地上偵察
調査が開始してから一ヶ月が経った。
やっている事と言えば、観測機であるゴーレムを放って地上を調べたり現地の生物を回収して解剖や実験を行ったりだ。
まぁ現地の人間を攫って、記憶を消して元の場所に戻すなんて言う宇宙人みたいな事をしていると思ってくれればいいだろう。
そんな感じで、新世界がどうなのかが分かった。
俺の前世に酷似した世界、ここは約五百年前に突如起きた大災害によって世界が変容した結果生まれた。
元は二つの世界だったのだが空間震と呼ぶ災害によって一つになってしまった。
空間震、それは世界同士がぶつかって起きた災害だと言われている。
突如、別世界と繋がった結果起きたその災害によって堕天使達が住んでいた世界は大陸が重なるように分断され多くの生物が死滅した。
その際に、地上を支配していた堕天使は殆ど息絶えてしまい今では保護指定されるほど数が少ない種族となった。
繋がったもう一つの、精神生命体のいる世界は肉体を持たないが故に多くの生物が生き残った。
だが、世界が一つになった影響によって徐々に衰弱死した精神生命体は絶滅を免れるために堕天使の世界に存在した生物たちと融合する事で難を逃れた。
つまり、この世界は堕天使と精神生命体の世界が一つになった世界だったのだ。
時系列は可笑しいが、俺達が少し前に見た時は二つだった世界が恐らく何者かによって一つにされたと考えるべきだろう。
そして、この世界には二種類の生物がいる。
まず、妖怪と呼ばれる謎の生物。
俺達の知っているモンスターみたいな奴等が世界中に蔓延っており人を襲っているそうだ。
次に、その妖怪と戦う人間達。
陰陽師、シャーマン、エクソシスト、色々な呼び名はあるが異能力や武器を駆使して妖怪と戦い人知れず世界を守る者達だ。
この世界の不思議な所は、妖怪を見ることが出来る人間は少ないと言う事だ。
つまり、霊感が無いと分からないみたいな状況である。
表の世界では妖怪や人ならざる者達の存在は認知されてはおらず、噂程度しか広がっていない。
都市伝説、のような感じでしか認知されていないのだ。
だが、裏では人間対妖怪側の戦争が繰り広げられているそうだ。
人外の化け物専門の機関、魔払いと呼ばれる者達が妖怪に悩まされる人間を救ったり、妖怪を使役する悪い奴等と日夜戦っている世界という訳だ。
「なんか、漫画やラノベに出てきそうだな。メロンパン好きな女の子が突如家に来るんでしょ、ケッ」
「擦れてるわね、っていうか吸血鬼いるみたいじゃない。えー、私妖怪って事なの?」
地上では約五百年ぶりの空間震に世界中が大騒ぎしているそうだ。
まず、世界地図が範囲を広げたにも関わらず時間の流れが変わっていないことに学者連中が自転がどうのこうの議論を交わしたりしている。
他にも宗教機関が世界の終わりを嘆いたり、未知のウイルスが飛来する終末論が唱えられたり、流石に隠蔽できない事態に魔払いとやらは大混乱しているそうだ。
だが、俺はこの状況に分からない点を見つける。
世界同士が繋がった結果、多くの影響が出るは分かるが俺達の時と規模が違うという事だ。
少なくとも生物が絶滅するような影響は互いの世界になかったはずなのだ。
また、誰が堕天使と精神生命体の世界を一つにしたのかという謎もある。
「ヤンヤン!」
「何だよ、今忙しいんだよ」
「地上に行くわよ!」
「えっ?」
確かに動かないと状況は変わらない、しかしもう少し念密な調査をするべきだと俺は訴えた。
だが、有無を言わさず封殺され俺は地上に降りる事となった。
シャンバラ、その顔のような惑星の鼻の部分に俺はいた。
ルージュによって呼び出され、地上に降りる準備をしているのだ。
因みにシャンバラ君以外、影の中に眷族は入っている。
「いってらっしゃいです。あっ、お土産はロボット物がいいです。転移で送ってください」
「おい後輩、俺は仕事で行くんだぞ」
「分かってます。これは現地の通貨を複製した物です、任務頑張ってさい!」
お前の任務と俺の任務がなんか違う。
そんな感想を抱きながら、俺は後輩であるショタに背を向けて鼻の先に進み出る。
因みに、俺の背中にはワクワクしたルージュが待機している。
翼を広げ、俺は軽く飛んで重力に任せて落ちて行く。
しばらくすると、翼が風を捉えて急激に失速し滑空しだした。
黒い竜が、空の闇に紛れて地上へと降りて行く。
「ステルス術式は良好だな、どうやら気付いてないみたいだ」
「結界に到達するわね。面倒だわ、壊してしまいなさい」
メッチャバレるじゃないですか、そう思ったけど命令なので仕方ない。
体内で魔力を練って、口内で圧縮してお馴染みのレーザーのようなブレスを発射した。
すると、ある一定のラインで何かにぶつかり周囲に拡散する。
それでも俺が絶えず放ち続けると、何かが壊れる音ともに海へとレーザーが落ちた。
「ゴーゴー!結界修復してんよ、急いで!」
「了解」
緩やかな滑空から、身体を縮ませ空気抵抗の少ない状態での急速落下に切り替える。
まるで隕石の如く、地上へと接近していく。
すると、俺の感覚が何かの気配を捉える。
恐ろしい速度で接近してくる何か、それは戦闘機だ。
「せ、戦闘機よ!本物だわ、ウチのより速いわ!」
「俺、東京タワーに刺されたくないよ」
戦闘機からミサイルが発射され、勢いよく俺の方へと近づいてくる。
ステルス術式が効かないと言うのはどういうことなのか、今は分からないので急速落下を旋回する事でやめてミサイルの弾道から逃げる。
「フレア、ゴー!」
「了解」
フレアというなの空間に停止する火の玉を魔法で発生させる。
するとミサイルはそちらに誘導され、俺から外れる。
この時点で俺は熱感知されたのではと予想を立てて、自分の周囲の温度を操作した。
「戦闘機が離れて行くわ!」
「あー、熱感知されてた訳だ」
周囲の景色と同化するステルス術式じゃ意味がない訳である。
まぁ、何にせよ戦闘機を撒いた俺達は地上に向けて移動する。
目標は富士山らしき巨大な山だ。
「ここが日本って場所なのね」
「トンデモ日本な、俺の言ってた日本じゃないからな」
まぁ、だいたい同じだから何とも言えないけどな。
そう言って、俺は地上に降りられそうな場所を探す。
そんな俺の視界が、此方を見る人間を見つけた。
「アレ、おいこっち見てない?」
「何が?見えてる訳ないじゃない」
「いや、絶対見てるだろ」
此方を見る、着物を着た爺さん。
爺さんが富士山の山頂から俺達を見ていた。
そして、この時俺はその異常性に気付く。
どうして、山頂なのに着物一枚の薄着なのか。
「ッ!?」
爺さんが、何やら印を手で作った瞬間。
俺は巨大な気配を感じて上空を見る。
「な、なんだアレは!?」
空の合間から、巨大な掌が俺に向かってきていた。
まるで、魔王が巨大化して時のような光景だ。
しかし、速度は魔王とは段違いで避けられそうにない。
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
半透明の巨大な何かに俺は叩かれ、地上へと叩き落とされる。
ダメージは少ないが、体勢が崩れたために俺は自由が効かない。
故に、安全を考慮して肉体を流動的にしてルージュを包んだ。
傍から見れば、巨大な黒い球体が空から落ちている感じだろう。
「な、なんなのアレ!ゴーストなのに物理干渉してたわよ!」
『そんなのいいから、衝撃に備えろ!』
どこか分からない山の中へと、俺は地面を抉りながら墜落する。
木々をなぎ倒し、土を削りながらようやく止まった頃には巨大な穴が出来上がっていた。
そんな俺を一瞬でルージュは吸収し、土だらけになりながら穴から這い出る。
「アレ、たぶん術師ね。地脈を利用した技に違いないわ。坊主だったから寺生まれって奴ね」
『寺生まれってスゲー、もう何アレ。人間やめてるでしょ、感謝の正拳突き一万回とかやってるでしょ』
「とにかく移動するわ。襲われたら堪ったもんじゃないから」
追手を警戒して、ルージュは街の方へと移動を開始した。
街にやって来たルージュは自分の国と日本の光景を比較しながらフラフラと移動を開始する。
車の行き交う車道、酔っ払いや客寄せのいる街並み、キラキラ輝くビル。
視線が色々な場所に向けられる。
「凄いわね、なんて文化的な民族なのかしら」
『あぁ、でもみんな見えてないみたいだな』
ルージュの中で、俺は共有した視界から感じたことを言う。
確かにルージュはいるのだが、周囲の人間は気にしていない。
真っ赤なドレスを着た、コスプレイヤーかなんかにしか見えない金髪の女が空中を浮きながら移動しているのに誰も見向きもしない。
だが、何かを感じているのか歩行者はルージュを避けて通っている。
見えてはいないが、何か気配的な物を感じているのかもしれない。
「これがコンビニね、おぉ半額!お弁当が半額よ!」
『それでテンション上がるとかスゴイな』
ルージュがコンビニを見つけ、中を物色し弁当を手に取る。
姿が見えてないから、弁当だけ浮いて見えるのだろうか。
「どうしよう、気付いてないから買えないじゃない」
『だまって持ってかないとか律儀だな』
「良く分からないけど、この金貨ならきっと払えるでしょ」
そう言ってルージュは五百円玉をレジに置いてコンビニを出て行った。
出る際に、レジに置かれた五百円玉に首を傾げる女の店員さんが可愛いなと思ったのは内緒だ。
「これが弁当……思ったよりおいしいわね」
『何か違う、貴族っぽくない。お嬢様が半額弁当、何かがいけない』
「良いのよ、ウチは元々貧乏だったから。庶民の食べ物だっておいしければ問題ないわ」
『なんだかな……』
その夜、公園に魔法で作り出した小屋でルージュは野宿するのだった。
野宿って言うのかこれ?っていうか、何しに来たんだっけ?




