ゴリ押しで当てれば良かろうなのだー
眷族一同を呼び出そうとルージュが試みるも、数が多すぎて一向に終わりが見えない。
これではいけないとの事で、ルージュは数を絞る事にした。
まず、自分の世話係用の者達数名、それから自称親衛隊の護衛の者達、そして戦闘特化の眷族達だ。
まぁ、それでも数は千以上にはなってしまい絞ったのか判断に困るところである。
その原因は護衛の希望者が多かったのと血に飢えた戦闘員が多かったのが理由である。
じゃあ行こうか、とルージュが歩き出そうとすると世話係の者達が行く手を阻んだ。
普段ならば絶対しない事であるのにだ。
「どうした?」
「ご無礼を承知で献言いたします。ルージュ様はの貴き身分、そのような市井の者共と同じ格好などお辞め下さい」
「やっぱり変なの?」
「いえ、そう言う訳ではなく……その、相応しくないと言うか品位に欠けると申しますか」
品位、と愕然とルージュが呟いた。
我慢しているが、プルプル震えて身内の批判に今にも泣きそうだ。
まぁ、皇帝であるルージュが人間と同じ格好なんてと言うのも頷ける。
吸血鬼視線で言うなら、食べ物と同じ格好って事だ。
豚とか牛の着ぐるみを着ている人を見る感覚かもしれない、いや推測だがな。
「じゃあ、貴方達が納得する形にして頂戴」
もう投げやり気味に自分でコーディネートするのをルージュは投げた。
だが、行ってしまえばこれから偉い人と会うんだから私服はダメだよと言われたような物である。
今後の面倒を考えるならば、良い判断だ。
まぁ、本人はすごく不本意そうで拗ねているけどな、子供かよ。
ルージュが許可を出した事で、メイド姿の眷族達がどこからか魔法で出したドレスを見比べる。
多数決で、やっぱり赤だろとフリフリのドレスが採用され一瞬で転移させることでルージュの服装が変わる。
ブラウスとスカートの姿から、ちょっと前まで来ていたドレス姿になったのだ。
続いて、男性陣からドレスでは戦闘になったら困ると鎧を付けるべきだと要望が上がった。
男性陣がそれぞれ鎧をだし、見比べてドレスの上から鎧を転移で着せる。
普通なら着にくいが魔法で問題は解決である。
どっかのゲームキャラかよ、と突っ込むが入りそうなドレスに鎧と言う恰好の完成である。
この頃になると、カッコいいわとルージュのテンションが上がる。
さっきまで拗ねてたのにすぐにご機嫌である、ちょろい。
そんなルージュは何か物足りなさそうな顔をして、預けられたコート姿の俺を見て手をポンとしながら言った。
「ちょっと、アンタ剣になりなさいよ」
「あっ、はい」
言われた通り剣になると、ルージュは柄を握って地面に俺を刺した。
そして、どこか虚空を見つめて自分で自分に魔法を行使する。
ドヤ顔で地面に刺さった剣に手を置きポーズを取るルージュ、自前の魔法がスカートを撫でるように揺らし、斜め上から夕陽のような光が照射される。
「最高です、ルージュ様!」
「そうでしょう、私もそう思ったのよ」
いや、自画自賛してないで中に入れよ。
お前も魔法で永久保存しようとするなよ、撮影会じゃねーんだよ。
それからしばらくの間は飽きるまでいろんなポーズを取っていた。
ようやく飽きてから、ルージュは中に入った。
護衛の者達が先に入り安全を確保し、周囲を侍女や召使いで固めたルージュがビルの中に入る、その後ろからはギラギラした視線で周囲を警戒する血に飢えた眷族達が続く。
中は、普通に受け付けのあるエントランスだった。
受付の所には、これまたカラスがおり、こっくりこっくりと首を上下に揺らしている。
「なんて無礼な奴だ!ルージュ様が目の前にいるのに寝ているぞ!」
「ギルティ!さっそく打ち首にするべきだ!」
「ルージュ様のご尊顔を前にしてよくも寝られた物だ!死ぬべきだ!」
その光景に、自称親衛隊どもが怒鳴り散らす。
うんまぁ、主への愛ゆえにだからさ……愛だから仕方ないよね。
「いやアンタ達、落ち着きなさいよ。受付のカラスが驚いて逃げたじゃない」
「ルージュ様の前だぞ、静かにせんか!」
「おい、ルージュ様がカラスを所望だ!奴を捕らえよ!」
「いや、言って無いから。そうやって勝手に意を組んで行動しないでよ」
「ルージュ様がお怒りだ、お前ら自害しろ!」
「申し訳ありませんでした、この罪は命を持って――」
「いや死ぬなし!っていうか、話聞いてる?もうやだコイツら……」
御労しや、と従者達がルージュの周りで嘆く。
親衛隊の奴等はルージュの一言で、膝を折って凹んでしまい、背後に続いていた血に飢えた眷族達はカラスと呟きながら名残惜しそうに舌打ちしていた。
まさにカオスである。
そんな状況に、乱入してくる者達がいた。
それは恐らくカラスが呼んできた警備員的な神だ。
「全員、動くな!」
「無礼者がっ!」
此方を見て叫んだ奴の首が一瞬で宙に跳ねる。
眷族の一人が勝手走って殺ってしまったのだ。
「隊長!貴様ら誰を敵にしたのか分かっているのか!」
「ふん、これだから蛆虫共は……目障りだ、消えろ」
「おのれ!やってしまえ!」
槍を持って俺達の前へと突撃してくる。
だが、神と言うには余りにも弱く吸血鬼達の一撃に簡単に屠られていく。
「嫌ね、争う事でしかお互いを理解できないなんて無粋だわ」
『お前が言うなっていう』
「私は何もしてないわ、部下が勝手にやった事です」
政治家かよ、と俺のツッコミもどこ吹く風。
ルージュは周囲で戦闘が行われたにも関わらず涼しい顔で奥へと進んでいく。
当初の目的通り武力行使が行われるようだった。
『ウズメちゃんでないかな、まだかな』
「ウズメちゃんとやらかは分からないけど、誰か来たわ」
通路の奥から強烈な気配が漂ってきていた。
今までとは違う、それなりの強さを孕んだ気配だ。
これは、たぶん吸血鬼達が勝てるか怪しいな。
「ハッハッハ、高天原を攻め落とそうとは剛毅な者だな」
「……力士?」
通路の奥からやって来たのは、雷を纏った剣を持った力士だった。
回しを付けて髷を結った、少し太めの神である。
「儂の名はタケミカヅチ、雷神であり剣神でもある。どこの者かは知らんが――」
「隙あり!レッドムーン!」
喋ってる最中にルージュが俺を奮う。
同時に送り込まれる聖気と俺の魔力が混ざり合って、飛ぶ斬撃を発生させた。
ゴッソリ身体から奪われる魔力、どういう原理か聖気と混ざり合って未知のエネルギーとなったそれが斬撃を維持したまま敵へと駆けた。
飛んだ斬撃が、驚愕する力士へと迫る。
「――奇怪な術だな!」
「防いだ、デブなのに素早く動いて防いだ!?」
「デブではない、脂肪に包まれておるだけだ!」
太ってはいるが、一応は剣の神。
剣術の心得があるのか、手に持った剣を滑るように斬撃と身体の間に置き見事に攻撃を防いだ。
更に、仕返しとばかりに雷が一層強くなり放電現象となってルージュに襲いかかる。
「えいっ!?」
「ぬっ、剣を避雷針代わりにしたか!」
『ルージュ、テメェ!咄嗟だからって投げんなよ!ちょっと、ビリって来るんだぞ!』
剣である俺の身体が空へと投げられる。
すると、そこへ予定調和の如く雷が誘導された。
全身へと雷が直撃した際に静電気が流れたような痛みが走る。
もしこの身体が雷に対して耐性が無かったら死んでしまう所だった。
まぁ、肉体を雷に変えられる俺ならダメージと言うよりは、寧ろ雷による攻撃はパワーアップさせるドーピング剤のような物である。
『今の俺は妖気で呼び出した魔界のドラゴンを飲み込んだ時並みにビリビリだぜ!』
「また分かりにくい例えを……」
「何ぃ!?儂の雷を利用しているのか!」
呆れ混じりにルージュが俺を空中から回収する。
俺は剣の状態でありながら、その刀身に雷を纏っている。
雷神の雷をそのまま利用した形だ。
「格ゲーのような私の開幕ブッパを防いだこと、褒めてやるわ」
「ふん、あのような奇襲。剣の神である儂には効かん!」
「そうみたいね、だから新しい技を試してあげるわ!」
剣となった俺を振りかぶり、思いっきり投降する。
まさか武器を投げるとは思わなかったのか、タケミカヅチは一瞬怯むがすぐに自身の剣を構えて軽く流すように俺を払う。
剣が吹き飛び、投降したままの無防備な状態になったルージュを肉薄にしようとタケミカヅチが動いた。
「血迷ったか、隙ありじゃ!」
「ブラッドチェーン!」
「技名!?ということは、後ろか!」
タケミカヅチが接近する最中に何かに気付き、反転しながら剣を空へと振るう。
あり得るはずが無かったが、気配を感じた故に反射的に取った行動。
何も当たらない筈のその軌道は、確かに何かを払った。
『おい、声に出すから気付かれてんじゃんか!』
「なんと、剣が戻って来たか!」
それは、極細の血で出来た鎖に繋がれた刀剣。
投げ飛ばされた筈のそれが、柄にくっ付いた血の鎖に引かれて宙を舞っていた。
タケミカヅチがの迎撃によって弾かれたそれを、ルージュは巧みに手繰り寄せ再びキャッチした。
俺を握った状態で、ルージュは不満げに言う。
「技の名前を言うのはロマンよ!」
『格ゲーみたいに声に出してたら気付かれるんだよ!』
「次はうまくやるわ!」
いやそう言う事じゃないんだけどな。
俺の抗議も虚しく、ルージュは武器である俺を再び構えて再度技名を叫ぶ。
「レッドムーン!」
「飛ぶ斬撃か、二度も同じ技が通用すると――」
余裕そうな顔であったタケミカヅチが焦りだす。
何故なら、ルージュの攻撃を防ごうとした瞬間に足元の影から現れた何者か達に拘束されたからだ。
「――貴様ら、奴の部下だな!?離せ、離さんか!ぐっ、ならば道連れに!うわぁぁぁぁ!」
「フハハハ、気付かれても避けられなければ問題ないわ!」
避ける事が出来ずタケミカヅチは拘束する眷族共々、攻撃を喰らって爆発四散した。
技名を叫んだ後に攻撃を当てたかったからとはいえ、部下を使って数の利で攻められるとはタケミカヅチも思わなかったことだろう。
因みに、眷族は暫くして再生したのでタケミカヅチは無駄死にである。
道連れすら出来ないとは不憫な奴であった。




