これはバジリスクですか?いいえ、それはコカトリスです
それは、パピルス作りを教えてから数日たった朝の事だった。
その日は俺の指示により餓鬼どもが畑に向かって様々な魔法を放っていた。
魔法で畑を耕せば楽なんじゃないか?
そんなこの世界の魔法使いに喧嘩売ってるような方法を思いついてしまったのだ。
もうこれはやるしかない、そう思い俺が餓鬼どもと畑を耕していた時に真っ青な顔でルイスがやって来た。
「大変だよ、ヤンヤン!って、えぇぇぇ!?ちょ、何してんの?」
「せっかくだから畑で訓練して、耕そうと思ってな。で、何がヤバいの?」
「由緒正しい魔法をそんなことに使うなんて、何を考えているんだ!」
憤慨するルイス、あれやっぱり喧嘩売ってるような物だったのか?
まぁ、そんなことはどうでもいいので物理的にルイスを落ち着かせる。
「し、尻尾をどけろ!わっ、重い!うっぷ……」
「仕方ないな、で何がヤバいの?」
「まったくもう……ってそうだった!私達の領地がヤバい!」
何とか俺の尻尾を退けながら、ルイスは思い出したかのように言い放った。
いったい今度は何をしたのやら、また肥料として撒いた物がアンデットモンスターになったのだろうか?
それとも、新種の野菜だと思ったものが植物系のモンスターだったのだろうか?
もしくは、いかんいかん問題を起こす事ならキリが無いぞコイツ。
「バジリスクが出たんだよ!民家が幾つか石化してたから間違いないよ!」
「バジリスクか、秘密の部屋でも開けやがったのか?」
「君は何を言ってるんだ!レアモンスターの災害なんだよ!なのに、国は何かの間違いだろって何もしないんだ!もう大変だろ」
それって、国に迷惑かけてるお前のせいじゃないか?
巨人の子供を購入して農村を半壊させたり、モンスターを家畜化しようとして脱走させてしまったり色々迷惑かけてるからな。
そのたびに国軍を要請してるから、またお前かよって断られたんじゃないのか?
「挙句の果てには、またお前がやったんじゃないかって!私は悪くないのにさ!」
「あ~やっぱり」
「やっぱりだって、君も疑うのか!?私は何もしてないよ」
そんなこと言っても日頃の行いが悪いからな。
メアリが心労で倒れたりして。
「だから領主命令でバジリスク討伐を命じるのだよ」
「え、普通に嫌だけど」
「孤児院の子供達の実戦にもなる!普通断れないんだよ、勅命なんだよ!」
「うるさいな、食べるぞ?」
「や、やめろよ……」
冗談なのに、ルイスは本気でビビってしまった。そんなことしません、人間は不味いからな。
しかし、バジリスクか……恐らく目撃者はいないのだろう、何故なら見たら相手は死ぬからだ。
眼鏡を掛けていれば石化するらしいのだが、如何せん前世で見た映画の知識だからな。
即死の魔眼か石化の魔眼か怪しいところでもあるな。
「バジリスクの特徴を教えてくれよ」
「バジリスクは見た者を石化する魔眼を持っているんだ。見た目は鶏だけど足より後ろが蛇の尾なんだ!」
「蛇じゃないんだな、というかそれはコカトリスじゃないか?」
バジリスクの伝承と似たような逸話を持つモンスターだ。
どうやらこの世界でも逸話が混ざっているようだ。
「食べて、魔眼が手に入ると面倒だな。でも食べれないんじゃやる気が出ねぇ、働きたくないわ」
「もし倒してくれたら牛をあげる!実験で使えない年寄りだけどね」
「まだバッファロー擬きの家畜化やってたのかよ。まぁ、焼肉で手を打つか」
美味いのだが気性が激しいバッファローのような魔物を貰う約束をしたので、俺は餓鬼どもを集める。よし、がんばっちゃうぞー!
「お前達、聞いてたよな?今日の夜に狩りをするぞ」
「先生、なんで夜なんですか?」
「鳥ってのは夜は目が見えないはずだ。それに、暗ければ石化の魔眼が通じないかもしれんだろ」
相手を見ることによって石化するのなら、見えない夜なら大丈夫という判断である。
ルイスの話によると、民家が石化した周囲は警戒態勢に入り住民は避難しているらしいのでバンバン魔法を使っても構わないらしい。
なので、今日は夜になるまで訓練は中止となった。
夜、それは闇に包まれた時間。
街灯もないこの世界では月の無い日は何も見えなくなってしまう。
微かに火の光で明く見えなくもない村も、無人となったら家がどこにあるのか把握できないほどだ。
「火よ、明かりを灯せ!ライター!」
俺の考えたオリジナルの魔法、ライター程度の火の玉を出現させる攻撃に仕えない明かり専用の魔法を発動した。
普通、そんな使えない魔法一生懸命作らないのだが便利なので作ったのである。
「スゴイ、オリジナル魔法だ……」
「よーし全員いるな、初めての実戦だ。一人ずつ松明を灯せよ」
「先生、全員灯しました」
俺の魔法にびっくりしていながらも、しっかりと松明に火を灯した総勢十名の孤児達が俺を見る。
全員が、少しだけ緊張しているような表情だ。
「作戦説明をする。ここは被害のあった場所の中心だ、ここからお前達には各自バラバラの方向に進んで貰う。見つけ次第魔法を放つように、また石化しても大丈夫らしいから安心しろ。何か質問は?」
「僕達で倒せるんでしょうか?」
「無理に決まってんだろ。俺が上空にいるから戦闘が始まれば隠れていて構わない。お前たちは見つけることが仕事だ。ついでに鏡を配給する、これで相打ちしてくれても構わない」
コカトリス、奴らの弱点は鏡である。この世界のコカトリスがどうかは知らないが、反射した自分の視線で石化する間抜けなモンスターであると前世で記憶している。
「俺が飛んだら作戦開始だ。また、村の端には騎士が何名かいる。もしあったら引き返して探索しろ」
ゆっくりと、そして空気を掴むように俺は翼を動かす。
俺はこの感覚が、前世では無理である自分の翼で飛ぶという感覚が好きだ。
強いドラゴンになると魔法で代用して浮いているらしいが、竜魔法とやらに頼らず自力で飛ぶ方が俺は好きである。
そして、そんな風に思っているとあっという間に俺の身体は空へと駆ける。
重力という鎖を幾つか引き千切るように、体が浮き、滑走する。
眼下には小さな円が黒い大地にポツリとあった。
餓鬼どもの松明である。俺は何度も旋回して周回飛行をする、そしてすぐに変化は訪れた。
一部の方向で、魔法の閃光が見えたのである。
「どうやら見つけたようだな。ん?」
今度は別の方向から、しばらくしてまた別の方向から戦闘の軌跡が垣間見えた。
上空から各方向での戦闘は一目瞭然だ。
どういうことだ、コカトリスは一匹じゃないのか?
「コカァァァァァァ!」
「この声がコカトリスか?滅多に出ないんじゃないのかよ」
目を凝らせば、鶏のような蛇を追いかけ回す孤児達が見える。
どの方向にもコカトリスがおり、少なくても三匹は確認した。
「「「コカァァァァァァ!」」」
「うわぁぁぁぁぁ!?だ、誰かたす――」
ある場所での戦闘が、唐突に終わった。
悲鳴と同時に響く三匹のコカトリスの雄叫び、どうやらコカトリス四体に囲まれた孤児がいたようである。
「マジかよ、七匹?もしかして、もっといるのか?」
その予想は当たりのようでその後コカトリスの目撃数は跳ね上がるように増えていく。
これは明らかに異常であった。滅多にいないレアモンスターであるコカトリス、そのエンカウント率が高過ぎるのである。まるで人為的な物なのではと思うくらいだ。
しかし、レアモンスターを集めるなど人間には不可能だと思われる。
必然的に魔物を使役する種族、魔族が怪しい。
「どういうことだよ、魔王の配下でも攻めて来たのか!?」
俺はいつのまにか何らかのイベントに関わっているのか?
只ならぬ事態であると俺は感じるのだった。




