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俺達の物語はこれからだ

死んだ、俺はそう確信していた。

だって、考えるまでも無くあの状況では死ぬ以外に帰結しないからだ。


「あれ?」


俺は六畳一間の部屋にいた。

ベッドの上で眠っており、その身体は人のそれだ。

起きて部屋を動き回れば、どこか懐かしいようなそうでもないような内装が目に入る。

ちょうど全身を写せるような大きな鏡、所謂姿見が置いてあり、俺はそこに写ったオッサンに首を傾げる。

鏡の向こうのオッサンも首を傾げており、俺は一つの結論に辿り着いた。


「お、俺……入れ替わってる!」


ドラゴンの俺とどこかのオッサンが入れ替わってしまったようだった。

もしくは、転生とか……オッサンに転生とか斬新だな。

でも、何となくだが見たことあるような気もする。

とにかく、鏡を見ているだけでは何も始まらないと思ったので、別の部屋に移動してみることにした。

ドアを開けると、今度はリビングに出る。

こじんまりとしたリビング、そんなリビングには人がいた。

よく見た金髪に赤いドレスの女、ルージュだ。


「やぁ」

「お前誰だよ、そんなキャラじゃないからな。別人だろ」

「その通りだよ外れし者、私はそうだな残留思念かな。まぁ座りなよ」


ルージュの顔で、そいつは座ることを促し笑顔を向けてくる。

渋々ながら、俺は着席して様子を窺った。

一体、誰なんだろうか。

首を傾げて思い当たる事がないか考える。

そんな様子がおかしかったのか目の前のそいつはクスクス笑ってから、説明し始めた。


「ここは君の記憶から作り出した世界だ。といっても、覚えていないようだけどね」

「そうなのか、それでアンタは」

「名前なんて元からなかった。ただ、人は私を王や神なんて呼んでいたね。呼ばされていたと言うべきか。人の王であることを設定された登場人物の一人さ」


王や神と聞いて思い浮かんだのは、管理者権限とやらを持っていた奴らだった。

ならば、はじめから会うことの無かった人の王って奴なのだろうか。

本人も人の王だって言ってるしな。


「話を続けても?」

「あぁ、構わない」

「私のキャラ設定を説明した方が話が早いだろう。私は脆弱であり、そして最も賢い存在という設定だ。だから、世界の成り立ちから自身の存在についても瞬時に理解した。そして、ある計画を建てた」

「計画?」

「神自身の自殺願望を利用した運命の逸脱。最も、自殺願望があるかは賭けだったがね」


其奴は計画とやらについて楽しそうに、嬉しそうに、それこそルージュの奴が見せることの無いような穏やかな笑みで語り始めた。


「賢過ぎる存在故に、私は自分が神という設定の創造物だと理解した。そして同時に、創造主がいることもね。自分の行動が全て操られている、私としては見ているだけで勝手に動く身体に違和感を感じたよ。もっとも、動かそうとした意思も行動も私に主導権があるんだがね。そう思わされていると自覚できる異常を持ったほどに賢過ぎたんだ」


だから、世界を割ったと奴は言った。


「管理者権限なんて設定を押しつけられた奴らの中じゃ龍王、いや龍神か。彼らくらいしか気づけてなかったね。彼は繰り返すことでバグを誘発して世界を壊そうとしたようだけど別の事象を引き起こした、異世界の証明だ」

「異世界の証明?」

「例えるなら風船かな。負荷が掛かれば膨らむ風船はいつか壊れる。そのまま壊すつもりだったのが彼の計画だったが、結果としてそれは不可能だった。割れた風船は壊れた瞬間には再生してしまうんだ。もちろん、私は予想できたからそんな無駄なことはしなかったが、私ですら予想できないことを彼はしてくれたよ。君達だよ、外れし者」


そう言って、奴は俺を指さす。

外れし者、なんだそれは……。


「割れた瞬間に入ったんだろうね。色々な予定外を引き起こす人物達、あるいは高次元の存在の残滓とでも言おうか。それはとても魅力的な希望だ。だから私はすぐに世界を六つに割った。それにより彼の計画は加速度的に進展するからだ」


管理者権限を持つ者同士に利を説き、世界を六つに割った。

天界、人界、冥界、幽界、龍界、そして無の世界。

ここは、その中の無の世界になるらしい。


「私は私自身の一部を無の世界に移植させ、残る全てを人々に因子として定着させた。人を作ったのは私だから造作も無かったよ。そして、私は高次元から落ちてくる外れし者の影響に賭けてみたんだ。そして私が起動していると言うことは成功したってことだろう」

「それは……一度ルージュがおかしくなった時のことなのか?」

「なるほど、恐らく因子が目覚めたのだろうね。そして自分の計画が始まったことを自覚し、自身が物語の一部かそれとも創造主と同じ存在か、いわゆる自身の存在証明を確認して消えたことだろう」

「アレは、何だったんだ?」

「創造主もまた被創造物であるかの確認であり、そして人が創造主である自身を滅ぼせるかの確認だった。結果として、人は私を形はどうあれ殺した。被創造物が創造主を害することの証明だよ」


そして、それが今回の結果に繋がってくる。


「創造主は人に近づこうとして、被創造物に成り下がった。物語の脚本を自動書記とでもいうか、システムに任せて、そして対等の立場となるために人になったことで自殺願望を無自覚に芽生えさせた。そこに、龍神のバグである君という存在が加わること、私の計画の成功が保証されたことで世界は帰結する」

「どういうことだ?」

「今の創造主は対等であろうとして、楽しもうとして、絶対的存在では無くなった。いや、彼もまた私の考えでは被創造物であり、彼より高次の存在が彼の死を望んでいるのだろう。私は一つ上の次元である彼が操っている事くらいは分かったけどね、今の私をさらに高次の存在が操っているかは、推測でしか把握できていない」

「なんだって?」

「彼は私を作ったつもりだったがね、私も彼も作られた存在というわけだ。そして、君が奴を倒すことも決定されている。あまりにも都合がいいくらいに、準備は出来ている。今さっきまでの君達は彼と同等のようで違っていた。それは主導権を取られていたからだ。だが、私は証明したんだよ」


奴は演説するように、大きく両手を開いて言い聞かせるように言った。


「被創造物でも創造主を害することは出来る。君という存在は予想を遥かに凌駕する。高次元の存在であり残滓である君の影響は、彼女を一つ上の次元へと到達させる要因となる。ならば、害する以上の結果を得ることは可能だろう。今や、彼女は君によって奴よりも上位の存在となったからだ。管理者権限の委譲で同等である彼女は、君という要素を足すことで奴よりも一歩先を行った。奴がXなら彼女はX+1だ」


だから、と奴は言った。


「これから奴を倒してきてくれ、そして思い通りにならならないと教えてやってくれ!ははは、ざまぁ見ろ!」


俺は奴の、そんな嬉しそうな声を聞いた。

そして、場面が変わる。

瞬きするほどの一瞬で、世界の全てが変わった。




そこは白い空間だ。

俺達が初めてやってきた、あの空間だ。

俺の横には戦う意思を持った状態のルージュがおり、そして正面には口を開いて驚いた様子で此方を見ている敵がいた。


「何故だ、死ね!死ね!死ね!」

「うっさい!」


髪が逆立ち、ルージュの怒声が空間に響いた。

それは終わりを告げる、言葉の始まりだった。


「歯ぁ食いしばりなさい!教えてやるわ、思い通りにならないって!現実は非情だってね!」

「あり得ない、これは夢だ、夢のはずだ!消えろ、消えろよ!私は神だぞ!」


一歩一歩、ルージュは頭を抱えて此方に眼中に無い男へと近づく。

そして、思い切り腕を引いた。

えっ、魔法じゃ無くて物理?


「これで、終わりよ!うらぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐがッ!?」


ルージュの拳が、奴の鼻っ柱ど真ん中を貫く。

その威力は壮絶で、奴が錐揉み回転しながらぶっ飛ばされるくらいだ。


「ざまぁみろ、自称神野郎!」

「嘘だッ……こんな終わり方ッ……呆気なさ過ぎるッ……認めない、俺すら作られた存在だなんてッ……コイツらと同じ小説の登場人物だなんてッ……」


鼻から血を垂らしながら、立ち上がることも出来ずに奴はブツブツ言っていた。

へぇやるじゃん、それに気づけるとはやはり天才か……なんてね。

でも良いことを教えてやるよ。


「お前黒幕って言ってただろ、ラスボスって言ってただろ?それって、最後にやられるって意味だからな。だから終わりだ、終わりなんだよ」

「待て、私を殺せば世界は終わるぞ!そうだ、小説は更新されない、最終回って奴だ!世界が継続しないなんてゾッとするだろ!考え直すんだ」

「そしたらまた新しいのを書けば良いだろ。何なら俺達がお前の代わりに神になって、世界を書いてやるよ。そうだな、ドラゴンの使い魔になって最終的に神をぶっ飛ばす今みたいな状況なんてどうだろう?」


それはなんだか楽しそうね、と俺の横でルージュが言った。

あぁ、自己満足だろうがきっと楽しいだろう。自叙伝って奴だな。


「じゃあな、また会おうぜ自称神様」

「アハハハ、無様ね!勝つのはこの私、私だったのよ!そう言う設定に、アンタがしたんでしょ!ざまぁ!フハハハハ、ゲホッ!?ゴホッ、ゴホッ!?」

「最後に締まらないから調子乗らないでくれるかな、本当の本当にじゃあな」


そう言って、俺は自称神とやらに牙を突き立てた。

程なくして、奴の息の根は止まった。

世界は壊れる、なんてことも無くそのまま何事無く継続するだけであった。

敢えて言葉にするならそうだな、ここは様式美に従って言おう。


「俺達の物語は、まだまだこれからだ」

これにて完結、読んでいただけてありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたらありがたいです。

この文を読んでいるのなら稚拙な所もあったにも関わらず最後まで読んだと言うこと、本当にありがたいことです。

本当に本当にありがとうございました。

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