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事件が発生しました

作戦は単純な物だ。まず、保存食である干し肉を俺が口の中に入れる。そして、よく噛んで道端にペッと吐き捨てる。毒肉の完成だ。


「ねぇ、こんなんで大丈夫なの?」


道の傍、茂みの中で不安そうにメアリが聞いてきた。俺は記憶の中から戦ってきたモンスター達との経験を思い出しながら言った。


「確かにある程度のレベルからはダメだ。しかし下位のモンスターなら空の王者ですら食べたのだ」

「また冒険譚?」

「俺は生肉で眠らせたりして、爆弾でスタイリッシュに戦ったものさ!」

「……っていう妄想を見たのね」

「なんだと!」


この女、パートナーである俺の言葉を信じてないだと!?

いや、仕方ない事かもな。俺も初めて飛行機に乗った時は鉄が飛ぶのに驚いてずっと外の景色を見たくらいだ。自分の常識が通用しない者は信じられないからな。

とはいえ、このままでは来ないかもしれないので少し工夫をする。

そこらの枝を集めて魔法で引火しといたのだ。これにより焚火に釣られた奴らが、俺人間喰う!的なノリで集まってくれること間違いないのだ。


「あ、来たかもしれない」

「おぉ、何と言うグリーン」


体感で一時間も掛からないうちに奴らは現れた。体色はカエルに近い緑色。体長はニホンザルほどだ。

もしかしたら、ニホンザルを緑色にペイントしたと言ったら信じられるかもしれない。いや、まぁ顔はオッサンっていうか、ゴブリン顔なんだがな。ゴブリン顔、それ以外にうまく言えない顔なのだ。


「あ、匂い嗅いでる」

「……勝ったな」

「お、食べた……倒れた。あれ、ホントに食べちゃった」

「流石、効き目早いな!」


俺の特性毒肉は、ゴブリンを即死させた瞬間だった。

しかし、仲間が死んだ瞬間。他のゴブリン達はギョッとした顔をして、ゴブゴブ鳴きだした。

……え?


「あるぇ?」

「うわぁ……私生理的に受け付けないけど、流石に引くわ」

「いや、でもさ。モンスターじゃん、殺すしかないだろ」

「モンスターだって……生きてるのよ」


何故俺は諭されているのだろうか?でも、まさか仲間を食わないなんて俺の知ってるゴブリンじゃない。

本で見たのと微妙に……ハッ、これが孔明の罠か!


「というかダメじゃない。これじゃあ、オークやコボルトも倒せないわ」

「いや、行ける。次こそ行ける」

「アンタ人間ならギャンブルで破産するタイプだわ」


し、失礼な!前世じゃ、たまには勝ってたわい!


「ゴブ?ゴブブ?」

「ゴブゴ?」


その時ゴブリン達の声が聞こえた。そう、それはまるで何かに気付いたような声音だった。

どうしたのだろう、と視線をゴブリンに移せば俺達を指さすゴブリン。

……目と目が合ってる、こりゃヤベェ!


「やばい、気付かれた!……あっ、今の良くない?一度は言ってみたい台詞じゃない?」

「燃えろ、ファイアー!」

「ちょ、え?」

「ファイアー!ファイアー!もう一回ファイアー!」


ゴブリンが叫びながら襲おうとした瞬間、その口内に火の玉が飛んでいく。

薪などを燃やす種火程度のそれは、見事にゴブリンの喉を焼いた。しかし、そこで終わらぬのが我が主人。

今度は隣のゴブリンの眼球に命中、畳み掛けるように倒れた二体のゴブリンに魔法を当てていく。

魔法は衣服を燃やし、生きたままゴブリンを焼いていく。これは……


「オーバーキルじゃないですか?っていうか、さっき俺を非難してたのに――」

「――仕方なかったの、もう生理的に受け付けないんだから!」

「いや、ちょ、えー?言動と行動が一致してないよ!全然信じられないよ!」

「…………」

「おい黙るなよ、無言で杖向けるなよ、待て話せば分かる」


説得が出来たのか、渋々と言った形でメアリは杖を下げてくれた。心なしか残念な表情である。

なんで渋々なの?何で残念そうなの?



「あ、また来た」

「おぉ、二足歩行の犬だ」


続いて現れたのはコボルトだった。大変手先が器用で温厚な魔物だ。彼らは見た目凄く犬に似ている。

というか、マルチーズが二足歩行って言ったら良いだろう。


「何あれ可愛い、飼おう!」

「だ、ダメよ!どうせお世話できないでしょ!っていうか俺の立場がな」

「あっちの方が可愛いもん、可愛いから絶対世話するもん」

「おい待て、俺が可愛くないから世話しないのか。こっちを見ろ、こっちを見ろよ!」


わんやわんやと俺達が口喧嘩していると、コボルトの鳴き声が響く。

……コイツはヤベェ、またバレたか?


しかし、それは杞憂だった。彼らはどうやら仲間を呼んだようで最初は三体だったのにいつの間にか倍の六体になっていた。みんなで分け合う、何て温厚な……


……分け合う?何を、それはゴブリンだろう、と言う事はだ……


「あわわわわわわ」

「おー、やっぱりか。これは酷い」


黒焦げではなく、毒で死んだゴブリンに六体が囲むようにして貪りだす。

そういえば彼ら野生動物でしたね、ペットフードじゃなくて生き物が主食ですもんね。

内臓や血を撒き散らしながら彼らはゴブリンに食らいつき――


「「「キャウン!?」」」


――毒で死んだ。


「スイーツ、てか……」

「やっぱりアンタで良いわ。というか、当分犬は見たくない」

「ですよねー」


ゴブリン人体発火事件に続き、コボルト食中毒事件が終わって、数時間。

俺達は余った干し肉を、噛みながらじっと観察していた。なんだろう、すごく張り込みみたい。


「メアリさん、犯人に動きは?」

「はぁ?」

「アンパンには牛乳ですよね?おい、なんで離れる。ちょっとは構えよ、暇なんだからさ」

「しょうがないな、ほれお手」

「わん!……ってアホかー!ノリツッコミしちゃう俺もアホだけどさ!」

「シッ、何か足音っぽいのが聞こえる」


茂みの中から、彼女は真剣な眼差しである一点を見つめた。

視線は偶に周囲を警戒するように動き、バレ無い様にコソコソと身を隠す。そう、その姿は――


「どう見てもストーカーです。本当にありが、イテッ!?」

「煩いわよ」


彼女が聞いた音、それはオークの足音だった。体重の乗っているのか結構大きな音で、どこにいるかすぐ分かった。豚の顔に腰布一枚。何だかプランプランとピンクのナニかがチラリと見える。

心なしか、メアリが顔を赤くして俯いている。初々しいな、もう……


「何見てんのよ」

「いや、別に……ブフゥ」

「おい、笑ったな。今からお前投げ入れてやろうか?」

「心の底からごめんなさい」


この主人ならやりかねない。その確信があった。

さて、件のオークだが奴らは雌一体、雄二体の合計三体だ。

彼らは何やらコボルト達を見ている。徐に一体がしゃがんでコボルトの首に手を添える。

まさか、鷲掴みで直接口に――


「脈が無いようだ」

「ジャック、外傷も見当たらないから魔法じゃないか?」

「この戦闘痕、間違いないわね」


……ちょっと、待ってくれ。何でそんな流暢に喋るんだよ。もっと、ブヒブヒ言うもんだろ。

ゴブリンなんかゴブゴブ言ってたよ。なんかおかしいだろ。


「オークって、見た目の割に頭がいいのね」

「そんな筈はない。いやでも、服とか来てるし知能も悪くないのか?」

「あ、何か鍋出した。すごい、焚火してる」

「おいおい、マジかよ。アイツら料理できんのかよ」

「お酒まである。何か私達より文化的なんだけど」


おい、干し肉を見ながら言うんじゃない。きっと冒険者の真似事をしてるんだ、奴らにそれほどの知識は無いはずだ。だから文化的に負けてるんじゃない、たまたまだ。


「ジャック!ジャァァァック!」

「マックス、もう私達ダメかもしれない」

「ナンシー、諦めるな。まだ人間の解毒薬が――」


おっそ、調理したから毒が弱いのかな?まぁいいや、喰らえ!


「ポイズンブレス!」

「に、人間!?アガァ……ど、毒?」

「ぐぁぁぁぁぁ」

「畜生……死ぬ」


紫色の粘液に包まれて、オーク達は悶え死んだ。取りあえず、今日の晩御飯は豚肉のようです。



「知ってた、オークって初めて倒した獲物の名前を名乗るのよ」

「知らなかった、じゃあオークの雌って胸が六つあるって知ってた?」

「…………知りたくなかった、気持ち悪い」

「なんか、ごめん」



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