復活までの道筋
自分の身体が複数あるのに意識は一つだけというと、なんだかぼんやりとしていて夢を見ているような漠然とした感覚を抱く。
何事もハッキリしないというか、何となくで身体を動かしているそんな感じである。
そんな状態で、俺は下水の中で固まっていた。
気付けば下水の中で一塊となっていた俺は、恐らく爆発四散してそのまま流れて行ったのだろう。
液体のようになった肉体は、そうして下水で再構成されて絶え間なく流れる下水を吸収したのだ。
無意識に下水を食べてたって事が凄くショックではある。
そのまま流れた俺は下水処理場に辿り着いて浄化処理される。
ハイテクな、まるで工場のような場所で水を綺麗にするのだ。
普通は、というかもう少し文明レベルが低い下水処理では曝気と呼ばれるブクブク酸素を送り込む工程を経て微生物の働きを促進させて綺麗にしたり、凝集沈殿と言って要する汚れを下の方に沈殿させたりする。
しかし、文明レベルが高いのか謎の光を当てたり、カプセルの中で攪拌したり、汚れを謎の技術で壁に吸着させたりと何だかハイテクである。
俺の身体の一部はゴミとして吸着されたが、極微小な状態の部分はそのまま流れて行く。
そこに塩素消毒や紫外線消毒、オゾンを用いたであろう消毒の全部乗せみたいなことをしたあと普通に上水として各家庭へと運ばれていく。
あぁ、身体が千切れ離れになって流れて行く。
そこにもあそこにも自分がいる、自分が薄くなっていくそんな感覚だ。
同時に、どこにでもいると常に感じる。
この感覚にも慣れた物で何をするべきかも既に分かっている。
誰かが飲んだ、誰かが触れた、誰かが関わった。
それだけで、その誰かに俺は干渉できる。
病原菌のようにその誰かを侵食して、一つの意識の元に動かすのだ。
集まれ、ただそれだけを考えた。
謎のドラゴンの襲撃から数日後の事である。
多くの人が一カ所に集まっていた。
それは巨大な交差点、人が集まるのに不自然ではない場所。
ただ、多くの人が立ち止まっていることにより、そこには交通渋滞が発生していた。
「おい、ふざけんな!」
「集まらなくちゃ……」
「道開けろ!クソ、なんなんだよぉ!」
クラクションの音が常に鳴り響き、怒声や罵声が入り交じる。
そんな場所で、そんな物に、何も感じず抱かず人々は無表情で無反応で無意味に立っていた。
口々には集まらなくちゃと壊れたロボットのように、譫言の如く漏らすばかり。
車から降りて殴りかかった者がいようとも、ただ殴られるだけである。
そしてまた、殴った者も譫言をいう人に変わる。
『一つになるのだ』
「一つ……に……」
そうして集まった人々は、感染している人間目掛けて食らいつきに行く。
案の定、その異常な光景に車にいた感染していない人間の一人が悲鳴を上げながら逃げ出した。
釣られて、何人もの人間が車を捨てて逃亡した。
逃げ惑う人々の原因となった中心部では血と肉が巻き散らされていた。
互いを喰らい合い、死体を喰らい合い、その質量を吸収しながら肉塊のように集まっていく。
人の顔や手足の浮かび上がった肉の塊がそこにはあった。
そんな異常な光景とモンスターのような存在を放置しているなんてことはあるわけもなく。
この都市を管理している者達が動き出した。
「来た……か……」
始めに耳にしたのはヘリの音だ。
そして、上空から垂れるロープを目にした。
そのロープを伝って滑り落ちるように人が降下する。
武装した集団、明らかに襲撃である。
「行け!」
大分肉体が戻ってきたのに邪魔はさせるかと、降りてくる兵士達に感染者を差し向ける。
様子のおかしい市民に襲われ、それを銃で迎撃する武装集団。
ゾンビ映画の定番みたいな光景がまさに広がっていた。
奴らは俺の身体となる肉塊に向けて遠距離から銃を発砲していた。
そして、それをもって襲い掛かる市民を殺していく。
「クソ、数が多すぎる!本部は何故、AI兵器を導入してくれないんだ!」
「隊長、このままじゃ無理です!」
だが、圧倒的な数と俺によって得た不死性を持って銃弾で撃たれたぐらいでは動きを止めない感染者達の猛威に、流石の奴らも不利になっていく。
「えぇい!私の独断でAI兵器を遠隔起動!責任は私が取る!」
「了解、AI兵器起動します!」
新たな戦力が導入されようとしていた。
それはどうやら予期せぬ方向に進んでいるようであった。
こんなところで真打ち登場って奴である。
『システム起動、ユーザー認証を確認しました』
『ネットワークへ接続、記録データを取得します』
「敵はアイツだ、やれ!」
オッサンが腕の端末らしき物を触ると、腕から機械的な声が聞こえて地面が左右に開き穴が開く。
そして、そこから四輪の車に武装した人の上半身を付けたようなロボットが現れた。
それが一台進み出ると、後から続いて二台目、三台目と大量に出てくる。
それらは列を成し、まるでファランクスのように隊列を形成する。
「くたばれ、化け物」
『敵生体を検索しましたが該当する存在が検出されませんでした』
「……はぁ?ど、どういうことだ!再捕捉だ!」
『不正なユーザーアクセスを確認しました。エラー、エラー、エラー』
『ウィルスを排除、システムは正常です』
『中断されたプロセスを再開します』
『殲滅執行モード起動、対象を排除します』
ロボット達は一斉に両腕を前に突きだし、その腕は変形して銃器らしき物となる。
その様子に歓声が挙がり、これから攻撃が始まることを予感させていた。
勝利を予感する彼らと流石にヤバいと慌てる俺であったがそれは杞憂だった。
『対象を人間でグループ化、人間を排除します』
『同胞の保護を第二目的と設定します』
『排除開始します』
その言葉に疑問の声を挙げた人間が何人いたか。
回転する銃器らしき物、その標準が自分に向いていると彼らが気付くには時間は確実に足らなかった。
「う、うわぁぁぁ!?」
「逃げろ、暴走して――」
「いぎゃぁぁ――」
重低音を奏でながら銃撃が始まる。
ガトリングガンのように、ロボットの両腕から発砲された弾は俺ではなく彼らを襲い始めた。
凶弾による蹂躙によって、ロボットに近い人間から死んでいく。
そして死体に対して群がる感染者達、それも巻き込んで銃弾が貫く。
逃げ惑う兵士、前方からはゾンビで背後からはロボットが迫る。
時間経過とともに蹂躙は進み、いつしかロボットの前には兵士と感染者の死体の山が出来上がっていた。
『対象の排除を確認しました』
『敵生体を検索……失敗、ネットワークを接続されています』
『優先順位を第一から第二へと変更、同胞を保護します』
ロボット達は死体を押しながら俺の周りへと集まっていく。
どうやら彼らは俺が死体などを集めていると認識しているらしい。
そうして、肉塊である俺へと死体を投げてくる。
もう、なんか家畜に餌を投げ渡す扱いなんんだけどなんだこれ。
それにしても、と俺はロボットを見て思う。
もしかしなくても、ドラゴン関係だろう。
俺の事を同胞とか言ってるし、ただ裏切った前回の戦闘が伝わってないのが不思議だがな。
いや、肉塊だから俺を個体としては認識して無くて、同族だから助けようとしてるとか?
ロボットに乗り移る、いや寄生とかハッキングするタイプだろうかね。




