白黒の境界
いつの間にかいなくなった鋼鉄の軍勢を余所に、肉塊からドラゴンらしい形へと復活を遂げた俺は姿を透過して探索を開始した。
探索を開始して最初にしたことは空を飛び、都市全体を見ることだ。
上空に上がると東の方で光が溢れていた。
それは戦闘が繰り広げられていたからであった。
どうやら、あのAI搭載済みのロボット軍団が別のロボット軍団と争っているようであった。
ロボットとロボットが争っていて、もう訳わかんねぇーなと言った状況である。
だが、それよりも気になったのは南の方向にある白黒の空間だった。
空も、都市も、まるで円で囲んだ場所だけ色を白黒にしたかのような場所。
その中、空を飛んでいる鳥は微動せず、車から降りた人間は走った状態で静止している。
時間が止まったと、そう直感的に理解できる代物だった。
実際に、その近くまで行き触れてみる。
「これは、干渉できないのか?」
どういう理屈かは分からなかったが、爪先で色のある世界から白黒の世界へと手を突っ込んでみれば途中で阻まれた。
丁度境界線上、モノクロとカラーの間に壁があるのだ。
触れた場所には波紋が走っては消え、触れるたびに波紋は発生している。
その水面とも壁とも思わしき物が、進入を阻害しているのだ。
「だから何だよ」
難しいことは考えず、取りあえず殴った。
殴り続ければきっと壊れるから、壊れた後のことは壊れてから考えると言うことで殴り続けた。
そのうち、ミシリと何かが軋むような音がしたので間違っていないと確信し、更に殴る。
いつしか、殴られた水面には波紋が大量に生じており、常に空間が揺らいぐ水面のような状態だった。
「グオォォォォォ!」
横合いから影が迫る、竜だ。
機械に覆われた竜がいつの間にか虚空から現れ、殴りつけてきた。
拳が皮膚を突き破り、頭蓋を粉砕していくところで制止する。
俺の身体がその拳を覆うように絡みついたからだ。
「っ……痛ってぇなぁ!」
「…………」
俺の頭部から拳を引き抜こうと藻掻く其奴に、今度はこちらからと言わんばかりに拳を振りかぶる。
しかし、その時空気を押し出すような掠れる音が聞こえ視界が白く染まる。
「これは……」
目の前にあるそれは水蒸気、出所は奴の腕だった。
腕から水蒸気が吹き上げ、腕から駆動音が響く。
パージ、腕が切り離されるように外れたとそう理解した瞬間に奴は消え、二度目の衝撃が逆側から通った。
「……くっ、この!」
「…………」
苦し紛れに放った尻尾は弧を描き、回り込んで敵へとぶつかるはずであった。
しかし、やはりそれは避けられ宙を撫でる。
虚しさを胸中に抱かせた相手は、今や遠く離れた場所だ。
……やはり、空間を瞬間移動している。
いつの間にか半ばまで取り込んでいた腕は消え去っており、奴の切り離された腕にくっついていた。
復元とは違う、一部欠けた部分から同一の物だと判断できるからだ。
であれば、あれは飲み込もうとしていた頭部から一瞬で元の場所に転移された代物と言うことになる。
「瞬間移動を駆使する敵か、そして俺はお前を知っているぞ」
「…………」
「俺のように機械化させられた竜の成れの果てだ」
途切れながら記憶の片隅で何度か写ったドラゴンだった。
迫り来る敵に一緒に出撃した、いわば同僚と呼べる代物だ。
まぁ、そこに意思はなく人に操作されているだけではあるがな。
「グオォォォォォ!」
「来るか!」
機械竜から雄叫びが発せられる。
同時に、音を立てて身体の各部から穴が空きそこに光の点が灯った。
何かが来る、それを確信すると同時に今いる場所から離れた。
「ッ!?」
身の一部が焼け落ちる。
それは擦った光の線に削られたからだ。
光線兵器、レーザーだ。
ならば、と此方は口腔へと魔力を貯めて息を吸う。
「喰らえ!」
ドラゴンブレス、同じようなレーダーが口腔から放たれる。
違うとすればそれが科学的な物か魔法的な物かの差違でしかない。
赤黒い極太の光は地面を触れずに余波で削りながら、奴の身体へと正面から近づいていく。
「ガハッ!?」
……何が!?
身体の至る場所が貫かれ、状況の変化に動揺する。
気配も何もなく、いきなり攻撃を受けていたのだ。
どこからなどという判断も出来ない、何故なら前兆すらなかったからだ。
だが、その答えも次の瞬間に分かる。
「アァァァァァ!?」
上から、途轍もない魔力の本流が襲いかかってきたのだ。
灼熱の滝が、上から押し寄せるように背中を焼きながら地面へと叩きつけた。
それは紛れもなく俺の放ったドラゴンブレスだった。
……クソ、空間転移か!
初めのダメージ、あれは避けたはずのレーザーを転移させ至る所から打ち出したからだ。
そして、次の攻撃は俺のドラゴンブレスをそのまま頭上へと移動させた。
「だからどうしたってんだよ!こちとら、パワーインフレ上等な世界で生きて来たんだ!」
体表面に魔法陣が幾重にも展開される、同時に敵の身体にも魔法陣が展開された。
魔法陣が輝き、それに伴い傷が逆再生していく。
そして、敵にも変化があった。
「グァァァァァァ!?」
初めて苦悶の声が上がり、敵にも痛覚があるのかと溜飲が下がる。
少しでも苦痛を与えることが出来たのであれば、少しくらいは痛快という物だ。
「何が起きているのか分からないようだな」
攻撃を受けたわけではない。
だが、攻撃を受けたという結果が徐々に身体に刻まれていく。
俺の傷があった場所に傷がある、貫かれてないのに貫かれた痕が出来る。
俺の傷が治ると同時に、敵の傷が発生していたのだ。
「グアァァァァァ!」
「来いよ!」
防ぐには魔法陣の破壊しかない。
だが、その方法を奴は知らない、当然搭乗しているであろう人間もだ。
だから、最後の方法として突撃にて此方を殺すことで防ぐ手立てに出た。
奴の身体、後方へと粉塵が舞い極光の炎が吹き出す。
ロボットらしく、ジェットで加速したようであった。
機械の竜がまずは腕を捨てた。
パージし、四股が外れる。
来るのは口を開いた竜頭と胴体、だが腕を削ぎ落として速度を上げた訳ではない。
切り捨てられた腕は独りでに飛び立ち、先攻するように飛び出した。
飛び立ち、追いつき、追い抜き、そして待ち構えて走り出す此方の身体に突き刺さる。
両手両足を拘束するように、奴の両手両足が噛みつくように突き刺さった。
「こんな物ォ!」
吸収することでどうにかしようとするが、しかし与えられた推進力までは殺せない。
身体を押し止められるという結果になることは明らかだった。
だから、此方も両手両足を捨てた。
「ッ!?」
意思なき機械竜から動揺の気配を察した。
それは、スライムのように粘体となった四股のせいだ。
ゲル状の身体、突き破るように機械竜の腕は彼方に飛び去ったのだ。
センサーでも付いているのかしばらくして旋回するが、その一瞬でゲルは元の姿へと変わる。
一時的なゲル化、それによって拘束を解いたのだ。
「終わりだぁぁぁ!」
鎌首を持ち上げる蛇のように、仰け反り敵を待ち構える。
そこに来るのは単身突撃を噛ます胴体だけの竜だ。
両足が地面に突き刺さる程に地に足を付け、その突撃を掴み押さえる為に腕を広げる。
刈り取るように俺の両腕が左右から敵を穿った、しかし敵もそれを避けるように動く。
「グアァァァァァ!」
最後の咆吼とも取れるそれは機械竜の更なる加速の合図だった。
胴体へと突き刺さる両腕、その瞬間に首が離れた。
爆発する胴体の爆風を背に、飛び出したのだ。
此方が胴体を捉えるのは予測済み、そんな不確かに思える賭けも科学の力を持ってすれば計算し予測できるのだろう。
「……見事」
例え自分が死んでも此方を殺せば良いとでも思ったのだろうか、喉へと噛みついた竜の頭部に俺は……だが甘いなと思った。
既に改造されすぎて、元の肉の身体など無いに等しいそれ最後だけは自分の意思で動いたのだろう。
確か首から下にパイロットがいるはずだから、胴体と一緒に死んでるはず。
「だがやはり俺の方が一枚上手だったよ」
そんな同胞だった物の最後は、縦に割れた俺の胴体と牙のように配置された肋骨の中に飲み込まれるという物だった。




