土地神との遭遇
ルージュにより行われたバイオハザードによって研究所の人間達がゾンビに襲われた。
ゾンビはグールと違って死体からではなく生体から作られるため、再生力が多少強く中々しぶとい。
一応、警備の人間みたいなのが戦っているが無駄な結果と言えるだろう。
逃げ出そうにもルージュによって張られた結界で外に出ることが出来ないようだし、ルージュがこの世界の術式が分からないように、結界を解除しようとする奴等では術式が異なる為に解除できないようで結局ゾンビに喰われてしまっている。
そして、突発的な言い訳によってルージュが調べ始めたのだが、結果大した物は分からなかった。
パソコンを弄ろうにもパスワードが分からない時点で躓いて、結局何も出来ない。
分かった事と言えば、人間に妖怪の一部を組み込んだ武器を装備させ身体能力や術の強化をする計画があると言う事だけだ。
書類として置いてあった生体兵器の開発プロジェクトと言う企画書ぐらいしか分からなかった。
現在、この世界では偶発的に発生する異能者を発見次第、然るべき機関にて拘束し戦力として確保している。
それだけでは戦力が足りないので人工的な異能者、つまり普通の人間や異能力は持っていなくてもある程度戦える人間を、妖怪の力を利用して強化兵士として運用する計画が発足されたらしい。
しかし、人間の妖怪化や武器が妖怪として復活する問題などもあるそうで、今回の実験ではそういう問題の解決策として血液を投与して親和性を高めようという目的だったようだ。
……つまり、主人公がピンチになると夢の中で武器にされた妖怪が現れて、戦って覚醒するイベント的展開が起こりそうな設定である。
やっぱり、この世界は漫画の世界かもしれない。
「な、何でロックが掛かるのよ!パスワードちょっと間違えただけじゃない!」
『あー、また壊した。お前、気に喰わないからってパソコン殴んなよな。何台目だよ』
「中身が全然違うんだけど!何なの、何で魔法が使われてないの!何で全部機械とか半導体なのよ!」
『フッ……異世界だからさ』
癇癪を起すルージュを嘲るように俺は鼻で笑った。
研究所が遂に制圧され、生きている人がいなくなった。
そして誰もいなくなった、状態である。
しかしルージュの怒りは治まらない。
何故なら思い通りにいかず、ただパソコンを破壊するだけで時間を無為にしたからだ。
「ムカつくムカつくムカつくー!」
足を上げては地面を踏み、身体全体で不機嫌さを表すルージュ。
その様子に周囲のゾンビ達はおーとかあーとか言って困惑している。
暫くすると壁にパソコンを投げつけ、施設の装置を力任せに破壊して、壁を壊しながら直進して外へと向かう。
もうやりたい放題だった。
「よし、ぶっ壊してやるわ!」
結界から出て、ゾンビ達を残した研究所の方を向いてルージュはビシッと指を指す。
その先には膨大な量の魔力が集まっており、何をするのか予想できた。
「ビーム!」
指先から光が発射され撫でるように研究所を一閃する。
すると、目の前で研究所が残されたゾンビ達ごと爆発した。
もうやりたい放題だった。
「思い知ったか、人間どもめ!」
『ゾンビ達が死んだ、この人でなし!』
「フハハハ、私は人じゃないのでノーカンなのよ!」
『あっ、今ので人が来るぞ』
結界が爆発で壊れた事で周囲に音が響き、騒音と炎上した施設を発見した誰かに呼ばれて集まってきたパトカーの音にビビってルージュは逃走した。
おい……警察から逃げるなよ、吸血鬼。
土地勘のない俺達は工場地帯から抜け出し山の中に入った。
どうやら、工場に偽装した秘密の実験場だったようだ。
いや、跡形もなく壊れたから予想だけどね。
まぁ、似ているような建物の中に隠していたのは木を隠すのなら森の中みたいな考えなんじゃないかな。
山に侵入すると、ある地点から空気が冷たくなった。
温度差のような物、それとピリピリした気配だ。
流石にルージュも察知したのか顔を不思議そうに歪める。
「何かしら、異界?結界の中にでも入ったのかしら」
『何だろうな……あー、いや分かったわ』
「んっ、なんかあるわね」
俺はルージュの視界から祠のような物を見つけた。
朽ち果てて苔むしてはいるがそれなりに大きな石の祠だ。
俺の感じたこの清澄な空気、それの正体は恐らく祠が原因だった。
「森……俺の……お前……何?」
「誰?」
モソモソした声音が祠から聞こえた。
それにルージュが反応すると、そこから何かが出て来た。
それは植物だ、植物が絡み合って人のようなナニカが現れた。
「妖怪……ここ神佑地……見逃してやる……去ね」
「あぁ!?いきなり出て来て何言ってんの?喧嘩売ってんの?お前、嘗めてんの!私のこと嘗めんなー!」
「憐れ……天誅……」
気配が変わり、ナニカの体表を覆う植物がゆっくりとだが伸びて行く。
まるで這い寄る蛇のように広がり、伸びて行く植物が俺達の元へと向かってくる。
感じた事のない気配を纏うをそれに、一度警戒して避けようとした瞬間だ。
「えっ?」
後ろへと飛び退くルージュ、しかし着地する地面はなく浮遊感に包まれる。
下を見れば底も見えない程の真っ暗な穴が開いており、ルージュを飲み込んでいく。
重力に引かれ、落ちている間にルージュは何が起きたか理解した。
それは入り口だ、異界化した自身の世界へ招き入れる穴だ。
暗闇に包まれ、肉体が揺蕩う。
いつの間にか景色が変わり、俺達は草原に降り立った。
「ここは……」
気配が消えていた、と言うよりはどこにでもあってどこにでもないと言った感じか。
曖昧な物を説明する事が難しいように今の状況を説明する言葉が無い。
一番近い感覚と言えば、喰われかけて体内にいる時のような気配だろうか。
「自分の領域、閉じているわね。世界が異物として排除しようとしている」
『大丈夫なのか?』
「大分ヤバいわ、何だかどんどん忘れてきてる。意志を強く持たないと世界に殺されるわね。だからシンプルに奴を見つけて殺す、それだけ覚えとけばいいわ」
ルージュが自分の影に手を突っ込み、引き上げる動作をする。
すると、影が揺らぎ立体的に地面と垂直に湧き出した。
間欠泉のような黒い影は四方八方に散り、水しぶきのように地面に落ちた影の欠片は肥大化した。
それは人型、眷族達だ。
眷族達がルージュの周囲を埋め尽くすように召喚されると、今度は自分の腕を肩から切り落とす。
爪で軽く一閃、それだけでボトリと腕が落ちて傷口から新しい腕が生えてくる。
落ちた片腕、それは蛇のような形になり翼が生え、そして手足が出来上がる。
それはドラゴンの肉体、俺の意識が乗り移り俺の身体となった。
眷族達と違って保有する力が強すぎるから、俺のは肉体を分け与える形になっているのだ。
「あー、あー、久しぶりに自由になったな」
「全員散って、この世界を維持している主を見つけなさい。私の影みたいな異界だから支えている主がいるはずよ」
「外にいるんじゃないか?」
「外にいたら、異界が独立した物になる。そしたら、維持できなくて内側から崩壊するはずよ。常に繋げている私の影と違うだろうしね」
そういうものかと言う俺にそう言う物よとルージュが答える。
しかし、何だろうか働きたくない。
こう、寝起きみたいに心地よくて動きたくない。
アレ、何しようとしてたんだっけ?
「ちょっと!働きなさいよ!」
「お、おう。そう言えばそうだった……あー」
もしかして、気を抜いていたからか?
何か目的とか忘れそうになってたな。
気を引き締めないと自分が何なのか分からなくなって消えちまいそうだ。
「いた、全員現場に向かいなさい!行くわよ!」
「よし、任せろ」
しばらくして、何となくあっちの方向にいるという確信をした。
これは探し物を見つけた眷族からルージュに情報が送られ、ルージュから眷族全体にその情報が送られたのだ。まるでネットワークみたいな物である。
急ぎ現場に辿りつけば、巨大な木があった。
緑に包まれた巨大な木が、枝を左右に動かし眷族達を吹っ飛ばしている。
根は地面から突き出て、モグラ叩きをするかのように出て来る根を眷族達が囲んでは移動して繰り返し対応している。
「さっきの奴と同じ気配ね。寧ろ、こっちの方が大きい?」
「多分、俺達があったのは端末みたいな物なんだろう」
「ゲームで似たような奴と戦ったわ、木の中に本体がいてワンパンで倒せるはずよ!」
「木に洞なんかないからな!中に何もいませんよだからな、このゲーム脳め」
もし本当にそうなら近付いた瞬間地面が崩れるわ。
さて、主というのがアレというのならタダの木ではない。
多分、植物のモンスター……こっちで言う所の植物の妖怪ってことだろう。
エント、トレント、花魄、彭侯、木霊、人面樹、後は妖精の類かな。
草タイプには炎タイプ、という事で燃やしてやろう。
「た、退避ー!誰だよ後ろで炎使ってんの!」
「おいバカ、聞こえんだろ!」
「うわ、ヤンヤンさんだ。やっべぇ……」
お、おう。
なんかそう言う反応されると怒るに怒れないじゃないか。
俺のブレスが口から放たれ巨大な木を炎で包む。
炎はすぐに消え、残ったのは枯れ木のような巨木だ。
「あれ?」
しかし、ゆっくりとだが緑が戻る。
枝から小さな芽が出て、大きくなっていく。
再生しているのだろうか?
「土地の力を使ってるわね、なるほどね。あそこは一種のパワースポット、神佑地ってのはそう言う意味ね。土地神って奴かしら?」
「回復するなら埒が明かないな」
「そうでもないわ、力の使う場所で急所が分かったから」
だから、と言ってルージュの姿が消える。
瞬きをする刹那の間、巨木には穴が開き離れた場所にルージュの後ろ姿が見えた。
巨木は半ばから無残に折れ、ルージュは片手に白い炎のような物を持っていた。
「こんな風に殺せるわ」
白い炎のような物を握りつぶしながら、ドヤ顔でかっこつけながらルージュが言った。




