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懐疑主義者と拝金主義者

烏合の衆と化した敵は、三々五々に逃げて行く。

神と呼ばれているが、その正体は聖気から出来た生物である。

理解できない神秘を扱う存在故に神と呼ばれる彼らだが、調べてみれば大したことのない存在だ。

原理さえ分かってしまえばその神秘も聖気をエネルギーとした魔術のような物だ。

神と言う存在も聖気ではなく魔力から出来ていたならばモンスターと同じである。


だから、どれだけ数がいようとも恐れるには足らない。

そして、部下達が露払いをしたことによりルージュは敵の大将である男と対峙する。

南部連合が三つの宗教が集まった物であるのだから、誰かが率いている事は明白。

そして、意を唱えられない実力がある存在がその位置にいるのだろう。

故に、目の前の男こそが大将だ。


「アリオーシュの次はレーナが逝ったか」


男はゆっくりと降りてくる。

その六対の翼を動かす事なく、羽のような軽さを体現するような動きだ。

女に見紛うような顔立ち、優雅な白い服を纏った綺麗な男。

もし、その声が低くなければ女と間違えていただろう。

眼は両方とも閉じられており、額には縦に見開いた大きな目があった。

三眼に六翼の天使、と言った所か。


「見事だった、アリオーシュが神と同化して作り出したアレをまさか星を用いて突破するとは思わなかった」


ルージュの目前で、構える事すらせず淡々と男は語る。

戦場なのに、そこだけまるで空気が違ったようだった。


「そう、都合が良すぎる。死んだ身でありながら転生なんぞする時点で、それも知っている作品の世界にいる時点で、作為的で誰かの作意が見え透いているようだ」

「転生……ですって……」

「あぁ、俺はこの世界を読む立場でいた。分かりやすく言うならば世界を俯瞰視点で観測できる高次元の存在だ。俺からして見れば平行世界とか横に逸れた感じじゃない、生まれ落ちたんだよ低い次元に」


悲観する様に呆れた物言いで言葉を紡いでいた。

どうでもいいが、言い回しがイラつく奴だ。

たまにいるんだよな、小説に影響されちゃう奴。

まさにこういう奴だった、前世にいたよこういうの。


「誰かが物語の脚本を変えた。俺かもしれないのだが、恐らく違う。俺は原作に沿った生き方をしていたよ。原作知識を活かしてして生きていた、生活していたんだ。だが俺が知らない事が起きた、登場人物でもない魔王とかいうラスボス級の奴がやってきて、この世界のラスボスと戦闘だ。開始と同時にラスボス二体だぞ、最初からクライマックスだよ」

「つまり、アンタは転生者って奴ね。嫌な記憶しかないわ」

「その口振り、他にも転生者はいる訳だ。多分、そいつのせいだな。良くある話だ、上手く行ってたのに失敗するのも良くある話だ。良くある在り来たりな展開だ、都合が良いね。都合が良すぎて疑わしいくらいだ」


得心が言ったという感じで深い溜息を吐いた。

何て言うか、ネガティブな雰囲気が滲み出ていた。


「ずっと生きる意味を考えていたんだ。どうしようもない俺をアイツらは慕ってくれてたからな。そういう役目だったんだ、理解した。そして、俺は中ボスって事だ、そう言う役割なんだ。アンタが俺を倒すっていう感じだろう、アンタが誰かに倒されるなら回想くらいしか出番が無いな」

「ぐだぐだ煩いわ、構えなさい」

「今やろうとしてただろ、先に言われるとやりたくなくなるんだ俺。それに俺はまだ理解はしても納得はしていない。ふざけるな、どうして殺されなきゃならない。似たような話を見たことがあるが俺はあっさり殺される気はない」


ようやくと言った感じで男は構えた。

気怠そうに、軽く拳を作っただけだ。

まるでやる気の感じられない弱々しい姿だ。


「ちょっと、本気でやってくれる」

「本気だよ、お前さん人の全力を否定するなよ。俺は無力なんだ、全力だしても大した力も持って無いんだよ。多分そう言うキャラなんだ。そう言う風に神様が執筆してんだよ。俺の思考も感情も言葉も全て神様が与えた物なんだ、俺の物は何一つない。全部借り物だ、存在してるかすら怪しいね。なぁ、アンタ自身は本物か?」

「愚問ね、偽物なんて存在しないわ」

「カッコいいね。自信のある奴は……俺は自信が無いから自分が信じられ無いんだ。本で見た世界に生まれ変わったからかな、俺はこの世界が小説だとしか思えないんだ。小説のキャラが設定通りに生まれて、展開通りに生きて、そして作者の考えた台詞を言うようにさ。こうやって思う事も言葉にすることも全部は神様の筋書き通りなのかもしれない。小説の中のキャラは作者の求めた動きしか出来ないように、自分の行動が決められた物だと知らないように、作者が言わせたい台詞を言わされてるなんて気付いてないようにだ」


ルージュが呆れたように、半目で口を開いた。

恐らく、このままじゃずっと喋られるんだろうなと思ったんじゃないだろうか。


「来世では哲学者にでもなりなさいよ。少なくとも、言わされてようが言いたい事は私が言いたい事だし誰かに操られていたとしても操られてないと思っているうちは操られてないって事でいいのよ。考え過ぎなのよ」

「馬鹿な答えだ、お前さん何の為に生きてるんだ。誰かのマリオネットだぞ、そんなもの生きてると言えるのか?」

「私は今も昔も死にたくないだけ、だから生きてる。生きている理由は死にたくないから」

「そうか生きてる事に意味なんてないんだな。意味を見出そうとしてるだけか、ならば俄然死んでやれないな。意味を見つけたぞ、アイツらの分まで生きるっていうな」


ふっ切れた、そう言った感じだろうか。

今までと打って変わって力強さのような物を感じた。

まさに、目に光が宿ったとか生気が戻ったとかそういう表現が正しいだろう。

構えも変わらないし、見た目も動きも変わらない、ただ雰囲気が変わっただけだ。


「行くぞ、例えこの先の展開が神の用意した物だとしても抗ってみせる!」

「ふん、勝つのは私よ!」


視線がぶつかり合い、敵の一挙一動を見逃さないように両者の間で空気が張り詰める。

緊張が場を支配していた、先に動いたほうが負けるようなそんな空気だ。


「はぁぁぁ!」


先に動いたのはルージュだった。

軽い息遣いと同時に思いっ切り踏み込んで抜き手を腹へと放つ。

敵はそれでも動かない、微動だにせず待ち構えていた。

罠か、そう思った瞬間に敵が動く。

それは軽く後ろに下がる動きだ。


「ぐぁぁぁぁ!?」

「……えっ?」


嫌な音を立てて、敵が吹っ飛ぶ。

呆気ない、余りにも自然な動きだ。

思わずルージュが振りぬいた体勢で疑問の声を上げてしまったほどだ。

やったかと思わせて、無傷の敵が奇襲を掛けてくるかもしれない。

だからルージュは警戒して敵が吹き飛んだ場所を見た。


敵はあの南部連合の親玉、大将だ。

すごく素人染みて弱そうであっても、それは演技に違いない。

何故なら魔王と戦い続けた集団の頂点に立つ存在だからだ。

だから、衝撃で発生した砂塵の向こうでは無傷の敵がいるに違いない。

そして、視界が晴れるとそこには……


「……えっ?」

「痛い!?アバラ折れたぞこれは、痛すぎる!やっぱ無理だったんだ、誰か助けて!畜生、治療してるのに痛みが引かねぇじゃねぇか!」


這い蹲って悪態を吐く敵の姿があった。

顔は涙でぐしゃぐしゃで、何だか此方が悪い事をしたような気分だ。


「ハッ、罠ね!」

「いや、考え過ぎだろ。アレは素に違いない」

「で、でも弱すぎるわ!こんなのあり得ないでしょ、アレが南部連合のトップなのよ!きっと奥の手があるに違いないわ!えぇ、完全体になるとかこっちが負けそうになるくらいの奥の手があるのよ!」

「どこの人造人間だよ」


生まれたての小鹿のように何とか奴は立ち上がった。

見た目は強そうなのに、なんというか残念である。


「このヨシユキをここまで追い詰めたことを褒めてやる」

「うわ、そんな名前なの。似合わないわね」

「今いい所だから、一度は言ってみたい台詞言ってるところだから!っていうか見逃してくれませんかね?」


ヒィヒィ言いながら嘆願する奴にルージュは容赦なく言い放った。


「ダメよ、アンタの首を魔王様に持ってくまでが仕事だから」

「分かってたよ、そういうことだろうなって。ずっと弱いからな、俺弱えーって感じだからな。神様ってのは理不尽だよな、異世界だぜ!転生だぜ!チート寄越せよ、まったくよ!そんな斬新さ、いらないんだよ!それで奥の手だっけ?あるよ、使いたくなかったけどな」


カッと閉じられた目が開く。

糸目キャラが目を開くと強くなるとか言うんじゃないだろうなと疑っていたら、突如奴は輝きだした。

マジでヤバいかもしれない。


「ルージュ、奥の手とやらが完成する前に早く倒すんだ!」

「私は敵がどうなろうと構わない……ぶっ殺すだけよ」

「甘く見るな、ルージュ!」


しかし、既に手遅れだった。

肉の壁に覆われた暗闇の世界が、俺達の周囲しか照らされていなかった空間が、まるで昼のように明るかったのだ。


「アレは……」


それは、空に浮かぶたくさんの光が原因だった。

大小様々でカラフルな光が空一面を埋めていたのだ。

いや、移動していた。


「こっちに向かっている!?防壁か何かを張るんだ!」

「その必要はない、アレは飛び道具ではない。俺が喰らう神の力だ!」


次の瞬間、たくさんの光が奴に向かって落ちて行く。

まるで落雷が落ちたかのように目の前が光に眩む。

そして、そこには神々しいと言うべき姿の奴が立っていた。

全身から光を発し、まるで後光でも出ているようだった。

黄金の鎧を身に着けて、腕の数は六つに増えており、その全てに様々な武器を持っている。

阿修羅のような姿になった奴がいた。

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