戦力増強と休日
南部連合討伐、それが俺達の掲げる目標だった。
その為に軍備を増強しないといけなかった、富国強兵って奴だ。
もう国は文明レベルが自重しないぐらい発達してるから強兵だけである。
そのために人材を確保する必要があり、何名かの天使を攫い地下帝国内の牧場にて放牧することにした。
一応分類上人間だが見た目は天使なので、天使と呼んでいる。
さてそんな天使達の中から男性を集め、一人ずつ心臓に手を突っ込んで魂を引き抜いて調べ上げる。
集めた魂の中で特に優秀な魂をホムンクルスの中に突っ込んで、他はその魂に吸収させた。
そんな魂も優秀で肉体も優秀な個体、名前を美人薄命と名付けられた。
イケメンで短命だから名付けたそうだが、ルージュはネーミングセンスが残念な気がする。
それって名前じゃないから。
そんな美人薄命君の仕事は早い。
朝、彼は起床してすぐに牧場内の女性寮に向かう。
そこは全ての女性天使が住んでいる場所で冷暖房完備に三食付き、エステにスポーツジム、他にもプールなどの娯楽施設も完備している場所だ。
彼はそこの大広間でお昼まで仕事をする。
それは寮の女性全員との全裸レスリングだ。
全裸レスリングによって妊娠が発覚した天使は別施設に運ばれるのだが今は割愛しよう。
お昼、仕事が終わった彼は研究所へと移動した。
研究所に入ると防護服を着て殺菌処理の後に作業に入る。
作業はマニュアルに沿って液体を良く分からない機械に注ぐ物だ。
そして夕方頃に作業を終えて、機械が無事に製造できたかチェックする。
それは自分と瓜二つのホムンクルスの製造だ。
夜、それは彼に与えられた自由時間だ。
食べ物や嗜好品も多く、娯楽設備も充実している。
そこで一日の疲れを癒し、研究所内の機械の中で一日を振り返るのだ。
短い時間だったが、命令を無事遂行できた充実した一日だったなと。
願わくば次の自分が幸せでありますように、そう祈って眠るのである。
そう前の彼は言っていた。
眠った彼は寿命が来て冷たくなった後に機械によって分解され、魂を抽出後に新しい身体へと注入される。
こうして美人薄命君は新しい自分として次の日も次の日も働くのだ。
牧場内の他の様子も見てみよう、今度は養育場だ。
病院も兼ねている養育場では出産と同時に赤ん坊をゴーレムが機械に投入する。
機械は水槽のような形で赤子に最適な環境に設定されている。
また、魔術や科学的なアプローチで赤子の健康管理がされており、約半日で成人程の大きさまで成長させる事が出来るのである。
魔道科学とかそんな名前が付いてたが詳しい説明は長くなるので割愛。
成長した子供はゴーレムに運ばれて、教育プログラムを受ける部屋に連れてかれる。
そこで精神だけを引き抜き、形成された精神世界に投入されるのである。
加速させることで現実時間よりも長い時間を過ごせる精神世界で英才教育が施せるからだ。
そして、約半日で知識と戦闘能力を有した兵士が完成するのだ。
完成した兵士は食事兼予備軍として養育場で生活する。
極めて優秀である者は別の試験所に行き、配合実験などで優秀な個体を作る為に移動する事もあるのでずっと養育場にいるわけではない。
他にも女性寮に配属される者や訓練中に死亡する場合あるので人員は一定ではないな。
こうして俺達は食料と兵士を同時に生産する事に成功したのである。
人道的でない鬼畜の所業ではあるが、当人たちはみんな幸せそうなので問題ない。
寧ろ、前より生活が向上したとか自分の母が過ごした場所だから嬉しいと言う声の方が多い。
それにほら、吸血鬼だし人間の倫理観とか法律とか知らない。
少なくとも魔王の所じゃ玩具にして壊してしまう吸血鬼は多いと聞く、良心的だと思う。
俺達は玩具にしてないからな、真心込めて育てて出荷してるんだ。
必要な食事であるが一月に一回で良いので普段は購入されない。
値段が高いのも理由だが、必要になって買うか御祝い事で買うぐらいなので生産ラインに余裕はある。
牧場で出荷された天使達は各家庭でおいしく頂かれ、頂いた後は回収業者が集めて市民権を与えて地下帝国で生活させている、実に良心的だと思う。
ただ、独身吸血鬼が一目惚れしてストーカーになるという社会問題が発生しているので対策は必要そうだ。
何が、君の味が忘れられない毎日吸血させて欲しいだ。
プロポーズらしいが、まるで意味が分からないぞ。
因みに互いに吸血する事が愛情表現らしい、だから隣の奥さんと互いに吸血すると浮気したと言う事で離婚されたりするそうだ、吸血鬼の豆知識である。
さて、そんな感じで地下帝国内ではゆっくりとだが戦力が増強されている。
しかし、最近そのせいでシャンバラ君はぐったりしてる気がする。
何か悩みでもあるのかな、いや働き過ぎか。
気になったので俺は部屋に行く事にした。
「シャンバラちゃん、何か欲しい物がある?休みが欲しかったらいいのよ、部下に丸投げするから」
「あ、間に合ってます」
「遠慮する事ないのよ、仕事ばっかじゃいやでしょ?」
「仕事してないと、休日はご主人様が遊びに来るので何だか悪いなと」
「そんなこと気にしなくていいのよ。私は暇だから、もっと一緒に遊びましょう」
満面な笑みを浮かべて頬擦りするルージュと口をパクパクして助けてというシャンバラ君がいた。
目が合ったけど……そっとしておこう。見てはいけない物を見てしまった。
後、ルージュよ……ペットを溺愛すると婚期が遅れるんだぜ。
シャンバラ君はペットじゃないけどさ、婚期とか大丈夫か。
気を取り直して俺は指令室に来た。
指令室はモニターに外部の映像が写っているので実にいい。
ここで宇宙戦艦ごっことか楽しいのである、暇な時は眷族達も付き合ってくれるしな。
「あっ、ヤンヤン指令お疲れ様です」
「監視対象をモニターに写せ」
「あっ、今から開始ですか?了解しました指令、はいみんな付き合って」
俺の命令によって巨大モニターに巨大な植物が映し出された。
そう、それは魔法学園のある世界樹……という訳ではなく南部連合の持ち神らしい。
どういう仕組みかは知らないが、アレが自然物かどうか特定する方法があり反応からして神であると判断されたのだ。
植物の神様、いわば神木である。
アレで人形でも作ったら美少女になって動き出さないかな。
「ゴーレムを出せ」
「しかし、アレは調整中で博士の許可なく使うのは」
「構わん、少なくとも見ているよりはマシだ」
定時偵察のゴーレムを出すタイミングで俺の茶番劇に眷族達は付き合ってくれる。
しかし、博士って誰だよアドリブ過ぎだろ。
そうしてゴーレムたちが威力偵察に向かった。
その中の一体は眷族の一人が操作して、蛇行運転させていた。
「二号機ゴーレムの動きが!」
「これは……まさか、暴走?」
まぁ、一体だけオートからマニュアルになってるだけだが実にノリが良い眷族達である。
そんな様子を見ている俺の横に眷族が立って一言。
「勝ったな」
「あぁ、全ては地下帝国のシナリオ通りだ」
そのまま、通称世界樹へと近づいて行くゴーレム達。
ゴーレムが近付いた瞬間、ある範囲に入ると同時に世界樹が動き出す。
その大きく長い枝を腕のように動かし、撃墜しに来るのだ。
「今度こそ、うおぉぉぉぉ!」
今日の担当君がゴーレムを操作して枝を避けて行く。
何とか本体に攻撃したい所だが、残念ながら撃墜されてしまった。
因みに今日で通算十回目の挑戦らしい。
「やはり今回も撃墜されたましたか」
「勝ったなって、今回も負けじゃないかー」
「えー、勝ったなっていうのがお約束って言ったじゃないですか。私、悪くないですよ」
「今日もダメだったか、明日また来るわー」
茶番劇に付き合ってくれて眷族達と別れて俺は食堂に戻るのだった。
何度かの交戦、と言ってもゴーレムを突撃させているだけだが南部連合は攻めてこない。
攻めて来てくれたらシャンバラ君で撃ち落せるから楽なんだが、奴らは籠城したまんまだ。
まったく、その背中の羽は飾りですかっての。
南部連合は通称世界樹を防御拠点としており、根元に集まっている。
もし世界樹を突破しても多くの神と天使が待ち構えていると言う予想だ。
レーダーのような物で調べた結果、多くの神らしき反応が集中してあった為だ。
魔王が手を拱いている理由は多くの戦力を保有しているからだったのである。
寿命の長い魔王は何か百年単位の長期戦を想定しているみたいだが、流石に長すぎるな。
だから、毎日ゴーレムを威力偵察させるために突撃させてるのだ。
敵方の勢力や装備などを把握するために突撃させてるが結果は芳しくないのが悩み所である。
遠距離からの砲撃も検討したが、魔王がやってないはずもなく結界でも張ってるんだろうと言う事でお蔵入りした。
今はまだ戦力増強に努めるしかないのだ。
「ねぇ、次は何のゲームする?それともご飯にする、一緒にお風呂にでも入る?」
「じゃあ、ゲームで」
「残ってるのは格ゲーか、あんまりやらないけど負けないよ」
「そうですね……あっ」
気付かぬ間に、俺はシャンバラ君の部屋の前を通っていたようだった。
っていうかまだやってたのね。
「どうしたの?」
「あっ、いや」
頑張れ、見捨てないでって感じで見てるけどせっかくの休日だ、ルージュと遊んでろよ。
休みが足りなければきっとくれるぞ、一人の時間はないだろうけどな。
「あっ、待っ――」
俺は目の前のドアをそっと閉じた。
頑張れ、シャンバラ君。
後日、俺の行く先々で停電したり入浴中にシャワーが冷水になったり地味な嫌がらせをされた。
悪かったよ、シャンバラ君。




