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ドラゴンになりました、使い魔らしいです   作者: NHRM
冥王世界・高天原征服編
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天照大神のもう一つの顔

世界が開き、視界が白く染まる。

崩壊していく世界の音が静寂に包まれ、そこから新たな音が聞こえた。

喧騒、その中で俺達の視界に色が戻る。


「おのれぇぇぇぇ!」

「あら、素敵な顔を歪ましてどうしたのかしら?」


そこには、右目を押さえ恐ろしい形相で俺達を睨むアマテラスがいた。

髪を乱れさせ、片手で目を押さえながら脈絡のない罵倒をする神の姿だ。

床には赤い血が雫となって付着しており、どうやら右目を負傷したようであった。

その苦しむ姿に、ルージュはふふんと機嫌良さそうに微笑んだ。


「女の顔に傷を、貴様ら生かしておくものかぁぁぁ!」

「おぉ、こいつは……」


アマテラスが極光に包まれる。

もはや視認するのも困難な程に光り輝いているのだ。

それは、太陽その物であり光と熱に身を焦しそうになる。

だが、対策をしていなかった訳ではない。

ルージュの前方を影が盾のように展開し、光を遮っていたのだ。


「あぶねぇ、あぶねぇ。サングラスでも作っておくか?」

「そんな暇は無さそうよ」


その言葉の意味は、すぐに分かる。

俺達の背後から近づいてくる多くの気配を感じたのだ。

恐らくそれは他の神々であろう。

良く見れば、俺達がいまいる場所も最初にいた場所とは変わっておりアマテラスの私室なのかもしれないと推測できる。

異変を察した他の神々が近付いてきていると考えるのが妥当だ。


「アイツは、私がやるからアンタは雑魚の相手をしなさい」

「これから来るやつを雑魚だって?冗談キツイぜ」

「どうした?臆したのかしら?」

「まさか。さぁ、神々よ淘汰される時が来たぞ!今こそ、一心不乱の殺し合いをしようじゃないか!」


愉悦の表情でバルドアは俺達に背を向けて駆けだしていった。

さぁ、バルドアに続いて俺達も俺達の戦いをするとしよう。




光り輝くアマテラスは、その場から動いていなかった。

それは酷く不気味で嵐の前の静けさのようだった。

だから、何かが起きる前に俺達は戦場を変える。


「空間を接続、強制召喚開始、来たれ付喪神ユニットシャンバラ!」


ルージュが影に手を付け、魔法を構築し強制的にシャンバラを転移させる。

すると、影を通して土の塊が丘のように現れる。

否、それは丘ではなく星の上部分、シャンバラが浮上しているのだ。

時間経過と共に大きくなっていくそれは、数分も掛けることなく部屋を破壊しその全体像を露わにする。

巨大な星、それが高天原の上空に現れたのだ。


空から見る高天原には、倒壊していくビルが写った。

何を隠そう、俺達が出て来たビルである。

崩れて行くビルの最上階には、周囲を真っ白に染め上げる光の塊があった。

中心には人影があり、それがアマテラスであることを如実に表している。

奴を中心に、巨大な光が球体となって展開されているのだ。

それは少し小さいサイズの太陽である。


「限定空間内の観測開始、同調システム起動、シャンバラの補助プログラム起動!」


シャンバラから、玉座のような物が現れる。

まるで星のような本体の地面から、湧き出るように形成されたのだ。

そこにルージュが座ると同時に身体へと機械のコードのような物が刺さっていく。

そして、ルージュの命令に従いシャンバラは光り輝いた。


「逆算完了、常時修正システム起動!術式形成開始!」


シャンバラを中心に、薄く黒い膜が形成される。

それは膨張し、世界を飲み込んでいく。

飲み込まれた世界は色の大半を失い、白と黒の二色だけで形成された。


「外界との分離確認、限定空間を固定凍結、上書き開始!」


モノクロの世界に、色が戻っていく。

赤茶けた荒野と赤い月、漆黒の夜空と聳え立つ白亜の城。

それは世界を塗り替える、ソウルという力を利用した新たな異空間の形成。


「ヤンヤン、制御は任せるわよ」

『おい、どういうことだよ!?』


ルージュから、何かの権限が委譲された事が直感的に分かった。

俺の身体を蝕もうとする何らかの力、恐らくそれは世界からの修正力だ。

俺が異空間の要として、世界の主として権限を委譲された為に感覚が異空間と共有されているのだ。


『長くは持たないぞ。出来るだけ抵抗はしてみるが、魔力も聖気も尽き果てそうだ』

「時間は掛けないわ。見てなさい、私の勝利の瞬間を……」

『信用してるぜ、ご主人様よ』




俺を置いて、ルージュがアマテラスの元へと向かった。

空間の維持に神経を費やす傍らで、俺は保険として一部の意識をルージュと同調する。

万が一でもルージュがピンチになったら助けられるようにだ。


ルージュの視界の先には、極光に纏われたアマテラスがいた。

その姿は、最初の姿とは違い絢爛豪華な装束を纏っていた。


「衣替えでもしたのかしら?」

「愚者め、私にこの力を使わせるとわな」


その顔に怒りは無かった。

狂おしい程に声を上げていた女の姿が、まるで慈しむような母のような優しい姿になっていたのだ。

どういう心境の変化か、纏う雰囲気から人格そのものまでが変わっているかのような。

いや、変わっているかのようではなく変わっている。


「誰よ、アンタ……」

「ほお、気付いたか。だが、遅すぎたな」

「ッ!?」


アマテラスが言葉を告げると同時に、何かが圧し掛かって来た。

まるで、重力が増したかのように上からの圧力にルージュの身体が地面へと押し付けられる。


「ぐっ……うっ……アァァァァ!」


ミシミシっと右腕の先から軋む音が聞こえ、ぐちゃりと原型が保てなくなり潰れて破裂する。

指先、手のひら、肘、肩、遂にはルージュの半身までもがその見えない重圧に潰されていく。

最早、声帯は潰れ空気が漏れる音だけしか出ない。

肉体の半分を押し潰されたルージュは、片耳でもってアマテラスの言葉を聞いた。


「一割にも満たない、漏れ出た力だけで貴様はこれほどまでの影響を受ける。次元が違うのだ……さぁ、分かったであろう。許しを乞え、私は慈悲深い」

「…………」

「そうか、言わずとも良い。その目、私を認めぬという訳だ。ならば、塵芥と成りて消えるがいい」


視界が途切れ、遂には世界から音までも消えた。

肉体が無くなったのか触覚が無くなり、周囲に触れている様でもあり触れていないような無が到来する。

冷たさも、熱さも、痛みも苦しみもない、何もない世界。

だが、まだ終わりじゃない。


多くの物を失ったからこそ、浮き彫りになるようにまだ失っていない物の存在が際立つ。

それは、魂だ。

肉体が失われようとも、まだ魂の繋がりは消えてはいない。


視界が戻る、それは俯瞰するような視界。

アマテラスを正面から見ていながら、同時に背後からも見ている。

それだけでなく、側面からも見ており余すと来なく全ての方向から寸分違わず同時に見ていた。


『愚者はどちらかしらね』


ルージュの魂が、新たな肉体へと宿っていく。

それは、赤く照らされた荒野に最初からいたかのように突如現れた肉体だ。

アマテラスが、その姿を視認したのはルージュを塵も残さず殲滅した次の瞬間からだった。


「馬鹿な!?貴様は、死んだはず!偽物……いや、確かにアレは本物だった!ならば、貴様は何だと言うのだ!」

「答えは分かっているのでしょ?」

「本物だと言うのか!始めから二つあったのではなく、気付かれる間も無く再生したと申すか!」


驚愕の顔を向けるアマテラスに、ルージュは不敵に笑った。

例え、何度滅ぼそうが関係ないという自信が現れていた。

それもその筈、例え肉体を無くそうとルージュは死ぬ事はないのだ。

死にたくないと言う渇望の具現、限定空間内に置いてルージュの存在は固定されているのだ。

例え死のうが、死んだ次の瞬間には固定された状態に強制的に戻される。

そう、生きている状態へと何度でもリスポーンする。

あらゆる欠損も状態異常も、万全の状態に固定されている為に強制的に否定される。


「此の世が夕闇に包まれる限り、我が肉体は不滅。貴様が太陽の化身であるように、私は夜を具現化した存在。私こそが、夜そのものだ!」

「調子に乗るなよ小娘!太陽が昇り、明けぬ夜など無いと知れ!我は天照大神であり、全てを内包する宇宙、森羅万象の化身、大日如来であるぞ!」


大日如来、それはアマテラスと同一視されている一つの側面。

万物を総該した無限宇宙の全一、つまり宇宙そのものとされる仏の一種だ。

アマテラスではないと感じたその理由は、存在の比重が天照大神ではなく大日如来よりだった為だ。

二重人格のように、怒り狂った神の顔と慈悲深い仏の顔を使い分けていたのである。


「精神が乱れたのか、力まで乱れてるわよ!」

「しまった!」


怒りのあまり、重圧を消していたその隙を突いてアマテラスの視界から、ルージュが消えた。

と、同時に背後にルージュが姿を現した。

予備動作の無い転移、空間を作り出したからこそできる芸当である。


「……とでも、言うと思ったか?」

「えっ?」


ルージュの手刀がアマテラスに紙一重で避けられる。

だが、ルージュは咄嗟に反応して追撃した。

今度こそ間合いを詰め、確実に当たる一手を放った。

当たる、はずだった。


「何故だ……何故――」

「当たらないか、か?」


いつの間にか、ルージュとアマテラスの間が開いていた。

その距離は互いが小さく見える広い距離だ。

あの一瞬で、転移させられたのか。

否、ルージュは動いておらずアマテラスも動いていなかった。

空間を完璧に計測し、把握しているルージュには分かる。

お互いに一歩も動いてはいない、座標は変わっていないという事が、分かっていた。


「何をした……何をした、アマテラス!」

「だから、言ったであろう。次元が、違うとな」


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