覚醒と新しい力
怨嗟に塗れた声が俺達の肉体から聞こえた。
それは、奴から放たれた攻撃に他ならない。
警戒する俺達、するとルージュの腕が勝手に動き出す。
「ぐっ!?」
それはルージュの喉を掴む、自分の腕で自分の喉を潰そうとしているのだ。
抵抗するも、腕は勝手に動いて握りつぶそうとしている。
この状態は……憑かれている!?
「ヤンヤン!」
『応!』
ルージュが直感に従い、阿吽の呼吸で指示を出す。
それは服に化けた使い魔への命令、自分の腕を斬り落とせと言うものだった。
コートの肩部分がバラバラになり、形を変える。
剥き出しになった二の腕を、肩から生えた竜の首が見ていた。
それは使い魔が姿を一部だけ戻したことに他ならない。
肩から生えた竜、もとい俺が二の腕をその咢で二つに噛み千切る。
落ちる二の腕、それは切断面から灰になっていく。
その腕は、落ちると同時に地面の上で暴れ狂う。
すると、腕の中から蒼い炎が這い出て空に霧散した。
切った肩を抑えながら、少しだけ力を込める。
すると、肩の切断面から血が人の手として現れ、徐々に色付き、そして白い二の腕と元の状態に回復した。
回復した腕の調子を確かめながらルージュは敵の姿を見た。
奴の周囲にはいつの間にか浮遊する三つの髑髏が蒼い炎を纏って存在していた。
それは、腕から出た物と酷似していた。
「ゴースト、死者の念が具現化した物かしら」
『なるほど、敵の幽波紋か……』
「真面目な時にふざけないの……」
奴は首を回転させ、ブリッジした状態になって笑った。
正直、関わりたくない人種になってきたがそんなことは言っていられない。
更なる変化が奴に起きたからだ。
三つの髑髏が蒼い炎を纏い浮遊するその横で、影から一つ目の巨大な犬が首だけ飛びだす。
赤い包帯に包まれた巨人、多種多様な武器が周囲を漂う。
「なにあれ……」
『全部ゴーストだな、格ゲーかよ……いや、実は格ゲーの世界と言う可能性も』
「いや、待って。マジで勝てる気しないんだけど」
挙動不審な奴の周囲をゴーストが囲んでおり、その視線は全て此方を向いていた。
それに対し、ルージュの反応が芳しくない。
「ウケケ、ケケケ!」
「ッ!?」
蒼い炎を纏った髑髏が、奴の声に合わせてか向かってくる。
再び触れれば、憑りつかれ肉体の一部を奪われる事は容易に想像できた。
「ゴーストなら!」
聖なる力に弱い筈、という根拠の元ルージュの身体から聖気が発せられる。
全身を戦闘民族とでも言うのかという程に聖気が溢れ、まるでオーラのようになった。
それを、絞り込むように拳と脚だけに集中して密度を増す。
直感的に、戦うには聖気の密度が足らないと感じたからだ。
「ハァァァ!」
迫りくる髑髏にルージュの拳が当たる。
同時に、バチバチという音が響き反発した。
それはこの方法が有効であることを示唆している。
しかし今の状態では髑髏と聖気は拮抗していた。
ならどうするか、更に絞り込む。
「ヤンヤン、形態を服から武器に!」
『無茶言うな、ええい!』
ルージュの身体からコートが剥がれる、まるで液体が張り付いていたかのように溶けて地面に落ちたのだ。
初めての姿をイメージして、コートが姿を変えて行く。
武器、そう考えて取り敢えず剣を想像した。
俺の姿がコートから赤い剣へと変わる。
道路へと突き刺さり、自己主張するその剣は大きな剣だ。
武骨なデザインのそれは、柄と刃だけの大きな剣。
剣と言うには刃は鉄塊のようであった、装飾もなくただ武器であらんとしていた。
普通に想像力が足りなくて基本的な武器要素を抑えただけの姿だった。
「か、可愛くないけどいいわ!」
『武器に可愛さなんか求めんじゃねぇ!』
片手で自身の胴体よりも大きい剣をルージュは構えた。
そして流される膨大な聖気、それは剣を包み込み変質していく。
魔力と聖気、反発するそれは全く予想もしない変質を遂げ、混ざり合い別の何かになっていた。
「何か出来たー!?」
『何か痛い!ちょっと、俺の魔力奪われてるんだけど!』
「取り敢えず、我慢しなさい!行くわよ!」
刀身のように赤いオーラを纏ったそれは、敵を薙ごうと振り被られる。
諦めず飛んでくる髑髏を、それは簡単に砕いて行く。
『あっ!ぐっ!おっ!クソ、ぶつかると痛いんですけど』
「もっと切れ味良くしなさいよ!粉砕してんじゃないの!」
『もっと鋭く、俺の身体がぶつかっても痛く無い様に』
戦いの最中に成長するかのように、ルージュの持つ剣が形を変えた。
より鋭く、洗練されたそれは日本刀のようであった。
紅い日本刀、白刃すらピンクという仕様のまるで妖刀のような物だった。
『どうだ、飛んでる武器を参考にしたぜ!』
「及第点ね、綺麗系じゃなくて可愛い系で次はがんばりなさい!」
『いやだから武器に、って来たぞ!』
言い掛けて、敵が来たことを知らせた。
新手は地面をスゴイ速度で走破する一つ目の犬だ。
首だけが地面に飛び出し、それがスライド移動しているのだ。
涎を撒き散らし、凶悪な顔で牙を輝かせ向かってくる。
「たぁぁぁぁ!」
「ウオォン!」
ルージュの攻撃が上から振り落とされる。
その攻撃は犬の頭に吸い込まれた。
「あれ?」
だが、犬は切断される事なくまるで透過する様に通り過ぎる。
次にルージュの足元へとぶつかるが、何の抵抗もなくすり抜ける。
触れられない犬の首、それがルージュの背後に回った。
「ヤバい!」
振り向き様に再び攻撃を行う。
すると、持っていた刀に重みが掛かり同時に金属音が響いた。
見れば、薙ぎ払う剣と犬の牙がぶつかっていたではないか。
どうやら、背後に回った犬の首はそのまま反転して飛び掛かっていたようだった。
『痛って!なんつー硬さだよ!頭に野球ボールが当たったみたいな痛みだ、この犬畜生め!』
「なるほど、攻撃時以外透過する能力があるのね」
『ゲームかなんかに良くある手合いだな。だが、気を取られるなよ』
気配を読めば使い魔の忠告が良く分かった。
敵の位置が移動していたからだ。
どこに行ったか、それは上空だ。
「グルルルル……」
視線は逸らせず、気配だけを読む。
敵の気配は上空をスゴイ速さで縦横無尽に駆け巡っていた。
まるで壁にぶつかるスーパーボールのように、何かに当たって方向を絶えず返るような動きだ。
背後の方で激しく動き回る敵、目の前にいる攻撃時以外干渉できない犬。
同時に二つが見えるようにルージュは走り出し、視界の確保に努める。
そして見た、獣のような動きで空を跳びまわる敵の姿を見たのだ。
空の至る所に四角い板があった、否、それは包帯が形を変えた物だった。
では、同じ包帯だと思わしき巨人はどこにと探せばすぐに見つかった。
最初見た時と異なり、身体の半分がない状態の巨人だ。
恐らく、自分の身体を切り離して四角い板を作っていたのだろう。
何の為に?それは、足場にするためにだ。
「ウヒャヒャヒャヒャ!」
「早さが、上がっていく?」
空中に位置する板を蹴り、別の板に到達し反転して板を蹴る。
何度も繰り返すソイツは、口に剣を咥えて四つん這いで空を駆け廻っていた。
まるで獣のような動きのそれは、いつしか早すぎて残像しか見えなくなってくる。
「ハッハァァァ!」
「ッ!?ぐっ!」
気付けば、目の前に剣を咥えた奴が現れていた。
そして、高速でルージュへと咥えた剣を振るう。
それをルージュはギリギリ俺を盾にする事で防いだ。
『痛いんだよ、クソが!』
「このぉぉぉ!」
鍔迫り合いになる両者、その左右から武器の群れが飛んできた。
それは奴の従える武器だ。
剣や鎖鎌、メイスや槍、仏教徒が持つような法具もある、他にも鉄のバットやモップ。
凡そ、武器と考えてもよさそうな物が纏めて飛んでいた。
まるで、どっかの王様の攻撃のようである。
「うっ、この!くそ!邪魔!」
まるで津波のようにルージュに迫る武器を後退しながら振り払って行く。
だが、それでも敵の攻撃が間に合わない。
更に追い討ちを掛けるようにルージュに新たな攻撃が加わる。
「何か来る!?」
チラリと後ろを垣間見れば、そこには網のようになった包帯が飛んできていた。
どうやら、武器の波で追い詰め漁の如く拘束する気らしい。
「邪魔だァァァ!」
『あっ、何か抜けてる!?』
ルージュから供給される聖気が増した。
それと同時に俺の身体の中から魔力が持ってかれる。
そして、増大した聖と魔の相反する気が混じった何かはルージュの斬撃に合わせて飛んだ。
『って、飛んだ!?』
紅い三日月が、剣先から離れて包帯の網へと飛んで行く。
触れた瞬間、スパッと網を真っ二つに切り裂く。
それは、まさに飛ぶ斬撃を体現していた。
「これが私が目覚めた真の力……喰らいなさい、レッドムーン!」
『お前は何ノリノリで技名付けてんの!?っていうか使いこなしてる!』
飛ぶ斬撃が連発され、今も襲いかかっていた武器の群れを飲み込んでいく。
触れた物から斬ると言うよりも、分解しているように無に帰していた。
そして、そのうちの一つが青辰蔵人だった妖怪へと向かう。
「やったか!?」
斬撃に飲み込まれ、辺り一帯が粉塵に包まれる。
幾ら奴でも無傷ではあり得ない、そう確信があった。
だが、粉塵が晴れたそこには……
「良い斬撃だ」
「誰だ貴様!?」
時代錯誤のような、着物を着流した浪人風の男が黒い刀を片手に守るように奴の前に立っていた。
「悪いがコイツは貰って行く。元々、その予定だったからな」
「まさか、お前は……」
「あぁ、お前が探していた朧ってのは俺の事だ」
円を描くように、刀が回される。
すると、切り取った様に朧と名乗る浪人の前が歪む。
空間の歪みが発生し、それが消えると同時に奴の姿と青辰蔵人だったナニカの姿は消えていた。
「あれが朧……」
『いきなり出て来て数秒で消えたな、何しに来たんだ?』
「取り敢えず、帰るか……」




