支配からの卒業
意識が覚醒する。
あぁ、またかと自分が気絶させられていたことを自覚した。
目の前には二体のドラゴン。マグマに覆われて全身が燃えているようなドラゴンと氷に覆われて全身が凍っているドラゴンがいる。
どちらも蛇のような姿で、奴等が進んできた跡にはマグマと氷が残っている。
相変わらず肉体の主導権は俺にはなく、FPSでもしているのかのように戦場を見ているだけだ。
脳の中で直接弄れるようにされているというのが問題であった。
魔法か何かだったらこっちでどうにかできたかもしれないが、完全な科学らしきものだ。
科学なんて知識がなければ何してんのか分からない。魔法だったら分からなくてもどうにかできたのだが、まぁ元から良く分かっていないのが魔法だからな。
感覚でどうにかできるかできないかでしかない。
隣には、何故か新しいロボットらしき物があった。
剥き出しの筋肉に鉄板やチューブなどが付いている、ゾンビを改造してサイボーグにしましたと言える様な外見のそれだ。
特徴的なのはどこかで見た事あるような銀色の流動体で出来た腕である。
というか、以前宇宙で戦った敵じゃないだろうか。
恐らくだが俺のような状態で銀色の流動体も利用されているんじゃないだろうか。
そんな予想をしつつ戦況を見守る。
『二手に分かれるぞ』
『分かった』
二体のドラゴンは左右分かれるようにして移動を開始する。
声の主は、考えなくても分かるとおり二体のドラゴンだろう。
彼らの声が聞こえていないのか、此方は互いを見合った後に片方の機体は氷のドラゴンへ、俺の方はマグマのドラゴンに向かった。
マグマのドラゴンの赤い色が濃さを増し、熱せられた鉄のように輝く。
口を開き、その赤い咥内を此方へと向ける。
ドラゴンブレス、間違いないと俺は確信して逃げようとするが体は動かない。
結果、光が俺を包み胸から上にかけて焼ける痛みが駆け抜ける。
『グゥゥゥゥ……』
『何、どういうことだ?』
思わず俺が声を上げると、困惑する声が聞こえた。
ドラゴンの攻撃が急激に止み、動揺する様子が視界に入る。
奴は、俺の声に攻撃の手を止めてくれたのだ。
……言葉が通じるのか?
ならば、と意思疎通を図ろうとするがその前に背中の方からミサイルが飛び出した。
更に両腕を奴に向けて、機関銃のように光る銃弾を連射する。
『アンタ、助けてくれ……』
『やはり、声が……そうか、貴様か』
攻撃に身を晒されながらも、俺の方へと意識を向けてソイツは答える。
やはり、俺の声は何故か届いている。
『何をしている、殺せ!』
『しかし、コイツは……』
『貴様、死にたいのか!』
視線が激しく揺れて景色が入れ替わる。
急激な痛みから、自身が横転していることに気付く。
視界の端には、間近に迫る青いドラゴンの頭部。
ブレスが俺に向かって放たれた。
『何を……』
『殺してやるのが情けだ!』
視界の端が暗くなる、感覚もなくなり激しい痛みと冷たさに襲われる。
俺の右半分が凍り付いていた。
どうやら俺の声は赤いのだけでなく、青いのにも聞こえていたようだった。
ドラゴンだからなのだろうか。凍結が進み、氷が身体を侵食していく。
それと同時に頭部から首に掛けて断続的な痛みが走る。
まるで、内側から何度も何かがぶつかる様な痛みである。
『首だ、首を刎ねてくれ!』
『何だと……』
俺は思いつきでその言葉を発した。
俺の中にある異物、それによって俺の身体の自由は奪われている。
そして、それがある頭部の方からの痛み。
これは、俺を操っている何かが外に出ようとして何らかの不具合で出ることが出来ないための痛みなのではないのだろうか。
『俺には……』
『今、楽にしてやる!』
何かに葛藤するように動きを止める赤いドラゴンと違い、鋭い牙を突き立てる青いドラゴン。
首に噛み付き、左右に揺するように深く牙を刻み込んでいく。
激しい痛みを伴うが、だが同時に断続的な痛みがなくなった確信があった。
そして、身体の自由が戻ってきた。
『痛いっての!』
『グッ!?』
俺は自分の首に噛み付いている青いドラゴンに向けて機械のような腕を叩きつける。
その予想外の攻撃に思わず青いドラゴンは仰け反った。
いや、感謝はしてるけど痛いのを我慢するのは違うだろう。
『貴様!』
『いや、助かった。だからもういい』
自分の身体の事がなんとなくだが分かる。
身体の至る所に違和感が残るというか、ギブスなどを付けて入るような感覚だ。
上手く噛み合っていない、身体に合っていないそんな印象だ。
だから、一度取り込み適応化していく。
俺の身体が液体のように溶けていく。
肉体の表面を覆うように各所に付けられていた機械の表面に湧き出るように付着する。
それは鎧の内側からスライムが溢れ出す様な光景に近いだろう。
粘性生物が鎧を侵食していく光景に近いかもしれない。
外から見れば、黒い球体に機械の部品が沈んでいるように見えるだろう。
『なんだこれは!?』
『取り込んでいる、吸収が貴様の能力か!』
傷も欠損も、一度リセットしてなかったことにする。
沈み込むように機械を取り込むが、ダメージが大きかったのか使える部分が少ない。
あと、気付かない間に肉体を持ってかれていたようだ。
俺が回復に勤しんでいると、今まで何をしていたのか一緒に戦っていたロボットが動き出す。
その流線型の腕を光り輝かせながら、ドラゴンの方へと向かっていく。
あの腕はこの前の宇宙で見た奴に似ているアレだ。
ロボットはその光り輝く腕をドラゴンへと伸ばす。
その輝きは増していき、目が眩むような程に輝いていた。
『グァァァァ!?』
『大丈夫か!』
ドラゴンの皮膚に輝く銀の腕が触れると、熱した金属を水に入れるような音がした。
同時に、青いドラゴンの体に溶けるように腕が沈み込んでいく。
赤いドラゴンが慌てて応戦する為にロボットへと絡みつくように動く。
その赤熱した体はロボットの体を焼け焦がし、徐々に溶かしていく。
『俺、なんか手伝ったほうが良い?』
『手伝え、馬鹿!』
『あっ、お前馬鹿はないだろ馬鹿は』
確かに青いドラゴンは明らかに身体が凍りみたいな構造なので溶けて死にそうだけど、俺ってば他人だからな。
後、助けようとして身体からマグマみたいなの出して溶かそうとしてるけど死に掛けてる青いのにも影響出てないですかねぇ。
『もう面倒だなぁ』
身体は足りていないし、どうせ敵対するだろうドラゴンを助ける義理はない。
ロボットの方も、今まで身体の自由を奪っていた奴等の仲間なので協力する気はない。
なので、まとめて倒すことにした。
俺の身体が爆発するように広がり、触手のような形になってドラゴンとロボットへと向かっていく。
ドラゴン達は、所詮は獣なのか警戒する素振りすら見せない。
勝手に同族認定しているからか襲われないと安心しきっているようだ。
気付いたのは表面にまとめて纏わり付いてからだ。
『き、貴様!我々ごと取り込むつもりか!』
『裏切り者め!ガァァァァ!』
『俺達、仲間でも何でもないだろうが……』
呆れながらも奴等を吸収しようとするが、俺の身体と熱の相性が悪いのか赤いドラゴンとロボットの銀の腕だけ中々吸収が進まない。
青いドラゴンやロボットの生体パーツのような物は既に形を維持できないくらい溶けている。
『タダではやられはせんぞ!』
『少し黙れ』
体の半分くらい溶けているのに減らず口を叩くしぶとい赤いドラゴンを覆うように飲み込んでいく。
これで少しは大人しくなると思ったのだが、考えが甘かったのか俺の体に異変が起こる。
内側が痛いのだ、まるで腹痛みたいに胃の中がズキズキするような感覚だ。
『胃もたれか、熱い物を食べ――』
自分の身体の事を考えていたら、全身が激痛に包まれた。
何事だと感覚器を作り出して周囲を見れば、飛び散る俺の肉体。
どうやら、自爆されたようだった。
爆発オチなんて最低ー!




