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許婚に会いました、このロリコンめ!

村を出てからの旅は順調だった。道中にはモンスターも出ず、順調過ぎた。

メアリが言うには村での事が異常だったようだ。だから一週間も掛からずに領地へと戻る事が出来たのだった。理由としては滞在によって品物が腐るのを防ぐために急いだのも一因であるだろう。


「随分と様変わりしたわね」

「まぁ、一年は離れていたからな」


風に靡く髪を押えながら愛郷の念でも湧いたのか、メアリは寂しげに言った。

俺から言わせれば、ここは故郷と言うよりも外国と言った感じなのだが何か思う事があるのだろう。

人々が麦を刈り取り、畑を耕し、家畜を絞めて、保存食を作る。

そんな風景はどうやらこの一年で様変わりしていたようだった。


村では箱を押す平民の姿が見えた。どういう原理か、箱が通り過ぎると箱の上に備え付けられた篭の中に麦が山のように積み上がっていく。その様はまるでトラクターでも使っているようだ。

農業の機会化でも行っているのだろうか?


畑の方には牛のような魔物が巨大な鍬を付けられて引いていた。これは何か見たことある光景である。

それに加えて、知らない建物が出来ており煙が絶えず出ている。もしかしたら燻製でも作っているのだろうか?


今まで起こっていなかった生活に対する変化が其処にはあった。

これが、メアリの許婚が行っている領地運営なのだろうか。

その答えは、俺達が屋敷に帰ってから分かるのだった。


屋敷に帰ったメアリを最初に迎えたのは庭師の人間だった。

庭師は、メアリが帰って来たことに驚きの声を上げて急いで屋敷の者達に伝える為に走り去った。

手紙は三通送っていたので知っていたはずだが届いていなかったのか、それとも知った上で何か帰ってくることに問題があったのか。

答えは玄関を開けて、侍従達に囲まれた男が知っていた。


男は三十代ほどの髭を生やした奴だった。身体はスッとしていて鍛えていることが分かる。

手には杖を持ち、腰には帯刀していた。フェンシングに使うような突剣である。

男は笑顔で両腕を開きながらやってきて、目の前で一礼した男は口を開く。


「おかえり、そして久しぶり。覚えていないかもしれないが許婚のルイス・ドレッドだ。すまないね、領地運営に忙しくて迎えるのが遅くなった」

「ど、どうも」

「長旅も疲れただろう、話は中でしよう」


そっと差し出された手を、作った笑顔でぎこちなくメアリは取った。

俺からしてみれば思わず笑ってしまう、まさに失笑してしまうレベルのドン引き具合だがルイスとやらは気付いていなかった。いや、気付いた上でスルーしたのか、そのままメアリと手を繋いで歩き出す。

このロリコンめが!黒い目がどこかで見ている事だろう、いつか天罰が下ればいい。


気拙いながらも先に口を開いたのはメアリだった。内容としては父親などの近況に対してだ。

それに対してルイスは言いにくそうに口を開く。


「うん、実は君の父上だが……その、今はいないんだ」

「え?」

「王家の方にちょっとね、どうやら何かを盗んだ容疑を掛けられていて詳しくは知らないんだ。そんなこと出来るほどの男ではないのにね」


おい、お前言外にそんな度胸が無いとか言ってるな。奴は底なしの馬鹿だぞ。後先考えずに盗みぐらいするぞ。


「そんな何かの間違いでは?」

「いや、どうやら献上物の横流しをしたんじゃないかってね。書類の改竄を見つけたのは私だから間違いはない。すまないね、私が原因なんだ」

「あっ……いや、まさか」

「うん?思い当たる節でもあるのかい?」


メアリはその詰問に視線を泳がせる。そして、チラチラと何度か俺を見た。

……あれ、俺が何か?

その時、ピンと来てしまった。

その献上物、俺じゃないかぁぁぁぁ!?


「……いえ、勘違いでしょう」

「そうか、私としては悩みの種は消してしまいたかったんだがね。さて、席に着いてくれたまえ。私は使用人に茶でも用意させよう」


そう言ってルイスはメアリを誰かの部屋の前まで連れてくると、使用人を探して俺達から離れた。

俺達は仕方がないので部屋の中へと入った。部屋は調度品は無く、机とソファー幾つかの資料棚の置かれた質素な物だった。もしかしたら彼の仕事部屋なのかも知れない。


ソファーを見つけたメアリはゆっくりと腰を下ろし、頭を抱えて大きなため息を吐いた。視線は俺に向いている。


「おい、言いたい事があるんなら言えよ」

「やってしまった……」

「あ、うん……」


もうどうしよう、と言いながら彼女は両手で顔を伏せる。どこかリストラしたサラリーマンのような哀愁が漂っている気がしなくもない。


「自分の父親が愚か過ぎて恥ずかしい……」

「確かにな」

「終わった……絶対打ち首よ。内部からの告発で情状酌量の余地があってもルイス様以外打ち首よ」

「知らなかったことにしようぜ」

「だとしても、父上が死んだ時点で継承権が婿であるルイス様の物よ。このままじゃ、貴族の名を捨てなきゃいけないわ」


継承権とやらは分からないが、どうもメアリが不利になるらしい。

詳しく聞けば、立場が逆転してしまうそうだ。それってどういうことだろうか?


「つまり、継承権が父上からルイス様に移動したら私は何の庇護も得る事が出来なくなるかもしれないのよ」

「おうふ……」

「政略結婚ですもの、私ならすぐに捨てて好みの異性を伴侶にするわ」


なんという没落フラグでしょうか。もう泥棒にでもなるしかないんじゃないかな。


「今のうちに金目の物でも集めようかしら……」


……飼い主だもんな、考えることは一緒だな。


そんな絶賛お通夜状態の俺達の部屋にノックの音が響く。

メイドさんがお茶でも持ってきたのだろう。


「入りなさい」

「失礼します、お嬢様お茶をお持ちしました」


先程とは一転、何事も無い様に優雅に紅茶をメアリは口に運ぶ。

味の感想を言い、側にいないで仕事に戻るようにメイドに言いつけて――


「どうしよう!本当どうしよう!」


――メイドが部屋から出た瞬間、再び頭を抱えだした。


「切り替え速っ!というか、猫被りうまいな!」

「アンタと違って拾い食いなんかしたくないのよ!生活のレベル下げたくないよ~」

「泣き言を言うなよ、蛇とかネズミって意外と美味いんだからな」

「もっと文化的な物を食べたい!」


メアリは本当に困っているようだ。将来が不安でしかないのはどこの世界でも共通なのかもしれない。

ニートの奴が親から追い出されたらこうなるのかもしれないな。


「やぁ、待たせたね。あぁ、良い薫りだ」


なんやかんやと暇を持て余していると、ルイスが帰ってくる。

手には何やら羊皮紙が握られており、急いで持ってきたと言った感じだ。

その視線に気づいたのか、メアリはルイスの手を見ながら問うた。


「あの、それは何ですか?」

「ん?あぁ、そうだった。実はね、ギアスロールを持ってきたんだ」

「ギアスロール!?」


メアリはその言葉を聞いた瞬間目を見開いて驚いた。

どうやらスゴイらしい。俺の知識じゃ、魔術の一種ぐらいの認識しかない。

ギアスロール、前世のアニメで見た物と同じならば契約書のような物だ。

魔術的な制限によって契約を守らせる物である。これを使って騙し討ちしていたっけ、となんだか懐かしく思う。


「君も察しているかもしれないけど、立場が変わってしまうのは分かるかい?」

「……はい」

「そこで何だが、君の立場を保証する代わりに協力して欲しくてね。物は相談なんだが」


ルイスは不敵な笑みを浮かべながら言った。

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