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ドラゴンになりました、使い魔らしいです   作者: NHRM
冥王世界・大罪の魔女編
169/182

可能性との戦い

神と名乗っていた男の肉体がポリゴンのように砕けて、近くに立っていた男である朧の元へと向かっていた。

吸い込まれる様に、朧に触れるとそれは溶けて行く。

その光景を、朧はさも当然のように受け入れており、何かを実感している様な面持ちになっていた。


「ねぇ、ヤバいんじゃない?痛ッ!?」

「飛鳥は下がって……いや私の指示に従いなさい」

「うお、勝手に動くな!」


何やら後ろでルージュと飛鳥が揉めているが、その理由は何となく分かったので置いといて俺達は朧の方を向く。


「なんでアンタ……」


その先の言葉はなんだろうか。

ここにいるの、それとも生きているのだろうか。

そもそも、神とやらの話しすらついていけてない状況でいきなりの展開に反応できない。

俺達が困惑していると、朧は閉じていた目をゆっくり開い感慨深そうに口を開く。


「これが管理者権限、おっとすまない待たせたな……」

「まさか、アンタ」

「うん?あぁ、管理者権限を奪わせて貰ったぜ」


そう言って朧は不敵に笑う。

首を斬り落とした刀を肩に乗せて、愉快そうに笑っていた。

そのどこか怪しげで何かを企んでいそうな雰囲気に、俺達は緊張していた。

コイツが何をするのか警戒していると言っても良い。


身構えるように、俺達の身体が自然と朧に向かって構える。

確信があったからだろう、この後戦うという確信だ。

だが、戦う事が確定していたとしてもその理由は分からない。

故に、ルージュがそれを聞く事も自然な流れだった。


「管理者権限、とやらが欲しかったみたいだけど。私からも奪うつもり?」

「ご名答、俺はその為に生み出されたからな」

「生み出された?やっぱり、何か目的があるのね」


生み出された、つまりコイツを作り出した奴がいる。

ソイツはここにいた自称神から管理者権限を奪わせたかった。

そして、他の管理者権限も求めている。

そこから推測される答えは一つしかない。


「アンタの後ろには竜王とやらがいるのね」

「その通りだ。俺は竜王様に生み出された十二使徒の一人、目的は転生者を狩る様に仰せつかっている」

「そこら辺、詳しく聞きたいけど素直に喋ってくれなさそうね」


だから、仕方ないわね。

そう言いながら、ルージュは殺気を全開にして獰猛に笑った。

始まる、どちらかが動いた瞬間に戦いが始まる確信があった。


「喋ってやるよ、俺に勝てたら……な!」

「ッ!?」


先に動いたのは朧の方だ。

肩に乗せていた刀をそのまま乱暴に振りぬいたと思ったら消えていた。

朧が先程までいた場所には、横に黒い直線が走っている。

それが、朧が消えたように見えた何らかの要因であることは確かだ。


「朧の気配が……消えた?」

「上だッ!?」


訝しむルージュの横で、俺は突然上に気配を感じた。

声を発すると同時に、ルージュは確認するまでもなく後退する。

慣れた動きだ、転移を使う相手に対しての経験がさせる。

後退するルージュ、その目の前に一閃。

黒い太刀筋が振り降ろされる、朧だ。

朧は逃げるルージュを笑いながら視認し、返す様に刀を振るう。


「オラァ!」

「チィ!?」


刀が鋭い太刀筋でルージュに迫る。

それに対し、ルージュは腕を交差する様にしてガードする。

その体勢に入った瞬間から、滲み出るように腕から血が流れる。

出血ではない、それは守るために血が装甲になろうとしているのだ。

当たると完成は殆ど同時だった。

肉を割くであろう刃は、赤い装甲を完成させたルージュの腕にぶつかり弾かれる。

まるで、岩や金属にぶつけたように固い物とぶつかった時、特有の音を出しながらだ。


「血の鎧か!」

「ハァァァァ!」


反撃、とルージュが弾かれて体勢の崩れた朧に肉薄にしようと動く。

僅か数秒の出来事、だが確実に虚を突いた形。

しかし、それは無駄となる。

またしても、朧が消えたからだ。

ルージュの腕が、血の装甲を纏って鋭利な刃となった手刀が当たる直前に消えたのだ。

見えなくなったとかではない、転移に近い気配事消える感覚。

そして、またしても空間に残された黒い直線。


もしやと思い、俺は首を上に向ける。

そこには、お目当ての物があった。

やはり、とそれを見て俺は確信する。

上空に残った黒い直線、恐らくコイツは……


「ルージュ、奴の能力は空間接続だ!」

「空間接続?」

「恐らく、奴は斬り付けた空間同士をつなげることが出来るんだ」


なぜ今まで気付かなかったのか、良く見れば至る所に見えにくく隠蔽されているが薄らと黒い線が走っている。

刀が降られた場所に、マーキングのように黒い線が残っている。

この黒い線が、奴の不可思議な動きの根幹を司っている事は明白だった。


「やはり、後ろだ!」

「そこ!」


ルージュの背後で気配が生まれる瞬間、俺もルージュも気付いて動く。

推測が確信へと変わり、確信がチャンスを生んだのだ。

やった、間違いなく朧を貫いた。

ルージュの腕が、朧の胸に吸い込まれる様に振るわれる。

出た瞬間の攻撃、流石の朧も想定外だったのか驚きが顔に浮かんでいた。


「甘いな」

「なっ!?」


ルージュの驚く声に釣られる様に言葉が漏れる。

なんと、朧の奴は心臓を貫かれていながら平然としていたのだ。


「そうか、奴の胸!」

「ハッ!」


見れば、奴の胸には黒い線が走っている。

それは見慣れた空間に残された黒い軌跡。

そこにルージュの腕が飲み込まれる形で突っ込まれていた。

そう、どこかに繋がった亀裂にルージュが腕を突っ込んでいた為にダメージが与えられてなかったのだ。


「チッ!」


奴の刀が、無防備にも晒されたルージュの腕目掛けて振り下ろされる。

恐らく、間に合わないだろうタイミング。

ルージュは素早く腕を見捨てる選択をした。

そして奴の方へと向き、高速で魔法を紡ぐ。


刀が半ばまで斬り進んだ所で奴の動きが制止する。

その光景にルージュは上手くいった事を確信して笑みを浮かべた。

しかし、それは簡単にも打ち崩される。


「このッ!」

「力技で解除した!?」


視線を合わせることで発動した静止の魔法、それによって拘束が成功したかと思われたがそれは解除される。

突貫工事のように、急いで作った為に術式の構成が甘かったのか力技で解除されたのだ。

ルージュは舌打ちしながら、腕を捥ぎ取る形で残る片手で掴みながら後退した。

そして、手に持った腕を傷口に当てがって瞬間的に再生させ五体満足な状態に戻った。


「魔眼って奴か、数秒も動きを止められるとは思わなかったぜ」

「アンタこそ、パワーだけど解除するとか非常識じゃないの?」


そこまで簡単な魔法ではない。

確かに入念に組み立てた訳ではないが、筋肉だけで壊すとか魔法使いに正面から喧嘩売っている案件だ。

仕切り直し、最初の状態に戻りながらお互いに出方を伺う。


「俺を本気にさせたな、後悔するなよ」

「捻じ伏せてやる!」


ルージュが爪を突き立て、切り裂こうと走り出す。

加えて、片手では空中に描く様に魔法陣を展開していく。

物理と魔法で応戦しようと言うのだ。


対して、朧は刀を振りながら後退していく。

黒い軌跡を至る所に作りながらの後退だ。

だが、無駄だ。


「今よ!」

「応!」


ルージュの影が朧の元に伸びて行く。

空間に配置された黒い軌跡の真下を通って、尋常じゃない速度で朧の真下に到達する。

流石に朧も警戒を露わにして、触れないように飛んだが意味はない。

何故なら、影は入り口にしか過ぎなからだ。


「しまった!?」

「喰らいなさい!」


影から、俺が口を開けた状態で現れる。

龍の顔が地面から生えた形で朧の胴体に噛み付いたのだ。

飛んで無防備な朧は動けず、ルージュから攻撃をまともに受ける。

右手が朧の肩を貫き、左手で完成した魔法を直接叩き込むのだ。

勝った、魔法が発動して腹から背中に向かってレーザーのように貫通する。


「何てな」

「ガハッ!?」


勝った、そのはずだった。

突如、背後からルージュが朧に刺された。

目の前で朧を貫いたルージュを朧が貫いている。

朧が、二人いた。


「双子だったの!?」

「えっ、違うけど」


驚愕するルージュの前で、殺したはずの朧が霞んでいく。

幻覚だとでも言うのだろうか、しかしあの感触は確かに本物だった。


「リアリティーのある幻覚か!?」

「えっ、主従揃って何かズレてるな」


違うの!?

あれ、自信満々に言って俺ってば超恥ずかしいじゃないですか。

ネタバラシする様に朧は呆れた様子で口を開いた。


「どちらも本物だよ。死んだのはこの世界の俺だ」

「どういう事よ……」

「俺の能力は空間操作の類じゃない。繋げる能力だ」


朧は言う、自分は攻撃を避けた場合の世界の自分であると。

斬撃を通してやって来た平行世界の朧であると。


「まさか」

「何を予想しているか知らないが――」

「もしかして、こういうことか?」


声が反響する様に聞こえる。違う、正確にはそれは違う。

別方向から同じ声が聞こえたのだ。そう、三人目の朧が現れたのだ。

かと思えば、亀裂から朧が次々と出てくる。

お前はどこのエージェントスミスだよ、と言わんばかりに同じ顔の同じ存在が埋め尽くす様に現れた。


「さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか」

「お前の相手するのは無限の可能性」

「可能性に殺される」

「一方的な戦いだ」


周囲の全てが敵となると言う絶望的な状況、しかし俺達は嗤っていた。

何故なら、分かっていたからだ。

飛鳥の能力でこうなる事は分かっていたのだ。


「今よ!」


ある場所から巨大な魔法陣が発動する。

それはルージュが全力で作っても数分は掛かった魔法だ。

強力が故に、ルージュ自身が同時に複製する事が出来ない魔法。

それが、二つ、四つ、八つ、と倍々式に増えて行く。


「ガァァァァァ!」

「なんだと!?」


最も魔法陣に近かった朧が燃やし尽くされる。

まるで波紋のように広がる様に消滅していく。


「あの女、そうかアイツが!」


魔法陣の中央には脂汗を流しながら、必死に力を行使する女の姿。

それは、飛鳥だ。

飛鳥が魔法陣の中央でその数を増やしているのだ。

魔法陣を別の場所に重ねて、増えた魔法陣ごと別の場所に重ねて、重ねて重ねて、コピー&ペーストするように倍々式に魔法陣を複製する。

二つ同時に作る事が出来ない強力な魔法が現在進行形で増え続けていたのだ。


「クソがぁぁぁぁ!」


朧が消える前に斬撃を生み出し、自分を増やそうとするがそれ以上の速度で魔法が消滅させていく。

朧が増える速度よりも、消滅させていく速度の方が上なのだ。

そして、最後の一体まで魔法が燃え尽くした。

今度こそ、勝ったのだ。


「ふぅ……やっとね」

「あぁ、そのようだな」


世界が繋がっていく、ルージュの中に何かが入っていく。

恐らく管理者権限とやらが、ルージュに吸収されたのだろう。

そして、俺達は最後の世界と繋がったのだった。


「あぁ、死ぬ。もう無理、吐く。おえぇぇぇ」

「よくやったわ、新しい眷族!」

「急に噛み付いたと思ったら、勝手に体が動くし。もうやだ、人間に戻りたい」

「残念、飛鳥に選択権はありません!」

「死ね、クソご主人様」


今回の功労者であり、新入りとなった飛鳥と何だか締まらない感じのやり取りをしながら俺達は繋がっていく世界を見るのだった。


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