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吸血鬼の創生

ルージュが白い炎を握り潰した瞬間、ルージュを起点に闇が広がる。

闇は周囲の物を飲み込み、いつの間にか黒い空間へと成り代わった。

良く分からない状況に、俺は困惑していたがルージュは何やら納得した顔をしていた。


「おい、どうなってるんだ?」

「多分、異界が崩壊したんだと思う。土地の方から力を送られてきたから、私がこの土地の主に認められたと考えるべきかしらね。要するに好きな世界を自分で作れって事でしょう」

「そういえば、どことなく影の中みたいだな」


しかし、土地に意志なんてあるんだろうか。

龍脈とかなんかそう言うの聞いたことあるけど、どうなんだ。

まさか、これはガイアの意志って奴なのか?

えっ、抑止力出ちゃう感じか?霊長の守護者だか星の守護者だが出てくんの?


「おーい、何してんの?目まわってるぞ」

「頭が混乱してきた……」

「もう、取り敢えずシャンバラ君呼び出すわ」


ルージュが脱力して五体投地する俺の前で、軽く指を鳴らす。

すると、どこか遠くでドシンと大きな音がした。


「わー、わー、ここどこ?あれ、影の中?」

「おいーす、短い別れだったな後輩よ」

「アイェェェ!先輩、ナンデ!お土産は!?」

「おい、お土産って……」


本体ごと転移して来たのか、巨大な惑星が黒い空間にポツンと存在していた。

その上では尻もちついた状態のシャンバラ君が忍者を発見したような反応で混乱していた。


「よーし、なんとなくでやっちゃうわよ。ちょっと、シャンバラ開きなさいよ」

「あ、はい」


シャンバラ君が返事をすると、本体の方に亀裂が走った。

そして、本体が開いてヒトデのような形になっていく、アレって開くんだ。


「取り敢えず、忌々しい太陽の代わりになる光源を作りましょうか」


また、指を弾く。

すると、いつの間にかポンっと月が出て来た。


「城に合わないわね、合いそうな景色にしましょう」


また、指を弾く。

今度は、シャンバラが開いて出来た事による星形の城下町と城の周りが湖になった。


「こんな大きくなくていいわ、山で囲んでしまいましょう」


また、指を弾く。

最後に、湖の周囲を山が囲んだ。

すると空間が何だか縮んだ気がした。

恐らく、いらない部分である山の向こう側の空間を削ったんだろう。


「来た時よりちっちゃいけど、まぁ良いでしょう」

「ヨーロッパの城って感じだわ」

「空間系の術式知らないと弄れないけど、前の奴は管理するにしては広すぎなのよね。これくらいなら、力の維持も土地の力で賄え……あら、誰か外の土地に侵入してるみたいね?しかも、土地を痛めてるのかしら?」


どこか遠くを見ながら、山に囲まれた湖と城と月夜しかない空間でルージュが嘯く。

どうやら、外の状況が何となくだが分かるらしい。


「一応領地みたいな物なんだけど、うっとうしいわね。リンクしてるせいか気に障るわ」

「そうなのか?」

「よし、やっちゃえばいいわ!」


何をやる気だよ、と思ったがもちろん排除するってことだろう。

ルージュが湖に手を翳すと、今まで何も移していなかった湖面が揺らいで上空にある月を鏡のように映す。

そこに飛び込むように命令が下り、眷族達が我先にと飛び込んでいった。


「じゃあ、行くわよ」

「はいはい、しっかり掴まれよ」


自分で歩くのが面倒くさいらしいルージュを掴んで、そのまま背中に降ろす。

さて、見ている限りだと湖面の月は外に繋がっているのか触れた瞬間みんな転移している。

俺も飛び込めばいいのだろう。




予想通り、と言った所か。

月に触れると行きと同じように闇に包まれいつの間にか景色が変わる。

先程いた山の中、祠の前に俺は現れた。


「で、何これどういう状況?」


空を埋め尽くす妖怪の群れ、まるで雲のように黒い影があった。

周囲は木々を破壊したりするこれまた妖怪、右見ても左見ても色々な場所に妖怪がいた。

虫だったり、動物だったり、名前を知ってるメジャーな物から知らない物まで多種多様だ。


「あっ!?」

「どうした!」

「ツ、ツチノコよ!」


何だツチノコかよ……えぇ、ツチノコ!?どこどこ、ツチノコどこ!?


俺達がはしゃいでいると周囲から生温かい視線が送られてきた。

おっと、ちょっと取り乱しちまったかな。

うん、だからお前ら見るじゃねぇよ!


「まぁ、それは置いといて……どうなってんの?」

「分かりません、我々が出た頃には既にいました。ただいま、勝手ながら土地を荒らす不届き者を排除しておりますがやめさせますか?」

「続けさせて、恐らく土地の力が目当てね。何か減ってるみたいだし、まぁアンタ達が殺したら戻ってきてるみたいだから盗まれないように逃がさないように」


命令に返事をしてすぐに眷族の一人が他の眷族の元へと行った。

その後は、この百鬼夜行とでも言うべき状況の整理だ。


「前の主が死んでなんか変わったのかしら?ちょっと、適当に捕まえようかしら」


指先を軽く噛み切りながらルージュが思案顔で呟く。

その間、指先から血が二、三滴ほど垂れた。

垂れた血は水銀のように表面張力を働かせて集まり、生き物として変わっていく。

出来たのは一匹の小さな蝙蝠だ。


蝙蝠は出来たと同時に飛び立ち、空を旋回する。

そして、何かに目を付けたのか急速落下してそれを掴んだ。

それは羽の生えた生首の妖怪だ、何だっけこれチョンチョンだっけ?飛頭蛮だっけ、昔漫画で見たことあるんだよな。


「ゲヒィ、は、離せ!?」

「うわ、キモいの捕まえて来たわね」


耳がカラスのような羽になっているオッサンの生首がバッサバッサと翼を動かし暴れていた。

それを掴んだ蝙蝠は、ルージュの元へと近づけて行く。

すると、その生首は急に暴れるのをやめた。


「あっ……」

「おい、お前」

「は、はい何でございましょうか?」


冷や汗を垂らしながら、苦笑いの様子がおかしい生首にルージュが声を掛ける。

なんというか、先生に話し掛けられた生徒とか失敗して上司に呼び出しされるような。

うん、すげー哀愁漂う顔になっていた。


「さっきまでの威勢はどうした?」

「あー、いえ、あの、自分のように下級の妖怪になんのようでございましょうか。私はたまたま、ここいらを通っているだけでして。いや、本当にたまたまなんです」

「まぁいいわ、ちょっと聞きたい事があっただけよ」

「そうでございますか。まさか、貴方様のようなお綺麗でとても強いお方から話しかけて頂くとは光栄でございます。学の無い自分ですが、さぞかし名のある大妖怪様の御力になれるなら、それは努力を惜しみません所存です、はい」


なんていうか、ルージュに見られているだけで生首が凄くビビっていた。

しかも、下手に出てヨイショしている。

要するにお世辞のオンパレードだ、こんな事で気分が良くなると思っているんだろうか。

不自然過ぎて、寧ろ逆効果だろう。


「ア、アンタ見る目あるじゃない。土地の力が欲しいんでしょ、ちょっとならあげてやってもいいわよ」

「ほ、本当でございますか!いや、器がデカい。もう、どこか欠点はないんですか。スゴイっすね」

「そ、そう?まぁ、私ほど完璧な存在ってのもいないけどね。ふふーん」


あれぇぇぇ?ちょっと、効果あり過ぎじゃない?

なにお前自慢気なの、お世辞だよ馬鹿なの?

ちょろい、ちょろすぎるだろ。

あっ察し、みたいな顔してるじゃん。

生首呆れてるよ、気付けよルージュさんよぉ!


「まぁ、私を褒めたいのは分かるけど話が進まなくなっちゃうからここまでにしましょう」

「あっ、はい」

「何で今日はこんな風に集まってるのかしら?それが聞きたかったのよ」


一瞬、何言ってんのというような顔したが直ぐに営業スマイルを張り付けて生首は口を開く。


「いや、お気づきでしょうが此処の主である山の妖木が張っていた結界が消えましてね。恐らく人間か妖怪かに殺されたんでしょうが、今が攻め時と土地の力を弱い妖怪共は取りに来たんですよ。普通、土地を奪ったら自分の物だと主張するもんなんですが、ここを奪った妖怪は結界を張ってない所を見ると余程の酔狂な馬鹿と見るべきでしょうね」

「ほほう、馬鹿と?」

「そりゃそうですよ、こんなフリーな場所なら命が惜しくてもやってきますって。土地の力ってのは妖怪が溜めた魂が染みこんでますからね、いるだけで人間何体分の力が得られるか。まぁ、貴方様程になりますと微々たる物ですが、我々のような矮小な存在には夢のような土地でございます」

「結界ね、ふん」


ルージュが指をパチンと鳴らしてすぐに結界を張った。

目には見えないがルージュの気配が土地全体に行き渡る。

感じ方次第で冷たかったり温かかったりする気配だ。

眷族達は一瞬作業を止めて、気分良さそうに作業に戻る。

それに対し、山を駆け回っていた妖怪達は震えて我先にと外へと逃げようとして結界の前で泣き喚いていた。


「あ、あなた様が……」

「そうね気付かなかったわ。でもしょうがないわよね、私って酔狂な馬鹿らしいから?」

「も、申し訳ございません……私は、その」

「何で謝ってるのかな?ねぇ、何で?」


眼のハイライトが消えてる気がする、そんな表情で生首が見られていた。

もう可哀想な程にガクガクブルブルである。


「いや、あの……へへっ」

「もうお前いらない」

「えっ……」


ルージュが指先を一閃、すると気付く間もなく真っ二つにされて生首は息絶えた。

悪口一つで斬殺とは、まさに暴君である。


「もう帰って寝る、まったく誰が馬鹿よ。馬鹿じゃないし……」

「えー、何でちょっと涙目なの?豆腐メンタルなの?」

「うるさいわよ、この馬鹿ー!」


拗ねたルージュが影に沈んでいくのを俺は見届けるのだった。




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