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そろそろ、村を出よう

ある村の一角に、俺はいた。

そこは飲み水を確保する用水路の近くで、何人もの人間が畑に水をやる為に往復するような場所だ。

そこにある、誰が置いたか分からないが座りやすそうな石の上に俺は丸まっていた。日向ぼっこである。

モンスター退治を初めてもう一週間が経った。メアリは、退治する代わりに衣食住を提供して貰い、俺は近辺のモンスターを捕食するという事をしていた。


ドラゴン、つまり爬虫類である俺は変温動物寄りで一応体温は自分で作れるのだが、冬が近づくと眠くなるのだ。

寒いと眠くなる、故に日向ぼっこしているのである。そして、この場所にいる理由は喉が乾いたらすぐに水が飲めるからだ。


「ふぁ~」


働く人間どもを見ながら、俺はくわっと口を開けて欠伸をする。

この世界の人間は本当によく働く、例えそれが搾取される物だとしてもだ。

この世界は時代的に言えば、飢餓と戦争の時代だ。出来た作物は年貢のような形で貴族に奪われ、そしてひっそりと死んでいく。

ブラック企業も真っ青なのによく働く。


「偉いな……だからって、手伝ったりしないけど」


俺は余り干渉したくないのである。何と言うか、情が移ったら面倒だからだ。

この世界は夢や希望のあるファンタジーだと思ったら、意外と不幸だらけの世界だったからな。

ナオキのように目立つと良い事は無いのだ。暗殺とか危険が多すぎる。


その点、俺は目立つことなく少しずつ成長している。

俺は自分の身体を眺めながらしみじみと思うのだ。


まず、ぷよぷよの緑色のボディ。コイツはいつの間にか鱗が黒っぽく色付き、頑張れば折れる程度の固さにまでなっている。そこらの石ころや虫の甲殻、固いけど食えなくはない強度の物を食べていた成果だ。

続いては足、これは自慢の足にまで成長した。獣や虫、足の速い物を食べており毎日狩りに行った身体は引き締まり、今では前足よりも後ろ足の方が異常に大きく発達している。

そして、攻撃手段。肉食系のモンスターを食べたことにより鋭い爪を獲得し、毒ブレスという必殺技を手に入れた。

さらに、まだ慣れないが空を滑空する程度なら可能になり理想のドラゴンに近づいている。

大きさもゴールデンレトリバー程度の大型犬並みで、頑張れば大人の人間を押し倒せるぐらいだ。


「そう考えると、結構成長したな」


美味い飯と適度な運動、それが強さの秘訣。一騎当千とはいかないが、猛者程度の実力にはなったんじゃないだろうか?いや、慢心はダメだな、慢心していいのは王だけだからな。


「よし、じゃあ今日も狩りに行くか!」


日も昇り、温かくなってきたので俺は働くことにした。

この村に来てからの俺の仕事、それはモンスター討伐だ。

最初の時は情報が少なかったが、見た感じ奴らは脅威ではなかった。

アイツなら勝てる、俺の野生の感が告げるのだ。まぁ、熊に対峙した経験によるものだろう。


村から道に来て、俺は待つ。コボルトを食べてから鼻が多少は良くなったが場所が分かるほどではないからだ。

待ち伏せしつつ、魔法の詠唱をする。記憶している魔法は慣れれば即座に出来るらしいが、俺は炎ぐらいしかすぐには出せない。だから炎以外は詠唱するのだ。


暫くすると、ゴブリンが一体ブラブラと道に近づいていた。奴らは数を生かして、偵察のようなことをしている。あの一体はきっと人間を探しているのだ。

だが、連日の狩りによって奴らは個体数が少なくなったのか最近は一体か二体だ。

そろそろ、村から出れると打診した方がいいかもしれない。


ゴブリンは周囲を見渡し、人間のように少し肩を落としてトボトボ歩いている。

どうやら落胆しているようだ。今日も人間いないなぁ……と言ったところか?

まぁ、此方としては好都合だ。俺は詠唱しておいた魔法を発動する。


「喰らえ、ウォーター!」


空中に水滴が集まり、水鉄砲のようにゴブリンに飛んでいく。

威力は弱く、ただの脅しである。ダメージは与えられず、逃げられるだろう。

だが、それだ目的だ。


「ゴ、ゴブ!?」

「ふははは、ほら逃げろ逃げろ!」


水が掛かって気付いたゴブリンを俺は追いかける。

時折、軽く引っ掻いて危機感を募らせる。そのうち息を切らすが、その時は近くで止まってやる。

そうすることによって、長時間に渡りゴブリンは必死に逃げるのだ。フルマラソンの後みたいにヘロヘロのゴブリンを追いかけては蹴っとばしているが、虐めているわけではない。


俺はこの一体を追跡して、巣を探しているのだ。この一匹のゴブリンが巣穴まで逃げたら運が良く、いつものように力尽きたら食べればいいのである。


「ゴブ、ハァハァ……ゴ、ゴブ……ハァハァ……」

「オラ、さっさと走れ。ボクサーになるんだろ、はい、ワンツー」


け、けっして遊んでる訳じゃないんだからね!


そして逃走劇は終わりを告げる、そこは山に面した小さな小屋だった。

恐らく、狩りでもした時に猟師が使うのだろう。そこにゴブリンは近づき周囲を見て、ふぅーと安心した表情を見せた。どうやら、俺を撒いたと思っているらしい。


しかしだ、まさか人間の小屋を再利用しているとは予想外だった。そう簡単に洞窟なんか見つからないからなんだろう。

ふむ、まぁ今日で最後かもしれないのだからしっかり狩っておこう。


俺は長い詠唱を唱え、今度は土を操作する。目的は小屋の周囲を封鎖だ。

ある程度封鎖が終われば、屋根まで羽を使い飛んでいく。

くっ、体が重い。いや、羽が小さいのか。


「ゴ、ゴブ!?」

「ゴブゥ……」

「ん?あぁ、気付かれたのか」


どうやら着地の際に気付かれたらしい。

問題は無いので行動を続ける、俺は再び水の魔法を発動し屋根に穴を開けて放つ。

水責めである。


先程から小屋のドアをゴブリンが叩いているが、外側からしっかり補強しているので出ることは出来ない。

作りが適当なためか、水は溜まらないがそれが目的ではない。俺は毒ブレスを広範囲に使用するために放ったのだ。だから、小屋の中に毒ブレスを放ち少し待つ。

うむ、音が小さく鳴った事から衰弱しているようだが、もしかしたら濃度が薄くなっているのかもしれない。即死系の毒だった筈だが、効いてないので小屋の中に屋根から炎を魔法で放つ。

その高熱により蒸発した毒混じりの水、小屋からは紫の水蒸気が奄々と出て来た。


「これで大丈夫だろう、ふん!」


思いっきりパンチをして屋根に開いた穴を広げる。俺の身体が入れる程度になってから侵入すると数体のゴブリンがぐったりと倒れていた。


「おぉ、ゴブリンの雌か。肉が柔らかくてアボガドみたいな味がするんだよな」


今回はいつもより大量でちょっとご機嫌である。食事を終えた俺はそのまま小屋を後にするのだった。



帰ってきて、俺は村長の爺さんに小屋の事を話した、爺さんは、儂の先代くらいまで猟をしていた時に廃棄した小屋だと言っており壊して問題なかったようである。

メアリの方には、モンスターが少なくなってきたので道の安全は確保できると言っておいた。

メアリはこの嫌な視線から解放されると何だか嬉しそうで、行商人も物が腐る前に移動できると言っていた。

どうやら二人は苦労していたようで、明日には出発のようだ。


そして、村での最後の夜が終えるのだった。

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