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神と聖気の関係性

俺が辿り付いたそこは大自然の渓谷だった。

残された自然が独自の進化をしたのか植物の癖に捕食しに来たり、生まれた瞬間に巨大化して襲いかかって死ぬ間際に爆発しながら産卵する昆虫とかモンスターだらけになっていた。

閉鎖された環境内での激しい生存競争に適応した結果、みんな凶暴になってしまったのか。

そんな人外魔境を飛んでいるエセ紳士とその後を追っている馬車、それになんとか俺は付いて行く。

すると、やっと魔王城が見えてきた。

その形は城と言うよりは山であり、少なくとも建造物と言うよりは山を要塞化したと言った方がいいかもしれない。

その城も、自然の驚異と言うか巨大なモンスターに向かって砲撃などを食らわしており何か戦っている。

防衛戦の最中にしか見えないのだが、これが日常なのかエセ紳士は案内をやめない。

そして魔王城に近付いて行くと途中で巨大モンスター、もはや怪獣とも呼べるそれが襲いに来る。

まぁ、それもある一定距離まで近づくと叫びながら絶命するので安全は確保されているみたいだ。

というか、アチラで何らかの処理をしているのかもしれない。


しばらくすると、俺達は坂道を下って行く。

魔王城の地下へと向かう形で、大きな穴の中へと入っていくのだ。

そして、そこから門のような物を通過して案内役が止まる。

それに伴い馬車は止まって中からルージュが出て来た。

ルージュが出た瞬間、馬車とデュラハンは血の霧となって消えて行く。

恐らく契約を終えたから帰っていたのだ、どこに帰ったのかは知らないけど。


「それでは此方に」

「あ、待ってくれ」

「すみません、此方は人型のみなのでアチラの迷宮の方から入城下さい」


そう言って、俺の目の前でエセ執事とルージュが魔法陣に乗って消えた。


「解せぬ……」


試しに乗ってみたが、何の反応もしなかった。

誠に遺憾である。




何で迷宮があるのか、どうして罠や凶暴な話の通じないモンスターが配置されているのか。

お前は自分の家に何を設置してるんだと魔王を問い詰めたいと思いながら、俺は遂に魔王の元へと辿り付いた。


「よくぞ参った、勇者よ」

「勇者じゃねぇから!馬鹿なの、何で訪問するのにこんな疲労困憊になってんだよ」

「ふふん、魔王なんだから迷宮が玄関で何が悪い!」

「開き直ったな、この野郎!」


ヘトヘトになってやって来た俺の目前では、テーブルを挟んでルージュとお茶会と言うゆったりとした時間を過ごす魔王がいた。

ただ、その姿は幼女から好青年と変わっていたので一瞬分からなかったが中身が残念だからアイツは魔王で間違いない。


「帰るわよ、話は終わったわ」

「ちょ、俺のここに来た意味!せめて、休憩させてくれ!」

「ないわ、そしてダメよ」


何の為の苦労なのか、俺の疑問や願いは一蹴されてしまった。

なんて冷酷な、これが人間のやることかよ。

いや、人間やめてるけどさ。


「まぁ待て、催しが気に入らんからと帰ろうとするな」

「催し?」

「そうか、貴様には見せてなかったな」


そう言うと、魔王が虚空をなぞる。

それに連動する様に魔法陣が展開されて、中から何かが召喚される。

それは黒い球体だ、ドロリとして黒い粘性の液体が球状となって現れたのだ。

ゆっくりと空中に召喚されたそれは床へと落ちて行き、中から何かを零れ落とすように排出した。


「それは……ホムンクルスか?」


零れ落ちたそれの姿はルージュに瓜二つだった。

ルージュに似たホムンクルス、俺はそう判断した。


「正確には魂の情報から構築した肉体的同一存在だ」

「私の人形よ、完全に同じ肉体だけど魂はないわ」

「これに淫魔の魂をブチ込んで抱いている所を見せたら怒っておるのだ。思春期かもしれんな、フハハハ!」


あぁ、だから帰りたいのね。

流石、魔王である悪趣味だな。

っていうか、物凄い無駄に凝ったセクハラである。


「何で魂の講義をしていたら、そういう行為の話に持ってくんですかね」

「なんせ、今の余は男だからな。男はエロい事しか考えておらん」


おい、なんで俺の方を見る。

睨むんじゃないよ魔王だけだからな、大多数の人間しか同意しないからな。

俺はルージュの視線に目を逸らした、なんか居心地が悪かったからである。


「さて、どこまで話したか……」

「神と魂の関連性に……ってアンタは人形で何してんのよ!」


再現度を確認するために細部まで観察していたら、目の前で焼却処分された。

あぁ、目の前でルージュが消し炭になっていく。さらば、ナイスおっぱい……君の柔らかさは忘れないぜ。


「清々しい顔がムカつく!」

「まぁいいではないか、話の続きをするぞ」

「アンタ、後でお仕置きだからね!」


ふん、反省はしても後悔はない。

暇だから二人の会話でも聞いているか。


「そもそも、貴様は魂の創造までに至った。誇っても良いぞ、貴様の肉体に人間の魂を戯れで入れたが同じ位階に至った者はいないからな」

「そんな事をしてたんですか……はぁ、それでどういうことなんでしょうか」

「無から有は創造できないように、魂も無から生じる訳ではない。死と共に分解された魂は空間に漂い吸収され、子を為す過程で配分される。貴様の生み出したシャンバラとか言う神だが、正確には神ではない」


魔王はそう言って、いいかと言い聞かせるように説明する。


「余のような存在こそ神であり、有象無象のアレらは神ではない。なにせ理解できるであろう、神はそう言う存在ではない。余のように理解できる形に抑えなければ近づいただけで発狂させてしまうような存在こそ神なのだ」

「えっ、それって魔王様は弱体化してるんですか?」

「世界と同等だからな、本気出したら余以外は発狂して死ぬ」


ルージュの顔に焦りが生まれる。

上手い事、利用して殺そうと考えてたら想像以上のスケールで強かった新事実が発覚したからだ。

俺の方は、確かに神様なら発狂くらいさせるよなと納得した。


「まぁ、貴様や何名かは片足突っ込んでるから大丈夫かもしれんがな」

「マジですか、私って発狂しないんですか」

「耐えそうじゃ、魂の創造に至る程の格は持っているからな」


魂の創造、つまり神という存在を聖気で作り出せると言う事はそれだけ魂の格が高いと言う事らしい。

どういうこっちゃねん。


「お前のやった事は、自分の都合が良いようにデータを一から作り出したと言った感じだ。普通は何らかのプロセスの元に自動で作り上げるのだ。ようは交尾じゃな」

「だから、下ネタに持ってかないで下さいよ!」

「怒るな、真面目な話だ。交尾して宿る生命、その魂と言うのは親の魂を分け与えられているんだ。そもそも親によって与えられた魂を生涯を通して大きくして子供に分け与えるサイクルが自然なのだ。この世界は繋がった事により、急激に分解された魂を集められるようになったみたいだがな」


今まで吸収するのに長い時間が掛かっていたのに、今ではすぐに集められるようになっているそうだ。

あれ、でも神様は微小な魂の集まりで無く聖気の塊じゃなかったか。


「信仰というシステムによる聖気の収集ですか?」

「信仰というのは方便で魂の一部を譲渡しているに過ぎない。普通は呼吸や食事で微小な魂を吸収して自分の魂を大きくしていくのだが、アレは譲渡される事で過程を省いて自身の魂を大きくしている。分けられた魂を材料とし、思想を元に指向性を与え、一個の生命体として誕生するのが神だ。まぁ、親と言う存在なく生まれる点と言うなら神だろうよ」


その言葉にルージュの顔が何か気付いたような表情になる。

恐らく、自分が大量の聖気を保有している秘密が分かったからだ。

長い時間の中で呼吸や食事をし、そして吸血の際に魂ごと吸い尽くす。

しかも、処女だから魂を分け与える機会もないのでドンドン溜まっていく。

だから巨大な魂を持った、大量の聖気を保有した存在なのだ。

そう、俺が気付いたように同じことを気付いたのだろう。


「えっ、シャンバラって私の子供なの!?」

「気付いたのそこかよ!全然違う事に驚いてたのな!」


まさかの予想外であった。

しかし、そこで疑問が湧く。

あれ、魂の格の話で言えば子供を作れるやつらはみんな格が高いって事じゃないか。


「ん?あぁ、魂の創造といっても親だから格が高い訳じゃないぞ。その魂を操作して作り上げることが出来たらって事だからな。要するに元になるデータを作れるかどうかだ、普通の者は遺伝子に刻まれたプログラムに任せてるだけだぞ。子作り無しで作れることに意味があるのだ」

「何で言って無いのに分かるんだよ」

「魂が大きい物はたくさんいるが、それを操れる位階に至った者は少ないからな。その点、此方は魂の格を上げやすい環境ではあるな。そう言う風に作ったんだろうよ」

「おい、答えになってないぞ魔王」


結局わかった事と言えば、シャンバラ君がルージュの子供みたいな物だって事だけだ。

後は、お願いに来たはずがすぐに終わらせたければ南部連合はお前達が倒せみたいな展開になっただけだった。

そして、帰る道中の事だ。

馬の様に俺はルージュに鞭で叩かれ、シャンバラ君へと文字通り飛んで帰っている最中だった。


「ねぇ、ヤンヤン」

「おい、話せばわかる。鞭で叩くんじゃない」

「今、シリアスな感じだったよね?黙ってよ」

「分かった、分かったから叩くなよ。絶対叩くなよ、フリじゃないからな」


真剣な声音で、ルージュが俺に問いかける。


「まったく同じ記憶で同じ思考をする魂を作れば、死者蘇生も出来るのかな?」

「それは確かに同じ存在かもしれないけどな、元になった材料は一つとて同じじゃないんだ。どこか違ってるに決まってる」

「そういうもんか」

「つうかアレだ、中身と外側が同じでもそれって偶像だろうさ。死んだら終わりなんだよ」

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