何が始まるんです。第三次世界大戦だ
粉塵が舞う、敵がどうなったかは見えない。
この状況、やったかとでも言いたくなる状況である。
だが、恐らくやってない。何やら、気配がするからだ。
「嘘……どうして!?」
「あー、やっぱり」
粉塵が晴れる、するとそこには満身創痍の狼男と刀を持った侍のような男。
巨大な銀の大剣はその場になく、侍のような男が消し去った事が容易に分かる。
「よぉ、久しぶりだな」
「誰だ貴様わ!」
「……よぉ、久しぶりだな」
ルージュのツッコミを無かった事にした!
あれ、マジで知り合いか?どっかで見たような気もしてきたぞ。
「あの時以来だな、今回はコイツを貰って行く予定なんだ」
「あっ、お前!」
「知ってるの、ヤンヤン!?」
「ククク、そう、朧だよ……」
若干嬉しそうに、朧が口元を歪めながらそう言った。
ごめん、普通に忘れてたよ。
「朧さん、俺はまだ行ける」
「ダメだ、俺の見た通りの結果になっただろ。勝てないよ、お前じゃ」
「ぐっ……」
バトル物の漫画みたいに、苦しみながら戦闘続行を望む狼男と窘める侍。
なるほど、仲間のピンチを助けに来たって事か。
「二人纏めて、やってあげましょうか?」
「良く言うぜ、ギリギリの癖してよ。まぁ、今回は引かせて貰うぜ。アンタ達にはまだ利用価値があるからな」
「ッ!?待ちなさい!」
朧は刀をクルリと回す様に振りぬいた。
すると、空間が切り取られる様にズレて何もかも吸い込むような真っ黒な闇が現れる。
そこに狼男となったネル・アーシヤを放り投げ、朧が足を踏み込むと何事も無かったかのように闇は消滅した。
「空間転移?まさか、逃げられるなんて……ゴフッ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「内臓系の再生が、急拵えだったから間に合って無かったみたい。太陽が、身に染みるわ……」
口から血を垂らしながら、ルージュは辛そうにそう言った。
ダメージに慣れ過ぎて、二日酔いの朝に吐き気を押さえているように見えなくもないが人間からしたら重傷なので一応心配はしてやろう。
朧の目的が何なのか、戦力を集めて何をするのかは分からない。
だが、恐らくまた会うだろう的な事を考えながら、俺達は一度飛鳥の元へ帰る事にした。
飛行機が使えないので、連続転移による帰還を決行した。
どっかの超能力者みたいに、ちょっと離れた上空に転移、自由落下を繰り返し、海を渡ったのだ。
そして帰ってきた日本、人っ子一人いなかった。
「どういうことだってばよ……」
「取り敢えず、飛鳥のいる場所に行きましょう」
転移で、飛鳥の反応がある場所に飛んだ。
そこは俺達が手に入れた、神佑地のようである。
どうやら、未だに引き籠ってるらしい。
「どういうことだってばよ……」
「どういうことよ」
転移して俺達が見た光景は、前に来た時と全く別の物だった。
美しい湖に囲まれた、薄気味悪い古城、そんな神佑地だった場所が、なんということでしょう匠の力によって生まれ変わりました。
更地となった神佑地、湖の中には城などはなく代わりに巨大な砲門を携えて、戦闘機を多数待機、アンテナからハッチ、エンジン搭載、ミサイルまで搭載した巨大な空母のような戦艦のような戦略兵器が出来上がっていたのです。
「良く見ると、アレの上に町があるわよ」
「空母なの、駆逐艦なの、アレはなんなのさー!」
「きっと、変形するわよ。巨大なロボットになって戦うのよ」
「待てよ。それって天元突破するって事か、私に良い考えがあるとか言っちゃう訳?」
「取り敢えず行くわよ、話はそれからよ」
どこのフロンティアだよ、とツッコミながら近づく事にした。
余りにも大きすぎて、すぐに付くと思ったら結構な時間が掛かった。
すごい、バハムート級の大きさじゃないだろうか。
伝わらないネタに走るくらい大きいのである。
「なぁ、思ったんだけどさ」
「何よ」
「歩かないで転移すれば良かったんじゃ?」
「……うるさい」
今更言うなよとうんざりした顔で俺は睨まれたのだった。
とはいえ、到着したら見立て通り戦艦の上に居住区が出来ていた。
普通に吸血鬼達が生活しており、どうやらシャンバラ君に住んでた奴らのようだ。
戦闘に向かないタイプの吸血鬼達である。人間の繁殖とか担当してる補給物資を用意する後方支援部隊な。
「あれ、もしかしてシャンバラ君改装された感じですか?」
「まさか、まるっきり別の物のレベルよ、これ」
「もしかしなくても、そうですよ」
えっ、と俺達が振り向くと後ろに半透明のショタがいた。
っていうか、シャンバラ君だった。
「大規模な戦闘が想定されるので、皆さんで協力して筋肉モリモリのマッチョマンにして貰いました。良いでしょう、コロニーのようなメタボじゃありません。無駄のないボディー、いや惚れ惚れしますね」
「悪いが、お前の感性は理解できない」
「いや、どうやったのよ。無理があるでしょ」
釈然としないまま、シャンバラ君に案内されて戦艦の上を移動する。
そして、指令室と書かれた部屋まで俺達は連れられてきた。
ルージュが俺の方を見て、行くわよとアイコンタクトした後に緊張した面持ちでドアを開けた。
ゆっくりと開かれるドア、そこから覗くのはいつか見たモニターのあるいつもの部屋であった。
前の指令室と寸分違わないその光景、違うとしたら部屋の真ん中で悠然と座る女だろうか。
飛鳥が、偉そうに部屋のど真ん中でふんぞり返っていた。
「って、何してるのよ……」
「見ての通り、戦いに備えてるのよ。遅かったじゃない」
こんな過剰な戦力を用意して、一体何をする気なんだと視線でルージュが訴えるが飛鳥はどこ吹く風、悠然とスルーする。
あれ、何かルージュより出来る奴っぽいぞ。
「いったい、何が始まるんです?」
「第三次世界大戦よ、ネタじゃなくて」
「ネタじゃないの!」
俺の質問が華麗に返された。
っていうか、マジで世界大戦勃発するのかよ。
「現在、世界中でアメリカとの通信や交通、果ては貿易まで停止している異常事態に混乱しているわ。そして、ロシアと中国が動きだして私の見た未来の通りなら利権を巡って戦争に発展するわ。日本はロシアに協力する形になるわ。ただ、ヨーロッパの方はロシアに反感的な所も多くて中国に合流する。日本の他にロシアに反感感情が無い所などが合流する。中国を主軸に置いた同盟とロシアを主軸に置いた同盟との戦争が始まるわ」
「マジかよ」
「アメリカと言う、巨大な力が無くなったんですもの。世界が混乱するのは必然、崩れた均衡は戦争を助長してしまったのよ」
表も裏もない、未だ嘗てない戦いが始まろうとしているそうだ。
具体的に、ミサイルや核がデフォルト兵器になるらしい。
でも、日本の技術は世界一ィィィとのことで結界とかで余裕で防御するそうだ。
何でも表の戦争はロシアを中心に行って、裏の戦争は日本が中心に行うそうだ。
どういうこっちゃ。
「要するに、ミサイルとか戦闘機のドンパチはロシア。呪いとか式神とか陰陽術が日本ってことよ。中国の奴等、仙人とか妖獣を送り込んできたのよ」
「仙人が俗世に関わるなよ」
「だから、ロシアから持ってきたドラゴンや精霊をブチ込んでやったわ!」
「そんなもん保有してたのかよ」
もうすでに裏側では戦争が始まっているらしい。
もう国に対してヘイトスピーチならぬ呪い合戦が行われてるそうだ。
国連はまだあるけど、流石に相手の国を呪わないで下さいなんて言えないんだろうな。
一部しか、そういう技術を認めてないみたいだしな。
「裏の世界はもっと複雑よ。責任の擦り付け合いで、魔術結社から教会勢力まで泥沼の抗争よ。これを利用して仲間割れしてる奴らもいるし、自棄になって関係ない場所に喧嘩売る奴までいるもの」
「うわぁ……」
「まぁ、日本が今の所リードしてるけどね。虎の子の大罪の魔女達が動き出したもの」
大罪の魔女、という聞きなれない単語に俺達が首を傾げた。
その様子を鼻で笑って飛鳥が説明し始める。何だか解せぬ。
「大罪術式っていう特別な血統由来の結界術を使う奴らよ。時間は掛かるけど、条件次第で破壊不可能の結界を構築、それぞれ結界内で特殊な力を使うのよ。簡単に言えば、限定的な領域の支配って所かしら。搦め手の強力な奴等って所かしらね」
「飛鳥は戦った事があるの?」
「あるけど、いつも即死させられていたから知らないわ。学校に入った瞬間死んでたんですもの」
どういう手合いかまったく分からないってのは、恐いな。
特に初見殺しな奴らなら、困ったことになる。
「まぁ、私が裏から手を回して世界大戦も終わるわ。でも、終わってから何故か狙われるのよ。だから、貴方達には大罪の魔女達と戦って貰うから」
「えっ、マジで。いや、なんか戦わされるのかなとは思ってたけど」
「世界大戦なんてね、ハッキングして自滅させればいいのよ。こっちからの攻撃に、自分達の攻撃が全部帰ってくるのよ。もうワンサイドゲームって事よ」
鬼畜の所業だった。
まさか敵国の攻撃に加えて自分達の攻撃まで帰ってくるなんて。
攻撃出来なくなり、防衛のみになるしかない。
それで、機械に頼らない戦力として兵士を投入しても大罪術式とかいう恐ろしい者達が防衛に使われてる。
もう、穴熊になるしかないという状況になったら、裏切る同盟国が出てくるだろうし、人口が多い筈だから兵糧もなくなっていく。
ちょっとでも弱体化したら、容赦なく呪いが振り掛かり防衛できなくなる。
そしたら、追い討ちを掛けるように集中砲火。
反撃しようにもコントロールは飛鳥の物だから出来ない。
うわ、詰んでるはこれ。
「まぁ、機械を操作する事が出来る奴を手元に置いとかない方がいけないのよ。まぁ、アイツしかいないから抵抗は無理だけどね」
「仲間だけど、アイツの能力ってチートだって今気づいたわ」
俺は傀儡禅、コードネームはマリオネットとか呼ばれる痛い渾名の男を思い出して身震いしたのだった。
「呼んだ?」
「呼んでない!って、遂に三次元から二次元の住人に!?」
「モニターに中身を移しただけだ」




