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不死身の最後

ルージュの持つ聖気で囲まれた箱、それを奪い返そうとヨシユキが動く。

あの箱から解放しない限り腕が再生しないからだ。

対してルージュの方は再び別の腕を奪おうと様子を窺いながら、一定の距離を保って回避する。


「チッ、ちょこまかと」

「アンタは自分のスペックでゴリ押しするのが好きみたいだけど、近づかなければ手数の多さも生かせないでしょ」


さっきまで近距離で殴り合ってたくせに、あたかも近接戦闘が不利だと最初から分かってたかのように言うルージュにツッコんではいけない。

たぶん、今頃気付いたのだろう。

気付いていたなら最初からやってるだろうからな。


「そろそろかしらね」

「……ッ!?ガハッ……」


ルージュがそう言って笑った瞬間、ヨシユキの動きが一瞬だけ止まる。

その隙を逃さないと、言わんばかりに回避から攻めに転じてルージュの攻撃が腕をまた一本捩じ切るように切断する。

腕を切断されながら距離を開けるように後方へと飛んで行くヨシユキ。

良く見れば、口元から血液が垂れている。


「どうやって、肺をズタボロにした」

「教える訳ないでしょ」


ルージュは背後で二つの光る箱を浮かばせながら答えた。

その様子を見て、苦々しげな顔で奴は距離を取る。


「どうやらタネが分かるまで近づかない方が良いようだ」

「遠距離で私に挑む気?そんな原始的な現象の発現だけで?」

「確かに、魔力と言うエネルギーを効率よく使うために研鑽して生み出された魔法は効率が良いだろう。だが、此方は無尽蔵に繰り出せるのだから問題ない!ハァァァァァ!」


奴の足元に亀裂が入る、地面の割れる音が響くと同時に白い何かが波打つ。

それは、巨大な植物だ。


「もやし!?」

「日光が当たらない為か、まぁいい!」


ルージュに向かって唸る巨大植物、それは鋭くまるで白い槍の如く迫っていく。

圧倒的質量による包囲攻撃だ。


「シッ!」


迫る攻撃に対し、ルージュが腕を振り払った。

すると、自身の右側の空間が歪み追随するように炎が中から出て来る。

弧を描くように動く炎はグルグルと周囲を回転し、まるで炎のカーテンのようにルージュを守る盾となる。


「上がガラ空きだ!」

「わざとよ」


炎の竜巻を上から岩の塊が乗り越えてくる。

そして、そのままルージュを押し潰してクレータを形成していた。


「どうせ死んでないんだろ?」


身構えながらヨシユキが問いかける。

確かにアレぐらいでは死なないだろう。

だが変化の無い状況が続いており、不信感を募らせる。


「上か!?」


いきなり現れたかのような高速移動にヨシユキは気付き、上に向かって残っている四本の腕を一斉に差し向ける。

そして、腕はルージュの身体を貫き――


「いいえ、下よ」

「馬鹿な、鏡!?」


――罅割れ、破片となって散っていく。

その瞬間、植物が発生していた亀裂の中からルージュが現れ斬り付けるように手刀を放つ。

結果、奴の両腕が宙を舞い無防備な背中を晒す。


「貰った」

「死ね!」

「しまった!?」


ルージュが腕を掴んだ瞬間、奴の傷口から植物が急激に成長して胴体を貫く。

その際に手放してしまった片方の腕を掴んでヨシユキはルージュから離れる。


「まさか、あの一瞬で傷口から攻撃が来るなんてね」

「自分の血液を結晶化して空気中に散布していたのか」


奴は自分の切断された腕を傷口に付けながら再生させ、先ほどの肺を傷付けたタネを理解した。

そして再生が終われば、腕を確かめるように動かしてから構える。


「そうよ、呼吸と同時に入り込んだ小さな刃がズタズタに引き裂いた訳よ」

「同じ手が通用すると思うなよ」


そう言った奴の腕に火が灯る。

その火は腕を伝わり肩から胴体と顔を覆い、いつしか全身に行き渡り炎と化す。

全身を鎧を纏うが如く火達磨にしたのだ。


「これなら近づく前に蒸発できる」

「単純ね、もっと高度な技術を見してあげるわ」


ルージュが腕を掲げる。

すると、その周囲を三つの光る箱が回転しながら集まってくる。

それは奴の腕が三つ入った箱だ。

その箱は回転しながら溶けるように混ざり合い球体となる。

蜂蜜が無重力で浮いているような、液状となった金の球体だ。

ルージュはそれを見上げて口を開く、すると渦を描きながら球体が形を崩して中へと入って行った。


「た、食べた!?」

「ふふふ、魂を解析して分解させて貰ったわ。腕を奪ったのも解析が終わってたからよ。無駄に殴り合ってると思ってたのかしら?」

「腕が……再生しない……何故だ!」

「だから分解したのよ、元には戻らないわ。私の一部となったしね」


無駄に殴り合っていたと思っていただけに衝撃はデカイ。

あの脳筋みたいな戦い方しかしないルージュが意外と考えていたのだ。

おっと、なんか周囲を睨んでる。

何でわかったんだよ、使い魔のパスが繋がってるからか?


「早く出たいし、残りの腕も分解してくれるわ」

「お前!同じように、お前の魂喰ってやるからな」

「アンタみたいな馬鹿が出来る訳ないでしょ」

「貴様ァァァ!」


叫びながらヨシユキが動き出す。

その速度は先程よりもいくらか早い。

まるで丸太のようだった腕が半数になった為に、もしかしたら身体が軽くなったからかもしれない。

対するルージュは、その場から動かず構える。

ルージュの身体にはゆっくりと氷が纏わりついて鎧になっていく。

そして、完全に全身が氷に覆われた頃に互いに衝突する。


衝突と同時に二人が水蒸気に包まれる。

数秒後、中から飛びだすようにルージュが出て来た。

ルージュの片腕は炭化してミイラのようになっている。


「片方だけ氷の量を増やしたか」

「ようやく人間らしくなったじゃない」


ルージュは炭化した方の腕を引き千切る。

炭化した腕には肉が一部付いており、切断面からは大量の血液が流れだす。

血はそのまま腕を形成して、瞬時に元の腕となった。

水蒸気が晴れると、右腕が二本ある歪な姿の奴がいた。

忌々しそうに睨みつける姿は若干苦しそうだ。


「くっ……うおぉぉぉぉ!」


胸を抑え、倒れ伏したヨシユキ。

まるで死んだかのように見えた奴の背中が開く。

すると、虫のように背中が開き中から粘液だらけの状態で奴が現れた。

鎧は纏っておらず全裸だがその形が違う。

顔は相変わらず三つあるが、腕は左右にちゃんと付いているのだ。

右腕二本だった状態から普通の人間の姿になっていた。


「ふぅ……一度液状化して脱皮する破目になるとはな」

「マジ引くわー、私も大概だけどマジで人間やめてるわね」


デロデロした状態で自分の身体から出て来た奴の身体に金色の粒子が纏わりつく。

そして再び同じ鎧が形成され、最初の化け物染みた見た目から歴戦の戦士のような姿に変わった。

何だか太陽の力が蓄積されており光速で拳を撃ちそうである。


「金ピカなんて悪趣味ね」

「下品な赤には言われたくないね」

「はぁ?どこがよ、この成金趣味」

「あぁ?全身血みどろみたいだろうが、単色野郎」


お互いに睨み合い、ようやくと言った感じで動き出す。

奴の腕は光り輝き、今まで以上の動きで迫る。


「最初からこの姿になれば良かった。三つ分の聖気を片腕に集める事が出来るからな」

「一点集中したからって強くなれてんと思ってんの?馬鹿じゃないの」

「何とでも言え、全っ然悔しくねーし!つうか、速くなってるから強くなってるし!」

「自分から遅くなってたこと棚に上げるのやめて貰えます?あれ、忘れてたのかしら?」


残像を残すような勢いで互いの腕が交差しているのだが、煽り合っているせいか緊張感に欠ける。

何だかんだお前ら仲良くなってないか?

ルージュの手には魔力が集まり、黒い影のようなオーラとなって纏われる。

そして、遂になるように光を集めた奴の腕と反発する様に弾き合う。

拳同士が衝突するたびに余波が互いの肉体に当たり、肉を抉る。

再生が間に合わない程の速度で繰り出される攻撃、それは互いの肉体を徐々に消耗させる。

いつしか、両者共に肩で息をするほど疲れ果てていた。

疲労困憊、しかし攻撃を止める事は死に繋がる。


「死ね、竜牙虎爪拳!」

「こんな物――」


上と下から鋭く放たれた突き、それを掴み力の方向を変えて流す。

だが、流す瞬間に奴の手刀の先に集中していた聖気が針のように飛び出しルージュの両腕を貫く。


「――ぐっ!」

「お前の経絡を貫いた、暫く聖気はおろか筋肉すら動かせまい」

「腕が!?」


貫かれた腕が内側から膨張して亀裂が走り出血する。

そして、腕から力が抜けたのか動きが止まり簡単に弾かれる。

今まで拮抗していた状態が奴に傾く。


「貰った!」

「ぐっ、離……せ……」


右手でルージュの首を掴み、左手を広げて構える。

開かれた左手のそれぞれの指先から鋭く針のように聖気が飛び出る。


「魔力が流れていないということは経絡は通用するようだな。このまま心臓を掴んで止めてやろう。欠損している訳ではないから再生は出来まい」

「んっ……あぁ……」


ゆっくりとルージュの胸を引き裂いて、左手が体内へと入っていく。

抵抗は虚しく侵入を阻む事は出来ない。

助けに入ろうかと迷ったが、しかしルージュの目は死んではいない。

何かをしようとする目だ。


「何ッ!?」

「私の……勝ちよ……」

「馬鹿な……」


赤いギロチンが奴の胴体を切り裂き、上半身と下半身を切断する。

ギロチンの正体、それはルージュの傷だらけの両腕から作られた血液の結晶だった。

血液を鎌のように鋭利な刃物へと変じて左右から引き裂いたのだ。

再生しようと互いの肉体から伸びる肉、まるで蔓のように互いに伸びて結び合おうと動く。

それを高速で鎌が刈り取り、さらに無事な部分を分割する。

バラバラになる肉は肉片となった瞬間から光の箱に収納されていく。


「やはり負ける運命か」


最後に首だけとなった奴は箱に閉じ込められる前にそう言って、敗北を認めた。




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