豆腐メンタルは投げ捨てる物
俺達が土地に住み着いてどのくらい経っただろうか。
「フハハ、低級妖怪どもに偵察させて待ったかいがあったもの。貴様らの力量は――」
「あむ」
「あぁ、親分が死んだ!?」
時たまやってくる、様子見してましたとかいう妖怪を見つけては食べ見つけては食べてを繰り返していたある日の事だった。
山の境界、つまり俺達の土地の入り口に嗅ぎ慣れない匂いがした。
この匂い、人間の匂いである。
「誰だ、こんな夜に出歩いて……」
ハッ、甘い蜂蜜のシャンプー、石鹸の香り、女だ!
女の匂いと男の匂い、間違いないカップルだ!
「おうおう、人の土地で何するんですかね?外で何するんですかね?」
これは、覗……注意するしかないじゃないか!
俺は急いで匂いの方向へと向かった。
境界の前から、匂いは動いていなかった。
怪訝に思いながらも近付いてみると、案の定男女の二人組がいた。
一人は目付きの悪い学生だ、両手に包帯が巻いてあり中二病かも知れない。
もう一人は、餓鬼だった。
小学生が目つきの悪い学生の背中におんぶされていた。
「何だ餓鬼か……」
「餓鬼ってゆーな!」
下から抗議の声が聞こえたので、俺はやれやれと言った雰囲気を出す。
そう言う所が餓鬼だって……あれ、ちょっと待って。
俺の独り言に返事したの?
「ッ!?貴様、見えているな!」
「今更かよ!なんでやねん!」
「やっぱ見えてんのかよ!?」
最近の子供は霊感でもあるのかな、そんな事を思いながら俺は地面に降り立った。
降り立った俺を見上げる餓鬼ども、恐らく異能者だか何だかだと思う。
もしかして、俺達を殺しに来たんだろうか?害虫駆除みたいに来てもおかしくないよな。
スズメバチじゃなくて妖怪ってだけで、専門家が呼ばれたみたいな感じか。
「おい、入っていいな?」
「ん、何か用か?まぁ、入っていいぞ」
「本当だな。これは侵入じゃなくて誘われたんだからな。襲ってくるなよ」
「襲わねーよ」
一歩、目つきの悪い学生が踏み出し此方を警戒する。
安全そうだと判断したのかもう片方も踏み入れて、完全に境界を越えた。
なんだろうか、何かの風習で境界を超えるのに許可が必要なのだろうか。
「よし、ヤンヤン。ルージュの元に私達を招くんだ」
「はいはい、分かり……アレ、お前なんで名前知ってんの?」
「えっ?あっ、しまった……」
「まぁいいか。変な事したら喰うからな」
本当は良くないが、それほど強そうに見えないし感じないので碌に警戒せずルージュの元に案内する事にした。
中々怪しい奴らだが、どっちも子供だし畏れるに足らずといった所か。
だから、祠の前まで誘導した。
「着いたぞ」
「うむ、限」
「うっす」
祠にぶつかるように、餓鬼をおんぶした学生が前に進み出る。
すると、祠が揺らぎ彼らを飲み込んだ。
俺も後に続くように中に入ると、暗闇に包まれ次に出たのは湖の中だった。
「うわっぷ」
「おっと」
俺の身体が入った事で揺れる水面に飲み込まれる餓鬼どもを掴んで持ち上げる。
二人とも俺のせいで溺れ掛けていたからだ。
「うむ、ワニの背中にいるみたいだ悪くないぞ」
「いや、ワニって」
すいすい泳ぐ俺の背で、幼女が偉そうにふんぞり返っていやがった。
本当にコイツら何者なんだろうな。
城下町に着き、顔パスで中へと入っていく。
道行く吸血鬼達は、養殖ではなく天然物の人間に驚いていた。
「おい、本当に襲わないよな。滅茶苦茶見てるぞ」
「ウナギっているだろ」
「おい、なんでウナギの話してんだよ」
「養殖ものしかない所に天然の物が入って来たら珍しいだろ、つまりそう言う事だ」
「それって食べ物ってことじゃねーか!」
ぺちぺち、と頭の部分を叩かれる。
この幼女、出来る!ツッコミが板についてやがる。
「お嬢、天然物はおいしいぞ」
「そういうこと言ってんじゃないわ!」
横にいた限とかいう学生が頭を叩かれていた。
そうか、ツッコミ慣れてるのはコイツのせいか。
城へと到着し、俺はネコへと姿を変えてルージュの元へと行く。
ルージュの部屋、と書かれた扉の前で俺達は立ち止まった。
「毎度思うんだけど、どうして引き籠る時は狭い部屋にいつもいるんだ。しかも周りの廊下とドアのミスマッチ感ハンパないわ!」
「広すぎると遊ぶとき落ち着かないんだよ」
「庶民か!自称貴族様の癖に、庶民か!」
この幼女、今宵のツッコミもイケイケである。
「おーいルージュさんやー」
「ご飯なら廊下に置いといて~」
「いや、そうじゃなくて」
「仕事なら部下に聞いて、今忙しいから~」
「何言ってんの、お前さっきからゲームしてるよね。ピコピコ音してるけど、あっ死んだ!」
「うがぁぁぁぁ!お前のせいでロストしたぁぁぁぁ!」
部屋の中から断末魔が響く、経験値がと嘆く声、あっ泣きだした。
奥の方からドアの方へと、足音がスゴイ勢いで近づいてきた。
そして、思い切り叩き付けられて開かれるドア。
「今、忙しいって言ったじゃん!何考えて……って誰?」
「よっ!また来たぞ」
「…………誰?」
おんぶされた状態で軽く手を上げる幼女とポカンとしたルージュが邂逅した。
部屋を移動して応接間、ルージュは用意されたお菓子を頬張り優雅に紅茶を飲みながら威厳たっぷりに口を開いた。
「それで、人間が私に何の用かしら?本来なら始末する所を、此方が招いた形なので譲歩してやるが下らない用事なら命はないと思うのね」
「あっ、そういうのいいんで。今更って言うか、内心知らない人だうわーみたいな感じだって分かってるんで」
幼女の一言がクリティカルヒットしたのか、ルージュが咳込んだ。
どうやら、飲んでる紅茶が気管に入ったらしい……図星だったのか。
「な、何を言ってるのかしら!私、分からなくてよ」
「いや、ドレス濡らした状態で口調変わってるし、どうみても動揺してんだろお前」
「…………」
ガンっと、ルージュが無言で頭をテーブルに叩き付けた。
おい、ちょっとは取り繕えよ。
小声でブツブツ愚痴ってんなよ、最後まで頑張れよ。
「まぁ、アンタが豆腐メンタルなのは置いといて」
「うっさい、豆腐メンタルって言うなー!」
クッションに顔を埋めながら、いやんいやんと身体を揺らしてルージュが抗議する。
その余りにもみっともない光景を鼻で笑いながら、幼女がソファーに立ち上がって言った。
「私の話をしよう。私は……ほ、鳳凰院飛鳥」
「……えっ、本名は?」
「うっさい、本名だわー!」
キョトンと、顔を上げて窺うルージュにうがーと幼女が立ち上がり威嚇する。
スゴイ苗字だ、タイムマシンとか作りそうだな。
「おい、続けるからな。いいか、私は未来から来たんだ!」
「……えっ、妄想?」
「うっさい、本当だわー!」
再びうがーと威嚇する幼女、まったく同じ構図であった。
しかし、ルージュは全く信じた様子はない。
それどころか、中二病?これ中二病?と俺に同意を求める始末だ。
「お前信じてないな!じゃあ、未来のお前から聞いた秘密をバラしてやる!」
「はっはーん、それで私に信じさせようって魂胆ね。でも、お生憎様でした私には秘密なんてないんだから」
「……パソコンの業務連絡フォルダー」
自信満々だったルージュの顔が引きつった、そして忙しなく目が左右に動く。
あっ、なんかコイツ隠してる。
「た、ただの仕事用のフォルダーだし、ロックが掛かってるのは社内秘密だからだし」
「お前仕事してないだろ。いいのか、中身バラしてもいいのか?」
「べ、別にやらしい物とかないし!っていうか健全、超健全なんだからね!」
「ほぉ、アレが健全ね。まぁ、誰に見せる訳でもないないし趣味は人それぞれだからな……」
ニヤニヤする幼女、俺はそれを見て確信する。
よし、部屋に行こう。
「わー、どこに行く!待って、行かないで!」
「ちょっと、トイレだよ!だから離せって!」
「嘘だ!絶対部屋に入る気なんだろ、そうなんだろ!」
「ば、馬鹿ちげーし!部屋とか入らねーし!あっ、お前吸収はずる――」
「フハハハ、防げればよかろうなのだー!」
全力で阻止しに来たルージュに捕まり、俺は身体の中へと吸収された。
おのれ、いつかシャンバラ君を使ってフォルダーのロック解除してやる。
「はぁ……いいわ。貴方の、えっと……その自信に敬意を表して信じてあげてもよろしくてよ」
「信じてあげても?」
「し、信じるわよ。文句ないでしょ、これで言うんじゃないわよ!良いわね、分かった?」
「うん、言わない言わない。決してコスプレした自分の写真が入ってるなんて、上から目線で頼まれたからには言えないな~」
「い、言ってんじゃないの!うわぁぁぁぁ!み、見るなー!私を見るんじゃない!」
お前、そんな事してたのかよ。
『なんか……どんまい』
「やめろぉぉぉ!殺せ、殺してくれぇぇぇ!」
幼女との邂逅は、ルージュの黒歴史の新たな一ページを刻むのだった。
完全に心が折れちまったルージュと、遠慮もなくアレが欲しいとメイドに頼む幼女が部屋にいた。
っていうか、お前なんでそんなメイドと仲良いの?初対面だよね、何で名前知ってんの?マジで未来から来たの?
「まぁ、そこの馬鹿は置いといて」
「ば、馬鹿っていうな!」
「泣くなよ、ウザいな」
「泣いてないわよ!それにウザくないから!馬鹿って言った方が馬鹿なんだからね!」
大人げないぞ、どっちが子供だよ。
まぁ、本当に使い物にならないご主人様は置いといてどういう事か話を聞くとしよう。
「この説明何回目だろ。実はお察しの通り私は転生者なんだ。悪役令嬢ですけど何か?っていう小説の主人公に憑依した訳だ」
「全然、お察しじゃなかった!?」
そこから幼女の説明が始まった。




