのを俺は目安にしている。

単純にでかい奴は強いと思っているからだ。大体、大きさはそのまま強さにつながるのは自然界で学んだことだ。少なくとも、魔法を使わない限り自分の数倍大きいモンスターを倒せる気がしない。


「そう考えると、俺って中途半端な強さだよな」


神様とかに会ってもいないし、仕方ないのかもしれないけどな。

もう少し強くならないと、食べたい物を倒せないからな……


それは少し残念だな、とそう思いながら獲物を探す。

この世界でゲテモノと言うような物を持って帰ると、メアリは嫌がるから一般的な野生動物でなくてはならない。

いや、野生モンスターか?まぁ、人であった頃なら引くような見た目のモンスターは多いから仕方ない。

美味いのだが、それ以外となると――


「イノシシとか鹿あたりだろうな……」


割とイノシシのようなモンスターも鹿のようなモンスターもいるので、見つけるのは苦労しない。

ただ、奴らは群れでありしかも好戦的なのだから困る。


『あっ、今見えたわ!アレが良いわ!』


メアリの指示が飛んだのは、件の鹿のモンスター達であった。

集団で一つの川に集まり、水を飲んでいるのだ。

因みに、奴らは角を赤く発光させて貫いた対象を焼き切るモンスターだ。

多分、高熱なんだろうなあの角。


「じゃあ、アレにするわ」


俺は滑空する状態から、羽ばたき体勢を整える。

と言っても、身体を地面と垂直にするだけなんだがな。

そこから、まるで飛び込み台から飛んだかのように地面に向けて急降下する。

目標は、水を飲んでいる一頭だ。


「ド、ドラゴンだ!」

「なんじゃ、ゴラァ!」


何か、スゴイ威嚇してる声が聞こえるけど知りません。

そのまま一気に慌てる小鹿を両腕で掴む。そして、鳥のように上空へと飛び上がるのだ。


「助けて、父ちゃん!母ちゃん!」

「うおおおおおおお!」

「あぁ、私の子が!」


こうして俺は狩りを終えるのだった。ただ、モンスターの言葉がニュアンスで分かるのはこういう時辛いな。

いや、ホント悲しそうな顔で見てくる鹿の群れも困るんだけどね。



俺が持ち帰った鹿はシェフによっていい笑顔で首を切断された。鮮度が良いうちに料理するためだそうだ。


「あぁ、もう羽が筋肉痛になっちゃうよ。お前分かる?なんか肩が引き攣る感じなんだけど」

「分かる訳ないでしょ、ドラゴンの感覚なんて」

「えー、努力が足らないと思うわ。っていうか、なんで張り切ってるんだよ。こう、俺に狩りさせたりしてさ」


その言葉にメアリは、はぁと溜息を吐いてから言った


「まぁ一番の理由は対外的な問題よね。不本意だけど、スゴイ出費だけど、領地に人を招く事によってどういう関係を持っているかというアピールになるわ」

「ペトロっていい所のお嬢さんだからな」


うんうん、と納得したように頷く自分の使い魔に対してメアリは苦笑しながら説明を続けた。


「本音を言えば、地味な歓迎だと周りがうるさいからってのも理由よ。先輩の家の派閥とか、周辺の貴族とか、文句の言いそうな奴らなんて沢山いるもの」

「言わせてやればいいじゃないか」

「言わせても良いけど、文句の為だけに使者がやってきて難癖付けて領民が殺せれそうだわ。少なくとも、財力も権力もウチはないから抗議できないし、されたとしても相手は痛くも痒くもないでしょうしね」


少なくとも理由としては色々あるようだった。

……お前も大変だなぁ

思うだけにとどまり、言葉にしなかったのは怒るだろうなと想像したからだった。


「何か言いたそうね?」

「えっ、いや別に特に何も」

「…………」

「あっ、こら無言で蹴ってくんな!地味に痛いからやめろ!」


そして、準備に追われながら一日が終わるのだった。

ナオキやペトロが来るのはそれから三日ほどしてからだった。


その日、屋敷の庭には小さなテーブルが綺麗なテーブルクロスで安物に見せない工夫をされた状態で置かれていた。その上には各周辺の領地の食材で出来た料理が置かれている。

なんでも周りの貴族に対するアピールだそうで、角が立たない対策だそうだ。


庭は正直言って小さい物だ。車が10個おける駐車場程度の広さだろうか。

つまり、俺はデカ過ぎてパーティーには参加できなかった。いいなー、立食パーティー。


そんな庭には招待した周辺貴族と、呼んでもいないのになんか来たらしい貴族のおっさんやおばさんがウフフ、オホホ、と話していた。呼んでいない奴らはペトロ目当てのお偉いさんらしく断れなかったようだ。

正直言って、子供であるメアリが凄い浮いてる。頑張れメアリ、俺は応援してるぞ。

思念を飛ばしたら、キッと鋭い目線を向けられた。何でだよ。


そしてようやく、奴らがやってきた。

複数の馬車と、それを守るように周囲に展開された護衛の騎士。

馬車は無駄に宝石とか銀細工で装飾されており、護衛の騎士に至っては全員がキラキラした新品の様な鎧を付けている。うちの馬車なんかなんも付いてないから金持ちだなと思ってしまう。

また馬車や護衛の騎士が使う馬など、全てユニコーンである。

野生のユニコーンは気難しいと聞いたことがあるので、飼いならされたユニコーンなのであろう。

気性の荒いユニコーンが乗り手を選ばない程に大人しくなるまでに幾ら掛かるのか。

流石、金持ちと言う感じだった。


馬車から騎士にエスコートされて現れたのはドレスを着たペトロだった。普段というか、いつも見ていた恰好と違うので見違えた印象だ。っていうか、ウエディングドレスみたいな恰好だ。白は汚れが目立つから、そんなことを気にせず使う貴族は大抵金持ちらしい。ペトロの家は凄まじいな。


そんなペトロに、新調した黒のドレスのスカートを握りしめながら決心したようにメアリが挨拶しようとした。因みに、何度来てもある程度は汚れが目立たないから黒いドレスなのだ。


「お待ちしておりました、この度は――」

「おい、そんな挨拶より案内してくれよ。お腹減ってんだよね」


メアリの挨拶を邪魔する者がいた。当然、周りは驚いた顔をしている。まぁ、声に出して抗議しないがヒソヒソと話したり、いやな雰囲気だ。

心なしか、メアリの顔も引きつっていた。笑顔がピクピクしている。


そして、そんな風に場違いな事を言ったのはやはりナオキだった。

一応主催者として挨拶してるんだから邪魔するのはどうだろうかと思うのだが、其処の認識が異世界だからか甘いのだと思う。成人式で騒ぐ若者のような感じだろうか?うん、取り敢えず、お前空気読めよ。


「ほ、本日は――」

「なんか、汚いドレスだな。っていうか、いちいちパーティーとか開かなくても良いじゃないか。こんなこと金使うくらいならインフラ?的なのに使えよな」

「そ、そうですわね。オホホホ……」


ナオキの言葉をメアリは笑って流す。しかし、内心では――


『うがぁぁぁぁぁ!何なのコイツ!最悪、最悪だわ!人の気も知らないで』

『メアリ、思念飛んでる。俺に愚痴るのやめてくれない?』

『うっさい、バーカバーカ!大体、アンタがコイツ召喚したようなもんじゃない!馬鹿なんじゃないの!』


――俺に向かって八つ当たりしていた。もう、俺は関係ないじゃん。


そんなナオキだが、ペトロの御付の人にやんわり注意されていた。

ペトロは扇のような物で口を隠して御付の人に何か言っていたので、ペトロからの注意かもしれない。

口元を見せてはいけないとか、直接注意してはいけないとか、そういうルールみたいなのがあるかもしれない。

まぁ、ペトロの説得によりナオキも黙り、長いメアリの挨拶が無事終わるのだった。


『一生懸命考えたもんな、その挨拶』

『うっさい、余計な事言うな!』

『言ってねーし、思念だし』


心なしか照れて顔が赤くなってるメアリにほっこりしたのだった。

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