不死身の化け者
目の前が真っ暗だった。
派手な攻撃に巻き込まれたからだ。
全身が熱を持ち、各部のダメになった部位が自動的に適応していく。
まるで液体のように、瓦礫の合間に入るような液体状態へと変わっていくのだ。
「やったか?」
感覚器官が敵の言葉を拾う。
その言葉に、それはフラグだと思わず思考する。
実際、俺達はこれぐらいじゃ死なないからな。
しかし、連携の取れた攻撃だった。
これが敵の目的である、一つの意志の元に統制された場合の戦い方なのだろう。
まるで、どっかの忍者みたいである。視界もリンクしてるんじゃないんだろうか。
「フフフ、アハハハ!そう言う言葉を言う時は、死んでないのよ!」
瓦礫が爆発する様に飛び跳ねた。
そして、その爆心地からボロボロになったルージュが現れる。
髪はボサボサに、服は破れかぶれで、立っているのすら満身創痍だ。
だが、それくらいで死ぬような存在ではない。
まるで時間が巻き戻るように、服は修復していき、肉体の傷は再生していく。
すぐさま、元の状態に戻って行ったのだ。
「……素晴らしい、素晴らしいな化け物。どれほど多くを取り込んだ、そんな物に成り下がって何を望む」
「理由なんかないわよ」
「それだけの力がありながら、望むものなどないというのか」
男は、無傷のルージュを見蕩れるように、陶酔する様に見ていた。
何処か異常で夢見がちな視線で、ルージュを見ていた。
「私は違う。私には願いが、祈りが、野望がある。私は貴様のような化け物に成り下がらない。私は、神になる!」
奴の持って居たカバンが開く。
音を立てて、開かれたカバン。
独りでに動き出したカバンは、その中身を周囲へとぶちまける。
どこにそれだけの物が入っていたのか分からない程の量、まるで濁流のように小さなカバンから紙束が這い出てくる。
見れば、それは紙幣程の大きさをした紙だった。
ミミズのような文字が書かれた、所謂御札だった。
それが奴の周囲を旋回する様に唸りながら、渦を巻きながら、繭を形成する様に集まっていく。
視界の先には紙の壁に覆われた球体があった。
そして、そこから奴の声が響く。
「そんな惨めな存在ではない。ただ無為に生きているような存在ではない。私は崇高で意義のある存在となるのだ」
「フン……」
ルージュは鼻で笑った。
何を仕出かすか分からないが、やってみろと挑発的にも見える態度だった。
所詮、人間が行う事だから警戒するほどではないといった感じだった。
だが、俺は不安になっていた。
何か勝てる算段があったのではないかと考えずにはいられないのだ。
紙の繭は絶えず蠢き、光を発していた。
吸い寄せるように何かを吸収する繭、御札へと弾丸のようにどこからか飛んできた光が当たっていく。
光にぶつかった御札は光り輝き、点滅しながら再び同じことを繰り返していく。
点滅する紙束の繭、その点滅の感覚は段々と短くなっていき、まるで何かが生まれる予兆のようであった。
否、予兆ではなく実際に生まれようとしているのだ。
「フフフ、さぁ神の誕生だ。括目しろ化け物!」
「同じ化け物の癖に偉そうね……」
光が爆発した。
目も眩むような閃光に世界が塗り潰された。
そして、視界が戻る頃には空を見上げる男がいた。
崩壊した建造物の中で、空を眺める男は清々しい顔をしていた。
その姿に何の変化はない。
だが、蠢くような気配が、ルージュに似たような気配が漂っていた。
「何だその様は、それが貴様が言う神の姿か。下らん、実に下らないぞ!」
「試してみるか?」
「貴様には失望した、死ぬがいい」
その場からルージュの姿が消える。
一瞬で、ルージュが敵の背後に移動したのだ。
今だ空を眺める男の首に線が走り、鮮血が滲み出る。
終わりだ、そう思った。
男の頭部が飛び跳ね、首から先は流血を伴って噴水のようになっていたからだ。
「こんな物か、こんな物か吸血鬼!」
「ッ!?」
血が、飛んだ頭部へと延びて行く。
まるで蛇のように動く血液が、飛んだ頭部を掴むように伸びたのだ。
腕を振りきった姿のルージュを横目に、血は頭部を元の位置へと引っ張っていく。
「何だと!?」
「ただ、首を拾っただけさ」
「くっ、死ね!」
男の身体に線が走る、幾重にも重なる線、それは男を細切れにする。
ネル・アーシヤの肉体を肉片へと変えたのだ。
だが、その肉体は何事も無かったかのように再生していく。
「何なんだ、お前のソレはまるで……」
「自分のようだというのか化け物!私を貴様と一緒にするな!」
「だって、それは……」
ルージュが思わず後ずさる。
それを好機と見たか、奴はルージュの頭を掴みに掛かった。
その初動は余りにも人間離れした速度であり、ルージュの回避が遅れる。
「くっ!?」
「フン!オラァ!」
掴んだ頭部を地面に奴が叩きつけた。
ルージュの身体が地面に跳ねる。
その身体を、奴の蹴りが襲いかかりルージュを吹っ飛ばした。
「ハハハ、どうした化け物!来いよ、さぁ立ち上がれ!来い、来い、来い!」
「貴様、その姿……」
奴の顔半分が変わっていた。
瞳孔が縦に開き、瞳は金色に染めあがっていた。
犬歯が伸び、銀の体毛が顔半分を覆って、骨格は細く、歪に変形していた。
「そうだ、俺は人間を超越した。神になったのだ!」
顔半分だったそれが、侵食する様に広がっていく。
顔の全てが塗り替わるように変形、否、変身していくのだ。
肉体が膨張し、上半身に纏っていた服が爆ぜた。
手足は爪が伸び、足は巨大な獣のソレだ。
銀の体毛、金の瞳、鋭き牙、細い骨格。
耳は頭部の横から頭上に移り、ズボンを突き破るように尻尾が生えた。
「そうか、貴様は……」
ルージュはすぐさまその姿を看破した。
ワーウルフ、ライカンスロープ、ウェアウルフ、ヴァラヴォルフ、ルー・ガルー、狼男、人狼。
狼が憑依した状態、先天性の疾患、毛皮を被る事で変身する、呪術を用いた変身。
色々な諸説のあるモンスターである。
だが、オオカミとは日本では大神という言葉に置き換える事が出来る。
言葉に意味を持たせ、言葉を媒介にする、陰陽術がベースの術式。
奴が行った事は、狼となる事で大神、つまり神にもなるという事だった。
下らない言葉遊びだが、だが大神という言葉が表す存在は厄介な者である。
大いなる神、日本の大いなる神、つまりは天照大神と言う訳だ。
それを意味すると言う事は……
「ぐぅぅぅぅ!」
「どうした、どうした吸血鬼!傷が痛むか、苦しいか!」
「焼け爛れるだと……」
奴が触れた場所が、焼け爛れていたのだ。
そう、太陽を浴びて傷付いていた頃のように、身を焦す様な現象がルージュの身に起きていた。
奴は、太陽そのものという存在になっていた。
「ここは逃げるぞ、相性が最悪だ」
「逃げる、この私が逃げるですって……」
「逃がすと思っているのか?」
既にこの場には俺達と奴しかいない。
奴の仲間は、奴の端末と化していた存在達は、奴の中に取り込まれていたからだ。
ルージュのような命を、魂を取り込んだ、不死身の化け物。
相性最悪の存在と言う訳だ。
「そら、喰らえ!」
テンションが最高にハイって奴なのか、異様に高かった。
口調まで変わって落ち着いた好青年がチャラ男にでもなったかのようだった。
そんな、豹変した奴が腕を振るった。
すると、空間が徐々に大きくなりながら歪み始めた。
「ッ!?」
ルージュが何かに気付いて俺を掴み跳躍する。
スゴイ速さで上空へと退避した俺達、その真下では地面が削れる音を奏でながら抉られていた。
腕を振る動作、抉れた地面、ここにきて俺はそれが何なのか理解した。
奴の腕が振るわれた瞬間、空間が歪んでいた。
それが徐々に大きくなっているように見えていたが、それは違ったのだ。
見えない何かが、そう真空波とか衝撃波とかそう言う技が放たれていたのだ。
腕を振ると同時に出たそれは、腕付近で発生しており、それが歪んで見えた。
俺達の方に進んでくるために、近付いていた為に徐々に大きく見えた。
奴の前で空間が大きく歪んでいった訳ではなく、空間を歪ませる放たれた何かが近付いて来ていたのだ。
飛ぶ斬撃、みたいな物なのだろう。ただし、透明で見る事は不可、何とか歪んで見えるかどうかという訳だ。
「ワーウルフ、今度はこっちの番よ!」
滞空する中、ルージュが指差し呪文を紡いだ。
瞬間、奴の周囲の空間が歪み、其処から銀の矢が放たれる。
奴は攻撃を察知するや否や飛び退くが、その様子を見てルージュは笑みを深めた。
「掛かったな、馬鹿め!」
「な、何ィ!?」
飛び退く奴の背後から、似たような空間の歪みが発生し、そこから新たな銀の矢が放たれる。
振り向きながら、しかし避ける事の出来ない奴の背に銀の矢が突き刺さった。
「ぐあぁぁぁ!」
「まだまだ!」
焼けるように、傷口が爛れる中、好機とルージュは更に追撃を開始した。
奴の頭上、一際大きな歪みが発生し、其処から銀の矢じりが大量に表れる。
そして、矢が完全に出来上がると同時に真下に射出、まるで銀の雨が奴に降り注ぐ。
苦しむ奴の上で、製造され、完成と同時に射出される銀の矢、まるでどっかの英雄のようであった。
「地下の物質を転移させると同時に解析して、錬金術で錬成した銀の武器よ。やはり、銀が弱点のようね」
「まさか、弱点だとぉぉぉ!?」
「さぁ、止めよ!」
一際大きな歪みが発生した。
其処には巨大な銀の大剣が作られていた。
刀身が既に出来ているそれは、ゆっくりと柄を形成していく。
完成と同時に落ちる事は必然、故に奴は逃げようとしているがダメージが大きく動く事が出来ない。
「不死身なら、動けないようにしてから封印してやるわ!もうお前の負けよ、誰も助けに何て来ないもの!さぁ、調子に乗った事を後悔しながら死ぬがいい!」
「おい、フラグみたいなこと言うんじゃない!」
完成された巨大な銀の大剣は重力に従い落ちて行き、辺りを衝撃波と粉塵で覆った。




