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太陽が落ちた日

箱に入った首以外の身体を分解して吸収したルージュは、その箱を転移で魔王の所に送った。

ようやく、戦いが終わったのである。

そして、ついに白夜大陸の完全制覇を成し遂げた。


「長く苦しい戦いだった……」

「何だろう、その台詞のせいで今までの頑張りが台無しになってる気がするわ」

「気のせいだ」

「気のせいなのかしら」


釈然としない面持ちで、ルージュはシャンバラへと帰還する。

戦勝を祝う様に、影から飛びだす眷族達はルージュの周囲に現れ拍手喝采で自分たちの主の帰還を喜ぶ。

しかし、ルージュの顔に喜びの色はない。

むしろ、困惑だろうか。

どちらかと言えば戸惑っているような、何かに悩んでいるような顔だ。


だが、これで残す敵は魔王のように世界を支配しているであろう神。

というか、創造神とか言う引き籠って隠れてる野郎だけだ。

虱潰しに探せばきっと見つけられるだろう、邪魔する奴はいないしモンスター総動員で大陸を埋め尽くせば見つかるはず。


「無理よ」

「えっ?」

「アンタが何を考えてるか何となく分かったけど、大陸に私達の敵はいないわ」


ルージュの声が喧騒の中で聞こえた。

その発言に俺は再び聞き返す。


「もう一度言ってくれ」

「敵は大陸じゃない、空よ」


ルージュが視線も合わせずそう言った。

敵は大陸じゃない、空であると。

そして、確信を持って彼女は言う。


「倒すべき敵は太陽の中にいる」


それは新たな戦場の宣告であった。




祝勝会のような物を開き、ひと時の休息に浸る。

しかし、頭の片隅では次の戦いが展開されている。

誰もいない自室、そこにルージュは俺を連れてきた。

そこで、ルージュが自身に起きた事を話す。

それは、敵の居場所を確信した理由だ。


「話しって言うのは、新しい敵について何だろ?」

「そうよ、恐らくと言う言葉が付いてくるけど間違いないでしょ。そして、どうして私が居場所を知っているか。それについては私に何が起きたかを説明しないといけない」

「何かが起きたのか?言っちゃアレだが、大した変化ないだろ……」


その問いに、言葉を選ぶように口を開く。

まるで、何と言ったらいいか自分でも分からないと言った感じだ。


「そう、肉体的には変化はないのよ。変化……なのかしらね、違うかもしれないわ」

「なんだか要領を得ないな、精神的な変化なのかよ?」

「もっと深い場所、魂と言ってもいいのかもしれない。私はヨシユキを吸収したせいか断片的な記憶を得てしまった。初めての事だから私にも分からない」


記憶の継承、とでも言えばいいのかしらと言うルージュに俺は眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしていたことだろう。

度合いにもよるが、それは存在が重なるような物だ。

俺のように憑依した状態に近いかもしれない、俺の場合はドラゴンとしての記憶が無かったがルージュは違う。

ルージュとしたの記憶とヨシユキとしての記憶、それが混ざり合った状態と言うのは危険だと思われる。

それは、ルージュとは言えない別の何かという事では無いだろうか。

だから、自分が違った物になったのではないかと困惑している……のだと思う。


「一生、いえ人生二回分の記憶が私にはある。百年も満たないからそこまでの影響はないけど、ちょっと考えさせられるわね」

「例えば?」

「何て言うか私の詠唱って恥ずかしくない?何、私今まで真顔であんな恥ずかしい詠唱してたの!」

「あっ、ハイ」


気付いてしまったか。

随分と遅かったな、っていうか大丈夫そうだ。

何だよ、深刻そうな顔してたから心配したじゃんか。


「まぁ、ちょっとアイツの気持ちが分かったりもしたんだけどね。まぁ脱線してるから話を戻すけど」

「えっ、脱線してたの……」

「何で嘘だろみたいな顔してんのよ!敵の居場所でしょうが!取り敢えずアイツの記憶の中で太陽にいたのよ。まぁ、私達の存在は無いんだけどね……」


なるほど、所謂原作知識と言う奴なんだな。

っていうか、転生した奴多いな。

もしかして、一つの世界に一人はいたりするのか?

まさかな……それこそ、ヨシユキが言ってたみたいに意図的な物を感じるわ。


「太陽……太陽なのよね。ちょっと日焼けしちゃうんじゃないかしら?」

「日焼けって所にスケールの違いを感じるわ」

「多分、熱とか遮断できるでしょ。でも、苦手なんだよね体質的に……どう攻略するか」


そういえば、あの時気付けば良かった。

大陸全体が見えるくらいシャンバラで上昇した時、太陽が二つあったもんな。

あの、ずっと照らしている太陽の中にいたのか。

太陽神って奴だな、でっかい狼だったりしないか?

しないか、それは違う太陽神だった。

結局結論は出ることなく、魔王に伝えて考える事になった。




魔王に伝えてから数日後、俺達は再び呼ばれる事となり魔王の元にやって来た。

毎度思うのだが、呼び出してないで俺らの所に来いよ。

まったく、魔王って奴は傍若無人すぎる。


そして、魔王のいる部屋へと通される。

魔王は華美な椅子に座っており、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。

その周りには、偉そうな奴らが三名いる。

確か新しく作った四天王である。

彼らは魔王の軍の中で殺し合いさせて上から強い順に決めてるらしいので、実質魔王軍のベストスリーだ。

因みに、一人欠番なのはルージュの地位だかららしい。


「貴様からの土産、中々面白かったぞ」

「土産?……あぁ、生首ですか」

「今ではデュラハン達に大好評だ」


それはどうなんだろう、モテ期ってやつなんだろうか。

生首が集まって会話しているのか、案外ゲーム実況とかしそうだな。

アイツ転生者だし、同じ世界からの転生かは分からないけど。


「さて、中々面白い事を言うじゃないか。大陸にはおらず、太陽に奴がいるとな。なるほど、通りで下ばかり探しても見つからん訳だ」

「しかしながら、太陽に隠れている者を引きずり出す手立てがございません」

「用件はそういうことか、うむ余に任せておるがいい」


何だか自信満々に言い放つ魔王、他には無いかと要求してくる始末である。

しかし、周囲の奴等というか側近連中の顔は芳しくはない。

何だかすごく言いたげである。

多分、ルージュの事疑ってんだろうな。

俺も同じ立場ならソースはどこって言いそうだ。


「それではこれで」

「待たれよ」


居心地が悪いので帰ろうとしたら、制止の声が掛かった。

正直、面倒くさいので無視したいのだがうるさそうなので仕方なく対応する。

ルージュも、深い溜息を吐いて同じ気持ちのようだ。


「貴殿の情報の出所を知りたい。聞けば、自分ではいけない場所のようではないか。どうしてそこにいると分かったのかお聞かせ願おうか」

「ネフテス殿の言う通りだ。ルージュ殿には御所存を伺いたい所である」


ごしょ……何?

良く分からない言葉を言ったのはエトールとかいう瞬間移動が得意な奴だ。

影が立体的になっているというか、真犯人みたいな全身真っ黒な人間という見た目である。

ネフテスという奴は何と言うか狼人間と言った感じで、犬の頭の剣士って感じだ。

犬耳、とかそう言う次元じゃなくて獣が二足歩行で剣士やってるみたいな獣度が濃い感じである。


「ネフテスは自分の部下をこないだ案内に使われて八つ当たりしてるんだ」

「口が過ぎるぞマギステル」


横から捲し立てるように口を挟んだのは、何て言うかピエロだった。

胡坐を掻きながら宙に浮き、三角の帽子を被って笑った表情の仮面を付けている。


「問われているのは私の意見でしょうか?」

「大体、前から気に喰わなかったのだ。陛下に気に入られているだけで四天王とは片腹痛い。そんなコネなどで無く実力で勝ち取ったらいいのだ」


ルージュは分かっていたらしく問い返すのだが、ネフテスとか言う犬はまったく聞いていなかった。

っていうか、途中から愚痴だし何が言いたいんだ。

たいして絡みとかない癖にうっとうしいな。


「その通り、どうして――」

「エトール!まだ俺が喋っているだろうが!そんなことはどうでもいいんだよ陰気野郎!」

「聞き捨てなりませんね、貴殿こそ風呂に入ったらどうですか獣臭いのですが……」


急に絡んできたなと思ったら喧嘩始めるし、ピエロは魔王と賭け事始めるし、なんてカオスなんだ。


「帰るか」

「うん」


巻き込まれる前に俺達は魔王の御前からエスケープした。




そして時は過ぎ、魔王から旅行にでも行くかのような気安さで太陽ぶっ壊すぞと連絡が来た日の事だった。

俺達はシャンバラから太陽を観測する。

魔法かなんかで太陽でも破壊するのかなと予想しながら見守っていたのだ。


「どうするのかしら……そろそろな筈だけど」

「なんか、子供の時にやったな……」

「何言ってんの?それにしてもどうやって壊すのかしらね。隕石とか?」


上ばかり見ている俺達は一向に気付く事は無かった。

既に魔王は動き出していた事に、そして想いもしない手段と言う事にだ。

それから、異変にいち早く察知したのはシャンバラだった。

レーダーのような物に巨大な物体の移動を感知したのだ。


「何かが急浮上、これは……」

「アレは!?」


シャンバラ君が驚くと同時に俺達は空に大陸を見た。

魔王のいる大陸が飛んで行く風船のような気安さで浮上しているのだ。

まさか、そのまま突撃する気か!?

太陽が大陸と重なっていく、いつしか太陽の中に黒い点が浮かび上がる。

無茶だ、明らかに大きさが違い過ぎる。

しかし、アイツは魔王だった。

無茶な方法で有言実行したのだ。


「きゃぁ!?爆発した!」

「総員退避!急げ、シールドを!結界を張るんだ!」


一瞬の煌めきと同時に轟音が鳴り響く。

そして、空を生めるような赤い流星群。

青かった空はいつしか黒と赤に包まれる。

この日、太陽は砕かれた。


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