現れたのが二次創作の主人公だった件
撒き散らされた暗雲、隆起した地面、その中心には放心して動かないペトロがいた。
そして、それにより現れた存在は周囲を見渡しペトロを二度見してから納得したような表情を作って、
「異世界転生キター!」
大声を上げて自分の境遇を喜んでいた。
あぁ、お決まりだが肝が据わっているな少年よ。
付添いの教師はその場から去っていた、もしかしたら校長でも呼びに行ったのかもしれない。
そして少年だが意気揚々とペトロに自己紹介していた。
「やぁ、実物はすごく可愛いね!一応確認だけど、ペトロ・オルテシアだよね!いやー二次創作を読んでて事故になった時は焦ったけど、神様ありがとうー!」
凄いテンションである。
しかし、俺は聞き逃せない単語に少年から目を離せなかった。少年はナオキと名乗った。平民だから苗字は無いと言ったが俺は信じられなかった。やはり、彼は日本人に違いない。
進行形でペトロに杖を向けられてるナオキに俺達は近づいて行く。
彼の顔立ちは、少し外人のようであった。ハーフなのか瞳は青だが黒髪である。少し、日本人かどうか俺の確信が揺らいでしまった。
だが、俺が何時か元の世界に行くために、別世界の存在を証明しなければならない。だから問うた。
「お前は、異世界人か?」
「おいおい……マジかよ!」
「おい、聞いてい――」
「ド、ドラゴンっぽいのキター!」
そのテンションに俺は頭痛を覚える。
確かに自分が高校生くらいに異世界に行ったら、こんなテンションになるかもしれない。しかし、見ず知らずの場所に放り出されてどうしてこうも楽観的なのか理解に苦しむ。
取り敢えず、野次馬も何名か戻ってきており、此方では人の目があるので移動しようと言ったペトロの指示に従い俺達はペトロの住んでいる豪邸のような宿に移動する事にした。
繋ぎ目の無い白い大理石の壁、床には紅い絨毯が敷かれ、高そうな調度品が軽く置かれた一室はペトロがお嬢様である事を如実に表していた。
その部屋に置かれる一際大きいソファがテーブルを挟んで向かい合う様にあり、俺達は呼び出された少年ナオキを対面に座った。
「いやー、アニメと同じ部屋だな。これは凄い!」
「えっと、あにめ?って何よ」
ナオキの言動に疑問を挟んだのはメアリだった。俺は意味が分かっていたが彼女は分からないのだから無理もない。しかし、先ほどの言動からこの世界は何かの作品だったのではないかと俺は予想した。
この場合、俺が前世の事を話したら敵対される可能性がある。もう少し様子見で、明かさない方針で行こう。
「君は……もしかして、メアリか?」
「えぇ、何で私の名前知ってるのかしら?名乗ってないはずだけど」
「あぁ……いや、さっき誰か呼んでたしさ」
メアリの疑うような言葉に、ナオキは目を泳がせながら答えた。その行動が怪しいのだが本人はごまかせているとでも思っているのだろうか?
「まぁ、疑うのはよそう。それより、お前は異世界人なのか?」
「やっぱり、喋ってる。スゲー、どういう原理だよ」
「おい、答えろよクソ餓鬼」
「口悪いな、こんなキャラだっけ……まぁいいや。そうだよ俺は異世界人だ。ペトロには説明したけど、一応な。俺はナオキ、異世界のアメリカ合衆国ジパング州出身の平民だ。年は十六だ、よろしくな」
どういうことだ?
それが俺の頭を占める言葉だった。この少年は今、アメリカ合衆国と言ったのである、しかもジパング州と意味の分からない単語を使ってだ。
先程のメアリの例から嘘ではないのは確かだが、不可解な事がありすぎる。思わず、俺は頭を抱えてしまった。
そんな俺とは関係ないように、胡乱げな目で現れた爺がナオキに話し掛けた。
「貴様が出鱈目を言っておるかもしれん。大まかな歴史は言えるか?異世界のじゃ」
「どこから声が、まさかこれが精霊って奴か?そうか、魔力が無いから」
「どうなんじゃ、早くせんと地方からの召喚と処理するぞ」
「わ、わかった。待てって、えっと……世界史とかかな。えー」
そこからナオキが言った歴史は俺が知っている物と、ほぼ同じだった。
人が国を作り、戦争した。そこは魔法が無い世界で科学が発展した。いつしか蒸気機関や電気、エンジンなどが発明された。そして、核が日本に落とされた。
だが、そこから話が変わっていた。否、歴史が変わっていた。
「そのあとアメリカって国がジパング州の島国で領土支配を宣言して、そん時の国名は大日本帝国だっけな?そん時、すっごい支配しまくってたから世界の半分がアメリカの物になったんだよ。俺は原住民のジャパニーズってのが先祖にいて――」
その歴史は俺の知る物と微妙に違っていた。
核の後に世界大戦が終わり、日本はGHQによって復興するはずだった。
その歴史が、GHQによって支配された国となっていた。ナオキのいた世界は似て非なる日本が存在する場所だったのである。
刷り込みによってこの世界の言葉で話されているが、恐らく彼が本来喋る言葉は英語だったのではないだろうか?
違った可能性の世界、一応別世界だが少しだけ。ほんの少しだけ何故か落胆してしまった。
もしかしたら、どこかで期待していたのかもしれなかった。
「――って感じ、まだ喋る?これ以上となると今度はアメリカの南北戦争辺りから喋るけど」
「いや良い。嘘にしては壮大すぎる、矛盾も見当たらんし作家に向いているかものぉ」
「信じてないみたいだけど、今はそんな感じで良いよ」
その後、俺達は異世界の事を聞きながらナオキに施した術式の説明をした。
ナオキは身体強化以外の術式の説明をした時、今までと打って変わって驚愕していた。
原作と違う、なんて呟きが聞こえたので俺達はいつの間にか召喚魔法を魔改造してしまったらしい。
だが、それ以上に収穫があった。やはり、ナオキは俺のいるこの世界を何らかの形で知っている。
彼は未来に起きることを、原作知識と言われる物を持っているのだ。
きっと彼がこの世界に来ることは必然だったのだろう。正確には彼のいる立ち位置にいた主人公と呼ばれる存在が来ることがだ。
俺と言うイレギュラーが起こしたのは召喚魔法の術式を魔改造したことくらいであり、本来の異世界から召喚されたという流れは変わってはいない。
きっとこれから始まるのだ、イベントと呼ばれる色々な事件や悲劇、そして冒険。
国はたくさんある、魔王もいる、この世界にはイベントになる事柄は欠かさない。
魔王襲来や戦争、その両方が起きる可能性だってある。俺は生き残るためにナオキの持つであろう原作知識を手に入れないといけないのだ。
「私の使い魔だけどさ……ナオキはどこで寝るのかな?」
「え?もちろん一緒の部屋でしょ!」
「アンタ、男女が一緒の部屋とか何考えてんのよ!ペトロ先輩、学園に相談した方がいいですよ」
「そんな、原作と違うよ!何もしないからさ、ねぇペトロちゃん」
ただ、まぁ気張る必要もないだろう。この少年はその優位性を理解していても利用できないようなタイプに見えるからだ。つまり、何だか考えが足らなさそうなのである。
いや、高校生なんて子供だ。だからこのくらいが普通なのだろう。
精々生き残るために、彼とはいい関係でありたいものだ。




